※18歳未満の方は閲覧をご遠慮願います。
久々の短編投稿ー。
そうそう、昨日ノムリッシュ翻訳して遊んだアレの本文が完成したのでね。
ではでは、お楽しみいただけましたら幸いです。
【はじめての、えっち】
「で? そのまま帰ってきちゃったの?」
「うん……」
「うわー、そりゃ浩紀くんも困っちゃうよ。電話かメールでも、フォローしておいたほうがいいんじゃない?」
「わかってる! でも……恥ずかしいんだもん!」
「あはは、聞いてるこっちのほうが恥ずかしいって! ほらほら、さっさと電話しなさいよ」
大学の友人である秋絵の部屋で、千春はテーブルの上に突っ伏していた。
つるつるしたガラス面には、情けない顔の自分が映っている。
薬指に光るおもちゃの指輪も、涙でぼんやり滲んでしまう。
せっかく、せっかく良い雰囲気だったのに。
浩紀だって、すごく頑張ってくれたのに。
けらけらと笑いながら、携帯電話をぐいぐい押し付けてくる秋絵。
その隣で、千春は数時間前の自分の態度を、心の底から後悔していた。
もうすぐ大学も卒業、4月から待ち受ける新しい世界に、期待と不安が入り混じる季節。
千春は、幼なじみの浩紀からプロポーズを受けた。
「俺のお嫁さんになってくれる?」
なんて、彼らしい飾り気のない言葉。
ずっと大好きで、そばにいるのが当たり前だった相手からのそんな気持ち。
千春は嬉しくて照れくさくて、ただ「うん」とだけ返すのが精いっぱいだった。
近所に住んでいるので、そのままお互いの両親にふたりそろって挨拶を済ませ、お祝いムード全開の夕食も終わった後。
浩紀の部屋でふたりきりになったあたりから、様子がおかしくなった。
壁にもたれて、並んで座っているだけなのに、ものすごくドキドキしてしまって、うまく会話が続かない。
「なんだよ、チイ、黙って下向いて……あ、お腹痛いとか? だから言っただろ、いくら肉が好きだからって言っても、あれは食い過ぎだって」
「ち、違うよ! だいたい、そんなに食べてないし!」
「あはは、やっとこっち向いた。もうちょっとしたらさ、しばらく会えなくなるから……ちゃんと顔、見せて」
「あ……」
そうだった。
浩紀は、4月からの仕事の関係で、地元から遠く離れた場所に行ってしまう。
一緒についていきたいと思ったけれど、千春にもやっとの思いで勝ち取った就職先がある。
『結婚する前に、千春もきちんと働く経験をしておいたほうがいいわよ』
『そうそう、これから一生、ずーっと嫌でも顔を合わせて暮らさなきゃいけないんだから』
『恋愛の時間を、もう少しだけ楽しんでからでもいいんじゃない?』
そんなお互いの両親たちの言葉に説得されて、ふたりが仕事に慣れ、結婚資金が貯まるまでは別々に暮らすことになったのだ。
目標は、2年。
そんなに長い間ではない。
頑張れば、週に一度くらいは会える。
でも。
幼いころから近くにいるのが当然だったことを考えると、その寂しい時間は永遠にも思えるほどだった。
「なーんか、心配だな。ひとりで放っておいたら、他の男に誘われてさ、ふらふらって行ったりしないかな」
千春の長い髪を優しく指で梳きながら、浩紀が笑う。
「そ、そんなわけないじゃない。浩紀のほうこそ、会社で可愛い女の子に言い寄られたら……」
もしもそんなことになってしまったら、勝てる自信が無い。
流行りのファッションに身を包んだ、スタイル抜群の美女が浩紀を誘惑しているところを想像するだけで、絶望的な気分になる。
意地悪そうな笑顔が、千春をからかうようにのぞきこんできた。
「なんか変なこと考えてるだろ。勝手に落ち込むなよ」
「だって……嫌だもん。わたし、美人じゃないし、浩紀のこと盗られちゃう……」
鼻の奥がツンと痛くなって、ポロッと涙がこぼれる。
「ああ、もう、ほんとにこの泣き虫は。大丈夫だ、俺はそんなにモテないから」
モテない、なんて、そんなのは嘘。
身長は、街を歩けばちょっと目立つくらいに高い。
顔も、千春のタヌキのような顔とは違い、すっきりと鼻筋が通って涼やかな印象だ。
性格だって、ほんとに優しい。
中学のときも、高校でも、後輩の女の子たちから何度も告白を受けていた。
そのたびに、「俺、恋愛になんて興味ないから」って突っぱねていたのも知っている。
だから、ほんとはずっと千春のことを想ってくれていたのだと知って、春先のいちごを口に含んだときのように、たまらなく甘酸っぱい気持ちになったのだ。
髪を撫でていた手が、頬に触れる。
ああ、くすぐったい。
浩紀の顔は、もう笑ってはいなかった。
「あのさ、キス……しても、いい?」
「えっ」
心臓が、とくん、と小さく鳴る。
ゆっくりと顔が近付く。
大好きな相手だから、嫌だなんて少しも思わない。
それに、愛し合った大人の男女がどういうことをするのか、知らないほど子供でもない。
照れくさいのと恥ずかしいのと、いろんな気持ちがごちゃまぜになって。
やだ……嫌じゃないけど、こんなの。
どうしよう、どうしよう……!
