マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【自作官能小説】教室長マヤの日常 ~愛欲の罠~

2013-01-15 11:41:08 | 自作小説
 日曜日の朝。
 全身にたっぷりと塗り込んで寝たボディークリームの甘い香りが、シーツの内側に漂っている。
 腕をそっと上げ、窓辺から差し込む陽光にかざす。
 その肌は艶やかな輝きを放ち、吸い付くように滑らかだ。
 髪にもとっておきのヘアパックを施し、爪はマニキュアなど必要ないほどに磨き上げてある。

 体を起こし、鏡の前で背伸びをした。
 背骨が嫌な音をたてて軋む。
 ここ数日悩まされていた頭痛は、嘘のように消え失せていた。
 自由への予感は、体調までも左右するのかもしれない。
 無意識に笑みがこぼれる。

 顔を丁寧に洗い、もちろんオーラルケアも怠らない。
 肌の美しさを隠してしまわない程度にファンデーションをはたき、唇には少しいつもよりも赤みの強いリップグロスをたっぷりとのせる。
 さらさらと流れる前髪が、マヤの動きにあわせて影を落とす。

 服装は派手なものを避け、白いニットのアンサンブルと濃いグレーのスカートを選んだ。
 ニットの胸元は、マヤの豊かな乳房のふくらみで形よく盛り上がる。
スカートのふんわりとしたシルエットが、黒いストッキングに包まれた細い足をさらに美しく見せていた。
 首もとには小粒のダイヤがついただけのネックレス。
 プラチナの華奢なチェーンが、室内の光を受けて煌めきを添える。

 大丈夫よ。
 きっと、うまくやれるわ。

 失敗できない。
 投げ込まれていた手紙。
 部長の無茶な要求。
 もう残された時間は少ないはず。
鏡の中の自分に微笑むと、体の奥底からうねりを伴った闘争心が湧いてくる。

最後に香水を手首に擦り合わせ、1件だけメールを送信してから、マヤは待ち合わせ場所へと向かった。


 日曜日の映画館は混雑している。
 空席はほとんど無く、まわりはカップルか若い女の子同士のグループばかり。
 大きな画面を流れる映像は目の前を素通りしていくだけで、話の内容など少しも頭に入って来なかった。

 暗い場内で、隣に座る久保田の表情を盗み見る。
 ただ男女が痴話喧嘩をしているだけのような場面なのに、身じろぎもせず、ものすごく真剣な顔で見入っている。
 本当に、根っから真面目な男なのだろう。
 今朝の待ち合わせ場所からのことが思い出されて、マヤは思わず笑いを噛み殺した。

 久保田は待ち合わせ場所でマヤの姿を見つけると、驚いたように小さな目を何度も瞬きさせた。
「先生……なんだか、休日は雰囲気が違いますね、普段はキリッとしているけど……今日は、その……」
 もじもじと言葉を選んでいる久保田に、わざと弱気な姿を見せた。
 肩を落とし、恥ずかしげなポーズでうつむく。
「やだ、この格好、変だったかな……ごめんね、久保田くんに嫌われちゃったらどうしよう」
 心の中でせせら笑う。
 そんなこと、ちっとも思って無いくせに。
予想通り、おろおろとした声が降ってくる。
「すみません、そんなことないです、ほんとに、あの……年上の女の人に言うべきじゃないかもしれないけど、すごく……可愛いです……」
「ありがとう、優しいんだね。腕、組んでもいい?」
 返事を待たずに腕を絡め、意識的に胸のふくらみを押し付けた。
 
 たったそれだけのことで、その後の久保田の動揺ぶりは凄まじかった。
 歩いている途中に何もない場所で躓き、カフェでの支払いでは小銭をばらまいて、そのあげく階段から転げ落ちそうになる。
 何かひとつやらかすごとに、「すみません、すみません」と謝り続ける様子も可愛らしかった。

 スクリーンに視線を戻す。
 映画はもうすぐ終盤に差し掛かるところだ。
 場内には、クライマックスにふさわしい音楽が鳴り響く。
 よほど感動的な場面なのか、観客の中から啜り泣く声が聞こえる。
 
