「昼桜」
- 僕は今でも彼女が戻る事を待ち望んでいる。だから、もう僕は彼女のいない生活が三年過ぎたけど、今でもこの部屋に住んでいる。もう、この先、二度と来ない彼女。「生涯」ずっといない彼女を想像しても始まらないけど、何時までもこうして生きて行くのに疲れていた。彼女が何時か「永遠に一緒にいよう」と笑いながら言っていたから「生涯でいいよ」と僕は笑っていた。「もし、私たちが結婚したら終わるまでは別れたくはないな」と彼女は明るく笑っていた。僕達は一緒に老いていって身体がしわくちゃになりながらも一緒にいたいと思える相手だと互いに思っていた。どちらかが終わるまでは。今でもずっと彼女に感情を奪われている。他に女を探したくなる事はない程。
- でも、彼女はもうこの部屋には戻らない。それでも、僕は彼女とせめて、もう一夜だけずっと手を繋いで寝ていたかった。でも、あの頃の彼女はもっと深い所まで僕の事をずっと愛してくれた。だから、彼女にとって僕は重くはないはずだ。僕は彼女が違う相手と結婚して出来れば子供を産んで生きて行く気がした。しかし、僕はふと何気なく彼女がもうこの世には永遠にいないという想像をすると怖くなる。だけど、そうして、もう彼女の事を考えている時、ずっと不安を抑えていた。でも、明るく暮らしているだろうと泣いた後で彼女だけでも幸せになっている事を願っていた。しかし、今思えば、何事も全て感じ方が甘い僕とそんな僕を気に入っていた彼女は僕ほどではないけど、割と現実的ではないから僕と気が合ったのかなとは思ったから、僕は彼女が健全ではない誰かに操作されてなければいいなとも思っていた。僕は今もこれからもずっと現実を拒否したい。また幸せだと感じていた感情が例え此処にいても減ってきているけど、それでも、僕は退去させられるまでは此処で生きていこうと思っていた。
- 僕は探せば恋人がまた見つけられたかもしれないけど、今まで付き合った恋人の中で一番、幸福を感じた彼女が今でも忘れられない。だから、一生、寂しい思いを抱えたまま「生涯」という時間を費やして生きて行くつもりだった。
- ある日、僕が家に帰ると一人、女が僕の部屋の前で寄りかかっていた。僕は直ぐに彼女だと分かった。涙が出てきて、僕は心から「来てくれてありがとう」とだけ言った。そして、僕は彼女を部屋に招いて色々話をしていた。
- 「今までごめんね。実は君と別れる時から病にかかり、色々、治るように患者として生きていたけど、でも、私は一年ぐらいしか持たない状態になってしまうぐらい重篤になってきたんだ。そして、どうやって一年過ごそうか悩んでいたけど、何か君の事を思い出して、そう言えば一緒にいて結婚もしてもいいかなと思った最初の男だし、あと一年、一緒に生きたくなったから、また来ちゃった。でも、私が君にひどい事をしたから君が今でも傷ついている気がして……もう一度、会えば君も綺麗な感情になると思った。だから、今の私はもう君の「恋人」の資格はないけど、それでも、最後は一緒に暮らしたい。私は本当に今更、ひどいね。私。私が今まで付き合ってきた他の男はもう恋人か奥さんがいるからダメだし。普通は失恋してもまた他に恋人を作って出来たら嫁まで出来ていく。だけど、君だけは不器用だからずっと私の事を忘れずに新しい恋人をつくらないだろうと昔から思っていた」
- 「いいよもう。ずっと君がいなくなってから人生の楽しさを時折、感じられるのは食事ぐらいだなと思って、でも、それでも、何時も戻ってこない君を待っていたんだ。まさか来てくれるとは思わなかった。今はもう一年ぐらいしか一緒に生きていけないけど、最後まで見送ってあげるよ。もう僕は誰も愛せず、ずっと一人で一生、孤独なまま思い出だけを引きずり終わるんだなとは思っていた。でも、もう今は孤独ではないからようやく人生がまた過去から時間が進みだした。これから昔の写真はアルバムに移して『今』の写真を飾っておきたいし、その中の一つの写真を財布にも君の写真を入れておきたい。そして、いずれは心が老いて忘れられるから救われるのかもしれないけど、せめてたまに感傷に浸りたい時はもう過去の君を見て微かに老いた姿も見て見たかったなと思いながら笑いたい。涙の温度が冷たくなってしまう日が来るのが嫌だと思うけど、思いまで冷たくなった時も君の『今』の写真を飾ってたまに見てみたい。僕と君との別れ方が冷たかったし、昔の僕達の場合はどう考えても純愛ではないけど、今の愛情は僕達らしい非現実的な愛情だと今は思っている。それでも、僕は君以外と生きたくない」
