……書き始めたらのめり込んで、うっかり更新。
もはや恋愛小説じゃなくて官能小説になってるし。
いろいろアレですが、許せる方はどうぞ。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
……どうすんのよ、コレ。
首筋から鎖骨の下あたりにかけて、派手な紫色の跡が点々と残っている。
コンビニから戻ってきた後、大急ぎでシャワーを浴びた桃子は鏡の前で困り果てていた。
美山のせいだ。
腹が立つ。
今度会ったら、大事なアレを噛みちぎってやるから。
心の中でいくら悪態を吐いてみたところで、痣が薄くなるわけでもない。
いままでキスマークのような悪趣味なものをつけたがる男はいなかったから、対処の方法もわからなかった。
こんなものつけたままじゃ、ユウだけじゃなくて他の男にも会いにいけやしない。
ファンデーションか何かで隠せばいいのだろうか。
それとも、タオルでも巻いておく? 何日くらいで消えるものなのだろう。
濡れた髪を乾かしながら洗面所で逡巡していると、部屋のほうから何やら話し声が聞こえてきた。
小さなユウの声。
ぼそぼそとして、何を言っているのか聞き取りにくい。
「そっか、みんなは……うん、こっちは、まあ……うん……」
うつむいた横顔が、なんだかとても寂しそうに見えた。
どうやら珍しく誰かと電話しているらしいが、携帯電話を持つ手が震えている。
そんなに恐ろしい相手と会話しているのか。
もしかして、あの子いじめられてたりして。
なにしろ、大学生にもなって不登校になっちゃうくらいだし。
……なんでわざわざわたしの部屋にいるときにそういう電話しちゃうの。
放っておけないじゃない。
桃子は大判のバスタオルだけをぐるりと体に巻きつけ、まだ乾ききっていない髪もそのままにしてユウの傍に駆け寄った。
「ユウ……」
ちらりと横目でこっちを見た後、ユウは左手の人差し指を自分の唇にあてた。
『静かに』
よくわからないままうなずいて見せると今度は左手で桃子を引き寄せ、腕の中に抱いたまま電話の向こうにいる相手と会話を続ける。
そうか。
うん、うん。
話しているのは相手ばかりで、ユウはただ相槌を打っているだけだった。
これだけ近くにいると、内容もよく聞こえてくる。
相手は男。
言葉のアクセントに地方独特の訛りがあった。
話の流れから察するに、どうやらユウの地元の友人らしい。
他愛のない中学か高校の思い出話、近況報告。
聞いていると眠くなってきそうなくらい、平和な話題。
嫌みや悪口のように思えるような話は、ひとつもでてこなかった。
なのに、どうしてユウがこんなにも心臓をバクバクさせて緊張しているのかわからない。
「うん、じゃあまた……」
桃子が聞き始めてから三十分が過ぎた頃、やっと通話が終わるのと同時にユウは携帯電話をフローリングの床に放り投げた。
ぎゅっとくっついたまま離れてくれないものだから、どういう表情をしているのか見えない。
仕方なくいつものように頭を撫でてみると、今度は両腕できつく抱きしめられた。
背骨が嫌な音を立て、胸が押し潰されそうになる。
いまだに力加減がわからないらしい。
「ちょっと、ユウ、苦しい! ねえ、いまのは友達?」
「友達っていうか……親友」
「し、親友? そのわりには全然楽しそうじゃなかったけど」
「僕なんかより、ずっと出来が良いヤツなんだ。中学も高校も一緒だった、勉強もスポーツも何やらせたって誰より上手で」
「えー、いいじゃない。自慢じゃないけどさ、いままで親友なんて呼べるほど仲良くなった子、ひとりもいないな」
「そうなんだ? 意外。桃子って友達づきあいも器用にやってそうだと思ってた」
「全然だよ! まあわたしのこといいから……で、なんであんなに嫌そうに電話してたの?」
嫌じゃないけど、すごく自分がダメに思えてきて苦しくなる。
ユウはぽつりとそう言った。
中学高校は、全国的に有名な私立の進学校に通っていたらしい。
親戚はほとんど全員が官僚だとか大病院を経営する医者、もしくは大きな会社の経営者なのだそうだ。
子供の頃から優秀な従兄弟たちと比べられながら凄まじいプレッシャーをかけられ続け、それでも勉強は嫌いではなかったから言われるままに頑張ってきた。
周りも似たような子ばかりだったから、友達も少なくはなかった。
なかでも『親友』は優しく思いやり深く、残念ながら東大に合格はできなかったけれど地元の有名国立大学を卒業して充実した日々を過ごしているらしい。
ところが東大に合格したユウの方は、潰れてしまった。
大学でまわりを見渡してみると、自分以外はきちんと勉強以外のこともできる人間ばかりなのに愕然とした。
みんな将来の展望を持ち、それなりに生活を楽しみ、アルバイトもして青春を謳歌しているように見える。
自分には勉強以外に何もない。
僕はいったい何がやりたかったのだろう。
考えれば考えるほどわからなくなり、もう勉強する意味も見出せなくなった。
一年だけ学校には通ったものの、二年目からはアパートの部屋から出るのも嫌になった。
歩いて5分のコンビニに行く以外は、ほとんど外出することもなくなった。
部屋でぼんやりと本を読み、テレビを見て、たまにパソコンをいじるくらいの暮らし。
それが4年続いた。
両親は現状を知ってか知らずか、何も言わないらしい。
ただ仕送りだけは毎月30万きっちりと振り込まれている。