気がつくと、千春は浩紀の胸を思い切り突き飛ばしていた。
「チ、チイ……?」
「あ、あの……」
もうだめ。
目も合わせられない。
「ご、ごめん……えっと、その……もう、今日は帰るね!」
畳の上に尻もちをついた格好の浩紀を残し、千春は上着とバッグを引っ掴んで、本当に帰ってきてしまったのだ。
どうして、あんなことしちゃったんだろう……。
思い返すほどに、死にたいくらいの後悔に襲われる。
とてもじっとしていられなくて、親友の秋絵の部屋を訪れたのが、ついさっきのことだった。
「もー、めんどくさいなあ! さっさと電話して、仲直りしちゃいなさいって。いい加減にしないと、怒るよ?」
言葉とは裏腹に、秋絵の顔はちっとも怒ってなんかいない。
それでも、千春は素直にうなずくことができなかった。
「だって、だって……」
「なんなのよ、キスがそんなに嫌なら、言えばいいじゃない」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
もしも、あのとき口づけを受け入れていたら。
なんとなく、それだけでは済まないような気がした。
大人の男女の関係に踏み込んでしまいそうな、そんな予感があったのだ。
「ええ? いいじゃない。プロポーズしてもらった日に、初エッチなんて最高だと思うけど」
「ちょ、ちょっと! エッチとか言わないでよ。わ、わたしと浩紀はそういうんじゃないんだから!」
「ごめん、よくわかんないんだけど……千春は、浩紀くんとエッチしたくないの?」
「そ、そうじゃなくて……」
顔が火照ってくる。
男の人とのセックス。
友達の話を聞いて「すごいなあ」と思うことはあっても、自分がする立場になるなんて、正直考えたこともなかった。
だいたい、彼の前で裸になるなんて、恥ずかしすぎて耐えられない。
同い年なのに、千春よりもずっと大人びて見える秋絵。
スタイルも良くて、髪だってさらさらで、美人だし……。
自分にも、彼女みたいな容姿があれば……。
千春は、深いため息をついた。
そのとき。
テーブルの上にあった携帯電話が、聞き慣れたメロディーを奏で始めた。
画面には、浩紀の名前。
「おっと、王子様からお電話だ……ほら、さっさと出なさいよ」
「無理! 絶対、無理!」
「もう! ……あ、もしもし。うん、秋絵だけど……あのねえ、夜中に押しかけられて迷惑してんのよ。さっさと引き取りに来てくれる? うんうん、はーい」
なんてことを言うのだろう。
どんな顔をして会えばいいの……。
「いまから迎えに行くってさ。良かったねえ」
「や、やめてよ! 千秋の馬鹿! 裏切り者!」
「んもー、痛いなぁ。クッション投げるのやめて……じゃ、このまま浩紀くんと別れるつもり?」
「え?」
「自分の気持ちも、はっきり伝えることができないなんて、そんな相手と一生やっていけるの?」
「うう……」
「それに、一度もエッチしない夫婦なんていないでしょうが。そんなに嫌なら、結婚もやめちゃえばいいじゃない。わたしが代わりに、もらってあげる」
ずきっ、と胸が痛んだ。
エッチも困るけど、とられるのはもっと嫌。
涙が、ぼろぼろと溢れてくる。
「な、なんでそんなこと言うのよぉ……うっ……ひ、浩紀は、わたしの、なんだからぁ……」
「あははは! ちょーっと、泣かないでよ。冗談、冗談だってば。誰があんな、千春一筋の童貞を相手するかって」
「あ、秋絵は……」
「ん? なに?」
「エッチ、したことあるんだよね? その……どんな感じ?」
「どんな……って、うーん、痛かった、かなあ……」
遠くを見るような目をして、秋絵がつぶやく。
「い、痛いの? そうなの?」
「千春、食いつきすぎ。まあでも、最初だけよ。すぐにそんなの忘れて、毎日やりまくりたくなるから」
「だから、下品なこと言わないでってば!」
ピンポン、と玄関チャイムが鳴った。
ふたりで顔を見合わせる。
「来たよ、ほら。行っておいで」
「だめ、ほんとにだめ!」
秋絵に腕をつかまれて、無理やり玄関まで引き摺られた。
扉が開くのを待ちかねたように、浩紀が息を弾ませて飛び込んでくる。
「チイ! 遅い時間だったし、家にもいないから心配で……ああ、よかった」
「ちっともよくないってば。あんたたちのせいで、こっちは明日も早いのに、睡眠不足になりそうよ! さあ、帰った、帰った」
秋絵がぞんざいな口調で、突き放したように言う。
「ごめんな! 今度また飯でもおごるよ……チイ、帰ろう。送っていくから」
「う、うん……」
やっぱり、顔を見ることができなくて、下を向いたまま、千春はぼそぼそと答えた。
手を繋いで、暗い夜道を歩く。
握られた手が温かくて、また、泣きそうになってしまう。
さっきから浩紀は、無言のまま。
きっと、怒ってる……。
当たり前だよね……。
「なあ、チイ」
「えっ……?」
次の角を曲がれば千春の家に着く、というところで、浩紀が急に口を開いた。
チラチラと瞬く街灯の下。
足を止め、少し体を屈めて千春と目線を合わせてくる。
「夕方は、ごめんな。びっくりしたんだろ? いきなり、キスとか言われても、そりゃ困るよな」
照れ笑いをしながら頭を掻く、いつものしぐさ。
大きな黒目には、千春の戸惑った表情が映っていた。
「ううん……そんな」
「俺、女の子と、そういう……キスとか、したことなくてさ。チイのこと、すげえ好きだって思って、もうすぐ離れなくちゃいけないから、その、焦ってたっていうか」
「浩紀……」
「いや、でもさ、チイが嫌なこと、俺もしたくないし。なんか、悪いことしたなあって、それだけちゃんと謝りたかったんだ」
