こんな夢を見た。
異世界に飛ばされてもうどれだけの月日が経ったのかは定かではない。
ただ一つ確かなことは、僕はこの世界に馴染んでいるし、どうやら元の世界には戻ることはできないらしいと言うことである。
最初は戸惑った人々とのコミニュケーションも、10年もこの世界にいれば問題なく現地の言葉を話しているし、そもそも元の世界の言葉の方が怪しくなり始めていると言う現実がある。
僕が飛ばされたのは、剣と魔法の時代が終わって、科学がこれからの社会基盤んとなっていこうとしている時代の異世界である。
だから騎士や戦士は軍人となっていて、武装も剣や弓ではなく銃と火薬であり、車は走ってはいないが、鉄道は走っていたりする時代である。
僕がいた世界で言うならば、おおよそ1900年頃の文明社会であり、おとぎ話のような魔法が飛び交い、血と鋼鉄と肉と骨の時代は随分んと昔の時代の話らしい。
魔法は魔法元素たるマナが枯渇した為にほとんど使うことはできなくなり、できたとしても伝統文化として残っているくらいのものであり、神の奇跡も神が世界に不介入を決め、どこかの異世界に消えた為に、多くの奇跡が失われているのである。
そんな世界でも時々僕のような、異世界からやってくる人がいるらしく、この世界ではそう言う人々を渡世人と呼んで、元の世界の知識と技術の教えを請うているらしかった。
僕の暮す場所はバステイと言う名の海に面した港街の都市国家である。
王城のある旧市街を城壁が取り囲み、その外に新市街と港がある活気に満ちた街だった。
旧市街の路地裏で元にいた世界から飛ばされて倒れていたところを親切なドワーフの木工職人に助けられ、渡世人として国に登録された後も何かと面倒を見てもらっていた。
そんなドワーフのグルドに勧められたのが教師として生きることである。
この世界ではまだまだ教育の概念が低く、読み書きやできない人もまだまだ多い。
だから、読み書きのできる僕がこの街の子供達に、読み書きと計算を教えたらどうかと言われたのである。
ましてや港街であることもあり、子供が小さな時から共働きの親が多いので、その子供達も一時的に預かれば僕一人が生活していくだけの報酬を得られるのではないかと。
そうして僕は教師となり、ある程度したところで元教え子を雇って従業員として保育園や介護施設を経営するようになったのである。
全ては順調であり、最初の教え子でハーフエルフのヤシャを嫁にもらい、モモとクリと言う名の双子の女の子と男の子も生まれて幸せに暮らしていたのである。
ある日経営している保育園の設備であるウッドデッキが台風で壊れた為にグルドと修理をしていると、保育園のマスコットキャラでもある人語を話す大猫のタマがウッドデッキの下の空間に異次元とのゲートが発生しているのを発見した。
「ヤバイぜ、園長。あのゲートの色を見て見なよ。アレはヤバイ世界と繋ぐゲートだぜ。二千年前にあの色のゲートが開いた時には世界が滅びかけたんだ」
タマがそう言った。
「グラスタル戦記か。おとぎ話の世界じゃないのか」
グルドとはそう言いながらもドワーフの本能か、工具の手斧を持って構えている。
「おとぎ話じゃない。グラスタル戦記は本当にあったことが書かれている。もっともその事を知っているのはもうこの世界にオイラ以外には数えるほどしかいないけどな」
タマはそう言いながら、開きかけているゲートに向かうと子豚ほどある体をゲートに近づけて門を開かないように押さえる。
「長くは持たない。できる限り遠くに逃げるんだ。この門を完全に封印する事が出来なかったのは、昔こいつらと戦ったオイラの責任でもある。オイラはこの日のためにネコ生まれ落ちて二千年も生きてきたんだから」
僕は言っている意味のわからないタマを助けようと手を伸ばしたが、グルドに羽交い締めにされて撤退されたのである。
「放してくれグルド。タマを助けなきゃ」
「グラスタル戦記のゲートじゃ俺たちにどうにかすることはできない。それにタマがグラスタル戦記でゲートを封じた伝説の勇者たちの転生した姿というならば、タマに任せるしかない。俺たちにできるのは逃げることと、多くの人々にこの事を伝えて逃げるように言うだけだ」
逃げてきた後方で光の柱が上空に浮かんでいく。
「クソ、世界の終わりか」
グルドがそう呟いた。