(前回の続きです)
「もう、心配させないでよ。お父さんが危篤だっていうから帰ってきたのに、ただの風邪だなんて」
「そう怒らないで、ね? ちょっと大袈裟に言っただけでしょ、アイちゃんったらなかなか帰ってきてくれないんだもの」
お仕事が忙しいんじゃ仕方ないけどね、それでもお盆とお正月くらいは帰ってくるものよ。
少し痩せたんじゃないの? ご飯はきちんと食べてるの?
いつまでも一人暮らしなんてしてないで、いい人見つけて結婚しなきゃね。
あらあら、そんなところに膨れっ面で立っていないで上がりなさい……と母はひとりで楽しそうに喋っている。
前に会ったときよりも目尻や口許の皺が増えたかもしれない。
ついさっき庭先で出くわした父親も、少し痩せたせいかおじいさんになったという印象が強かった。
アイは遅くにできた子供だったから、両親はとうに古希を越えている。
実家に寄り付かなかった年月に責められているようで、アイは母親の笑顔から黙って目を背けた。
父親が危篤だと母親から電話があったのは、例の悪夢を見た翌日のことだった。
最初から変だとは思っていたのだ。
緊迫した事態だというのに母親の声はどこかのんびりしていたし、父親の状態について詳しく話そうともしなかった。
それでも新幹線に飛び乗って大急ぎで帰省したのは、この七年ずっと両親に対して年賀状一枚書かなかった罪悪感からに他ならない。
両親だけでなく地元に暮らす親戚や友人とも、二十歳の夏以来一度も連絡を取っていなかった。
遠く離れた都心で仕事を見つけ、友人も恋人も作らず過ごした孤独な七年の日々。
それは自分にとって絶対に必要だった時間であり、そうするしか自分を守る術がなかったのだとアイは今でも思っている。
「ほら、アイちゃんのお部屋はそのままにしてあるのよ。せっかく来たんだからゆっくりして帰りなさい」
「ああ、うん……」
「閉めきっていると良くないわ、少し風を入れましょうね。そうそう、お隣の八坂さんのところも史規くんたちが帰ってきているみたいよ」
隣家に面した大きな窓を開けながら、母親が眩しげに目を細める。
細い小道を挟んだ向こう側、きれいに整えられた生け垣の奥から賑やかな子供たちの声が聞こえてきた。
史規。
ズキンと頭の奥が痛んだ。
そんな。
あの男がここにいるなんて。
真夜中のアトリエ。
飛び散った絵の具。
赤い縄。
記憶が暴走する。
いくつかの場面が脳裏に浮かんでは消えていく。
心臓がでたらめな脈を打つ。
母親はアイの動揺に気づいた様子もなく、まだ懐かしそうな目で隣家の方を眺めている。
「史規くん、もう三人の子持ちなんですって。それに絵のほうでも大成功したらしくてね、外国で個展を開くんだーって、八坂のおばあさまが自慢してらしたのよ」
「別に聞きたくない、興味ないもの」
できることなら耳を塞いで叫び出したいような気持ちになったが、アイは平静を装いながら色褪せた古い畳のささくれを見つめていた。
「うふふ、史規くんはアイちゃんの初恋の人だものね。小さい頃は、おじさま、おじさまって史規くんのあとを追い回していたじゃない。ほんとにあの頃のあなたは可愛らしくて」
「ちょっと、やめてよ」
「たしか大学生の頃まで仲良しだったのよね。でも史規くんが奥さんのご実家のほうにお引っ越しされてから疎遠になって……いえ、アイちゃんが忙しくなって大学の近くに引っ越しちゃって、なかなか戻ってこられなくなったのが先だったかしら」
「どうでもいいじゃない! ねえ、着替えるからあっちに行って」
「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。ああ、疲れたでしょうからしばらくお昼寝でもする? お夕飯の頃には起こしてあげますからね」
棘のあるアイの物言いを気にする様子もなく、母親は嬉しそうな笑顔のままいそいそと部屋を出ていった。
母親の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、開け放たれた窓の外へと視線を向けてみる。
生け垣と背の高い木々に囲まれ、家の中の様子を直接覗き見ることはできない。
それでもアイは簡単に隣家の内部を細かいところまで思い出すことができた。
隣に建っているとはいえ、八坂の家はアイの実家と比べ物にならないほど広い。
敷地内にはブランコなどの遊具の他に小さな池や噴水があり、主に家族が暮らす大きな二階家を中心として、使用人たちが暮らす家や子供たちの勉強部屋、物置小屋などが点在している。
使用人の数も多く、駐車場には高級車が何台も並び、専用の運転手までいたように記憶している。
いわゆる大金持ちの家だ。
生活レベルは違っても八坂の家の代々の当主が子供好きであったため、近所の子供たちに混じってアイも幼い頃から毎日当たり前のように隣家に出入りして遊んでいた。
なにしろ、そこにいると退屈することがない。
常に大勢の人々が出入りする八坂邸には目新しいゲームや玩具が山積みだったが、中でもアイのお気に入りだったのはアトリエでの探検とお絵描きだった。
アトリエは敷地内の東の端にある小さなログハウス風の可愛らしい建物で、周囲を背の高い樹木に囲まれていることから秘密基地のような雰囲気もあった。
静かで、どこか他とは違う素敵な場所。
他の子供たちから離れてアトリエまで駆けていくと、いつもひとりの青年がドアを開けて優しく迎え入れてくれた。
八坂史規(やさか ふみのり)。
五人兄弟の末弟で美大生、すらりとした長身と涼やかな目元が印象的だった。
いつも細身のジーンズにTシャツといったラフな服装で、始終絵ばかり描いていた。
賑やかな八坂邸の中でひとりアトリエにこもっている少し変わった人だと近所でも噂になっていたが、そんなことは気にもならなかった。
まだ幼かったアイの目から見れば、数々の絵の具を塗り分けて一枚の絵を仕上げていく史規の姿はまるで魔法使いのように不思議でわくわくするものだった。
わたしも、あんな絵が描いてみたい。
憧れにも似た気持ちでアトリエに通いつめて筆を持ち、史規を真似て絵の具を混ぜてみたものの、ちっとも思うような絵が描けない。