「わ、わたし、嫌なんかじゃないよ!」
力が入ってしまったせいで、妙に大きな声が出てしまった。
でも、ちゃんと伝えなくちゃ。
だって、浩紀のことが好きだから。
「チイ……」
「そりゃ、びっくりしたし、恥ずかしかったけど……ひ、浩紀となら、キスもエッチも、全然嫌じゃないんだから!」
言っちゃった。
顔から火が出そう。
浩紀の腕が、ふわりと千春を包み込んだ。
「あの、さ……」
「なに?」
「だめだったら、それでいいんだけど」
「だから、なに?」
「このまま、帰したくないって、言ったら、どうする?」
心臓の激しい鼓動が、千春にも感じられた。
……わたしだって。
ぎゅっ、と浩紀に抱きついて囁く。
「わたしも、帰りたくない」
物音を立てないように、こっそりと浩紀の部屋に戻ったときには、もう午前1時を過ぎていた。
部屋のドアを閉め、鍵をかけた後。
ふたりは縺れ合うようにして、床の上に倒れた。
「浩紀……やっぱり、恥ずかし……」
千春の言葉は、浩紀の唇で塞がれてしまう。
柔らかな感触。
その隙間から、舌が絡みついてきた。
触れあう粘膜のぬるりとした感触に、皮膚の下がぞくぞくする。
キスって……こんなにどきどきするものなんだ……。
離れたくない、いつまでも、こうしていたい。
初めての経験に、体がぶるぶると震え出す。
浩紀が顔を上げ、心配そうに見つめている。
「チイ……怖い?」
「ううん……」
再び重なった唇が、燃えあがりそうに熱い。
心の中が、好き、という言葉で埋め尽くされる。
浩紀……。
胸元のボタンを、軽く引っ張られた。
「やっ……」
「チイのこと、もっと見たいんだ……いい?」
暗い部屋の中、窓から差し込む月明かりが、その真摯な表情を照らす。
もう、逃げたくない。
「い、いちいち、聞かないで……! 嫌だったら、さっき……あのまま家に帰ってたに決まってるじゃない!」
わざとぶっきらぼうな口調で、恥ずかしさを紛らわせた。
……こんなときまで、可愛く言えないなんて。
自己嫌悪に陥りそうになったのに、浩紀は声を殺して笑っている。
「じゃあ、もう聞かない。恥ずかしいんだろ? ほんと、わかりやすいよな」
「は、恥ずかしくなんか、ないって……あ……」
さっきよりも重く浩紀の体がのしかかってきて、白いシャツのボタンが、あっという間に全部外されてしまう。
そこには、飾りも何もない下着に包まれた、ささやかな胸のふくらみがある。
見られちゃう、見られちゃう……。
「……すごい、綺麗だ」
興奮したような声と荒い呼吸が、耳元で聞こえる。
ブラジャーの上からやわやわと揉まれていくと、こそばゆくてたまらなかった。
「ん、くすぐったい……き、綺麗なんかじゃないよ、やだ、あんまり見ないで」
「チイは、俺にとっては誰よりも綺麗だし、可愛いって……」
強引にブラを押し上げられたその下に、真っ白な乳房がふるふると揺れている。
その先端に、ちゅっ、と口をつけられたとき、それまでとは違う感覚が訪れた。
なに……これ……。
甘くせつない痺れが、肌を通り越して体の内側にまで潜り込んでいく。
「あんっ……変だよ、だめ、そこ触っちゃ……」
「声……やばい、それ、もっと聞かせて」
ちゅっ、ちゅっ。
音を立てて乳首を吸われた。
舌先が、口の中でそこを執拗に舐めまわす。
とくん、とくん、と体の中が波打ち始める。
「やっ……いや、あっ……ねえ、怖いよ……じんじんする……っ……」
ひどい風邪にかかって、熱にうかされているような気分だった。
熱くて、頭がくらくらして、おかしくなりそう……!
「俺も……チイのこと見てたら、こんなになってる」
太もものあたりに、硬く勃起したものが押し付けられた。
ズボンの上からでも、はっきりとその形がわかる。
男のひとって、こんなふうになるんだ……。
手にこめられた力が、だんだんと強くなっていく。
乳肌に指先が食い込み、尖りきった乳頭が噛まれる。
その刺激は背筋を通って、下腹のあたりを疼かせた。
じわじわっ、と広がりゆく快感に、じっとしていられず、太ももを擦り合せながら喘ぐ。
「あっ、あ、浩紀……いやぁ……っ、そ、そんなにしたら……」
「ごめん、俺、もう止められないよ……チイが、欲しい」
スカートの裾に、浩紀の大きな手が潜り込む。
小さなパンティを引き下ろされると、ひどく不安な気持ちになった。
一番恥ずかしい部分を、一番好きなひとに見られてしまう。
まるでちょっとした拷問ではないか。
……でも、浩紀はわたしのこと、欲しいって言ってくれた。
わたしも、欲しい。
浩紀のこと、もっともっと深く知りたい。
泣きたくなるほどの羞恥を堪えて、そっと足を開いた。
大きな手が、不器用に膝頭を撫で、そろそろと足の間に近付いていく。
「あっ、濡れてる……ここ」
黒い茂みに隠れた、密やかな粘膜の入り口。
這い寄る指の動きに、背筋がびくびくと跳ねる。
「んっ、うんっ……! や、やっ、言っちゃだめ……」
「なんで? 嬉しいよ、俺……気持ち良くなってくれてるって、わかるから」
合わさった媚肉の割れ目が、少しずつ広げられていく。
くちゅっ、くちゅっ。
淫猥な響きを持った音が鳴るたびに、そこからとろとろと温かい蜜が流れ出す。
全身の薄皮が一枚捲られてしまったかのように、すべての感覚が敏感になる。
自分の体じゃ、ないみたい……。
最初にあったくすぐったさは消え、燃えあがりそうな快感が忍び寄ってきた。
ぐっ、と異物を押しこまれるような感覚。
指が千春の内側に、そろりそろりと侵入してくる。
そんなこと、自分の手でもしたことないのに……!
