人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

戦争を根絶できない人間社会は生命進化の歴史に学べ

2014年05月16日 08時25分32秒 | 社会
なぜ人間は、そして国家は侵略戦争を始めるのかを生命進化の歴史を紐解いて考えてみましょう。人間もその集団である国家も増殖したいという欲望を生まれながらに持っています。人間や国家の原罪とも言える本能です。それは人間のはるか祖先がガン細胞だったからです。生命の進化は約20億年前にミトコンドリアの祖先である真性細菌が、私たちの細胞の祖先である古細菌と共生したことから始まりました。ミトコンドリアが酸素を使って産み出す莫大なエネルギーは細菌を真核細胞(核膜で覆われた遺伝子の格納庫を持った細胞)に進化させました。しかし細胞の所業は所詮細菌と同じです。細菌が餌さえあれば無制限に増殖するように、私たちの祖先の細胞も利己的欲望に従って増え続けることを求めるガン細胞でした。事実、ガン細胞は培養皿の上では無限に増殖を続けます。ガン細胞は増殖するスペースがなくなると、他の細胞の上に折り重なるように増殖を続けます。まるで力で一方的に領海を拡大しようとするどこかの国のようです。そのようなガン細胞に進化が起きるはずはありません。太古の生命が人類に至るまで進化できたのは、個々の細胞が有機的につながりあって多細胞化したからです。細胞が無秩序な増殖をやめ、お互いに協力して臓器を形成したからです。生命進化の歴史において最も困難を極めたのは、多くの細胞が協調して支え合うという多細胞化へのプロセスだったのです。多細胞化を可能にした原動力は、細胞が分裂、増殖してもお互いが接触した際には争いをやめるようなcontact inhibition(接触阻止現象)という細胞間の紛争を平和的に解決するシステムです。Contact inhibitionというのは(隣接した)細胞間の連絡のことを指します。細胞同士は互いにこのタンパク質を使ってお互いの情報をやり取りし、自分たちがどのような働きをすればよいのかを識別するのです。Contact inhibitionがなければ、決して細胞集団が臓器や個体を形成することはありませんでした。人間社会も同様に侵略戦争を防ぐ条約や国際法を発展させて進化してきました。その中で、わが国の憲法9条は人間社会がこれまで手に入れることができた最も進化した戦争の抑止力であると言えます。この憲法を改正や解釈改憲などで退化させてはなりません。憲法9条の理念を全世界に普及させ、国際法として発展させることが、太平洋戦争という人類史上最悪の惨事を経験したわが国の使命なのです。

このブログは風詠社出版の『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著は真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場からメッセージを送ります。