納得いかないアイはわんわん泣いて筆を放り投げたりもしたが、史規は決して怒らずアイの手をとってまた一から新しい絵を一緒に描いてくれた。
ときにはアイをモデルにして、可愛らしいお姫様の絵を描いてくれたこともあった。
それでも気に入らなくて拗ねたときには、抱き上げてよしよしとあやしてくれる。
作業の邪魔ばかりしていても、気に入らないことがあってわざと完成した絵を汚しても、史規に叱られたことはなかった。
退屈させた僕が悪いんだねと困ったように笑い、ぎゅっと抱きしめてくれる。
ひとり娘でわがままだったアイの相手を嫌がらない、常に温厚な史規。
好きだった。
他の子にとられたくないと思うくらい、本当に大好きだった。
アイがあまりにも史規の話ばかりするものだから、両親は「アイちゃんの初恋の人はずいぶん年上だねえ」とあきれたように笑っていた。
出会った当時、史規はまだ二十代半ばだったはずだ。
それでもアイが「八坂のおじさま」と言ってなつくのを快く受け入れ、それ以来アイの中では「おじさま」で定着している。
史規は大学を卒業してからもアトリエにこもって創作活動を続け、 アイも彼を慕って八坂邸に毎日のように通う日々を過ごした。
一緒に絵を描いて、おしゃべりをして、気ままに過ごす時間。
血のつながった叔父と姪のようにほほえましいふたりの関係。
それが一変したのは、アイが二十歳になった夏のことだった。
ちょうど大学の夏休みが始まったばかりのある日。
夕刻になってアトリエを訪れたアイに、史規は「しばらくここには来ないでほしい」と告げたのだ。
クライアントからの要望でヌードモデルが必要になり、明日からそのモデルと共に新しい作品に取りかからなければならないということだった。
「それでね、まあ、集中できる環境が必要なんだよ。アイちゃんが来ても、なんていうか、いままでみたいに相手をしてあげられないし」
言いにくそうに口ごもりながら話す史規を前に、アイはこれまで味わったことのない苦々しい気持ちが胸の内に広がっていくのを感じていた。
モデルとなる女性は史規の幼馴染みで、同じ大学に通っていた晴菜さんという女性だった。
彼女とは、アイも何度か八坂の家で会ったことがある。
どことなく優等生風で清楚な雰囲気の美人だった。
史規と恋人同士だとか、もうすぐ結婚するのではないかという噂も聞いたことがあった。
でも、それを信じたことはない。
だって、おじさまと一番仲良しなのはわたしだもの。
恋人も結婚も必要ない。
わたしたちは特別だから。
ふたりで一緒にお絵描きしたり、おしゃべりしているだけで幸せ。
これまでアイは本気でそう思っていた。
それなのに、ここに他の女性が来て裸になるなんて。
なんだか、ものすごく不潔な感じがする。
ひどい裏切り行為のようにも思えた。
「なによ、モデルなんていらないじゃない。いままでみたいに、わたしがモデルになってあげるから」
おじさまは風景画ばかりで、ふだんは人物画なんて描かないくせに。
どうしてもモデルが必要だったときだって、わたし以外のモデルなんて描く気にならないって言ってたのに。
どうして、いまさら。
言葉にならない気持ちが溢れてきて、声が震えた。
自分が無理を言っているのはよくわかっていたが、どうしても譲ることができない。
史規はどう説明すればいいのか迷うように目を伏せ、ため息をついた。
「無理だってわかってるだろう、だってヌードモデルだよ? 僕の前で裸になるなんて、そんなのアイちゃんだって嫌だよね?」
「だ、だけど、晴菜さんがここでおじさまと……そっちのほうが、絶対に嫌!」
「ううん、今回の絵の件だけじゃなくて、君とはそろそろふたりきりで会わないようにしたほうがいいと思うんだ。もう知っていると思うけど、晴菜と僕は、ええと、もうすぐ結婚するかもしれないし」
一番聞きたくなかった情報が、さらりと史規の口から吐き出された。
神経の糸が切れてしまいそうなほどに張りつめていく。
嘘よ、そんなの嘘。
「どうして急にそんなこと言うの、わたしのこと嫌いになった?」
「これ以上困らせないでくれよ……僕だってアイちゃんと遊んでいたいけど、いつまでも君の相手ばかりしていられないから、ね?」
駄々をこねる赤子をあやすような口調が癇に障った。
もう子供じゃないのに。
イライラする。
晴菜さんと結婚なんて、信じてなかったのに。
モデルだって、どうしてわたしじゃダメなの。
「子供扱いしないで、わたしだってヌードモデルくらいできるよ! 服を脱げばいいだけでしょう? そんなの簡単じゃない」
「簡単って、あ、アイちゃん」
史規がそれ以上なにか言い出す前に、アイは身に付けていたブラウスのボタンを引きちぎるようにして外した。
服の隙間から水玉模様の子供っぽい下着がのぞく。
これまで異性の前で服を脱いだことなど一度もない。
大好きな史規に下着姿を見られるなんて。
スタイルにはあまり自信がない。
同じクラスの女の子たちと比べても、胸もお尻も小さくて女らしさが足りないのは自覚している。
恥ずかしさで顔が火照る。
心臓が破裂しそうだった。
それでも、もうあとには引けない。
勢いのまま、スカートのファスナーも下げた。
紺色の布地が輪になって落ちていく。
すぐ横にある大きな棚のガラス戸に半裸の自分が写っていた。
小さな水玉模様のショーツと同じ柄のブラジャー、それに赤い花飾りのついた夏物のサンダルというちぐはぐな格好。
史規は目をそらしたまま、アイを見ようともしない。
自信に満ちた晴菜の笑顔が頭にちらつく。
彼女はわたしよりずっと綺麗で、すごく大人で。
このままじゃ、おじさまを盗られちゃう。
悔しい。
アイは涙目になりながら叫んだ。
「ちゃんとこっち見てよ! これでもわたしじゃダメなの? 晴菜さんのほうがいいの?」
「やめろよ、もうわかった。今夜は送っていくから、とにかく服を着て」
「おじさま、なんにもわかってない! 見てよ、ほら、わたしだってもう大人なんだから!」
サンダルと肩にひっかかっていたブラウスも放り投げるようにして脱ぎ、思いきってブラジャーのホックも外した。
ささやかな胸の膨らみがあらわになり、真っ白な乳丘の先だけがうっすらとピンクに染まっているのも丸見えになっている。
羞恥心は頂点に達していたが、それよりも怒りや悔しさのほうが強かった。