「だ、だめだよ、浩紀……汚い、そんなとこ……」
「汚くないよ、チイのだもん……ああ、もう……そんな声出したら、優しく出来なくなる……」
「あ、ああっ……!」
中をぐちゅぐちゅと掻きまわされるうちに、千春の官能が目を覚ます。
いい……こんな……恥ずかしいのに、気持ちいい……。
浩紀の唇を、自分から求める。
舌を絡め、唾液をすすった。
「好き……浩紀……」
「俺も……」
知らず知らずのうちに、腰が揺れ始める。
もっと、もっと……。
ふたりの間にあるものは、例え布一枚であったとしても、邪魔だと思った。
すでに体に巻きついているだけだった衣服を、すべて脱ぎ捨てる。
浩紀も、ちょっとの間でも離れたくないというふうに、慌ただしく全裸になった。
降り注ぐ月の光に、薄く頑丈な筋肉に覆われた、均整のとれた体が照らし出される。
「初めて見た……浩紀って、もっとがりがりだと思ってたのに、ずるい」
緊迫していた空気が、ふっと緩む。
「あはは、ずるいって何だよ! だから言っただろ、チイと違って運動してたからな」
「ふん! 悪かったわね、そんなこと言うなら、もう絶対に見せてあげないから!」
両手で胸を隠し、膝を曲げて、拗ねた姿勢で背を向けた。
そんな態度ができるのは、浩紀が必ず許してくれると知っているからだ。
予想通り、あっさりと肩をつかまれて、仰向けに転がされてしまう。
「馬鹿にしたわけじゃないぞ……じゅうぶん、綺麗だって。そのままで」
「う……んっ……」
抱きしめられ、肌が重なり合うと、いろんなことがどうでもよくなった。
足を大きく広げたその間に、浩紀の下腹部がある。
熱く猛った感覚が、強く千春を求めているのがわかった。
がっしりした首に腕をまわし、両腕でしっかりとしがみつく。
体はすっかり、浩紀を受け入れる準備ができている。
でも、怖い。
ぎゅっ、と目を閉じて、そのときを待つ。
さっき、指が入ってきたところに、ものすごい圧迫を感じる。
小さすぎる場所を、無理やり押し広げられていく痛み。
あまりの激痛に、脂汗が滲む。
「い……たい……っ……」
「チイの中、きつい……ごめんな、無理しなくていい……やめるか?」
「ううん……いいよ……っ……こ、このまま……」
浩紀の願いを叶えたい。
ふたりで、ひとつになりたい。
その想いがあるから、我慢できる。
子供から大人になるための、愛するひとを受け入れるための、大切な儀式。
口にするのも憚られるような、卑猥なことをしているはずなのに。
千春にはこれ以上ないほど、神聖な時間に感じられた。
それが根元まで埋め込まれるにつれ、浩紀の呼吸が荒くなっていく。
流れ落ちた汗が、千春の頬を濡らす。
「う……あ……全部、入った……わかる?」
「うん、うんっ……!」
「嬉しいよ……これで、チイ、俺のもの……」
奥の奥まで繋がり合った状態で、強く抱きしめ合う。
「わたし……ずっと……」
こんなことする前から、わたしはずっと浩紀だけのものだったよ。
そう言いたいのに、言葉がうまく出て来ない。
少しずつ、秘部に沈み込んだ男根が、前後に動き始める。
「うわっ……気持ち、いいよ……チイの中、めちゃくちゃ熱い……」
「あ、あ、う、動いちゃ、だめぇっ……!」
痛みの裏側から、ふつふつと快楽が湧きあがってきた。
肉の塊に膣壁を擦りあげられる悦び。
子宮口をこじ開けられそうなほど、奥底まで貫かれる衝撃。
胸に触れられたときのような、穏やかな感じではない。
うねりを伴って、内臓を焼きつくすような激しい悦楽。
溢れる愛蜜が潤滑油となり、慣れないふたりの交わりを滑らかにさせる。
こんなにも密着しているのに、まだ足りない。
もっと深く、もっと奥まで。
底知れない欲望が、お互いを突き動かす。
愛しさが、際限もなく生み出されていく。
この気持ちを、いったいどうすれば伝えられるのだろう。
千春には、その方法がわからない。
何度目かに突きあげられたとき、凄まじい快楽の波が押し寄せてきた。
「ひ、浩紀……! わたし、あっ、ああああっ……!」
「チイ、好きだ、何回でも言う、大好きだ……」
求め合ったその先にある、絶頂感。
下半身が小刻みに痙攣し、毛穴から汗が噴き出した。
体内に感じる、脈動。
動きを止めた浩紀から放出された、沸騰しそうな液体。
やっと、わたしたち……。
最後まで結ばれたことの喜びに包まれる。
これからも、きっと浩紀のためなら、どんなことでも乗り越えられるよ、わたし。
吹き始めた夜風に、ひらひらと桜の花びらが舞う。
いつまでも泣き虫で甘えん坊だった千春が、ひとつ大人の階段を上った春の夜だった。
(おわり)
久々の短編投稿ー。
そうそう、昨日ノムリッシュ翻訳して遊んだアレの本文が完成したのでね。
ではでは、お楽しみいただけましたら幸いです。