- 「そう言ってくれてありがとう。何時の間にか私は君に惹かれた時に結婚を初めて意識した。昔、付き合っていた頃なら結婚してもいいけど、でも、今はあと一年しかないからさ。だから結婚をしない方がしれないと思って。こうしているだけで嬉しいけど、でも、やっぱり私は婚姻届とかは書くと余計終わる時に辛くなるから。もう君さえよければ昔みたいに笑えなくても残りの時間を一緒に生きたい……という事は正直、考えているからさ。でも、執拗な言葉だけど、本当にごめんね。でも、また会えて凄く嬉しかったよ。この先、記録と記憶に残れば生きた意味もあるかなと思うようになってきたから、せめて写真を残したい。でも、今まで一度もないけど昼桜を見てそこで一緒に写真だけでなく、映像でも声や外見も残すのは最後ならいいかもしれない」
- この日は中々眠れなかったけど、悲しいけど、もう僕もやり残した事が少なくなってきた。そして、翌朝、彼女はご飯と味噌汁を作ってくれた。それを美味しく食べて仕事に行く事にして、彼女は此処で待っているよと言って僕は彼女に礼を言い出勤した。
- 僕は彼女と早食い競争をしたり、恋愛感情が復活したからデートして珍しい店で美味しくない飯を食べたり、ボーリングで点数が高い方がこのボーリング場の近くのお好み焼き屋で飯を奢るなどをくだらない遊び方をしていたそんな彼女には食欲があるし、痛みも殆どないから彼女は余命を告げられる重症の患者だけど最後まで苦しむ事がないようだ。「老衰」でいくのと同じぐらい穏やかに終わるようだ。
- 彼女が涙を流した夜に僕が彼女の手を握っても「大丈夫」とだけ言って彼女が泣いている時だけは僕はもう一生が終える日が近い事を改めて実感して切なくなる。でも、一週間ぐらい辛い時期が彼女にもあったけど、今はもう不安が和らいだようだ。だから僕は安堵した。そして、彼女はご飯と味噌汁だけ作って僕を迎えてくれる。新婚生活が出来た気がして、もう彼女以外の女は必要ない。今度こそは確実に会えない彼女との日々が来るけど、僕はもう苦しくはなく、悲しくて楽しい幸せを更に深く感じながら生きていけるから、もう幸せだ。今度こそ幸せだ。僕だけかもしれないけど。
- 「色々、写真を撮ったし後は昼桜を写真で撮りながら動画まで残す日までは二人共、生きていけると思うし、それはずっと僕は生涯、大事にして残すよ。しわくちゃになるまで一緒に生きて行きたかったけど、僕がしわくちゃになったら、記憶はぼやけても写真と動画を見ながら若かったと思いながら生きて最後は誰かに頼んで棺に昼桜が咲く日に撮る写真と動画を一緒に入れて貰うよ。火葬すれば姿は違うけど、灰として長く地球に残りそうだから案外、寂しくはないかもしれないね。色々、言ってきたけど、最後は同じ場所で私の灰と君の灰が同じ墓の中で一緒にいれば、今度こそずっと一緒にいられるのかなとはロマンを込めて思っているよ。それでもきっと、結局、灰では感情は共有する事はなさそうだから最期は孤独かもしれない」
- 今日と明日は仕事が休みでまた彼女と今まで行った事のない余り繁盛していない店を探してそこでも早食い勝負をして何時も僕が本気で早食いをしていたけど、何時も彼女が勝っていた。彼女は才能があったんだなとは頭が少し弱い僕は感心していた。ラーメン屋は大抵美味しいけど、色々な国の料理店に行き、大抵、余り僕は美味しいと思う時が無かったけど、彼女は常に完食して美味かったと言っていた。