負けたくない、おじさまはわたしだけのもの。
一瞬迷ったあとで、最後の一枚となったパンティーも膝下まで押し下げて脚から抜いた。
史規は驚愕の表情でアイの方を見たまま固まっている。
「あ、アイちゃ……」
「これでわかった? わたし、ヌードモデルくらいできるよ。だから、おじさま」
明日から来るな、なんて言わないで。
そう最後まで言い終えるより早く、アイは画材の散らかった床の上に押し倒されていた。
何が起こったのか、うまく理解できない。
視界がぐるりと回転し、目に映るのは見たこともないほど冷徹な表情の史規だけになっていた。
頭の上で捕まれた両手首と、固い床板に押し付けられた背中がひどく痛む。
腰の上にのしかかってくる史規は、華奢な見た目よりもずいぶん重く感じられた。
片手で押さえられているだけの手首でさえ、アイの力ではとても自由にならない。
「おじさま、やめて、痛い……」
「アイちゃんはいつもワガママばかりだね、僕の気も知らないで。おばさんたちが甘やかすから、いつまでたっても悪い子のままなんだ」
史規が冷ややかに笑う。
いつもの優しい彼とはまるで別人のようで、なんだか背中の辺りが寒くなった。
「な、なんでそんなこと言うの? ねえ、離して」
「少しは我慢することを覚えたほうがいい。僕は今日までずっと我慢してきたんだよ、それなのに君は」
史規の言葉が途切れた。
代わりに、彼の唇がアイの白い首筋へと下りてくる。
顎のすぐ下から、耳の横をまわって鎖骨の窪みまでゆっくりと口付けられていく。
柔らかな感触がくすぐったくて、アイは思わず顔を背けた。
「や、やだ」
「君はまるでお菓子みたいだね、子供の頃から変わらない。いつも同じ甘い匂いをふりまいて、食べてしまいたくなる」
「も、もう、子供じゃ……あっ!」
片方の乳房を爪を立てた手で鷲掴みにされ、もう片方の胸の先を口の中に含まれていく。
敏感な箇所を温かな粘膜に包み込まれていく初めての感覚に酔いしれる間もなく、丸く突き出た乳首の先に歯を立てられた。
皮膚がちぎれてしまいそうなほどの激痛が走る。
小さな胸を揉みしだく指先にも暴力的な力が加わっていく。
あまりの恥ずかしさと痛みに、アイは自分でも情けなくなるような泣き声をあげた。
「やだあ、やめてよおっ! 痛いっ、いやっ!」
「望んだのは君だろう? 僕の目の前で裸になって、このいやらしい体で僕を誘ったんだ」
ワガママでいやらしい女。
もう許せない。
僕がこの手で躾をしてあげるよ。
史規は冷たく微笑んだまま、アイの乳頭をきつくしゃぶりたて、もう片方の乳首も加減のない力で捻りあげていく。
手首を掴んでいた手が離され、肋骨の浮き出た脇腹から腰のくびれを楽しむような手つきで撫で回された。
彼の動きひとつに、アイの体はびくんびくんと腰を震わせて応えた。
怖い、痛い。
けれども、それとは別のこそばゆいような感覚が肌の下から湧いてくる。
じくん、と両脚の間が熱く疼いた。
未知の感覚に押し流されてしまいそうな恐怖を感じる。
もう両手は解放されているのに、全身がじんじんと痺れて思うように動けない。
わたしが悪いの?
ワガママを言ったから?
だから罰を受けているの?
涙だけがぽろぽろと目尻からこぼれ落ちていく。
「もうっ……あ、謝るからぁっ! わ、ワガママ、言わないから」
「信じられないなあ、アイちゃんは嘘つきだからね。そうやって謝っても、どうせ口先だけなんだろう?」
「ち、違う、ほんとに」
「嫌がるふりなんてしなくていいんだよ。こんなに乳首びんびんに勃起させて悦んでいるくせに」
「そんな……あ、あんっ……」
思わず恥ずかしい声が漏れた。
史規の言葉通り尖りきった乳首の先を甘噛みされながら、べちゃべちゃと舐められていく。
骨まで溶けてしまいそうなほど甘やかな刺激が、胸の先から脊髄へと流れ込んでくる。
体温が上がり、あちらこちらから汗が滴り落ちていく。
悪性の感冒に犯されたような熱に、脳がうまく働かなくなってくる。
感じたくはないのだけれど、心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいる。
ねだるように腰がくねってしまうのを止められない。
史規の冷たい笑いが深くなる。
「処女のくせに自分から腰を振るなんて信じられないな。それとも、僕が知らないだけでほかの男ともう寝たのか?」
「そんなこと、してな……あっ、やっ」
ふいに下半身が浮き上がる。
強引に左右の太ももの間を押し開かれ、両足を肩の上に抱えあげられた。
カッ、と顔が熱くなる。
一番隠しておきたいあの場所を史規に見られているのかと思うと、消えてしまいたいような気持ちになった。
「そ、そんなところ、やだ……ねえ、言うこときくから、謝るから」
「暴れちゃだめだよ、良い子にして。ほら、もうビショビショに濡れてるじゃないか」
愛液の滴る股間に指を這わせながら、史規が蔑むような視線を向けてくる。
指の腹が粘膜に擦れるたび、ぐちゅ、ぐちゅ、と粘着音が鳴った。
なんていやらしい女なんだ。
そう言われているようでいたたまれない。
割れ目の筋を行ったり来たりしていた指先が、ぐうっ、と陰唇の裂け目を押し広げていく。
見られたくない、と思えば思うほど、史規の視線を強く感じる。
どうしよう、汚いところ見られちゃってる。
こんなことになるなら、きちんとシャワーを浴びてから来ればよかった。
下着だってもっと新しいのがあったのに。
そんな場合ではないのに、くだらないことばかりが気になってしまう。
指はまだ誰も受け入れたことのない膣穴の周囲をほぐしながら、ゆっくりと内部へ潜り込もうとして来る。
「アイちゃんのここは綺麗なピンク色だね、僕が想像していた通りだよ……いやらしい汁に濡れてヌルヌルしてる」
「そ、想像……? あ、あっ」
耐えられないほどの異物感。
下半身が小刻みに震え出す。
史規が嬉しそうに目を細めた。
「すごく狭いな、本当にまだ処女なんだね。頭の中ではもう何度も君を犯してきたけど、まさか本当に初めての相手になれるとは思わなかったな」
嬉しいよ、アイちゃん。
耳の奥で史規の夢見るような声が繰り返し響いている。
頭の中で、何度も犯した……。
どういうこと?