【はじめての、えっち】
「で? そのまま帰ってきちゃったの?」
「うん……」
「うわー、そりゃ浩紀くんも困っちゃうよ。電話かメールでも、フォローしておいたほうがいいんじゃない?」
「わかってる! でも……恥ずかしいんだもん!」
「あはは、聞いてるこっちのほうが恥ずかしいって! ほらほら、さっさと電話しなさいよ」
大学の友人である秋絵の部屋で、千春はテーブルの上に突っ伏していた。
つるつるしたガラス面には、情けない顔の自分が映っている。
薬指に光るおもちゃの指輪も、涙でぼんやり滲んでしまう。
せっかく、せっかく良い雰囲気だったのに。
浩紀だって、すごく頑張ってくれたのに。
けらけらと笑いながら、携帯電話をぐいぐい押し付けてくる秋絵。
その隣で、千春は数時間前の自分の態度を、心の底から後悔していた。
もうすぐ大学も卒業、4月から待ち受ける新しい世界に、期待と不安が入り混じる季節。
千春は、幼なじみの浩紀からプロポーズを受けた。
「俺のお嫁さんになってくれる?」
なんて、彼らしい飾り気のない言葉。
ずっと大好きで、そばにいるのが当たり前だった相手からのそんな気持ち。
千春は嬉しくて照れくさくて、ただ「うん」とだけ返すのが精いっぱいだった。
近所に住んでいるので、そのままお互いの両親にふたりそろって挨拶を済ませ、お祝いムード全開の夕食も終わった後。
浩紀の部屋でふたりきりになったあたりから、様子がおかしくなった。
壁にもたれて、並んで座っているだけなのに、ものすごくドキドキしてしまって、うまく会話が続かない。
「なんだよ、チイ、黙って下向いて……あ、お腹痛いとか? だから言っただろ、いくら肉が好きだからって言っても、あれは食い過ぎだって」
「ち、違うよ! だいたい、そんなに食べてないし!」
「あはは、やっとこっち向いた。もうちょっとしたらさ、しばらく会えなくなるから……ちゃんと顔、見せて」
「あ……」
そうだった。
浩紀は、4月からの仕事の関係で、地元から遠く離れた場所に行ってしまう。
一緒についていきたいと思ったけれど、千春にもやっとの思いで勝ち取った就職先がある。
『結婚する前に、千春もきちんと働く経験をしておいたほうがいいわよ』
『そうそう、これから一生、ずーっと嫌でも顔を合わせて暮らさなきゃいけないんだから』
『恋愛の時間を、もう少しだけ楽しんでからでもいいんじゃない?』
そんなお互いの両親たちの言葉に説得されて、ふたりが仕事に慣れ、結婚資金が貯まるまでは別々に暮らすことになったのだ。
目標は、2年。
そんなに長い間ではない。
頑張れば、週に一度くらいは会える。
でも。
幼いころから近くにいるのが当然だったことを考えると、その寂しい時間は永遠にも思えるほどだった。
「なーんか、心配だな。ひとりで放っておいたら、他の男に誘われてさ、ふらふらって行ったりしないかな」
千春の長い髪を優しく指で梳きながら、浩紀が笑う。
「そ、そんなわけないじゃない。浩紀のほうこそ、会社で可愛い女の子に言い寄られたら……」
もしもそんなことになってしまったら、勝てる自信が無い。
流行りのファッションに身を包んだ、スタイル抜群の美女が浩紀を誘惑しているところを想像するだけで、絶望的な気分になる。
意地悪そうな笑顔が、千春をからかうようにのぞきこんできた。
「なんか変なこと考えてるだろ。勝手に落ち込むなよ」
「だって……嫌だもん。わたし、美人じゃないし、浩紀のこと盗られちゃう……」
鼻の奥がツンと痛くなって、ポロッと涙がこぼれる。
「ああ、もう、ほんとにこの泣き虫は。大丈夫だ、俺はそんなにモテないから」
モテない、なんて、そんなのは嘘。
身長は、街を歩けばちょっと目立つくらいに高い。
顔も、千春のタヌキのような顔とは違い、すっきりと鼻筋が通って涼やかな印象だ。
性格だって、ほんとに優しい。
中学のときも、高校でも、後輩の女の子たちから何度も告白を受けていた。
そのたびに、「俺、恋愛になんて興味ないから」って突っぱねていたのも知っている。
だから、ほんとはずっと千春のことを想ってくれていたのだと知って、春先のいちごを口に含んだときのように、たまらなく甘酸っぱい気持ちになったのだ。
髪を撫でていた手が、頬に触れる。
ああ、くすぐったい。
浩紀の顔は、もう笑ってはいなかった。
「あのさ、キス……しても、いい?」
「えっ」
心臓が、とくん、と小さく鳴る。
ゆっくりと顔が近付く。
大好きな相手だから、嫌だなんて少しも思わない。
それに、愛し合った大人の男女がどういうことをするのか、知らないほど子供でもない。
照れくさいのと恥ずかしいのと、いろんな気持ちがごちゃまぜになって。
やだ……嫌じゃないけど、こんなの。
どうしよう、どうしよう……!
