黒の国のエディア ⓯/20

カサバ村の夕暮れ時、空は黒と白の幻想的なグラデーションに染まり、村全体が静けさに包まれていた。エディアは広場の片隅で、子供たちが遊ぶ姿を見守りながら、心の中で思いを巡らせていた。彼女にとって、村は失った両親の思い出が詰まった特別な場所であり、毎日の暮らしが少しずつ心を癒してくれる。しかし、そんな穏やかな日々の中で、妹シヴィーの心には暗い影が忍び寄っていた。

シヴィーは自宅で一人、魔法の本を開いていた。黒いページの中には様々な魔法の知識が詰まっているが、彼女の心はシリオンに対する特別な感情でいっぱいだった。シリオンは村の工房で働く若者で、優しさと誠実さを兼ね備えた彼の姿に、シヴィーは次第に惹かれていった。彼を思う気持ちは日に日に強まり、心の中で葛藤が続いていた。

ある日の夕方、シヴィーはエディアを広場から呼び出した。エディアが近づくと、シヴィーは少し緊張した様子で言った。「エディア、ちょっと話があるの。」

エディアは驚きつつも、姉の表情に何か重大なことがあるのを感じ取った。「どうしたの？何かあった？」と心配しながら尋ねた。

「最近、私、シリオンのことが気になっているの。」シヴィーの声は小さかったが、エディアにはその言葉がしっかりと響いた。「彼は優しいし、エディアも彼を慕っているよね。だから、私は…私の気持ちをちゃんと伝えようと思っている。」

エディアは心の中で葛藤を感じた。シリオンは彼女にとっても特別な存在だったが、シヴィーの幸せを思うと、素直に応援したい気持ちもあった。「でも、シヴィー、もしかしたら彼には他に気になる人がいるかもしれない。そうしたら…」

「分かってる。でも、私が思うほど彼が私のことをどう思っているのか、分からないままじゃ駄目だと思うの。」シヴィーは目を閉じ、深呼吸した。「それでも、伝えないと先に進めないと思うの。」

エディアは心の中で、姉の勇気を称賛した。彼女は無言のまま、姉の手をそっと握りしめた。シヴィーの思いを受け止めるため、少しでも力になりたいと思ったからだ。

「私は、シヴィーがシリオンに自分の気持ちを伝えることを応援するよ。」エディアはついに言葉を発した。これまで無口だった彼女の心の声は、シヴィーにとって何よりも力強い言葉だった。

「本当に？」シヴィーは驚いたように目を見開いたが、次第にその顔は笑顔に変わっていった。「ありがとう、エディア。あなたがいるから、私は勇気を持てる。」

その後、シヴィーはエディアと共に、シリオンが工房を営む市場へ向かうことに決めた。心臓がドキドキと高鳴り、期待と不安が入り混じる中、シヴィーは自分の気持ちを伝える準備を整えた。道すがら、シヴィーは何度も言葉を口の中で繰り返し、少しでも自分を落ち着けようとしたが、心の動揺は隠しきれなかった。

やがて、二人はシリオンの工房にたどり着いた。工房の扉を開けると、シリオンは作業台に向かっていたが、彼はエディアとシヴィーの姿に気付き、振り返った。「おお、シヴィー！どうしたんだ？」

シヴィーはドキドキしながら一歩踏み出し、心の中で整理した言葉を口にした。「シリオン、ちょっと話があるの。」

彼は少し驚いた表情を浮かべたが、優しい笑顔を見せた。「もちろん、何でも聞くよ。」

シヴィーはその言葉を聞いて、心の中で決意を固めた。「私は、あなたのことが…大好きなんだ。これまでずっと、あなたを支えたいと思っていた。でも、あなたの気持ちが分からなくて、ずっと悩んでいたの。」

シリオンは一瞬、言葉を失ったようだった。驚きと戸惑いの表情が交錯し、彼の目が少し潤んでいるように見えた。その後、やがて彼は穏やかな表情に戻り、優しい声で続けた。「シヴィー…君の気持ちを聞けて本当に嬉しいよ。でも、僕は…もう少し自分の気持ちを整理する時間が必要かもしれない。」

シリオンの心の中には、シヴィーの告白を受け入れることへの期待と同時に、過去の思い出が蘇ってきた。彼もまた、愛することの恐怖や、自分がシヴィーの期待に応えられるのかという不安を抱えていた。彼の心の中では、彼女の純粋な気持ちを傷つけることへのためらいが渦巻いていたのだ。しかし、その気持ちを言葉にすることができず、ただシヴィーを見つめることしかできなかった。

シヴィーは少し胸が痛んだが、シリオンの言葉に少し安心した。彼女は彼の言葉を受け入れ、「分かったわ、急がないから、あなたが自分の気持ちに向き合う時間を大切にしてね。」と微笑んだ。

その後、シヴィーはエディアと共に工房を後にした。外に出ると、夕焼けが村を柔らかく照らしていた。エディアは姉の横で静かに歩きながら、姉が抱える感情の複雑さを理解しようとしていた。

「シヴィー、これからもずっと一緒にいるよ。」エディアは言った。

「うん、ありがとう、エディア。」シヴィーは優しくエディアを見つめ、「あなたがいるから、私は何でもできる気がするよ。」と微笑んだ。

この瞬間、姉妹の絆はさらに強まり、黒の国の暗闇の中で輝く一筋の光となった。シヴィーは心の中で思った。「たとえシリオンが私の気持ちを受け入れてくれなかったとしても、私は自分の心に正直でいることを選ぶ。」そう考えることで、彼女は少しだけ安心できた。

夜が更け、村は静けさを取り戻した。エディアとシヴィーは、手を繋ぎながら家路を急いだ。心の中で互いの存在を確認し合いながら、彼女たちはこれからの未来に希望を持って歩み続けるのだった。