わたしたちはそんな関係じゃなかったのに。
おじさまだけは、他の男の人が持つような性欲とは無縁だと思っていた。
わたし、なにもわかってなかった。
これまで一緒に遊んできた10年以上の思い出が、めちゃくちゃに汚されていくようで苦しくなる。
指はすでに根元まで埋め込まれ、狭い膣内を押し広げようとするようにグニグニと肉襞の狭間で蠢いていた。
痛くないけど、体内に芋虫のようなものをねじ込まれているようで気持ちが悪い。
すごく変な感じ。
こんなことされたくない。
こんなの、わたしの好きなおじさまじゃない。
アイは力の入らない両手で史規の胸を何度も叩き、どうにかして抵抗しようとした。
「い、いや、もう、嫌っ」
「そろそろいいかな? 女の人って最初は痛いらしいけど、お仕置きにはちょうどいい」
そう思うだろう? アイちゃん。
穏やかな口調が逆に恐怖を誘う。
アイの声などまるで耳に入っていない様子だった。
史規のことは大好きだったが、彼と性的な関係を結ぶなど考えたこともない。
アイの中で好きな気持ちとセックスとは、まだ何の関連性もないものだった。
女の子同士でもその手の話題は避けるほうで、なんとなく下品で汚いようなイメージが強くて苦手だった。
だから、こういうときにどうしたらいいのかわからない。
自分がどうなってしまうのかもわからない。
「お、おじさま……許して、許してよぉ……」
「ああ、いい顔だね、ぞくぞくするよ。もっと虐めて泣かせてやりたくなる」
アイの中から指を抜き、史規はせわしない動作でベルトを外して自身のズボンを下着ごと押し下げた。
史規の股間には、反り返った肉幹が屹立している。
太くどっしりとした男根。
アイの目は初めて見た男性の部分に吸い寄せられ、その力強さに圧倒された。
赤みを帯びた肉色のそれは表面に赤や青の血管を浮きあがらせ、真上を向いてそそり立っている。
茸の傘のような形状の先端部分には小さな割れ目があり、そこから透明の液体が染み出してきていた。
史規は肉棒に手を添え、その丸みのある先端をアイの小さな膣口に擦り付けてくる。
互いの体液が混じり合い、ぬちゅっ、ぬちゅっ、と粘りけの強い音が静かな室内に響く。
アイはこれから起きることに怯え、すすり泣くような声をあげた。
「お、おじさま……こ、こんなのだめだよ、だって……もうすぐ結婚、するんでしょ?」
「結婚なんかどうだっていい、それに黙っていれば誰にもわからないよ。君だって知られたくないだろう? 自分から服を脱いで僕に迫ってきたことなんてさ」
「だから、わたしはそんなつもり……い、いやっ、いやあっ!」
両手で腰を引き寄せられ、秘部の中心に肉根の突端を突き立てられた。
熱い肉塊が膣肉を抉り、アイの奥深くまで貫こうとしてくる。
剛直は狭すぎる肉路にぎちぎちと嵌まり込み、無理矢理に粘膜を押し広げ変形させていく。
体内に感じる史規のそこは、鋼のように頑丈で焼けた鉄のように熱い。
全身を引き裂かれるような激痛が走り、息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
自分とは完全に異質の肉体。
目が眩む。
意識が途切れそうになる。
でも気を失いかけると、すかさず次の痛みが現れて失神することさえ許してもらえない。
「くっ……うぅっ……」
「いいか、悪いのは僕じゃない。君がどうしようもなくワガママで、いやらしい体をしているのが悪いんだ」
昔からずっとそうだ。
その可愛らしい声で、小さな手で、赤い唇で。
僕が手を出せないのをわかているくせに、誘うから。
だから、想像するしかなかった。
君は知らないだろう?
このアトリエには隠し部屋があるんだ。
そこに、何枚も隠してある。
口に出せないような格好をしたアイちゃんの絵。
我ながら上出来だと思うよ。
誰にも見せられないけどね。
あの絵を思い出しながら、いつも。
晴菜と寝るときも、自分でするときも……。
史規の声には、陶酔しているような響きがあった。
言葉の内容がうまく頭に入ってこない。
「うぅ、くぅっ……」
苦しげに呻き声をあげるアイを弄ぶかのように、少し奥へ進んでは腰を引き、またその奥へと進んでくる。
ずん、ずん、と弾みをつけて貫かれるたびに、腰が大きく跳ねてしまう。
それに合わせるように小さな胸がふるふると揺れてしまうのも、頭がおかしくなりそうなほど恥ずかしかった。
こんなの、悪い夢に決まってる。
明日になれば、きっといつもの優しいおじさまに戻ってる。
だから、こんなのは嘘……。
夢だ、嘘だと思い込もうとするアイを嘲笑うように、肉体の感覚はますます研ぎ澄まされていく。
押し潰されてしまいそうな重量感。
お互いの一部がぴったりと隙間なく重なっていく。
これが男の人の体。
すごい。
わたしの中に、おじさまがいる。
おなかのずっと奥のほうに、おじさまの熱を感じる。
嫌だと思う気持ちは変わらないのに、心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいた。
なんだか、すごく。
満たされている。
欲しかったものをやっと見つけたような感覚。
わたしだけの、大事なひと。
離れたくない。
そう感じた直後。
奥の深いところを何度も突かれているうちに、ふたりの繋がっている部分を満たすようにじゅわりと温かな蜜液が溢れ出してきた。
それはひりひりとした痛みを訴える肉襞を優しく潤し、苦痛の代わりにせつなくなるような快感の波を呼び起こしていく。
「あ、こんな、あぁっ……!」
「いいよ、もっと声を出せばいい。どうせ誰にも聞こえないんだから」
史規が体重をかけてアイの上にのしかかり、速度を上げて腰を振り抜いていく。
びちゃっ、びちゃっ、と愛液が飛び散って床に散る。
これまでよりもずっと深い位置を打ち抜かれ、その衝撃がアイの中にますます凄まじい愉悦を沸き立たせていく。
どうして、こんなに。
熱い、息できない。
ああ、もういい。
いいの、気持ちいい。
あそこ、じんじんしてる。
溶ける、わたし、とろとろに溶けちゃう。
んっ、んっ、と媚びるように喉が鳴った。
快楽に溺れかけた瞬間、ばちん、という破裂音が聞こえた。
続けて太ももにひりひりとした痛みを感じたが、突然のことにアイは反応できずにいた。
耳元で史規が低く囁く。
「本当に悪い子だ、初めてのくせにもうイキそうになるなんて」
「えっ……あ、あ」
アイが次の言葉を探すよりも早く、次の一撃が同じ場所に打ち下ろされた。
いやあ、と悲鳴をあげたが史規の手は止まらない。
ばちん、ばちん、と白い太ももの表面に大きな手のひらが振り下ろされ、いやらしい女だ、恥を知れ、と罵られた。
違う、と言いたいのに、史規の言葉のほうが正しいのかもしれないとも思う。
わたしが、悪いの。
悪い、いやらしい子だから。
その証拠に、ほら。
あそこ、ぐちゅぐちゅって、きこえる。
こんなに叩かれてるのに、痛いのに。
叩かれる前よりも、ずっと感じてる。
淫肉の奥深いところから、すべてを溶かし尽くすマグマのように煮え滾る快楽がアイを丸飲みにしようと迫ってくる。
拒めない、逆らえない。
怖いのに、もっとほしい。
自分でも自分の本心がわからなくなっていく。
「おじさま、あっ、あ……痛い、痛いの……き、気持ちいっ……!」
「叩かれながら感じるなんて、アイちゃんはドMの変態女だったんだね。これからは隠さなくていいんだよ、僕がじっくりと虐めてあげるから」
「い、いやぁ……!」
わたし、そんな女じゃない。
変態なんかじゃない。
そう叫ぶ前に、無防備だった乳首の先を思いきり強く噛まれた。
びりびりと電気を流し込まれたような感覚が、一瞬のうちに全身を駆けめぐっていく。