 久保田との距離を少し詰める。
肩を寄せ、腕をぴったりとくっつけた。
 びくんとした震えが伝わる。
 こんなことで驚くなんて、中学生みたい……。
 こみあげてくる笑いを堪えながら、そっと手に触れ、指を絡めた。
 それは怯えたように震えながらも、意外なほどの力強さで握り返してくる。
愛らしくデフォルメされた熊の縫いぐるみのような顔。
 戸惑う視線が、頼りなくマヤと映像の間を行き来する。

 やがて穏やかな音色と共にエンドロールが流れ、ぱらぱらと客が席を立ち始めた。
 オレンジ色のダウンライトが灯るのと同時に、マヤはすっと体を引き、繋いでいた手を離す。
 呆然とした様子の久保田に、優しく微笑んで見せる。
「良い映画だったね……連れて来てくれてありがとう」
「い、いえ、そんな……あの、僕の方こそ、先生と一緒に観に来ることができて……嬉しかったです」
 紅潮した頬。
 そんなに暑いわけでもないのに、久保田の額には汗が光っていた。
 座席に座ったまま顔を近付ける。
「ねえ、何かお礼をさせてほしいな。この後は何か予定入ってる?」
「えっ……? いや、そんな、お礼なんて」
「よかったら早めの夕食をごちそうさせてくれない? わたし、こう見えても料理は得意なの」
「それは……で、でも……」
 悲しげにうつむく。
 意識的に肩を落とす。
 髪がさらさらと顔を覆い、久保田の位置からはマヤの表情が見えなくなる。
「ごめんなさい、そうよね……わたしなんかに誘われても、久保田くん困っちゃうよね……」
「あっ、あの、そういうわけじゃ……ただ、申し訳ないっていうか……」
「いいの、無理しないで……忘れて」
「ち、違います! 無理なんかしてないし、僕は……もっと先生と一緒に……あの、とにかく、ご迷惑じゃなければ……ごちそうになります」
 久保田の顔がさらに赤みを増し、こめかみを伝って汗が流れ落ちる。
マヤは顔を上げ、パッと表情を輝かせた。
「本当? じゃあ、わたしの部屋に来てくれる?」

 アパートまで久保田を連れて帰り、前夜に用意しておいた簡単な手料理をふるまい、貰いもののワインを開けて飲ませ、適当に酔いがまわってきたあたりでさりげなく隣に座り直す。
 食事をしながら、マヤは重くなり過ぎない程度に身の上話を聞かせておいた。
 母親が入院していること、ほかに身寄りがなく、マヤが治療費を稼ぐしかないこと。
 久保田は、ただ静かに聞いてくれた。

「前に見たよね……わたしが社長に何をされていたか……」
「はい……」
「いつも、あんなふうにされて……仕事を辞めるわけにはいかないし、でもどんどん辛くなってきちゃって……」
「あ、当たり前です! そんなこと許されるわけがない、弱みを握って脅すような真似をして女性を……そんな男、最低だと思います!」
 最低だ、と言う言葉がマヤの胸に突き刺さる。
 自分の我儘を叶えるために、こんな善い子をわたしは利用しようとしている……。
 
 久保田の真っ直ぐな視線が痛い。
 それを正面から受け止める。
 ここで引くわけにはいかない。
「久保田くんがそうやって優しいこと言うから……わたし……」
 がっしりとした太い腕にもたれかかる。
 温かな体温が伝わり、なんだか涙がこぼれそうになってしまう。
「先生……」
 大きな手が遠慮がちに、マヤの華奢な肩に触れる。
「こんなわたし、汚れてるのに……久保田くんに優しくしてもらう資格なんてないよね……」
「そ、そんな、僕は……先生のことずっと……ずっと前から……」
 知っている。
 不器用な視線が、淡い恋心を伴っていたことを。
 せつなげな表情を作る。
 自分の顔が一番綺麗に見える角度で。
 少しずつ顔を近付ける。

 唇がぎりぎり触れない程度の位置まで近づく。
 久保田の喉仏が大きく上下するのがわかった。
「せ、先生……?」
 さまよう視線がちらりとマヤの胸元に注がれる。
 そこに付けられたボタンは、部屋に入ったときから外してあった。
 ちょうど久保田の位置からは、薄いレースの下着に包まれた谷間の奥深くまでのぞき見ることができるはずだ。
 