生きているのか死んでいるのかわからないような生活の中、なんとなくネットの中で見つけた出会い系サイトでメールの交換をしてみた。
何度かやり取りしたらあっさりと電話番号を教えてくれて、勇気を出して電話してみたらすごく楽しかった。
その相手が、桃子だ。
「ふうん。でも、その流れでいくとユウのほうが親友クンより賢かったんでしょ? 少なくとも学力的には。じゃあ、別に辛くなくない?」
「辛いよ、あいつと話すたびに自分だけ置いていかれているような感じがする。みんなどんどん大人になっていくのに」
「じゃあ、学校に戻ればいいじゃない。まだ間に合うでしょ? ちょっとくらい留年したって卒業するだけであんたの学校だったら凄い肩書きになるよ」
「うん、わかってる」
ぷちんと会話が途切れる。
しんとした妙な空気が漂う。
あれ、悪いこと言っちゃったかな。
ていうか、なんで気を遣ってやらないといけないんだろう。
ああもう、ほんと面倒な男。
「で、買ってきたご飯は食べた?」
「……欲しくない」
「ちゃんと食べて。どうせ、今日はまだ何にも食べてないんでしょ?」
気が向かないと、丸1日何も食べないこともあるらしい。
テーブルの上には置きっぱなしのからあげ弁当。
手を伸ばして袋を引き寄せ、プラスチックのフタをとってやる。
冷めたパックから、脂っこい匂いがした。
「食べて。それ以上痩せちゃったら病気になるよ! わたし、あんまりヒョロヒョロしてる子って好きじゃないし」
そっと体を離し、弁当を手渡す。
箸を持たせてみると、嫌そうにではありながらもモソモソと食べ始めた。
拒食気味のペットにエサをあげている感覚。
とりあえず食べてくれるとホッとする。
あれ? なんだか寒い。
バスタオルしか身につけていなかったことを思い出す。
洗面所に戻ろうとしたとき、ユウがほとんど同時に立ちあがった。
不審げな顔で首元に触れてくる。
「なによ、びっくりするじゃない」
「桃子……その痣、どうしたの?」
「あっはっは、それは大変だったねえ。まさに修羅場じゃないか」
「もう、笑いごとじゃないよ」
「いやあ、必死に言い訳してる桃子の顔を想像したらおかしくて」
美山につけられたキスマークの件で怒ったり拗ねたりするユウを一晩中なだめた桃子の話を聞いて、城野英輔(しろのえいすけ)は大いに笑った。
ひとり暮らしにしては豪華で広々とした3LDKのマンション。
あちこちにトレーニング機器が並び、ちょっと見た感じはまるでスポーツジムのようだ。
20畳を超える広さのリビング、その中央にはピカピカに磨き上げられた赤い大きなバイクが飾られている。
英輔は桃子がこれまでに出会ってきた中で、文句なしに一番カッコいいと思う。
身長は175前後、体脂肪率が極限まで低そうな引き締まった体。
鋭さのある切れ長の目に、鼻筋の通った顔立ち。
栗色の髪はさらさらとして、とても清潔感がある。
街を歩けば何人でも可愛い女の子がひっかかってきそう。
本人は興味がないと言うが、モデルだとかアイドルだとかそいういう路線に行けば大成功しそうな気がする。
十代の頃はバイクのレーサーとして海外でも活躍していたらしいが、事故で右目と右足を痛めたのを機にレースから遠ざかったらしい。
いまは当時稼いだ賞金を運用しながら、この部屋で好きなことをしながら暮らしている。
どことなく世慣れた様子と落ち着いた言動から、とてもユウと同い年には思えない。
知り合って半年。
もうとっくに見慣れているはずなのに、英輔の笑顔を目にするたび桃子は思わず見惚れてしまいそうになる。
彼の場合は出会い系など使わずとも好きなだけ女の子と遊びまわれると思うのだが、彼の経歴を知っていたり資産状況を知って寄ってくるような女は嫌なのだそうだ。
「じゃあ、今日もそのユウくんのために帰っちゃうんだ? 泊っていってくれると思ってたのに」
さほど残念でもなさそうに、ソファの上で桃子の髪を指で梳きながら英輔が微笑む。
とても丁寧で慣れた手つき。
隣にいるだけで蕩けてしまいそうになる。
怖くて聞いたことはないが、きっともの凄い数の女の子がこの部屋を訪れているのだろうと思う。
来るたびに種類の違う化粧水や香水、ヘアゴムにピアス、様々なものが女たちの手によって置き去りにされていた。
彼の場合は桃子のような相手が20人くらいいると聞かされても納得できる。
「だめだめ、朝帰りなんかしたらまた怒っちゃう。夜はどうしても一緒にいたいんだって」
美山の件があってから、ユウの独占欲がまた強くなった気がする。
前は週に2日か3日程度だったのが、最近はほとんど毎日桃子の部屋に来るようになった。
「へえ……でもさ、昼間とはいえよくココに来れたねえ。そんな彼氏だったら、四六時中一緒にいたがりそうだけど」
「だから彼氏じゃないって。なんかね、よくわかんないけど『束縛したいわけじゃない』らしいよ」
ユウには独自のルールのようなものがあるらしく、基本的に昼間は桃子がどこで何をしていようがそこまで追求してこない。
ただ、夜は遅くなってもいいからどうしても一緒にいてほしいという。
桃子のほうもどうしても他の男と寝なきゃいけない理由があるわけでもないから、ぶつぶつと文句をいいながらもその要求を受け入れている。
「そんなに想ってくれる相手がいるなら、その子ひとりにしちゃえばいいじゃないか。桃子は、ユウくんを恋人にしたくないの?」
そろそろと頬からうなじへと指先で撫でられていく。
びくん、と肩が震える。
弱い電流がピリピリと肌の上を流れていくようだった。
