あなたはしにました。
わたしの今の状況を昔のRPG風に言うならば、まさにそんな感じだと思う。
生まれつき心臓に重い病気を抱えていたわたしは、小さな頃から何度も手術を繰り返してきた。
中学生になった頃には、もう移植しかないと主治医に伝えられ、臓器の提供をいつ止まるか解らない心臓を抱えながら待ち続ける日々。
ほんの数秒先には死んでいるかも知れないと言う不安は心を押し潰し、介護をしている両親や、主治医の先生に当たり散らしていた。
心臓の不調から来る他の疾患や、心の不安定さはさらに体を蝕み、自分でもそう長くないという事に気が付いた時には、全てがどうでも良くなっていた。
死にたくはないけれど、苦しい日々から解き放たれるならば、それはそれで悪くないかもしれない。
そんな諦めの境地にやっと達した時に、わたしに合う臓器提供者が現れたのだった。
詳しい説明はなかったけれど、二十代の男性で交通事故に遭い、脳死状態になったのだという。
移植手術を受けられたわたしは奇跡的に命を長らえて、普通とは言えないまでも長かった入院生活を終えて、学校に通い始め、就職をし、結婚して子供まで産む事が出来た。
それは、たとえ移植手術をしていたとしても、わたしの体には充分な負担だったようで、長らえた命も子供が小学校に入学したのを見届けた頃に終える事となったのだけれども。
愛する夫や子供と別れるのは哀しい事だけど、本来ならば終わっていた命をここまで長く繋いで来れたおかげで、夫や子供と共に生きる事が出来たと思えば、それほど悪くない人生だったと言えるのではないだろうかとも考える事ができた。
薄暗い世界の中で小さな小舟に乗って三途の川と思われる川を渡っていく。
振り返れば、わたしがやって来た方に、闇の中に浮かぶ眩い街の灯が見える。
「幸せな人生でしたか?」
若い男性の船頭が舵を取りながらわたしに聞いてきた。
「ええ、とても幸せな人生でした」
少し悲しいけれど、わたしはそう笑顔で言えた。
「そうですか。良かった。僕の心臓があなたに渡って本当に良かった」
「わたしがもらった心臓は、あなたのだったんですか?」
「えぇ。僕はもう新しい命に生まれ変わる事が決まっているんですが、あなたがやって来ると知り、三途の川を渡る時の船頭をさせてもらったんですよ。だって、気になるじゃないですか。僕の心臓でどんな人生を送る事ができたのかなって」
船頭は笑いながらそう言った。
わたしはその笑顔に答えます。
「おかげで良い人生を見つけることが出来ました」
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