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a green hand

迷子の魂

2月の事、「優しい語り手」

オルガ ・トカルチュクのノーベル文学賞記念講演が記された本を買った。
 
2月の私は著者の国は私の中でワルシャワでのショパンコンクール一色に染まっていた。
ポーランド=ショパンだった。
 
今再び、ポーランドの国は戦争周辺の国として私を意識させ始めた。
ポーランドの歴史、文化、国民の意識をオルガの本から知らされていた私はウクライナと重なってきた。
 
学生の頃に読んで二度と開きたくない本の「夜と霧」もナチスの強制収容所を扱った本だったと。。。
 
映画だって心に深く刻まれる作品が沢山ある。
皆、戦争シーンがあり家族との別れや理不尽さであふれていたではないか。
 
戦争の残虐さや哀しさに涙した青春時代。
戦争は悪であり、どんな理由にせよ戦争は悪だと思春期に刻まれた。
 
年老いた私はそういう哀しさから目を逸らし、なるべくならニュースは見たくないと感じるようになった。
 
ロシア側の兵士にも家族がいると小さな呟きをもって傍観している。
複雑になればなるほど答えは出ない。
単に戦争は悪だ でいいと思っている。
 
さて、「迷子の魂」だが、これは「優しい語り手」の表紙の絵があまりに美しく、本の内容は難しく、さっと読めるものではないと思った私がネットで注文した絵本である。
 
著者はオルガで画家は表紙のヨアンナ・コンセホというので注文した。
 


 
甘かった。
絵本だから簡単に読めるだろうと高を括った私。
 
届いた絵本を開き、驚いたというか失望したのが第一印象であった。
優しい語り手の表紙の絵をイメージしていたのだ。
 
表紙は花の咲いていないナスタチュームの葉が茂り、椅子の横にはトランクが置かれ、 椅子の背に掛けられた黒い洋服。
 
鳥も人も虫も、動物も出てこない色の少ない絵本の表紙。
 
一枚目を開くと一層、色はなく、冬の公園に集う人々を上空から描いたシーンである。
私はポーランドに行ったことはないがロシアなら行ったことがあり、自然の中の広大さがイメージされた。
 
その絵に、こんな文がある。
 
私たちを上から見たら、忙しく走り回る人で世界はあふれかえっているでしょう。
みな汗をかき、疲れきっている。そしてかれらの魂は………
 
数ページ後にこんな行がある。
「魂が動くスピードは、身体よりずっと遅いのです。魂は時間の黎明期、ビックバンの直後に生まれました。宇宙の膨張が、まだそこまで速度を上げていなかったころのことで、魂は鏡に映して見ることもできました。あなたはどこかに落ち着ける場所を見つけて、そこでじっくり自分の魂を待つべきです。いまごろおそらく魂は、あなたに二、三年前にいた場所にいますから、もしかしたら、もうすこし長く待つかもしれない。でもあなたには、ほかに治療法はありません。」
 
ずっと色がないまま絵本は続き、忘れてきた自分の魂がようやく自分に追いついた時から色がつき始める。
 


魂が左で、自分の魂が追いつくまで何もしないで待ち続けたのが右の主人公ヤン。
若い時に非常によく働いてどこかに魂を置き忘れてしまった。
 
追いつくまで何もしない。
 
追いついてからの生活は何をするにも急ぎ過ぎないように気をつけた。
魂がいつでも追いつけるようにしたのだ。
 
 
 左のヤンの魂が花のないナスタチュームをヤンに手渡した。こんなに小さな頃からヤンの魂は迷子になっていたんだな〜。老医師の助言で迷子の魂が戻ってきてよかったよ。
 
 
 
  ナスタチュームに花が咲いてヤンの家からどんどん伸びている。
美しい植物の絵。

 
私も時々魂が迷子になる。
そんな時はぐっすり眠って魂が追いつくのを待つことにしている。w
 
余談だが、「カムカムエブリバディ」を見ていた時にチラリとこの絵本を思い出したシーンがあった。
 
額の傷を見せ「I hate you 」と、母親ヤスコに言い放ったまま別れたるいが母と再会し「I hate you 」から「I love you」に変わった瞬間に長い魂の旅を見た思いがした。
 
 
 
 
 
 
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