本日より新作電子書籍『偽恋ハネムーン~幼馴染みに拾われた花嫁~』が配信開始になります。
表紙&挿絵は無味子様の素敵なイラストで飾っていただいています。
挿絵、いい感じに●●な場面を切り取って描いていただいていました。
ほんとに見惚れちゃうくらい綺麗な絵柄でびっくり。
そして本文も珍しく真面目に恋愛に寄せて書かせていただいたような記憶が。
(もちろんいつも通りエロ場面もがっつりあります)
amazon等々、各電子書籍配信サイトでご購入や試し読みも可能ですのでぜひぜひのぞいてやってくださいませ。
~あらすじ~
「あ、わたし、捨てられたんだ」陽菜は白いドレスに身を包んだまま、ひとり呆然として壇上に立ち尽くしていた。大好きな彼と、永遠の愛を誓い合う。そんな、夢だった結婚式は、ひとりのかわいらしい女の子によって阻止されてしまった。新郎を奪われ、一人取り残された陽菜を襲うのは失笑や同情の声。その場に崩れ落ちそうになったとき、支えてくれたのは、陽菜が勤める会社の副社長で、幼馴染みの隼人だった。悪夢のような結婚式から1ヶ月後、心配した隼人の口から飛び出たのは、「ハネムーンに行くぞ」の一言で……。新郎でもないのに、幼馴染みとハネムーンに行ってきます!
以下、本文サンプルになります。
ただし今回は最初の場面がまったくエロくないので『そんじゃ興味ないわ』って方はごめんなさい。
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「それではご列席の皆様、あちらの会場にお食事を用意しておりますので……」
大慌てで駆けつけてきた係員たちが、華やかに着飾った招待客たちを式場の外へと誘導していく。
聞こえてくるのは同情の声、ヒソヒソ話、そして嘲笑。
純白の花をあしらったブーケが、手の中からするりと滑り落ちていく。
桜田陽菜は白いドレスに身を包んだまま、ひとり呆然として壇上に立ち尽くしていた。
今日は陽菜にとって、人生最高の日となる予定だった。
十年近くもの恋愛を実らせ、愛する人、東崎雄也と結婚式を挙げる日。
彼と陽菜は同じ大学で知り合い、大きな喧嘩をすることもなく穏やかな関係を築いてきた。
人当たりがよく誠実で、少々頼りない面もあるが、常に陽菜のことを第一に考えてくれる優しい彼。
どちらかといえば地味で人付き合いが苦手な陽菜にとって、彼は恋人であると同時に友人としても大切な人だった。
いつの頃からか将来のことを話し合うようになり、ふたりが二十八歳になる今年に結婚しようと決めたのも自然な流れだった。
挙式は丘の上の真っ白なチャペルで厳粛に執り行い、披露宴はチャペルに併設されたお洒落なレストランで豪華な料理を楽しむ。
陽菜が憧れていたイメージそのままの計画に、雄也はニコニコしながら賛成してくれていた。
平凡ながらも、すべてが順調だったように思う。
実際、式場に入場して赤い絨毯の敷かれたヴァージンロードを歩いたところまでは完璧に理想通りの結婚式だったのだ。
ところが。
壇上で雄也と向き合い、いざ誓いの言葉を交わそうとしたとき。
「待って!」
悲鳴のような声が、厳かな式場の空気を引き裂いた。
居並ぶ招待客たちが何事かとざわめく中。
ひとりの女性が立ち上がり、どこか挑戦的な表情で陽菜たちの真正面に駆け寄ってきた。
綺麗に髪を結い上げ、明るいピンク色のワンピースに身を包んだ可愛らしい女の子。
涙に濡れた大きな瞳が印象的だった。
「やっぱり他の人と結婚しちゃうなんて嫌っ!」
雄也さんを幸せにできるのはわたしだけ。
昨日だってあんなにたくさんキスしてくれたじゃない!
甲高い声で喚きたてる彼女を見て、陽菜はまず『頭のおかしな人がまぎれこんできた』と思った。
雄也が他の女性にキスなんてするはずがない。
なにしろわたしたちは長い時間をかけて愛を育み、やっとこの日を迎えたのだから。
そうよね?