「あ、あの子は……わたしとは違うから」
「違う? どういう意味?」
「だらしないのは、たぶん今だけだと思う。少し充電したら、たぶん元のエリートコースに戻っていくから」
今日、ユウは大学に行った。
どうしても一人で行くのは踏ん切りがつかないと泣きそうな顔をするから、桃子が大学の門の前まで連れて行ってやったのだ。
取りこぼしている単位取得や卒業に向けて必要なことについて、あれこれ相談して来いと背中を押した。
根は真面目な男だから、あのまま何もせずに帰ってくるようなことはない。
「えーっ、なんか桃子すごく良い人みたいなことしてる。人助けだねえ」
「だって、もったいないじゃない。わたしみたいなのとは、きっとアタマの出来が違うんだもん」
「まあ、普通じゃまずそこに現役合格できないもんねえ。でも、ますますわかんないなあ、そのエリート捕まえておけば、桃子も将来安泰かもしれないのに」
「ううん、あの子にはもっと良い彼女見つけて欲しい。死ぬほど頑張って勉強してきたあげく、こんなヤリマンしか知らずに一生を終えるなんて可哀そうすぎるでしょ」
「そうかなあ。桃子もたしかにいろいろユルいけど、黙ってればお嬢様っぽいし悪くないと思うけどなあ」
黒髪ストレートロングであんまり化粧もしてなくて、話も面白いし。
僕はこういう子が大好きだけどね。
そう笑いながら、英輔は桃子を膝の上に抱き上げた。
白いブラウスのボタンが上から順々に外されていく。
まだうっすらと残るキスマークの跡が恥ずかしい。
なにしろ、美山の跡の上からユウにも思い切り強く吸われたのだ。
いったいひとの体を何だと思っているのか。
「ああ、でもユウくんの気持ちわからなくもないかなあ。マーキングしたいんだろうね、俺の女だぞ! みたいな」
「なにそれ、迷惑だから。そういうことするんなら、ちゃんとした彼女作ればいいじゃない」
「彼女になって欲しい女の子が、なかなかウンって言ってくれないから困るんじゃないか。本当は桃子も僕だけのものになって欲しいのに」
「……それ、いままで何人に同じこと言った?」
「んーと、覚えてない」
顔を見合わせて噴き出す。
こういう気楽な関係がいいと思う。
もうとっくに桃子は普通の幸せなんてあきらめている。
だからせめて、相手にしてもらえるうちは気に入った男たちの間でふらふらしていたい。
できることなら、その間に誰かに殺して欲しい。
衝動でも恨みでも、なんでもいいから。
いまでもずっとそう思っているのに、なかなかその機会が訪れてくれないからダラダラと生きているだけだ。
「桃子はときどきそうやって何もかもどうでもいいみたいなこと言うけど、けっこう堅実にやってるよねえ。単位もぎりぎりだけど落とさないし、バイトも辞めないし、ほら、なんだったか忘れたけど資格も取るんでしょ?」
首筋から鎖骨にかけてのラインを、舌先でたどられていく。
ブラウスを脱がされ、下着のホックも外される。
小さなふくらみを手のひらで持ち上げるようにして、ゆっくりと揉まれた。
弱すぎず、強すぎない力で。
尖り始めた乳首の先には触れないようにしながら、じわりじわりと時間をかけて弄ばれる。
そうされているうちに体の芯が痺れるように熱くなって、あの恥ずかしい場所からねっとりとした蜜が染み出してくるのがわかる。
気がつけば桃子は、英輔の首にしがみついて動物の牝を思わせるような喘ぎを漏らしていた。
「あ、あっ……堅実、なんかじゃないよ……バイトだってあんなの、誰だってできるし……学校もそんなに賢いところじゃないから、適当にやってても単位くらい……」
「出会い系サイトのバイトだって、あれも稼ごうと思えば楽じゃないでしょ。頼んでくれれば僕だって、桃子の生活費くらい出してあげるのに」
同じことは、坂崎からも言われたことがある。
金くらい出してやるから、くだらないアルバイトは辞めてしまえと。
洋服だって化粧品だって、好きなだけ買えばいいと。
でも、それでは男たちと対等でなくなってしまう。
「嫌だもん……そんなの。わたし、べつに誰かに飼われたいわけじゃないから」
「そういうとこ、面白いなあ。基準がよくわからないけど、桃子だけの倫理観みたいなのがあるよね」
きゅっ、きゅっ、と乳輪の端から乳頭の先までを指先でしごかれる。
軽く引っ張るような刺激に、体温がぐんぐん上昇していく。
脚の間がひくひくしながら疼いている。
感じている顔をじろじろと見られるのが、恥ずかしくてたまらない。
「倫理観って……あ、あんっ」
「既婚者とか決まった彼女がいる男は絶対に相手にしない、なんていうのも独特だよね。誰とでもヤッてるみたいだけど、実はそうじゃないんだから」
「だ、だって、彼女に、悪いでしょう……あ、だめ、そこ……弱いから……」
「なんだか桃子、前より感じやすくなってるなあ。これもまさかユウくんの影響? ねえ、その子はどんなふうにしてヤルの? 教えてよ」
背中をのけ反らせた桃子の腰を、英輔が強く抱く。
いや、いや、と首を振っても、指の動きを止めてもらえない。
揉みこまれていく肌が、熱く焼けついてしまいそうだった。
痛みと気持ちよさの境目。
ぎりぎりの感覚が桃子を絶頂へと押し上げていく。
「やっ、いやっ……そんなにされたら、すぐに……」
「まさか、もうイッちゃいそう? だめだよ、まだ。ほら、どんなふうにヤルのか教えてって」
「どんなって……上手じゃないよ……触るのも、入れるのも」