気がつくと、千春は浩紀の胸を思い切り突き飛ばしていた。
「チ、チイ……?」
「あ、あの……」
もうだめ。
目も合わせられない。
「ご、ごめん……えっと、その……もう、今日は帰るね!」
畳の上に尻もちをついた格好の浩紀を残し、千春は上着とバッグを引っ掴んで、本当に帰ってきてしまったのだ。
どうして、あんなことしちゃったんだろう……。
思い返すほどに、死にたいくらいの後悔に襲われる。
とてもじっとしていられなくて、親友の秋絵の部屋を訪れたのが、ついさっきのことだった。
「もー、めんどくさいなあ! さっさと電話して、仲直りしちゃいなさいって。いい加減にしないと、怒るよ?」
言葉とは裏腹に、秋絵の顔はちっとも怒ってなんかいない。
それでも、千春は素直にうなずくことができなかった。
「だって、だって……」
「なんなのよ、キスがそんなに嫌なら、言えばいいじゃない」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
もしも、あのとき口づけを受け入れていたら。
なんとなく、それだけでは済まないような気がした。
大人の男女の関係に踏み込んでしまいそうな、そんな予感があったのだ。
「ええ? いいじゃない。プロポーズしてもらった日に、初エッチなんて最高だと思うけど」
「ちょ、ちょっと! エッチとか言わないでよ。わ、わたしと浩紀はそういうんじゃないんだから!」
「ごめん、よくわかんないんだけど……千春は、浩紀くんとエッチしたくないの?」
「そ、そうじゃなくて……」
顔が火照ってくる。
男の人とのセックス。
友達の話を聞いて「すごいなあ」と思うことはあっても、自分がする立場になるなんて、正直考えたこともなかった。
だいたい、彼の前で裸になるなんて、恥ずかしすぎて耐えられない。
同い年なのに、千春よりもずっと大人びて見える秋絵。
スタイルも良くて、髪だってさらさらで、美人だし……。
自分にも、彼女みたいな容姿があれば……。
千春は、深いため息をついた。
そのとき。
テーブルの上にあった携帯電話が、聞き慣れたメロディーを奏で始めた。
画面には、浩紀の名前。
「おっと、王子様からお電話だ……ほら、さっさと出なさいよ」
「無理! 絶対、無理!」
「もう! ……あ、もしもし。うん、秋絵だけど……あのねえ、夜中に押しかけられて迷惑してんのよ。さっさと引き取りに来てくれる? うんうん、はーい」
なんてことを言うのだろう。
どんな顔をして会えばいいの……。
「いまから迎えに行くってさ。良かったねえ」
「や、やめてよ! 千秋の馬鹿! 裏切り者!」
「んもー、痛いなぁ。クッション投げるのやめて……じゃ、このまま浩紀くんと別れるつもり?」
「え?」
「自分の気持ちも、はっきり伝えることができないなんて、そんな相手と一生やっていけるの?」
「うう……」
「それに、一度もエッチしない夫婦なんていないでしょうが。そんなに嫌なら、結婚もやめちゃえばいいじゃない。わたしが代わりに、もらってあげる」
ずきっ、と胸が痛んだ。
エッチも困るけど、とられるのはもっと嫌。
涙が、ぼろぼろと溢れてくる。
「な、なんでそんなこと言うのよぉ……うっ……ひ、浩紀は、わたしの、なんだからぁ……」
「あははは! ちょーっと、泣かないでよ。冗談、冗談だってば。誰があんな、千春一筋の童貞を相手するかって」
「あ、秋絵は……」
「ん? なに?」
「エッチ、したことあるんだよね? その……どんな感じ?」
「どんな……って、うーん、痛かった、かなあ……」
遠くを見るような目をして、秋絵がつぶやく。
「い、痛いの? そうなの?」
「千春、食いつきすぎ。まあでも、最初だけよ。すぐにそんなの忘れて、毎日やりまくりたくなるから」
「だから、下品なこと言わないでってば!」
ピンポン、と玄関チャイムが鳴った。
ふたりで顔を見合わせる。
「来たよ、ほら。行っておいで」
「だめ、ほんとにだめ!」
秋絵に腕をつかまれて、無理やり玄関まで引き摺られた。
扉が開くのを待ちかねたように、浩紀が息を弾ませて飛び込んでくる。
「チイ! 遅い時間だったし、家にもいないから心配で……ああ、よかった」
「ちっともよくないってば。あんたたちのせいで、こっちは明日も早いのに、睡眠不足になりそうよ! さあ、帰った、帰った」
秋絵がぞんざいな口調で、突き放したように言う。
「ごめんな! 今度また飯でもおごるよ……チイ、帰ろう。送っていくから」
「う、うん……」
やっぱり、顔を見ることができなくて、下を向いたまま、千春はぼそぼそと答えた。
手を繋いで、暗い夜道を歩く。
握られた手が温かくて、また、泣きそうになってしまう。
さっきから浩紀は、無言のまま。
きっと、怒ってる……。
当たり前だよね……。
「なあ、チイ」
「えっ……?」
次の角を曲がれば千春の家に着く、というところで、浩紀が急に口を開いた。
チラチラと瞬く街灯の下。
足を止め、少し体を屈めて千春と目線を合わせてくる。
「夕方は、ごめんな。びっくりしたんだろ? いきなり、キスとか言われても、そりゃ困るよな」
照れ笑いをしながら頭を掻く、いつものしぐさ。
大きな黒目には、千春の戸惑った表情が映っていた。
「ううん……そんな」
「俺、女の子と、そういう……キスとか、したことなくてさ。チイのこと、すげえ好きだって思って、もうすぐ離れなくちゃいけないから、その、焦ってたっていうか」
「浩紀……」
「いや、でもさ、チイが嫌なこと、俺もしたくないし。なんか、悪いことしたなあって、それだけちゃんと謝りたかったんだ」