アイの唇から漏れ出たのは、意味のないうわごとのような音だけだった。
剛健な肉塊はアイの中でどくどくと脈打ちながら怒張し、猛然と突き進んでくる。
はあ、はあ、と史規が息を弾ませている。
アイの呼吸音がそれに重なり、互いの体温が部屋の温度をさらに上昇させていく。
ふたりの感覚が共鳴し、溶け合ってひとつになっていくかのような錯覚を覚えた。
おじさまをもっと感じたい。
わたしをもっと感じてほしい。
わたしの全部、おじさまにあげるから。
おじさまがしたいこと、全部させてあげるから。
心の中の言葉は史規に届かない。
もどかしさが燃え盛る快感をさらに増幅させ、アイを絶頂の淵へと追いやっていく。
「お、おじさま、もう……あぁっ……!!」
「あぁ、僕もイキそうだよ……もう離さない、君は、僕だけの……」
快楽が絶頂点にまで高まった刹那、びくっ、びくっ、と全身が激しく痙攣した。
膣から男根が引き抜かれ、大量の精液が腹の上にぶちまけられていく。
筋肉にはりつめていた緊張の糸が解け、ふうっ、と意識が薄れていく。
すぐそこにいるはずなのに、史規の声が遠くで聞こえる。
今日のことは誰にも内緒だよ、わかったね。
明日からは、真夜中になってからここにおいで。
そうしたら、もっと君が悦ぶことをしてあげるからね。
いつもと変わらない、優しい史規の声。
ええ、いいわ。
おじさまが望むなら。
だって、わたしはもうおじさまのものだから……。
アイは心の中で微笑みながら、史規の声に応えた。
その日を境に、変質的な調教の日々が始まることも知らずに。
(つづく)
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「もう、心配させないでよ。お父さんが危篤だっていうから帰ってきたのに、ただの風邪だなんて」
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それは自分にとって絶対に必要だった時間であり、そうするしか自分を守る術がなかったのだとアイは今でも思っている。
「ほら、アイちゃんのお部屋はそのままにしてあるのよ。せっかく来たんだからゆっくりして帰りなさい」
「ああ、うん……」
「閉めきっていると良くないわ、少し風を入れましょうね。そうそう、お隣の八坂さんのところも史規くんたちが帰ってきているみたいよ」
隣家に面した大きな窓を開けながら、母親が眩しげに目を細める。
細い小道を挟んだ向こう側、きれいに整えられた生け垣の奥から賑やかな子供たちの声が聞こえてきた。
史規。
ズキンと頭の奥が痛んだ。
そんな。
あの男がここにいるなんて。
真夜中のアトリエ。
飛び散った絵の具。
赤い縄。
記憶が暴走する。
いくつかの場面が脳裏に浮かんでは消えていく。
心臓がでたらめな脈を打つ。
母親はアイの動揺に気づいた様子もなく、まだ懐かしそうな目で隣家の方を眺めている。
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「ちょっと、やめてよ」
「たしか大学生の頃まで仲良しだったのよね。でも史規くんが奥さんのご実家のほうにお引っ越しされてから疎遠になって……いえ、アイちゃんが忙しくなって大学の近くに引っ越しちゃって、なかなか戻ってこられなくなったのが先だったかしら」
「どうでもいいじゃない! ねえ、着替えるからあっちに行って」
「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。ああ、疲れたでしょうからしばらくお昼寝でもする? お夕飯の頃には起こしてあげますからね」
棘のあるアイの物言いを気にする様子もなく、母親は嬉しそうな笑顔のままいそいそと部屋を出ていった。
母親の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、開け放たれた窓の外へと視線を向けてみる。
生け垣と背の高い木々に囲まれ、家の中の様子を直接覗き見ることはできない。
それでもアイは簡単に隣家の内部を細かいところまで思い出すことができた。
隣に建っているとはいえ、八坂の家はアイの実家と比べ物にならないほど広い。
敷地内にはブランコなどの遊具の他に小さな池や噴水があり、主に家族が暮らす大きな二階家を中心として、使用人たちが暮らす家や子供たちの勉強部屋、物置小屋などが点在している。
使用人の数も多く、駐車場には高級車が何台も並び、専用の運転手までいたように記憶している。
いわゆる大金持ちの家だ。
生活レベルは違っても八坂の家の代々の当主が子供好きであったため、近所の子供たちに混じってアイも幼い頃から毎日当たり前のように隣家に出入りして遊んでいた。
なにしろ、そこにいると退屈することがない。
常に大勢の人々が出入りする八坂邸には目新しいゲームや玩具が山積みだったが、中でもアイのお気に入りだったのはアトリエでの探検とお絵描きだった。
アトリエは敷地内の東の端にある小さなログハウス風の可愛らしい建物で、周囲を背の高い樹木に囲まれていることから秘密基地のような雰囲気もあった。
静かで、どこか他とは違う素敵な場所。
他の子供たちから離れてアトリエまで駆けていくと、いつもひとりの青年がドアを開けて優しく迎え入れてくれた。
八坂史規(やさか ふみのり)。
五人兄弟の末弟で美大生、すらりとした長身と涼やかな目元が印象的だった。
いつも細身のジーンズにTシャツといったラフな服装で、始終絵ばかり描いていた。
賑やかな八坂邸の中でひとりアトリエにこもっている少し変わった人だと近所でも噂になっていたが、そんなことは気にもならなかった。
まだ幼かったアイの目から見れば、数々の絵の具を塗り分けて一枚の絵を仕上げていく史規の姿はまるで魔法使いのように不思議でわくわくするものだった。
わたしも、あんな絵が描いてみたい。
憧れにも似た気持ちでアトリエに通いつめて筆を持ち、史規を真似て絵の具を混ぜてみたものの、ちっとも思うような絵が描けない。
納得いかないアイはわんわん泣いて筆を放り投げたりもしたが、史規は決して怒らずアイの手をとってまた一から新しい絵を一緒に描いてくれた。
ときにはアイをモデルにして、可愛らしいお姫様の絵を描いてくれたこともあった。
それでも気に入らなくて拗ねたときには、抱き上げてよしよしとあやしてくれる。
作業の邪魔ばかりしていても、気に入らないことがあってわざと完成した絵を汚しても、史規に叱られたことはなかった。
退屈させた僕が悪いんだねと困ったように笑い、ぎゅっと抱きしめてくれる。
ひとり娘でわがままだったアイの相手を嫌がらない、常に温厚な史規。
好きだった。
他の子にとられたくないと思うくらい、本当に大好きだった。
アイがあまりにも史規の話ばかりするものだから、両親は「アイちゃんの初恋の人はずいぶん年上だねえ」とあきれたように笑っていた。
出会った当時、史規はまだ二十代半ばだったはずだ。
それでもアイが「八坂のおじさま」と言ってなつくのを快く受け入れ、それ以来アイの中では「おじさま」で定着している。
史規は大学を卒業してからもアトリエにこもって創作活動を続け、 アイも彼を慕って八坂邸に毎日のように通う日々を過ごした。
一緒に絵を描いて、おしゃべりをして、気ままに過ごす時間。
血のつながった叔父と姪のようにほほえましいふたりの関係。
それが一変したのは、アイが二十歳になった夏のことだった。
ちょうど大学の夏休みが始まったばかりのある日。
夕刻になってアトリエを訪れたアイに、史規は「しばらくここには来ないでほしい」と告げたのだ。
クライアントからの要望でヌードモデルが必要になり、明日からそのモデルと共に新しい作品に取りかからなければならないということだった。