キスが少し上手くなった。
だけど、その他はたいして上達しない。
テクニックみたいなものも全然ない。
ただ、なぜか最後はいつも涙が出るほど感じさせられている。
「それはやっぱり愛だよ。気持ちがあるから、くだらないテクニックなんかよりよっぽど感じるんだと思う」
「だから、愛なんかじゃ……あ、あぁっ」
英輔が自身のズボンを押し下げ、大きく隆起した男根を桃子の股間に擦りつけてくる。
下着の上からでも、それが熱く猛っていることがわかった。
「正直に言いなよ、桃子。大好きなんだろ? ユウくんが」
「ち……ちがう……」
「嘘つきだなあ。だって、今日本当はヤラないまま帰るつもりだったくせに」
図星だった。
少しじゃれ合って、おしゃべりして、適当なところで帰るつもりだった。
美山のときと同じように。
「そ、それは……ユウとは関係なくて……」
「あはは、泣きそうな顔してる。この前の美山くんの車の中でも、そんな顔してたんだろうな」
「わ、わかんない、そんなの」
「まあ、僕は美山くんみたいに優しくないからね。絶対に途中で帰らせたりなんかしないよ」
薄いパンティはすぐに脇へとずらされ、すでにぐっしょりと濡れた秘唇が静かに押し割られていく。
下半身が引き裂かれてしまいそうなほどの圧迫感。
その一瞬、視界がハレーションを起こし呼吸ができなくなる。
抵抗する間も無かった。
巨大な肉傘が、膣の奥へゆっくりと飲みこまれていく。
亀頭の丸みやわずかなくびれまでが、はっきりと肉襞を通して伝わってくる。
ユウのものとは、まったく別の感覚。
「あ……は……入ってくる……熱い、熱いっ……!」
「うん、入っちゃったねえ。桃子の中、すごいビクビクしてる。僕もユウくんに嫉妬させてやりたいなあ」
ずん、ずん、と重みのある肉の塊が下から突き上げてくる。
真っ赤に熱された太い鉄の杭が打ち込まれていくようだった。
体の中心がじんじんと痺れていく。
なのに、どうしてもユウのことが頭から離れない。
いまごろは、もうアパートに戻っているだろうか。
きちんと学校で話はできたのか。
……ユウ。
ばちん、と尻に衝撃があった。
痛みにうめき声をあげると、英輔が苛立ったような顔でこちらを見つめている。
「ほら、まただ。最近の桃子はいつもそうやってぼんやりすることが多いよね」
「ご……ごめんなさい……」
「じゃあ、僕のことが好きって言ってみてよ。英輔くん、愛してるって」
「……え?」
「それくらいいいだろ? 言わなきゃ今日は帰さないよ。僕も言ってあげるから」
桃子、大好きだよ。
愛してる。
あまりにも空々しい台詞。
そんなことを口にして、いったい何の意味があるのか。
それでも、この状況では断れない。
「英輔くん……好き……あ、愛してる……」
「ああ、いいねえ。もっと言ってよ、何回でも」
腰を打ちつける速度がはやまっていく。
もっとも奥深いところを執拗に突き上げられる。
否応なく皮膚の裏側に快楽が刻み込まれていく。
擦れ合う肌から汗が滴り落ちる。
好き。
愛してる。
心のない言葉がふたりの間に飛び交う。
英輔が息を荒げながら、耳に口をつけて歯を立ててきた。
「や、やだ……歯型とか残さないで……」
「あはは、今度はユウくんに耳を喰いちぎられるんじゃないか。ところでさ、まだピル飲んでる?」
「の、飲んでるけど……」
答えた後、しまった、と思った。
英輔の考えていることが、手に取るようにわかる。
「だ、だめだからね……そ、それだけは、絶対……」
「いいじゃん、愛してるって言ったよね? 桃子の中にさ、僕の証拠残してやりたい」
「や、やだ、いや、いやああっ!」
どくん、と腹の奥で男根が脈を打つ。
火傷しそうな精液が大量に放出されていく。
射精を終えた後も、まだ繋がり合ったまま英輔は桃子を離そうとしない。
荒々しさは影をひそめ、優しい表情が戻っている。
しゃくりあげながら泣く桃子の汗にまみれた背中を、慰めるように何度も撫でていく。
「あはは、ごめん、ごめんね。桃子」
「……ひどいよ、こんなの」
「桃子が泊って行かないっていうからだよ。夜をひとりで過ごしたくないのは、ユウくんだけじゃないのに」
「英輔くんは、ほかにいくらでも……」
「エッチしたいだけなら、そういう商売の子を呼べばいいだけだから簡単だけどさ。桃子みたいに話の合う子を探すのって、けっこう難しいんだ」
なのにユウくんが独り占めしようとしてるから、ちょっと意地悪してやりたくなる。
英輔はそう言いながら、桃子をソファの上に押し倒した。
再び勢いを取り戻した肉塊が、さっきよりもさらに深い場所まで刺し貫いていく。
「やっ……! も、もういいじゃない、今したばかりなのに」
「やっぱり今日は帰したくないなあ、泊っていきなよ。どうせ中までこんなにグチョグチョになってたら、今日はユウくんとエッチできないよね?」
「そ、そういう問題じゃないの、帰ってあげないとあの子……」
少し前から気付いていた。
テーブルの上で、スマートフォンが振動を続けている。
あんなにしつこく鳴らすのは、ユウしかいない。
いつのまにか、窓の外は暗くなっている。
「過保護にするのはよくないよ。今夜はあとで桃子の好きなフレンチの店に連れて行ってあげるから」
もう何を言っても英輔は聞いてくれない。
嫌がるのを愉しむように、数えきれないほど膣内に出し続ける。
桃子がやっと解放されたのは、翌日の昼に近い時刻のことだった。
(つづく)
もはや恋愛小説じゃなくて官能小説になってるし。