- 僕と彼女が一年間、生きる事を真剣に考えて後は彼女の「生涯」を続かせたかった。
- そして、もう直ぐ、桜が咲く時期に彼女は悩んだ末、プロポーズをしてくれた。
- 「結婚だけして、私の指輪は買わなくても良いと思うけど、君だけ指輪を作れば結婚したという証を残せる。今までの礼を全て込めて私が最後に買うから。君と再会した時から記録に残す為に写真と動画とそして、シンプルだけど私の形見で指輪を残したい」
- そして、彼女は涙が少しだけ流れそうになりながら更にこう言っていた。
- 「ウェディングドレスの写真はいらないから私はただ結婚すればそれで良いと思っていたけど、君の為に今できる事をしたい。君も幸せになって笑って欲しいし」
- 昼桜の最後の花の色が鮮明に見たかった僕と彼女はただ最後の昼桜を見る事が一番、印象深い景色になるだろう。一層、昼桜は散る直前が綺麗だ。恐らく彼女のように。僕と彼女はよく話すけど桜は散る瞬間が綺麗だと言っていた。終わる事が怖くてもきっと彼女は最低でも灰になれる。もう「無」に近いけど「生きている」気が僕はした。
- 「ソメイヨシノを見て終わるのが通だね。悲しくても哀しくても、最後の日がきたらたまに思い出してね。ずっと、こうして私は君と歩いて桜を見ると再会できて良かった。若いままでなくなるのはより君にとってもいいかもしれない。私の容姿が若いままで止まるから。桜も綺麗なままで散るのが一番、寂しくて、でも、人を惹きつけるから。毎年、ずっと若くて美的に優れた状態で私は終われるから。それでも、もし老化というやっかいな時間を過ごしても、君といる思い出が深くなるかもしれない。それが長く過ごす幸せかもしれない。若く命が終われば綺麗な状態で終われるという事を考えて終わりの怖さを紛らわしている。本当は若くなくてもどんな外見になっても老化して見た目が若くなくなる時が訪れても出来るだけ君と長く一緒に暮らしたかった」
- そして、昼桜が完全に散るまで僕達は出来るだけ多く二人で一緒にスマホで自撮りをして、自撮りが終わると春空を見ながら冷たい空気を吸ったり、昼桜だけを写真や動画でも撮ったりして、最後に自分達の写真や動画を一緒に撮影しつくしてから家に帰っていた。彼女は昼桜を見て不安が少しは冷めてきた。
- 彼女が今度は自分しか愛せない哀しい僕に感謝して、幸福だけど、だからこそ余計にこの先、彼女は切なく辛くなるかもしれないけど、でも、彼女は灰になり地球上にしばらく残る幸せを噛みしめて終わろうと思っていた。完全な「無」ではないから。例え、この先、地球が終わっても、でも何処かで灰なら残ると寂しくないとずっと考えていた。
- そして、僕達が再会して三か月が経った日に僕と彼女は婚姻届を役所に届けた。多分、残り時間が少なくても僕達は夫婦だ。あと半年ぐらいしか一緒に生きていけないけれども。そう僕が思っていると彼女が珍しく腕を組んでいた。彼女はもう苦しまないだけ幸せだとも思っていた。そして、結婚したという事が僕の人生の生きやすさにつながりそうになる事があると思うから彼女は僕と結婚をした。僕の為に。そして、最後は泣かないと決めていた彼女は永遠に若く生き残り、僕は多分、初老ぐらいは生きていけるかなとは思う。彼女と同じ年の僕も今はまだ若くて美的にはいいのもしれないけど。
- 僕は指輪を見れば安堵する。隣で彼女は後、終わりが分からない時間を迎えている。そして、僕は写真をもう財布に入れていた。動画が見たい時は不安が自分の中で感じて辛い時にじっくりと見て「一緒」にいた日々を思えば少しだけ苦しくなくなると思っている。彼女にも指輪を買いたいけど、彼女が嫌がりそうだから止めておこうと思った。きっと、僕達はまた違う形で出会い、また二人で昼桜を見るだろう。僕の妻の彼女と「永遠」に。
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