「それでね、まあ、集中できる環境が必要なんだよ。アイちゃんが来ても、なんていうか、いままでみたいに相手をしてあげられないし」
言いにくそうに口ごもりながら話す史規を前に、アイはこれまで味わったことのない苦々しい気持ちが胸の内に広がっていくのを感じていた。
モデルとなる女性は史規の幼馴染みで、同じ大学に通っていた晴菜さんという女性だった。
彼女とは、アイも何度か八坂の家で会ったことがある。
どことなく優等生風で清楚な雰囲気の美人だった。
史規と恋人同士だとか、もうすぐ結婚するのではないかという噂も聞いたことがあった。
でも、それを信じたことはない。
だって、おじさまと一番仲良しなのはわたしだもの。
恋人も結婚も必要ない。
わたしたちは特別だから。
ふたりで一緒にお絵描きしたり、おしゃべりしているだけで幸せ。
これまでアイは本気でそう思っていた。
それなのに、ここに他の女性が来て裸になるなんて。
なんだか、ものすごく不潔な感じがする。
ひどい裏切り行為のようにも思えた。
「なによ、モデルなんていらないじゃない。いままでみたいに、わたしがモデルになってあげるから」
おじさまは風景画ばかりで、ふだんは人物画なんて描かないくせに。
どうしてもモデルが必要だったときだって、わたし以外のモデルなんて描く気にならないって言ってたのに。
どうして、いまさら。
言葉にならない気持ちが溢れてきて、声が震えた。
自分が無理を言っているのはよくわかっていたが、どうしても譲ることができない。
史規はどう説明すればいいのか迷うように目を伏せ、ため息をついた。
「無理だってわかってるだろう、だってヌードモデルだよ? 僕の前で裸になるなんて、そんなのアイちゃんだって嫌だよね?」
「だ、だけど、晴菜さんがここでおじさまと……そっちのほうが、絶対に嫌!」
「ううん、今回の絵の件だけじゃなくて、君とはそろそろふたりきりで会わないようにしたほうがいいと思うんだ。もう知っていると思うけど、晴菜と僕は、ええと、もうすぐ結婚するかもしれないし」
一番聞きたくなかった情報が、さらりと史規の口から吐き出された。
神経の糸が切れてしまいそうなほどに張りつめていく。
嘘よ、そんなの嘘。
「どうして急にそんなこと言うの、わたしのこと嫌いになった?」
「これ以上困らせないでくれよ……僕だってアイちゃんと遊んでいたいけど、いつまでも君の相手ばかりしていられないから、ね?」
駄々をこねる赤子をあやすような口調が癇に障った。
もう子供じゃないのに。
イライラする。
晴菜さんと結婚なんて、信じてなかったのに。
モデルだって、どうしてわたしじゃダメなの。
「子供扱いしないで、わたしだってヌードモデルくらいできるよ! 服を脱げばいいだけでしょう? そんなの簡単じゃない」
「簡単って、あ、アイちゃん」
史規がそれ以上なにか言い出す前に、アイは身に付けていたブラウスのボタンを引きちぎるようにして外した。
服の隙間から水玉模様の子供っぽい下着がのぞく。
これまで異性の前で服を脱いだことなど一度もない。
大好きな史規に下着姿を見られるなんて。
スタイルにはあまり自信がない。
同じクラスの女の子たちと比べても、胸もお尻も小さくて女らしさが足りないのは自覚している。
恥ずかしさで顔が火照る。
心臓が破裂しそうだった。
それでも、もうあとには引けない。
勢いのまま、スカートのファスナーも下げた。
紺色の布地が輪になって落ちていく。
すぐ横にある大きな棚のガラス戸に半裸の自分が写っていた。
小さな水玉模様のショーツと同じ柄のブラジャー、それに赤い花飾りのついた夏物のサンダルというちぐはぐな格好。
史規は目をそらしたまま、アイを見ようともしない。
自信に満ちた晴菜の笑顔が頭にちらつく。
彼女はわたしよりずっと綺麗で、すごく大人で。
このままじゃ、おじさまを盗られちゃう。
悔しい。
アイは涙目になりながら叫んだ。
「ちゃんとこっち見てよ! これでもわたしじゃダメなの? 晴菜さんのほうがいいの?」
「やめろよ、もうわかった。今夜は送っていくから、とにかく服を着て」
「おじさま、なんにもわかってない! 見てよ、ほら、わたしだってもう大人なんだから!」
サンダルと肩にひっかかっていたブラウスも放り投げるようにして脱ぎ、思いきってブラジャーのホックも外した。
ささやかな胸の膨らみがあらわになり、真っ白な乳丘の先だけがうっすらとピンクに染まっているのも丸見えになっている。
羞恥心は頂点に達していたが、それよりも怒りや悔しさのほうが強かった。
負けたくない、おじさまはわたしだけのもの。
一瞬迷ったあとで、最後の一枚となったパンティーも膝下まで押し下げて脚から抜いた。
史規は驚愕の表情でアイの方を見たまま固まっている。
「あ、アイちゃ……」
「これでわかった? わたし、ヌードモデルくらいできるよ。だから、おじさま」
明日から来るな、なんて言わないで。
そう最後まで言い終えるより早く、アイは画材の散らかった床の上に押し倒されていた。
何が起こったのか、うまく理解できない。
視界がぐるりと回転し、目に映るのは見たこともないほど冷徹な表情の史規だけになっていた。
頭の上で捕まれた両手首と、固い床板に押し付けられた背中がひどく痛む。
腰の上にのしかかってくる史規は、華奢な見た目よりもずいぶん重く感じられた。
片手で押さえられているだけの手首でさえ、アイの力ではとても自由にならない。
「おじさま、やめて、痛い……」
「アイちゃんはいつもワガママばかりだね、僕の気も知らないで。おばさんたちが甘やかすから、いつまでたっても悪い子のままなんだ」
史規が冷ややかに笑う。
いつもの優しい彼とはまるで別人のようで、なんだか背中の辺りが寒くなった。
「な、なんでそんなこと言うの? ねえ、離して」
「少しは我慢することを覚えたほうがいい。僕は今日までずっと我慢してきたんだよ、それなのに君は」
史規の言葉が途切れた。
代わりに、彼の唇がアイの白い首筋へと下りてくる。
顎のすぐ下から、耳の横をまわって鎖骨の窪みまでゆっくりと口付けられていく。
柔らかな感触がくすぐったくて、アイは思わず顔を背けた。
「や、やだ」
「君はまるでお菓子みたいだね、子供の頃から変わらない。いつも同じ甘い匂いをふりまいて、食べてしまいたくなる」
「も、もう、子供じゃ……あっ!」
片方の乳房を爪を立てた手で鷲掴みにされ、もう片方の胸の先を口の中に含まれていく。
敏感な箇所を温かな粘膜に包み込まれていく初めての感覚に酔いしれる間もなく、丸く突き出た乳首の先に歯を立てられた。
皮膚がちぎれてしまいそうなほどの激痛が走る。
小さな胸を揉みしだく指先にも暴力的な力が加わっていく。
あまりの恥ずかしさと痛みに、アイは自分でも情けなくなるような泣き声をあげた。
「やだあ、やめてよおっ! 痛いっ、いやっ!」
「望んだのは君だろう? 僕の目の前で裸になって、このいやらしい体で僕を誘ったんだ」
ワガママでいやらしい女。
もう許せない。
僕がこの手で躾をしてあげるよ。
史規は冷たく微笑んだまま、アイの乳頭をきつくしゃぶりたて、もう片方の乳首も加減のない力で捻りあげていく。
手首を掴んでいた手が離され、肋骨の浮き出た脇腹から腰のくびれを楽しむような手つきで撫で回された。
彼の動きひとつに、アイの体はびくんびくんと腰を震わせて応えた。
怖い、痛い。
けれども、それとは別のこそばゆいような感覚が肌の下から湧いてくる。
じくん、と両脚の間が熱く疼いた。
未知の感覚に押し流されてしまいそうな恐怖を感じる。
もう両手は解放されているのに、全身がじんじんと痺れて思うように動けない。
わたしが悪いの?
