こんな夢を見た。
5年程前に悪性リンパ腫を患った私の父は、一年ほどの闘病でなんとか癌を克服し、今では通院することも、体調を崩すこともなく仕事に行っている。
とは言え、抗がん剤の副作用は残っていて、関節の痛みと強張り、そして味覚の殆どを失ってしまったのだが、その事をあえて口に出し、不平不満を言う様なことはない。
ただ、よっぽど闘病中の抗がん剤治療はキツかったらしく、また病気になったとしても抗がん剤治療はもうしないと言っているくらいである。
治ったとしても、体のあちこちに副作用が出て、体が動かなくなったり、しんどくなってしまっては生きている意味がないと言うのだ。
そんな父がある日私に言った
「ドライフルーツを作りたい」
「ドライフルーツ? なんでまたいきなりドライフルーツなんか作りたいとか言い出したの」
「美味しいだろ。食感があったほうが今の俺には美味しく思えるんだよ」
味覚がほとんど無くなった父にとって食事は栄養を体に入れるだけの行為でしか無くなってしまっていたのだけれども、特定の甘みは感じ取ることができるらしく、チョコレートや果物など、いろいろ試している様だったのだが、それで行き着いたのがドライフルーツということだったらしい。
そしてそれを自分で作って見たくなったらしいのだ。
もともと父は母より料理上手でありキッチンに立つことは私が子供の頃は少なく余りなかったが、歳をとって料理がめんどくさくなった母に変わり最近は自分で料理をすることが増えた。
「だから材料と機材を買いに行くからホームセンターに付き合ってくれ」
そう言われて車を出し、父と母とホームセンターにやって来た。
私を置き去りにして、父はホームセンターの中を進んで行く。
私はその後を母と歩く。
「言い始めたら止まらなくなるんだから」
母はめんどくさそうにそう言った。
父を見ると立ち止まり、棚に並んだ商品を眺めている。
どうやらドライフルーツを作るための機材を見ている様だった。
「これなんかいいんじゃないか。これで燻したらうまく出来そうだ」
燻す?
「燻すのは燻製だろ。燻製も美味そうではあるけれど、ドライフルーツと燻製は別物だろう。作り方が違うだろ」
私がそう言うと、父は そうなのかと言う顔をした。
その時、私たちの横を通り過ぎ過ぎた初老の男性に突然怒鳴られる。
「ドライフルーツをなめるんじゃねぇ‼︎ ドライフルーツはハートなんだ‼︎ 」
そう吐き捨てると男性は去って行った。
私はうるせぇよと思ったのである。