「もし嫌じゃなかったら……キス、してくれる?」
「嫌だなんて……そんな、でも」
 賢い子。
 おそらく、これからも毎日アルバイト先で顔を合わせるマヤと、深い関係になることの持つリスクが壁になっている。
 そんな理性は、今は邪魔なだけだった。
 もうひと押し。
 強引になってはいけない。
 久保田が自らの意思でマヤに手を出さなければ意味がない。

 マヤの染みひとつない白い頬に涙が伝う。
 涙くらいは自由に流せる。
 長い睫毛を伏せ、久保田から顔を背けた。
「ごめんなさい、わたし何言ってるんだろう……久保田くんがわたしなんか相手にしてくれるはずないのにね……」
「違う、そうじゃない!」
 困ったような表情のまま、久保田は意を決したようにマヤを抱き締めて唇を重ねた。

 柔らかな感触を楽しむ間もなく、それはすぐに離れてしまう。
 残された余韻が、内側に秘められた熱を呼び覚ます。
「どうして先生は僕なんかと……」
 流れた涙が、ぎこちない手つきで拭われていく。
 ジーンズの股のあたりは、すでに固い膨らみで盛り上がっている。
 性的な欲望を抑えてまでマヤを労わろうとする、その純粋さが憎らしい。
 とうに忘れてしまった感覚に、心の奥底にある弱い部分がじんと痺れる。
 自分の薄汚さが苦しい。
 何の荷物も背負わずに、この子に出会えていたら。
 マヤは演技を忘れて久保田の平らな広い胸にしがみついた。
「助けて……もう、嫌なの……」

 その瞬間、ぐるりと天地がひっくり返った。
 体の上に久保田がのしかかっている。
 泣きそうなほど真剣な顔。
「本当に、僕でいいんですか?」
 自分でもわけがわからないほど、涙が溢れてくる。
「お願い……久保田くんじゃなきゃ、だめなの」
「僕、先生のことが……好きです。僕が絶対に、先生を守ります」
 欲しかった言葉が与えられた。
 嬉しいはずなのに、悲しくて仕方ない。
 そんな気持ちをごまかすように、久保田を抱きよせてもう一度キスをした。

 舌を吸いこむようにして絡める。
 さっき飲んだワインの味がふんわりと香った。
ひどく興奮しているようで、呼吸が荒い。
 ねっとりとした感触に、背筋がぞくぞくする。
 震える指が、マヤの胸に伸ばされる。
「いい、ですか……もう我慢できなくなりそうで……」
「我慢なんて、しないで」
 ニットの上衣を傷つけてしまわないように、久保田がそろそろと脱がせていく。
 少しずつ肌が露出されていくのは、乱暴に剥かれるよりもずっとマヤを興奮させた。
「恥ずかしい……あんまり、見ないで……」
「綺麗です、先生、すごく……」
 言葉をひとつ交わすたびに、それだけで足の間が熱くなる。
 ブラのホックを外されると、豊かな乳房がこぼれ出た。
 大きな手のひらがそれをすっぽりと包みこみ、やわやわと壊れものを扱うかのようにして揉みしだく。
 指の間に乳首が挟まり、きゅうっと締めつけられる。
「うんっ……あぁっ……」
「痛いですか? すみません……」
「ち、違うの……気持ち、いい……っ」
「ここ、かな?」
 赤くなった突起をつまんで引っ張られる。
 マヤは背筋をのけ反らせて声をあげた。
「先生、なんだか……可愛いですね……」
 乳輪のまわりをなぞるように、舌がぴちゃぴちゃと音を立てて這う。
 乳丘は手の動きに合わせて自在に形を変えていく。
 特別なことをされているわけでもないのに、体の中がこれまでにないほど痺れる。
 腕の中に久保田の頭を抱き、快感に身を委ねた。