「わ、わたし、嫌なんかじゃないよ!」
力が入ってしまったせいで、妙に大きな声が出てしまった。
でも、ちゃんと伝えなくちゃ。
だって、浩紀のことが好きだから。
「チイ……」
「そりゃ、びっくりしたし、恥ずかしかったけど……ひ、浩紀となら、キスもエッチも、全然嫌じゃないんだから!」
言っちゃった。
顔から火が出そう。
浩紀の腕が、ふわりと千春を包み込んだ。
「あの、さ……」
「なに?」
「だめだったら、それでいいんだけど」
「だから、なに?」
「このまま、帰したくないって、言ったら、どうする?」
心臓の激しい鼓動が、千春にも感じられた。
……わたしだって。
ぎゅっ、と浩紀に抱きついて囁く。
「わたしも、帰りたくない」
物音を立てないように、こっそりと浩紀の部屋に戻ったときには、もう午前1時を過ぎていた。
部屋のドアを閉め、鍵をかけた後。
ふたりは縺れ合うようにして、床の上に倒れた。
「浩紀……やっぱり、恥ずかし……」
千春の言葉は、浩紀の唇で塞がれてしまう。
柔らかな感触。
その隙間から、舌が絡みついてきた。
触れあう粘膜のぬるりとした感触に、皮膚の下がぞくぞくする。
キスって……こんなにどきどきするものなんだ……。
離れたくない、いつまでも、こうしていたい。
初めての経験に、体がぶるぶると震え出す。
浩紀が顔を上げ、心配そうに見つめている。
「チイ……怖い?」
「ううん……」
再び重なった唇が、燃えあがりそうに熱い。
心の中が、好き、という言葉で埋め尽くされる。
浩紀……。
胸元のボタンを、軽く引っ張られた。
「やっ……」
「チイのこと、もっと見たいんだ……いい?」
暗い部屋の中、窓から差し込む月明かりが、その真摯な表情を照らす。
もう、逃げたくない。
「い、いちいち、聞かないで……! 嫌だったら、さっき……あのまま家に帰ってたに決まってるじゃない!」
わざとぶっきらぼうな口調で、恥ずかしさを紛らわせた。
……こんなときまで、可愛く言えないなんて。
自己嫌悪に陥りそうになったのに、浩紀は声を殺して笑っている。
「じゃあ、もう聞かない。恥ずかしいんだろ? ほんと、わかりやすいよな」
「は、恥ずかしくなんか、ないって……あ……」
さっきよりも重く浩紀の体がのしかかってきて、白いシャツのボタンが、あっという間に全部外されてしまう。
そこには、飾りも何もない下着に包まれた、ささやかな胸のふくらみがある。
見られちゃう、見られちゃう……。
「……すごい、綺麗だ」
興奮したような声と荒い呼吸が、耳元で聞こえる。
ブラジャーの上からやわやわと揉まれていくと、こそばゆくてたまらなかった。
「ん、くすぐったい……き、綺麗なんかじゃないよ、やだ、あんまり見ないで」
「チイは、俺にとっては誰よりも綺麗だし、可愛いって……」
強引にブラを押し上げられたその下に、真っ白な乳房がふるふると揺れている。
その先端に、ちゅっ、と口をつけられたとき、それまでとは違う感覚が訪れた。
なに……これ……。
甘くせつない痺れが、肌を通り越して体の内側にまで潜り込んでいく。
「あんっ……変だよ、だめ、そこ触っちゃ……」
「声……やばい、それ、もっと聞かせて」
ちゅっ、ちゅっ。
音を立てて乳首を吸われた。
舌先が、口の中でそこを執拗に舐めまわす。
とくん、とくん、と体の中が波打ち始める。
「やっ……いや、あっ……ねえ、怖いよ……じんじんする……っ……」
ひどい風邪にかかって、熱にうかされているような気分だった。
熱くて、頭がくらくらして、おかしくなりそう……!
「俺も……チイのこと見てたら、こんなになってる」
太もものあたりに、硬く勃起したものが押し付けられた。
ズボンの上からでも、はっきりとその形がわかる。
男のひとって、こんなふうになるんだ……。
手にこめられた力が、だんだんと強くなっていく。
乳肌に指先が食い込み、尖りきった乳頭が噛まれる。
その刺激は背筋を通って、下腹のあたりを疼かせた。
じわじわっ、と広がりゆく快感に、じっとしていられず、太ももを擦り合せながら喘ぐ。
「あっ、あ、浩紀……いやぁ……っ、そ、そんなにしたら……」
「ごめん、俺、もう止められないよ……チイが、欲しい」
スカートの裾に、浩紀の大きな手が潜り込む。
小さなパンティを引き下ろされると、ひどく不安な気持ちになった。
一番恥ずかしい部分を、一番好きなひとに見られてしまう。
まるでちょっとした拷問ではないか。
……でも、浩紀はわたしのこと、欲しいって言ってくれた。
わたしも、欲しい。
浩紀のこと、もっともっと深く知りたい。
泣きたくなるほどの羞恥を堪えて、そっと足を開いた。
大きな手が、不器用に膝頭を撫で、そろそろと足の間に近付いていく。
「あっ、濡れてる……ここ」
黒い茂みに隠れた、密やかな粘膜の入り口。
這い寄る指の動きに、背筋がびくびくと跳ねる。
「んっ、うんっ……! や、やっ、言っちゃだめ……」
「なんで? 嬉しいよ、俺……気持ち良くなってくれてるって、わかるから」
合わさった媚肉の割れ目が、少しずつ広げられていく。
くちゅっ、くちゅっ。
淫猥な響きを持った音が鳴るたびに、そこからとろとろと温かい蜜が流れ出す。
全身の薄皮が一枚捲られてしまったかのように、すべての感覚が敏感になる。
自分の体じゃ、ないみたい……。
最初にあったくすぐったさは消え、燃えあがりそうな快感が忍び寄ってきた。
ぐっ、と異物を押しこまれるような感覚。
指が千春の内側に、そろりそろりと侵入してくる。
そんなこと、自分の手でもしたことないのに……!
