問題5、6
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連体修飾節のテンスは英語のような<時制の一致>ではなく、通常<相対テンス>になる |
1)<相対テンス>とは何か?
AとBの二つの文を連体修飾を使って一つの文にするとCの文ができる。
A その人は大使館へ行った。
B 私はその人に会った。
C 私は大使館に行った人に会った。
これだけからは通常の<テンス>の考え方で何も問題がないように思われるが、
Dやの文の意味はCと何が違うだろうか?
D 私は大使館に行く人に会った。
この文の意味を通常の<テンス>の考え方からすると、発話時(いま)から見て、
「行く」はこれから「行く」で「会った」は過去に「会った」と考えてもいいかもしれない。
しかし、そうではない解釈も可能である。
Dでは『この人は大使館に行った』、という過去の解釈も可能である。
つまり、「私は(あした)大使館に行く人に(きのう)会った」ともとれるし
「私は(きのう)大使館に行く人に会った」ともとれるのである。
それでは、なぜ過去のことなのに「行った」ではなくて「行く」を使うのか?
それを解決するのが<相対テンス>という考え方である。
つまり、単文の時には発話時を基準にテンスを考えれば良かったが、連体修飾節では
主節のテンスを基準に『それよりも前=既に起こったこと=完了』の場合には「タ形」を使い、
『それと同時、またはそれよりも後=これから起こる=未完了』の場合には「ル形」を使う、
という<相対的>なテンスになっているのである。
だから、Dの文の解釈がどちらであっても、『私がその人に会う』ことと
『その人が大使館に行く』ことの順番は変わりがない。
言い方を変えれば、連体修飾節のル形やタ形は発話時を基準にしたテンスとは関係ない。
未完了か完了かを示すアスペクトであると言える。
それが主節のテンスとの関係で<相対テンス>と呼ばれるのである。
そうすると、Eの文が(発話時を基準にして)過去でもないのにタ形が使われていいることも
納得できる。
E あした一番にここに来た人にこれをあげましょう。
「来る」とうことがあって、その後に「あげる」がおこる
さらに、次のような「~時」の文の意味の違いも理解できる。
F 食べる時に 「いただきます」と言う (ル形 =主節の動詞より後/未完了)
G 食べる時に 箸を使う (ル形 =主節の動詞と同時)
H 食べた時に 「ごちそうさま」と言う (タ形 =主節の動詞より前/完了)
I 日本に来る時に、空港まで友達が見送りに来た (:自分の国の空港)
J 日本に来た時に、空港まで友達が迎えに来た (:日本の空港)
2)連体修飾節のル形とタ形は<相対テンス>の解釈を受けるのが普通だが、何事にも例外がある。
(ア)問題3、4の解説にあるように、「~テイル」ガ「~タ」となって<性状規定>を
表わすものは相対テンスの概念からははずれている。
(つまり、アスペクトから開放されている)
つまり、形容詞と同じように働いていると考えられる。
その段階性を示すと次のようになる。
・あのおもしろい人にこれをあげる。 (=形容詞)
・あのちょっと変わった人にこれをあげる。 (=性状規定 「テイル」→「タ」)
・あの赤いセーターを着た人にこれをあげる。 (=性状規定 「テイル」→「タ」)
・きのう面白い作文を書いた人にこれをあげる。 (=相対テンス/アスペクト<完了>)
※通常のテンスでも解釈可能
・これから面白い作文を書いた人にこれをあげる。(=相対テンス/アスペクト<完了>)
※通常のテンスでは解釈不能
(イ)文意(文脈)によって<相対テンス>の解釈ができない場合
(1)動詞の語彙的な条件によって
.亡くなった山本さんは東京で生まれた。
「亡くなる」と「生まれる」という単語の意味から<相対テンス>の解釈
つまり、「生まれる」前に「亡くなる」が完了している解釈は成り立たない。
(2)時を指定する副詞成分によって
・手を挙げた人が指名された。
この文の通常の解釈は<相対テンス>によって「手を挙げる」ことが
<完了>して「指名される」が続くというものである。
・さっき手を挙げた人が先月の総会で委員長に指名されたんです。
このように時の指定を受けると<相対テンス>の解釈は成り立たない。
*これまでのまとめ
文脈による例外はあるものの、連体修飾節における<相対テンス>という概念は重要なものである。それは英語などの<時制の一致>とはことなる文法概念だからである。しかも、次に見るように連体修飾節のあるタイプのものと深い関係があることも重要となる
以上、連体修飾では動作動詞に限って見たが、状態性の述語(形容詞など)はまた別の振る舞いをすることも重要であるが、ここでは触れない。
問題7 問2