一呼吸おいてから隣に立っているはずの雄也に視線を向けると、彼はもうそこにいなかった。
どこに行ったのかと思えば、信じられないことに式場のど真ん中で泣きながら彼女と抱き合っている。
「やっぱり君じゃないとだめだ! リカ、愛してる」
「嬉しい、雄也さん」
熱烈なキスと呆れるくらいに長い抱擁。
そのままふたりは陽菜に背を向け、式場の外へと駆け出していってしまった。
まるで、安っぽいドラマのワンシーンのように。
陽菜は驚きすぎて声を出すこともできなかった。
これって、どういうこと?
あの女の子は誰?
雄也はどこに行っちゃったの?
頭の中が無数の疑問符で埋め尽くされていく。
どよめく式場、親類席から湧く悲鳴のような声、そして失笑。
まるで現実味がなく、すべてが他人事のようだった。
係員のひとりがすぐ横でペコペコと頭を下げながら何か言っていたが、ほとんど耳に入ってこない。
視界の隅で、陽菜の母親が父親に支えられながら泣き崩れているのが見えた。
そこで初めて、陽菜は事態が飲み込めた。
ああ、そうか。
わたしの結婚式、もう終わりなんだ。
ここにいるのは皆が羨む幸せな花嫁ではなく、式の最中に捨てられた誰よりも不幸な女。
意地悪な同僚たちがちらちらと陽菜を見上げ、内緒話をしながらほくそ笑んでいる。
すうっと全身から血の気が引き、猛烈な吐き気と悲しみが同時に襲い掛かってきた。
心臓に刃物を突き立てられたように、胸がずきずきと痛む。
足元がふらつく。
息ができない。
とても立っていられずその場に体ごと崩れ落ちそうになった瞬間、誰かの力強い手に腕を引っ張り上げられた。
「おい、しっかりしろ」
男性の声。
最初は父親かと思ったが、違う。
百八十センチを超える長身、すらりとした細身の体型、思わず目を奪われるほど整った顔立ち。
そこにいたのは二つ年上の幼馴染、沢渡隼人だった。
見慣れない礼装のせいか、一瞬誰だかわからなかった。
子供の頃はよく一緒に遊んだものだったが、ここ数年は顔を合わせる機会も少なくまともに話した記憶がない。
わたし、あなたのこと招待してた?
どうしてここにいるの?
言いたいことは山のようにあるのに、どれひとつとしてきちんとした言葉にはならなかった。
「いいから立て、ほら」
すぐそばにいるはずなのに、その声がどこか遠くから聞こえてくるように感じられた。
耳鳴りが酷い。
まわりの景色がぐにゃぐにゃと歪んでいる。
もう、何も見たくない。
何も聞きたくない。
鼻の奥がツンと痛くなって、涙が溢れてきそうになる。
「こら、まだ泣くな」
隼人がピシリと言い放った。
泣くな、だって。
わたしの気持ちなんて何もわからないくせに。
「だって、こんな」
「あそこにおまえのことを笑ってるバカがいる。これ以上あいつらを喜ばせてやることもないだろう」
きつい言い方だったが、たしかにその通りだった。
今より情けない姿を晒すのは耐えられない。
陽菜は震える唇を引き結んで顔を上げ、隼人に手を引かれるまま平静を装って裏口から式場を出た。
花やリボンで飾り立てられた正面入り口とは違い、荷物の搬入口を兼ねた薄暗く殺風景なスペース。
ペンキの剥げた台車に、次の式のための準備品なのか幾つもの段ボール箱が積み重ねられている。
あまり掃除もされていないような小汚い場所だったが、とりあえず誰もいないのがありがたい。
大勢の視線から解放され、少しだけ呼吸が楽になったような気がした。
「よし、もういいぞ」
隼人が陽菜の手を離し、とん、と背中を押した。
意味がわからない。
「いいって、何が?」
「ここなら誰も見てない。好きなだけ泣け」
「そ、そんなこと言われても急に泣けない! いきなり何なの、隼人のことなんて招待したつもりないんだけど」
「親父に急用ができたらしくて、いま日本にいないんだ。それで、代わりに祝儀だけでも持って行ってこいってうるさいから」
「ああ、沢渡のおじさまが……」
隼人の父親、沢渡誠一は陽菜の父親と昔から仲が良く、陽菜にとっては勤務先の社長であるのと同時に優しい叔父のような存在でもある。
また陽菜の父親とは小学校からの友人で、陽菜が小さい頃はたびたび隼人を連れて家に遊びに来ていた。