いろいろアレですが、許せる方はどうぞ。
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……どうすんのよ、コレ。
首筋から鎖骨の下あたりにかけて、派手な紫色の跡が点々と残っている。
コンビニから戻ってきた後、大急ぎでシャワーを浴びた桃子は鏡の前で困り果てていた。
美山のせいだ。
腹が立つ。
今度会ったら、大事なアレを噛みちぎってやるから。
心の中でいくら悪態を吐いてみたところで、痣が薄くなるわけでもない。
いままでキスマークのような悪趣味なものをつけたがる男はいなかったから、対処の方法もわからなかった。
こんなものつけたままじゃ、ユウだけじゃなくて他の男にも会いにいけやしない。
ファンデーションか何かで隠せばいいのだろうか。
それとも、タオルでも巻いておく? 何日くらいで消えるものなのだろう。
濡れた髪を乾かしながら洗面所で逡巡していると、部屋のほうから何やら話し声が聞こえてきた。
小さなユウの声。
ぼそぼそとして、何を言っているのか聞き取りにくい。
「そっか、みんなは……うん、こっちは、まあ……うん……」
うつむいた横顔が、なんだかとても寂しそうに見えた。
どうやら珍しく誰かと電話しているらしいが、携帯電話を持つ手が震えている。
そんなに恐ろしい相手と会話しているのか。
もしかして、あの子いじめられてたりして。
なにしろ、大学生にもなって不登校になっちゃうくらいだし。
……なんでわざわざわたしの部屋にいるときにそういう電話しちゃうの。
放っておけないじゃない。
桃子は大判のバスタオルだけをぐるりと体に巻きつけ、まだ乾ききっていない髪もそのままにしてユウの傍に駆け寄った。
「ユウ……」
ちらりと横目でこっちを見た後、ユウは左手の人差し指を自分の唇にあてた。
『静かに』
よくわからないままうなずいて見せると今度は左手で桃子を引き寄せ、腕の中に抱いたまま電話の向こうにいる相手と会話を続ける。
そうか。
うん、うん。
話しているのは相手ばかりで、ユウはただ相槌を打っているだけだった。
これだけ近くにいると、内容もよく聞こえてくる。
相手は男。
言葉のアクセントに地方独特の訛りがあった。
話の流れから察するに、どうやらユウの地元の友人らしい。
他愛のない中学か高校の思い出話、近況報告。
聞いていると眠くなってきそうなくらい、平和な話題。
嫌みや悪口のように思えるような話は、ひとつもでてこなかった。
なのに、どうしてユウがこんなにも心臓をバクバクさせて緊張しているのかわからない。
「うん、じゃあまた……」
桃子が聞き始めてから三十分が過ぎた頃、やっと通話が終わるのと同時にユウは携帯電話をフローリングの床に放り投げた。
ぎゅっとくっついたまま離れてくれないものだから、どういう表情をしているのか見えない。
仕方なくいつものように頭を撫でてみると、今度は両腕できつく抱きしめられた。
背骨が嫌な音を立て、胸が押し潰されそうになる。
いまだに力加減がわからないらしい。
「ちょっと、ユウ、苦しい! ねえ、いまのは友達?」
「友達っていうか……親友」
「し、親友? そのわりには全然楽しそうじゃなかったけど」
「僕なんかより、ずっと出来が良いヤツなんだ。中学も高校も一緒だった、勉強もスポーツも何やらせたって誰より上手で」
「えー、いいじゃない。自慢じゃないけどさ、いままで親友なんて呼べるほど仲良くなった子、ひとりもいないな」
「そうなんだ? 意外。桃子って友達づきあいも器用にやってそうだと思ってた」
「全然だよ! まあわたしのこといいから……で、なんであんなに嫌そうに電話してたの?」
嫌じゃないけど、すごく自分がダメに思えてきて苦しくなる。
ユウはぽつりとそう言った。
中学高校は、全国的に有名な私立の進学校に通っていたらしい。
親戚はほとんど全員が官僚だとか大病院を経営する医者、もしくは大きな会社の経営者なのだそうだ。
子供の頃から優秀な従兄弟たちと比べられながら凄まじいプレッシャーをかけられ続け、それでも勉強は嫌いではなかったから言われるままに頑張ってきた。
周りも似たような子ばかりだったから、友達も少なくはなかった。
なかでも『親友』は優しく思いやり深く、残念ながら東大に合格はできなかったけれど地元の有名国立大学を卒業して充実した日々を過ごしているらしい。
ところが東大に合格したユウの方は、潰れてしまった。
大学でまわりを見渡してみると、自分以外はきちんと勉強以外のこともできる人間ばかりなのに愕然とした。
みんな将来の展望を持ち、それなりに生活を楽しみ、アルバイトもして青春を謳歌しているように見える。
自分には勉強以外に何もない。
僕はいったい何がやりたかったのだろう。
考えれば考えるほどわからなくなり、もう勉強する意味も見出せなくなった。
一年だけ学校には通ったものの、二年目からはアパートの部屋から出るのも嫌になった。
歩いて5分のコンビニに行く以外は、ほとんど外出することもなくなった。
部屋でぼんやりと本を読み、テレビを見て、たまにパソコンをいじるくらいの暮らし。
それが4年続いた。
両親は現状を知ってか知らずか、何も言わないらしい。
ただ仕送りだけは毎月30万きっちりと振り込まれている。
生きているのか死んでいるのかわからないような生活の中、なんとなくネットの中で見つけた出会い系サイトでメールの交換をしてみた。