ワガママを言ったから?
だから罰を受けているの?
涙だけがぽろぽろと目尻からこぼれ落ちていく。
「もうっ……あ、謝るからぁっ! わ、ワガママ、言わないから」
「信じられないなあ、アイちゃんは嘘つきだからね。そうやって謝っても、どうせ口先だけなんだろう?」
「ち、違う、ほんとに」
「嫌がるふりなんてしなくていいんだよ。こんなに乳首びんびんに勃起させて悦んでいるくせに」
「そんな……あ、あんっ……」
思わず恥ずかしい声が漏れた。
史規の言葉通り尖りきった乳首の先を甘噛みされながら、べちゃべちゃと舐められていく。
骨まで溶けてしまいそうなほど甘やかな刺激が、胸の先から脊髄へと流れ込んでくる。
体温が上がり、あちらこちらから汗が滴り落ちていく。
悪性の感冒に犯されたような熱に、脳がうまく働かなくなってくる。
感じたくはないのだけれど、心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいる。
ねだるように腰がくねってしまうのを止められない。
史規の冷たい笑いが深くなる。
「処女のくせに自分から腰を振るなんて信じられないな。それとも、僕が知らないだけでほかの男ともう寝たのか?」
「そんなこと、してな……あっ、やっ」
ふいに下半身が浮き上がる。
強引に左右の太ももの間を押し開かれ、両足を肩の上に抱えあげられた。
カッ、と顔が熱くなる。
一番隠しておきたいあの場所を史規に見られているのかと思うと、消えてしまいたいような気持ちになった。
「そ、そんなところ、やだ……ねえ、言うこときくから、謝るから」
「暴れちゃだめだよ、良い子にして。ほら、もうビショビショに濡れてるじゃないか」
愛液の滴る股間に指を這わせながら、史規が蔑むような視線を向けてくる。
指の腹が粘膜に擦れるたび、ぐちゅ、ぐちゅ、と粘着音が鳴った。
なんていやらしい女なんだ。
そう言われているようでいたたまれない。
割れ目の筋を行ったり来たりしていた指先が、ぐうっ、と陰唇の裂け目を押し広げていく。
見られたくない、と思えば思うほど、史規の視線を強く感じる。
どうしよう、汚いところ見られちゃってる。
こんなことになるなら、きちんとシャワーを浴びてから来ればよかった。
下着だってもっと新しいのがあったのに。
そんな場合ではないのに、くだらないことばかりが気になってしまう。
指はまだ誰も受け入れたことのない膣穴の周囲をほぐしながら、ゆっくりと内部へ潜り込もうとして来る。
「アイちゃんのここは綺麗なピンク色だね、僕が想像していた通りだよ……いやらしい汁に濡れてヌルヌルしてる」
「そ、想像……? あ、あっ」
耐えられないほどの異物感。
下半身が小刻みに震え出す。
史規が嬉しそうに目を細めた。
「すごく狭いな、本当にまだ処女なんだね。頭の中ではもう何度も君を犯してきたけど、まさか本当に初めての相手になれるとは思わなかったな」
嬉しいよ、アイちゃん。
耳の奥で史規の夢見るような声が繰り返し響いている。
頭の中で、何度も犯した……。
どういうこと?
わたしたちはそんな関係じゃなかったのに。
おじさまだけは、他の男の人が持つような性欲とは無縁だと思っていた。
わたし、なにもわかってなかった。
これまで一緒に遊んできた10年以上の思い出が、めちゃくちゃに汚されていくようで苦しくなる。
指はすでに根元まで埋め込まれ、狭い膣内を押し広げようとするようにグニグニと肉襞の狭間で蠢いていた。
痛くないけど、体内に芋虫のようなものをねじ込まれているようで気持ちが悪い。
すごく変な感じ。
こんなことされたくない。
こんなの、わたしの好きなおじさまじゃない。
アイは力の入らない両手で史規の胸を何度も叩き、どうにかして抵抗しようとした。
「い、いや、もう、嫌っ」
「そろそろいいかな? 女の人って最初は痛いらしいけど、お仕置きにはちょうどいい」
そう思うだろう? アイちゃん。
穏やかな口調が逆に恐怖を誘う。
アイの声などまるで耳に入っていない様子だった。
史規のことは大好きだったが、彼と性的な関係を結ぶなど考えたこともない。
アイの中で好きな気持ちとセックスとは、まだ何の関連性もないものだった。
女の子同士でもその手の話題は避けるほうで、なんとなく下品で汚いようなイメージが強くて苦手だった。
だから、こういうときにどうしたらいいのかわからない。
自分がどうなってしまうのかもわからない。
「お、おじさま……許して、許してよぉ……」
「ああ、いい顔だね、ぞくぞくするよ。もっと虐めて泣かせてやりたくなる」
アイの中から指を抜き、史規はせわしない動作でベルトを外して自身のズボンを下着ごと押し下げた。
史規の股間には、反り返った肉幹が屹立している。
太くどっしりとした男根。
アイの目は初めて見た男性の部分に吸い寄せられ、その力強さに圧倒された。
赤みを帯びた肉色のそれは表面に赤や青の血管を浮きあがらせ、真上を向いてそそり立っている。
茸の傘のような形状の先端部分には小さな割れ目があり、そこから透明の液体が染み出してきていた。
史規は肉棒に手を添え、その丸みのある先端をアイの小さな膣口に擦り付けてくる。
互いの体液が混じり合い、ぬちゅっ、ぬちゅっ、と粘りけの強い音が静かな室内に響く。
アイはこれから起きることに怯え、すすり泣くような声をあげた。
「お、おじさま……こ、こんなのだめだよ、だって……もうすぐ結婚、するんでしょ?」
「結婚なんかどうだっていい、それに黙っていれば誰にもわからないよ。君だって知られたくないだろう? 自分から服を脱いで僕に迫ってきたことなんてさ」
「だから、わたしはそんなつもり……い、いやっ、いやあっ!」
両手で腰を引き寄せられ、秘部の中心に肉根の突端を突き立てられた。
熱い肉塊が膣肉を抉り、アイの奥深くまで貫こうとしてくる。
剛直は狭すぎる肉路にぎちぎちと嵌まり込み、無理矢理に粘膜を押し広げ変形させていく。
体内に感じる史規のそこは、鋼のように頑丈で焼けた鉄のように熱い。
全身を引き裂かれるような激痛が走り、息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
自分とは完全に異質の肉体。
目が眩む。
意識が途切れそうになる。
でも気を失いかけると、すかさず次の痛みが現れて失神することさえ許してもらえない。
「くっ……うぅっ……」
「いいか、悪いのは僕じゃない。君がどうしようもなくワガママで、いやらしい体をしているのが悪いんだ」
昔からずっとそうだ。
その可愛らしい声で、小さな手で、赤い唇で。
僕が手を出せないのをわかているくせに、誘うから。
だから、想像するしかなかった。
君は知らないだろう?