とはいえ、ふたりの父親の性格や生き方はまったく違う。
陽菜の父親は長年ごく普通のサラリーマンをやっているのに対し、隼人の父親は野心家でいまでは国内有数の企業の経営者となっている。
それでもいまだに一緒に釣りに出かけたり将棋を指したりしているのだから、よほど気が合うのだろうと思う。
その父親同士の関係性によるものなのか、隼人の父親は陽菜のことを実の娘のように可愛がってくれている。
陽菜が就職に悩んだときには自分の会社の事務職を世話し、婚約の報告をしたときには涙ながらに祝福してくれた。
だから陽菜にとって沢渡誠一は父親同然といってもいい相手だが、息子の隼人はそのオマケ程度にすぎない。
頻繁に会っていたのは陽菜が中学生になった頃までのことで、その後は顔を合わせることもほとんどなくなった。
覚えていることといえば、少年時代の隼人が女の子のように可愛らしい顔をしていたことと、その顔に似合わず悪さばかりしていたことくらいだった。
隼人はいずれ父親の跡を継ぐらしく数年前から副社長のポストに就いているため、一応は陽菜と同じ会社で働いている。
ただし平社員の陽菜と副社長では仕事上でも関わり合うことがなく、陽菜自身は隼人が同じ職場にいることさえすっかり頭の中から抜けていた。
なのに、久々に会うのがこんなに最悪なタイミングだなんて。
陽菜は痛む胸に手を当て、ふう、と息をついた。
「ごめんね、せっかく来てくれたのに」
「おまえが謝ることじゃないだろ。で、あの笑ってた奴らは誰だ? 逃げた馬鹿野郎もそうだが、あいつらも最低だな」
「ああ、同じ会社の人たちね。わたし、あまり好かれてないから」
陽菜の同僚たちには、仕事中も恋愛やお洒落の話に夢中になっているようなタイプが多い。
就業時間中は何があっても仕事に集中したいという陽菜のような人間は、彼女たちにとって面白くないらしくいつも煙たがられている。
それでもせっかくの結婚式なのだから同じ部署の人間は全員招待するべきだ、と言って譲らなかったのは陽菜の母親だった。
一人娘の門出を大勢で祝ってやりたいという気持ちが嬉しくてその通りにしてみたものの、こうなってみると後悔しかない。
「ふうん、そうか」
隼人は両手をポケットの中に突っ込んで、不愛想に顔を背けた。
その格好がまだ少年の頃の隼人と重なり、ほんのりと懐かしいような気持ちになった。
誰かのことを心配したり、ちょっと照れたりしているとき、隼人はいつでも不機嫌そうな顔をしてごまかす癖がある。
「もう控室に戻った方がいいと思う? みんな心配してるかなあ」
「ああ、おまえが大丈夫なら」
「大丈夫って、そんなわけないじゃない。なんでそんなこと言うの」
「俺に絡むなよ」
「わたし、新郎に逃げられちゃったんだよ?」
「そうだな」
「もう、ほんと笑っちゃうよね。こんなカッコ悪い花嫁、見たことある?」
「いや」
「雄也、あの女の子とずっと浮気してたのかな。わたし、全然知らなかった」
「そうか」
「あの子、すごく可愛かった。ドレスは来てなかったけど、あの子のほうがお姫様みたいで」
「やめろよ」
「わたし馬鹿だよね、ずっと愛されてるって思ってた。浮気されてるなんて、そんなの疑ったこと一度もなかった」
雄也はいつだって優しくて。
付き合い始めた当初のドキドキするような感覚はもうなかったけれど、誰よりも心の許せる相手だった。
忙しくて会える時間が減っても、心は繋がっているって信じてた。
それなのに、こんなことって。
声が詰まった。
ぶわっと滝のように涙が溢れてきて、手で拭っても追いつかない。
隼人は顔を背けたまま、ただ黙って隣に立っている。
少しくらい慰めの言葉があってもいいのにと思う反面、何も言わずにいてくれることがありがたくも思えた。
どんな言葉をかけてもらったとしても、悲惨な現実は変わらない。
陽菜は両手で顔を覆い、床に突っ伏して涙が枯れるまで声を殺して泣き続けた。
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サンプルは以上になります。
ここまでお付き合いいただけた皆様、ありがとうございました。