何度かやり取りしたらあっさりと電話番号を教えてくれて、勇気を出して電話してみたらすごく楽しかった。
その相手が、桃子だ。
「ふうん。でも、その流れでいくとユウのほうが親友クンより賢かったんでしょ? 少なくとも学力的には。じゃあ、別に辛くなくない?」
「辛いよ、あいつと話すたびに自分だけ置いていかれているような感じがする。みんなどんどん大人になっていくのに」
「じゃあ、学校に戻ればいいじゃない。まだ間に合うでしょ? ちょっとくらい留年したって卒業するだけであんたの学校だったら凄い肩書きになるよ」
「うん、わかってる」
ぷちんと会話が途切れる。
しんとした妙な空気が漂う。
あれ、悪いこと言っちゃったかな。
ていうか、なんで気を遣ってやらないといけないんだろう。
ああもう、ほんと面倒な男。
「で、買ってきたご飯は食べた?」
「……欲しくない」
「ちゃんと食べて。どうせ、今日はまだ何にも食べてないんでしょ?」
気が向かないと、丸1日何も食べないこともあるらしい。
テーブルの上には置きっぱなしのからあげ弁当。
手を伸ばして袋を引き寄せ、プラスチックのフタをとってやる。
冷めたパックから、脂っこい匂いがした。
「食べて。それ以上痩せちゃったら病気になるよ! わたし、あんまりヒョロヒョロしてる子って好きじゃないし」
そっと体を離し、弁当を手渡す。
箸を持たせてみると、嫌そうにではありながらもモソモソと食べ始めた。
拒食気味のペットにエサをあげている感覚。
とりあえず食べてくれるとホッとする。
あれ? なんだか寒い。
バスタオルしか身につけていなかったことを思い出す。
洗面所に戻ろうとしたとき、ユウがほとんど同時に立ちあがった。
不審げな顔で首元に触れてくる。
「なによ、びっくりするじゃない」
「桃子……その痣、どうしたの?」
「あっはっは、それは大変だったねえ。まさに修羅場じゃないか」
「もう、笑いごとじゃないよ」
「いやあ、必死に言い訳してる桃子の顔を想像したらおかしくて」
美山につけられたキスマークの件で怒ったり拗ねたりするユウを一晩中なだめた桃子の話を聞いて、城野英輔(しろのえいすけ)は大いに笑った。
ひとり暮らしにしては豪華で広々とした3LDKのマンション。
あちこちにトレーニング機器が並び、ちょっと見た感じはまるでスポーツジムのようだ。
20畳を超える広さのリビング、その中央にはピカピカに磨き上げられた赤い大きなバイクが飾られている。
英輔は桃子がこれまでに出会ってきた中で、文句なしに一番カッコいいと思う。
身長は175前後、体脂肪率が極限まで低そうな引き締まった体。
鋭さのある切れ長の目に、鼻筋の通った顔立ち。
栗色の髪はさらさらとして、とても清潔感がある。
街を歩けば何人でも可愛い女の子がひっかかってきそう。
本人は興味がないと言うが、モデルだとかアイドルだとかそいういう路線に行けば大成功しそうな気がする。
十代の頃はバイクのレーサーとして海外でも活躍していたらしいが、事故で右目と右足を痛めたのを機にレースから遠ざかったらしい。
いまは当時稼いだ賞金を運用しながら、この部屋で好きなことをしながら暮らしている。
どことなく世慣れた様子と落ち着いた言動から、とてもユウと同い年には思えない。
知り合って半年。
もうとっくに見慣れているはずなのに、英輔の笑顔を目にするたび桃子は思わず見惚れてしまいそうになる。
彼の場合は出会い系など使わずとも好きなだけ女の子と遊びまわれると思うのだが、彼の経歴を知っていたり資産状況を知って寄ってくるような女は嫌なのだそうだ。
「じゃあ、今日もそのユウくんのために帰っちゃうんだ? 泊っていってくれると思ってたのに」
さほど残念でもなさそうに、ソファの上で桃子の髪を指で梳きながら英輔が微笑む。
とても丁寧で慣れた手つき。
隣にいるだけで蕩けてしまいそうになる。
怖くて聞いたことはないが、きっともの凄い数の女の子がこの部屋を訪れているのだろうと思う。
来るたびに種類の違う化粧水や香水、ヘアゴムにピアス、様々なものが女たちの手によって置き去りにされていた。
彼の場合は桃子のような相手が20人くらいいると聞かされても納得できる。
「だめだめ、朝帰りなんかしたらまた怒っちゃう。夜はどうしても一緒にいたいんだって」
美山の件があってから、ユウの独占欲がまた強くなった気がする。
前は週に2日か3日程度だったのが、最近はほとんど毎日桃子の部屋に来るようになった。
「へえ……でもさ、昼間とはいえよくココに来れたねえ。そんな彼氏だったら、四六時中一緒にいたがりそうだけど」
「だから彼氏じゃないって。なんかね、よくわかんないけど『束縛したいわけじゃない』らしいよ」
ユウには独自のルールのようなものがあるらしく、基本的に昼間は桃子がどこで何をしていようがそこまで追求してこない。
ただ、夜は遅くなってもいいからどうしても一緒にいてほしいという。
桃子のほうもどうしても他の男と寝なきゃいけない理由があるわけでもないから、ぶつぶつと文句をいいながらもその要求を受け入れている。
「そんなに想ってくれる相手がいるなら、その子ひとりにしちゃえばいいじゃないか。桃子は、ユウくんを恋人にしたくないの?」
そろそろと頬からうなじへと指先で撫でられていく。
びくん、と肩が震える。
弱い電流がピリピリと肌の上を流れていくようだった。
「あ、あの子は……わたしとは違うから」
「違う? どういう意味?」
