僕は虫だ。
体長は一センチ。
透明な羽を四枚持っていて、それでハエや蚊のように空中を飛ぶことが出来る。
少し強い風が吹けば,流されてしまうようなようなちっぽけな存在だが、それでも僕は小学六年生である。
ごく普通の人間の両親から生まれた虫の僕だが、回りの人々は虫である僕を差別することなく、自然に接してくれていたので、人間の子供と同じ小学校にも、何の問題もなく入学できた。
体育などは参加出来なかったが、他の授業や行事は何の支障もなく、それなりに楽しい学校生活を送っていた。
そんなある日のこと。
その日の給食は天ぷらで、サツマイモ・エビ・椎茸などを教室に設置された巨大な鍋で、生徒自身が自分で揚げて食べるのだが、僕「は虫なので、自分では揚げる事ができないので、クラスメイトにサツマイモを揚げてもらっていた。
油でパキパキと揚げられるサツマイモを近くで見たくなった僕は鍋の上を飛んでいた。
「あちっ!」
油が跳ねて僕の体に当たり、羽にまとわりついた油のせいで僕は鍋の中に落ちてしまったのだ。
「たすけて!たすけて~」
熱せられた鍋の油の中で、僕はクラスメイトに必死に助けを求めたが、彼らは食べることに夢中で、小さな、虫を殺すような僕の声は聞こえないようだった。
あぁ、僕のはかない人生もこれで終わるのかと思った時、クラスメイトの一人がハシで僕をすくいあげてくれた。
「なにをやってんだよ、死んじゃうぜ?」
そう言いながら、クラスメイトは天ぷら油でこんがり揚げられた僕を机の上に載せてくれた。
僕が僕と姿の違うクラスメイト達に誇れた唯一の自慢である四枚の羽は、熱により無くなってしまっていた。
僕はショックで泣きながら学校を飛び出した。
途方にくれながら夕方の町中をとぼとぼと歩いていると、同じく僕と同じ虫である、会社帰りの隣のおじさんと出会った。
「どうした?何があったんだい」
僕は羽を無くした事情を話した。
「あぁ、それなら羽を元に戻す方法があるよ」
おじさんは僕に羽を元に戻す方法を教えてくれた。
僕はおじさんに礼を言い、羽を元に戻すために別れた。
おじさんが言うには羽を元に戻すにはサナギになれば良いという事だった。
そのサナギを探して町のはずれの森の中を歩き回った。
僕はすでに虫だったから、サナギになることはできない。
既にあるサナギを利用するのだ。
「良いサナギあるよ~、良いサナギあるよ~」
森の中で「サナギ屋」と言う看板を掲げた虫がいた。
「すみません、サナギ一つください」
「まいどあり、それじゃあサナギの中にどうぞ」
サナギ屋に連れていかれて、サナギの前に行くと従業員の他の虫が
サナギの中の幼虫を押し出しているところだった。
中の幼虫が地面に落ち潰れた。
僕は空いたサナギの中に入る。
「羽が元に戻るまで、一週間はかかると思います。それまでは入口を閉めたままにしますので」
サナギ屋は入口を閉めて消えていった。
サナギの中には暗闇が広がる。
僕は暗闇の中で羽が元に戻る日を夢見て眠りについた。