「あ……すごい、ここ、もうこんなに……」
 スカートの中に忍び込んだ指先が、あの部分に触れる。
 下着もきっとぐしょぐしょに濡れているに違いない。
 パンティの上から、割れ目に沿ってゆっくりと撫でられる。
「あ、あっ……」
 指が薄い布を押しのけ、マッサージをするように陰部を刺激する。
 くちゅ、くちゅ、と粘液の絡まる音。
 隠れていた肉芽が探り当てられる。
 軽く擦られるだけで、両足がぶるぶると震えだす。
「だめ、そこ、だめ……」
「気持ちいい、ですか? 見ているだけで僕まで……変になりそうです……」
 溢れる蜜がとろとろと尻のほうまで流れていく。
 潤ったそこに指がつるりと飲み込まれる。
「あうっ……」
 内側の様子を確かめるように、入口から少し奥までを撫でられる。
 同時に胸の先端を吸われると、それだけのことで絶頂にも届きそうになる。
 欲しい。
 久保田の足の間に手を伸ばす。

 ベルトを外し、ジーンズのボタンに手を掛ける。
 ジッパーを下ろすと、下着を突き破らんばかりに怒張したものが飛び出してきた。
 濡れて赤黒く光るそれを優しく撫でる。
「あ、先生……!」
「久保田くんも……気持ち良く、なって……」
 体を起こす。
 邪魔なスカートも脱ぎ、全裸になる。
 壁にもたれた姿勢で座る久保田の股間に顔を埋めた。
 そそり立つ肉棒を両手で摩る。
 浮き出た血管を爪の先でなぞりながら、滲み出てくる透明の液体を舌で舐め取った。
「うわ……っ……」
 唾液をたっぷりと含んだ口の中で、肉塊の先を愛撫する。
 舌を絡みつかせ、軽く歯を立てて。
 ささやかな動きにも敏感に反応を見せ、久保田は喘いだ。
「そんなこと……されたら、僕、すぐに……」
「いいわ、わたしの口の中で……いっても……」
 さらに深く咥える。
 びちゃびちゃと下品な音を響かせながらしゃぶった。
 唇を噛んで快感を堪える表情が、さらにマヤの官能を煽る。

 久保田の目が変わる。
 男の本能に目覚めたような、野獣の目。
 マヤを押し倒し、力強く足を広げさせる。
「先生……ごめん……!」
 女陰に固く屹立したものが押し当てられた。
 ぐっと腰を引き寄せられ、体重がかかる。
 あまりに急な動きに、一瞬恐怖さえ感じてしまう。
 肉傘が膣襞を割り、ぐいぐいと奥まで侵入してくる。
「あ、あぁっ……!」
「せんせ……すご……い……締めつけてくる……」
 それは子宮の入り口まで届きそうなほどの位置まで到達し、なおもマヤを突き上げる。
 蜜壺の中をこれでもかというほど掻きまわす。
 熱い。
 息ができない。
 走り抜ける快感に、このまま死んでしまってもいいとまで思う。
 腰が揺れるたびに、肉杭が打ち付けられる。
 何かの罰を受けているような気持ちになる。
 だとしたら、なんと幸せな罰だろう。
 
「好き……です……心から……」
 一番深いところまで貫いた状態で、思い切り抱きしめられた。
「あぅ……わ……わたし、も……」
 その背中に爪を立てる。
 自分の言葉が嘘なのか本当なのかわからなくなる。
「春に、卒業したら……僕と、結婚……してくれますか……」
 快楽に朦朧とした意識の中で、久保田の言葉が心地良く耳に流れ込む。
 有り得ないことはわかっている。
 それでも、いまだけは欲望に忠実な返事をしたい。
「いい……いいわ……」
「絶対に、幸せにします……先生……!」

 再び腰が激しく動き出す。
 肉を打つ音。お互いの愛蜜が蕩け合う音。
 肉襞を擦りあげられるうちに汗が噴き出してくる。
 ふたりで築く穏やかで幸せな未来。
 叶うはずのない予想図。
 また涙が流れて落ちる。

「先生……っ……!」
 抱きしめる力が強くなる。
 体内に精の塊が放出されたのがわかった。
 それはまだ固さを保ち、どくん、どくん、と脈打っている。
 自分の腕の中で欲望を満たした久保田に対し、愛しさに似たものを感じた。
 いけない。
 一時の気持ちに溺れるわけにはいかない。
 繋がったまま、体の上にいる男に対して冷静な心情を取り戻す。

 あれほどの快感が嘘のように引いていく。
 まだ呼吸の荒い久保田に耳を寄せて、マヤはとっておきの甘い声で囁いた。

「ねえ……お願いがあるのよ」

(つづく)


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