「だらしないのは、たぶん今だけだと思う。少し充電したら、たぶん元のエリートコースに戻っていくから」
今日、ユウは大学に行った。
どうしても一人で行くのは踏ん切りがつかないと泣きそうな顔をするから、桃子が大学の門の前まで連れて行ってやったのだ。
取りこぼしている単位取得や卒業に向けて必要なことについて、あれこれ相談して来いと背中を押した。
根は真面目な男だから、あのまま何もせずに帰ってくるようなことはない。
「えーっ、なんか桃子すごく良い人みたいなことしてる。人助けだねえ」
「だって、もったいないじゃない。わたしみたいなのとは、きっとアタマの出来が違うんだもん」
「まあ、普通じゃまずそこに現役合格できないもんねえ。でも、ますますわかんないなあ、そのエリート捕まえておけば、桃子も将来安泰かもしれないのに」
「ううん、あの子にはもっと良い彼女見つけて欲しい。死ぬほど頑張って勉強してきたあげく、こんなヤリマンしか知らずに一生を終えるなんて可哀そうすぎるでしょ」
「そうかなあ。桃子もたしかにいろいろユルいけど、黙ってればお嬢様っぽいし悪くないと思うけどなあ」
黒髪ストレートロングであんまり化粧もしてなくて、話も面白いし。
僕はこういう子が大好きだけどね。
そう笑いながら、英輔は桃子を膝の上に抱き上げた。
白いブラウスのボタンが上から順々に外されていく。
まだうっすらと残るキスマークの跡が恥ずかしい。
なにしろ、美山の跡の上からユウにも思い切り強く吸われたのだ。
いったいひとの体を何だと思っているのか。
「ああ、でもユウくんの気持ちわからなくもないかなあ。マーキングしたいんだろうね、俺の女だぞ! みたいな」
「なにそれ、迷惑だから。そういうことするんなら、ちゃんとした彼女作ればいいじゃない」
「彼女になって欲しい女の子が、なかなかウンって言ってくれないから困るんじゃないか。本当は桃子も僕だけのものになって欲しいのに」
「……それ、いままで何人に同じこと言った?」
「んーと、覚えてない」
顔を見合わせて噴き出す。
こういう気楽な関係がいいと思う。
もうとっくに桃子は普通の幸せなんてあきらめている。
だからせめて、相手にしてもらえるうちは気に入った男たちの間でふらふらしていたい。
できることなら、その間に誰かに殺して欲しい。
衝動でも恨みでも、なんでもいいから。
いまでもずっとそう思っているのに、なかなかその機会が訪れてくれないからダラダラと生きているだけだ。
「桃子はときどきそうやって何もかもどうでもいいみたいなこと言うけど、けっこう堅実にやってるよねえ。単位もぎりぎりだけど落とさないし、バイトも辞めないし、ほら、なんだったか忘れたけど資格も取るんでしょ?」
首筋から鎖骨にかけてのラインを、舌先でたどられていく。
ブラウスを脱がされ、下着のホックも外される。
小さなふくらみを手のひらで持ち上げるようにして、ゆっくりと揉まれた。
弱すぎず、強すぎない力で。
尖り始めた乳首の先には触れないようにしながら、じわりじわりと時間をかけて弄ばれる。
そうされているうちに体の芯が痺れるように熱くなって、あの恥ずかしい場所からねっとりとした蜜が染み出してくるのがわかる。
気がつけば桃子は、英輔の首にしがみついて動物の牝を思わせるような喘ぎを漏らしていた。
「あ、あっ……堅実、なんかじゃないよ……バイトだってあんなの、誰だってできるし……学校もそんなに賢いところじゃないから、適当にやってても単位くらい……」
「出会い系サイトのバイトだって、あれも稼ごうと思えば楽じゃないでしょ。頼んでくれれば僕だって、桃子の生活費くらい出してあげるのに」
同じことは、坂崎からも言われたことがある。
金くらい出してやるから、くだらないアルバイトは辞めてしまえと。
洋服だって化粧品だって、好きなだけ買えばいいと。
でも、それでは男たちと対等でなくなってしまう。
「嫌だもん……そんなの。わたし、べつに誰かに飼われたいわけじゃないから」
「そういうとこ、面白いなあ。基準がよくわからないけど、桃子だけの倫理観みたいなのがあるよね」
きゅっ、きゅっ、と乳輪の端から乳頭の先までを指先でしごかれる。
軽く引っ張るような刺激に、体温がぐんぐん上昇していく。
脚の間がひくひくしながら疼いている。
感じている顔をじろじろと見られるのが、恥ずかしくてたまらない。
「倫理観って……あ、あんっ」
「既婚者とか決まった彼女がいる男は絶対に相手にしない、なんていうのも独特だよね。誰とでもヤッてるみたいだけど、実はそうじゃないんだから」
「だ、だって、彼女に、悪いでしょう……あ、だめ、そこ……弱いから……」
「なんだか桃子、前より感じやすくなってるなあ。これもまさかユウくんの影響? ねえ、その子はどんなふうにしてヤルの? 教えてよ」
背中をのけ反らせた桃子の腰を、英輔が強く抱く。
いや、いや、と首を振っても、指の動きを止めてもらえない。
揉みこまれていく肌が、熱く焼けついてしまいそうだった。
痛みと気持ちよさの境目。
ぎりぎりの感覚が桃子を絶頂へと押し上げていく。
「やっ、いやっ……そんなにされたら、すぐに……」
「まさか、もうイッちゃいそう? だめだよ、まだ。ほら、どんなふうにヤルのか教えてって」
「どんなって……上手じゃないよ……触るのも、入れるのも」
キスが少し上手くなった。
だけど、その他はたいして上達しない。
テクニックみたいなものも全然ない。