「だ、だめだよ、浩紀……汚い、そんなとこ……」
「汚くないよ、チイのだもん……ああ、もう……そんな声出したら、優しく出来なくなる……」
「あ、ああっ……!」
中をぐちゅぐちゅと掻きまわされるうちに、千春の官能が目を覚ます。
いい……こんな……恥ずかしいのに、気持ちいい……。
浩紀の唇を、自分から求める。
舌を絡め、唾液をすすった。
「好き……浩紀……」
「俺も……」
知らず知らずのうちに、腰が揺れ始める。
もっと、もっと……。
ふたりの間にあるものは、例え布一枚であったとしても、邪魔だと思った。
すでに体に巻きついているだけだった衣服を、すべて脱ぎ捨てる。
浩紀も、ちょっとの間でも離れたくないというふうに、慌ただしく全裸になった。
降り注ぐ月の光に、薄く頑丈な筋肉に覆われた、均整のとれた体が照らし出される。
「初めて見た……浩紀って、もっとがりがりだと思ってたのに、ずるい」
緊迫していた空気が、ふっと緩む。
「あはは、ずるいって何だよ! だから言っただろ、チイと違って運動してたからな」
「ふん! 悪かったわね、そんなこと言うなら、もう絶対に見せてあげないから!」
両手で胸を隠し、膝を曲げて、拗ねた姿勢で背を向けた。
そんな態度ができるのは、浩紀が必ず許してくれると知っているからだ。
予想通り、あっさりと肩をつかまれて、仰向けに転がされてしまう。
「馬鹿にしたわけじゃないぞ……じゅうぶん、綺麗だって。そのままで」
「う……んっ……」
抱きしめられ、肌が重なり合うと、いろんなことがどうでもよくなった。
足を大きく広げたその間に、浩紀の下腹部がある。
熱く猛った感覚が、強く千春を求めているのがわかった。
がっしりした首に腕をまわし、両腕でしっかりとしがみつく。
体はすっかり、浩紀を受け入れる準備ができている。
でも、怖い。
ぎゅっ、と目を閉じて、そのときを待つ。
さっき、指が入ってきたところに、ものすごい圧迫を感じる。
小さすぎる場所を、無理やり押し広げられていく痛み。
あまりの激痛に、脂汗が滲む。
「い……たい……っ……」
「チイの中、きつい……ごめんな、無理しなくていい……やめるか?」
「ううん……いいよ……っ……こ、このまま……」
浩紀の願いを叶えたい。
ふたりで、ひとつになりたい。
その想いがあるから、我慢できる。
子供から大人になるための、愛するひとを受け入れるための、大切な儀式。
口にするのも憚られるような、卑猥なことをしているはずなのに。
千春にはこれ以上ないほど、神聖な時間に感じられた。
それが根元まで埋め込まれるにつれ、浩紀の呼吸が荒くなっていく。
流れ落ちた汗が、千春の頬を濡らす。
「う……あ……全部、入った……わかる?」
「うん、うんっ……!」
「嬉しいよ……これで、チイ、俺のもの……」
奥の奥まで繋がり合った状態で、強く抱きしめ合う。
「わたし……ずっと……」
こんなことする前から、わたしはずっと浩紀だけのものだったよ。
そう言いたいのに、言葉がうまく出て来ない。
少しずつ、秘部に沈み込んだ男根が、前後に動き始める。
「うわっ……気持ち、いいよ……チイの中、めちゃくちゃ熱い……」
「あ、あ、う、動いちゃ、だめぇっ……!」
痛みの裏側から、ふつふつと快楽が湧きあがってきた。
肉の塊に膣壁を擦りあげられる悦び。
子宮口をこじ開けられそうなほど、奥底まで貫かれる衝撃。
胸に触れられたときのような、穏やかな感じではない。
うねりを伴って、内臓を焼きつくすような激しい悦楽。
溢れる愛蜜が潤滑油となり、慣れないふたりの交わりを滑らかにさせる。
こんなにも密着しているのに、まだ足りない。
もっと深く、もっと奥まで。
底知れない欲望が、お互いを突き動かす。
愛しさが、際限もなく生み出されていく。
この気持ちを、いったいどうすれば伝えられるのだろう。
千春には、その方法がわからない。
何度目かに突きあげられたとき、凄まじい快楽の波が押し寄せてきた。
「ひ、浩紀……! わたし、あっ、ああああっ……!」
「チイ、好きだ、何回でも言う、大好きだ……」
求め合ったその先にある、絶頂感。
下半身が小刻みに痙攣し、毛穴から汗が噴き出した。
体内に感じる、脈動。
動きを止めた浩紀から放出された、沸騰しそうな液体。
やっと、わたしたち……。
最後まで結ばれたことの喜びに包まれる。
これからも、きっと浩紀のためなら、どんなことでも乗り越えられるよ、わたし。
吹き始めた夜風に、ひらひらと桜の花びらが舞う。
いつまでも泣き虫で甘えん坊だった千春が、ひとつ大人の階段を上った春の夜だった。
(おわり)