このアトリエには隠し部屋があるんだ。
そこに、何枚も隠してある。
口に出せないような格好をしたアイちゃんの絵。
我ながら上出来だと思うよ。
誰にも見せられないけどね。
あの絵を思い出しながら、いつも。
晴菜と寝るときも、自分でするときも……。
史規の声には、陶酔しているような響きがあった。
言葉の内容がうまく頭に入ってこない。
「うぅ、くぅっ……」
苦しげに呻き声をあげるアイを弄ぶかのように、少し奥へ進んでは腰を引き、またその奥へと進んでくる。
ずん、ずん、と弾みをつけて貫かれるたびに、腰が大きく跳ねてしまう。
それに合わせるように小さな胸がふるふると揺れてしまうのも、頭がおかしくなりそうなほど恥ずかしかった。
こんなの、悪い夢に決まってる。
明日になれば、きっといつもの優しいおじさまに戻ってる。
だから、こんなのは嘘……。
夢だ、嘘だと思い込もうとするアイを嘲笑うように、肉体の感覚はますます研ぎ澄まされていく。
押し潰されてしまいそうな重量感。
お互いの一部がぴったりと隙間なく重なっていく。
これが男の人の体。
すごい。
わたしの中に、おじさまがいる。
おなかのずっと奥のほうに、おじさまの熱を感じる。
嫌だと思う気持ちは変わらないのに、心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいた。
なんだか、すごく。
満たされている。
欲しかったものをやっと見つけたような感覚。
わたしだけの、大事なひと。
離れたくない。
そう感じた直後。
奥の深いところを何度も突かれているうちに、ふたりの繋がっている部分を満たすようにじゅわりと温かな蜜液が溢れ出してきた。
それはひりひりとした痛みを訴える肉襞を優しく潤し、苦痛の代わりにせつなくなるような快感の波を呼び起こしていく。
「あ、こんな、あぁっ……!」
「いいよ、もっと声を出せばいい。どうせ誰にも聞こえないんだから」
史規が体重をかけてアイの上にのしかかり、速度を上げて腰を振り抜いていく。
びちゃっ、びちゃっ、と愛液が飛び散って床に散る。
これまでよりもずっと深い位置を打ち抜かれ、その衝撃がアイの中にますます凄まじい愉悦を沸き立たせていく。
どうして、こんなに。
熱い、息できない。
ああ、もういい。
いいの、気持ちいい。
あそこ、じんじんしてる。
溶ける、わたし、とろとろに溶けちゃう。
んっ、んっ、と媚びるように喉が鳴った。
快楽に溺れかけた瞬間、ばちん、という破裂音が聞こえた。
続けて太ももにひりひりとした痛みを感じたが、突然のことにアイは反応できずにいた。
耳元で史規が低く囁く。
「本当に悪い子だ、初めてのくせにもうイキそうになるなんて」
「えっ……あ、あ」
アイが次の言葉を探すよりも早く、次の一撃が同じ場所に打ち下ろされた。
いやあ、と悲鳴をあげたが史規の手は止まらない。
ばちん、ばちん、と白い太ももの表面に大きな手のひらが振り下ろされ、いやらしい女だ、恥を知れ、と罵られた。
違う、と言いたいのに、史規の言葉のほうが正しいのかもしれないとも思う。
わたしが、悪いの。
悪い、いやらしい子だから。
その証拠に、ほら。
あそこ、ぐちゅぐちゅって、きこえる。
こんなに叩かれてるのに、痛いのに。
叩かれる前よりも、ずっと感じてる。
淫肉の奥深いところから、すべてを溶かし尽くすマグマのように煮え滾る快楽がアイを丸飲みにしようと迫ってくる。
拒めない、逆らえない。
怖いのに、もっとほしい。
自分でも自分の本心がわからなくなっていく。
「おじさま、あっ、あ……痛い、痛いの……き、気持ちいっ……!」
「叩かれながら感じるなんて、アイちゃんはドMの変態女だったんだね。これからは隠さなくていいんだよ、僕がじっくりと虐めてあげるから」
「い、いやぁ……!」
わたし、そんな女じゃない。
変態なんかじゃない。
そう叫ぶ前に、無防備だった乳首の先を思いきり強く噛まれた。
びりびりと電気を流し込まれたような感覚が、一瞬のうちに全身を駆けめぐっていく。
アイの唇から漏れ出たのは、意味のないうわごとのような音だけだった。
剛健な肉塊はアイの中でどくどくと脈打ちながら怒張し、猛然と突き進んでくる。
はあ、はあ、と史規が息を弾ませている。
アイの呼吸音がそれに重なり、互いの体温が部屋の温度をさらに上昇させていく。
ふたりの感覚が共鳴し、溶け合ってひとつになっていくかのような錯覚を覚えた。
おじさまをもっと感じたい。
わたしをもっと感じてほしい。
わたしの全部、おじさまにあげるから。
おじさまがしたいこと、全部させてあげるから。
心の中の言葉は史規に届かない。
もどかしさが燃え盛る快感をさらに増幅させ、アイを絶頂の淵へと追いやっていく。
「お、おじさま、もう……あぁっ……!!」
「あぁ、僕もイキそうだよ……もう離さない、君は、僕だけの……」
快楽が絶頂点にまで高まった刹那、びくっ、びくっ、と全身が激しく痙攣した。
膣から男根が引き抜かれ、大量の精液が腹の上にぶちまけられていく。
筋肉にはりつめていた緊張の糸が解け、ふうっ、と意識が薄れていく。
すぐそこにいるはずなのに、史規の声が遠くで聞こえる。
今日のことは誰にも内緒だよ、わかったね。
明日からは、真夜中になってからここにおいで。
そうしたら、もっと君が悦ぶことをしてあげるからね。
いつもと変わらない、優しい史規の声。
ええ、いいわ。
おじさまが望むなら。
だって、わたしはもうおじさまのものだから……。
アイは心の中で微笑みながら、史規の声に応えた。
その日を境に、変質的な調教の日々が始まることも知らずに。
(つづく)
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