ただ、なぜか最後はいつも涙が出るほど感じさせられている。
「それはやっぱり愛だよ。気持ちがあるから、くだらないテクニックなんかよりよっぽど感じるんだと思う」
「だから、愛なんかじゃ……あ、あぁっ」
英輔が自身のズボンを押し下げ、大きく隆起した男根を桃子の股間に擦りつけてくる。
下着の上からでも、それが熱く猛っていることがわかった。
「正直に言いなよ、桃子。大好きなんだろ? ユウくんが」
「ち……ちがう……」
「嘘つきだなあ。だって、今日本当はヤラないまま帰るつもりだったくせに」
図星だった。
少しじゃれ合って、おしゃべりして、適当なところで帰るつもりだった。
美山のときと同じように。
「そ、それは……ユウとは関係なくて……」
「あはは、泣きそうな顔してる。この前の美山くんの車の中でも、そんな顔してたんだろうな」
「わ、わかんない、そんなの」
「まあ、僕は美山くんみたいに優しくないからね。絶対に途中で帰らせたりなんかしないよ」
薄いパンティはすぐに脇へとずらされ、すでにぐっしょりと濡れた秘唇が静かに押し割られていく。
下半身が引き裂かれてしまいそうなほどの圧迫感。
その一瞬、視界がハレーションを起こし呼吸ができなくなる。
抵抗する間も無かった。
巨大な肉傘が、膣の奥へゆっくりと飲みこまれていく。
亀頭の丸みやわずかなくびれまでが、はっきりと肉襞を通して伝わってくる。
ユウのものとは、まったく別の感覚。
「あ……は……入ってくる……熱い、熱いっ……!」
「うん、入っちゃったねえ。桃子の中、すごいビクビクしてる。僕もユウくんに嫉妬させてやりたいなあ」
ずん、ずん、と重みのある肉の塊が下から突き上げてくる。
真っ赤に熱された太い鉄の杭が打ち込まれていくようだった。
体の中心がじんじんと痺れていく。
なのに、どうしてもユウのことが頭から離れない。
いまごろは、もうアパートに戻っているだろうか。
きちんと学校で話はできたのか。
……ユウ。
ばちん、と尻に衝撃があった。
痛みにうめき声をあげると、英輔が苛立ったような顔でこちらを見つめている。
「ほら、まただ。最近の桃子はいつもそうやってぼんやりすることが多いよね」
「ご……ごめんなさい……」
「じゃあ、僕のことが好きって言ってみてよ。英輔くん、愛してるって」
「……え?」
「それくらいいいだろ? 言わなきゃ今日は帰さないよ。僕も言ってあげるから」
桃子、大好きだよ。
愛してる。
あまりにも空々しい台詞。
そんなことを口にして、いったい何の意味があるのか。
それでも、この状況では断れない。
「英輔くん……好き……あ、愛してる……」
「ああ、いいねえ。もっと言ってよ、何回でも」
腰を打ちつける速度がはやまっていく。
もっとも奥深いところを執拗に突き上げられる。
否応なく皮膚の裏側に快楽が刻み込まれていく。
擦れ合う肌から汗が滴り落ちる。
好き。
愛してる。
心のない言葉がふたりの間に飛び交う。
英輔が息を荒げながら、耳に口をつけて歯を立ててきた。
「や、やだ……歯型とか残さないで……」
「あはは、今度はユウくんに耳を喰いちぎられるんじゃないか。ところでさ、まだピル飲んでる?」
「の、飲んでるけど……」
答えた後、しまった、と思った。
英輔の考えていることが、手に取るようにわかる。
「だ、だめだからね……そ、それだけは、絶対……」
「いいじゃん、愛してるって言ったよね? 桃子の中にさ、僕の証拠残してやりたい」
「や、やだ、いや、いやああっ!」
どくん、と腹の奥で男根が脈を打つ。
火傷しそうな精液が大量に放出されていく。
射精を終えた後も、まだ繋がり合ったまま英輔は桃子を離そうとしない。
荒々しさは影をひそめ、優しい表情が戻っている。
しゃくりあげながら泣く桃子の汗にまみれた背中を、慰めるように何度も撫でていく。
「あはは、ごめん、ごめんね。桃子」
「……ひどいよ、こんなの」
「桃子が泊って行かないっていうからだよ。夜をひとりで過ごしたくないのは、ユウくんだけじゃないのに」
「英輔くんは、ほかにいくらでも……」
「エッチしたいだけなら、そういう商売の子を呼べばいいだけだから簡単だけどさ。桃子みたいに話の合う子を探すのって、けっこう難しいんだ」
なのにユウくんが独り占めしようとしてるから、ちょっと意地悪してやりたくなる。
英輔はそう言いながら、桃子をソファの上に押し倒した。
再び勢いを取り戻した肉塊が、さっきよりもさらに深い場所まで刺し貫いていく。
「やっ……! も、もういいじゃない、今したばかりなのに」
「やっぱり今日は帰したくないなあ、泊っていきなよ。どうせ中までこんなにグチョグチョになってたら、今日はユウくんとエッチできないよね?」
「そ、そういう問題じゃないの、帰ってあげないとあの子……」
少し前から気付いていた。
テーブルの上で、スマートフォンが振動を続けている。
あんなにしつこく鳴らすのは、ユウしかいない。
いつのまにか、窓の外は暗くなっている。
「過保護にするのはよくないよ。今夜はあとで桃子の好きなフレンチの店に連れて行ってあげるから」
もう何を言っても英輔は聞いてくれない。
嫌がるのを愉しむように、数えきれないほど膣内に出し続ける。
桃子がやっと解放されたのは、翌日の昼に近い時刻のことだった。
(つづく)
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