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連体修飾節において「ル形」と「タ形」の選択がどちらか一方に決まる場合がある |
上の解説で連体修飾節ではル形とタ形は<相対テンス>になることを見たが、
<相対>だからといっていつもル形とタ形のどちらもが使えるというわけではない。
1)文の意味からどちらか一方に決まる場合
・学生が書いた(×書く)作文を読んだ。
・買って来た(×来る)ものを冷蔵庫に入れておいてください。
・一度契約した(×する)ものは返品できない。
・借りる(×借りた)人は、前もって登録してください。
・夏休みに行く(×行った)避暑地をまだ決めていない。
このように文の意味から一方がもう一方に必ず先行する場合にはル形かタ形かどちらかに決まる。
2)被修飾名詞の種類によってどちらか一方に決まる場合
連体修飾節の<相対テンス>という考え方は、言葉を変えれば、主節が起こることよりも
『前』なのか『同時』なのか『後』なのかということである。
このことから連体修飾節の被修飾名詞(「底」と呼ばれる」)によっては
(ア)必ずル形でなければならないもの
(イ)必ずタ形でなければならないもの
の二つがある。
具体的に見ていく前に、連体修飾節には二種類あることを復習しておきたい。
(1)「ウチ」の関係 と(2)「ソト」の関係がある
(1)は底の名詞を修飾節に戻すことができる
(2)はそれができない。さらに(2)は二つのタイプがある。
(ア)(イ)になるのは(2)の場合である。
(2)-1 <内容節=同格節>
(2)-2<相対性名詞の補充節>
(2)-1 どんな内容かを説明する節
A いっしょに食事する(という)約束をした:「という」があってもなくてもいい
B いっしょにしようという電話が来た :「という」が必要
C いっしょに食事している写真を見る :「という」がつなかい
(2)-2 被修飾名詞自体が相対性があり、修飾されることで具体的に意味が定まる
D あの人が歩いている下を地下鉄が走っている :位置関係
E 日本に着いた翌日に横浜へ行った :時間関係
F 新宿へ行った帰りにスーパーに寄る。 :時間関係(行動の順番)
新宿へ行く途中でスーパーに寄る。
G 皆で食べた残りをとっておく。 :因果関係
火事が発生した原因を調べる。 :因果関係
まず、<相対性名詞>の例から見ていく。
この名詞の特徴は、例えばEの「翌日」のように『何かが起こった後の次の日』という
意味を持っていることである。つまり、必ずなんらかの<完了>した事態を受けなければ
ならないとう制約がある。「残り」も同様に、『何かした後』でなければ成立しない
ものである。結局、「翌日」や「残り」は連体修飾では必ずタ形になるわけである。
このような制約は上の<時間関係><因果関係>の場合に起こる。
また、Fの「途中」という名詞は何かしていることと同時になされる(:前でも後でもない)
ことを前提とする。だから、<同時>を表わすために連体修飾節はル形になるわけである。
次に、Cの「という」がつなかい場合の例を見てみる。
上の例文では「写真」を挙げたが他には「におい」「音」「感触」「味」「姿」「絵」などが
ある。これらの名詞は何かが起こったときに<同時>に感じられるもの、捉えられるもの
であるから、ル形をとることが普通である。
最後に、Aのグループの例を見てみる。
ここにはいろいろな名詞が分類されるが、中にはその意味特徴からどちらか一方が必須のものが
ある。
例文の「約束」は『これからすることについて述べる』ものであるから当然ル形を要求する
わけである。
一方「経験」は『もうしたことについて述べる』ものであるから当然タ形を要求するわけ
である。
*これまでのまとめ
このように『未完了/これからする』と『同時』の意味を要求する名詞はル形によって修飾され、『完了/もうした』の意味を要求する名詞はタ形によって修飾されるのである。
(ア)必ずル形がくる場合
~スル 前、計画、予定、約束、など ←<未完了>
途中、におい、音、声、姿、など ←<同時>
(イ)必ずタ形が来る場合
~シタ 後、翌日、帰り、残り、余り、
経験、疑い、覚え、など
問題7 問3
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タ形にはモダリティを表わす用法もある |
タ形がモダリティを表わすとされる用法には以下のものがある。
1)ぞんざいな、差し迫った命令
・じゃまだから、あっちへ行った行った
2)想起:以前に見聞きしたことを思い出す(そして確認する)
注)名詞文になっていることが必要である。(「~のだった」も含む)
・しまった、あしたは試験だった。
・しまった、あしたは試験があるんだった。
3)期待していたことが実現したことを表わす。
・「バスなかなか来ないね」
「あ、来た、来た」
・「僕のめがねどこにいったかな。あ、あった、あった」
4)反実仮想
・普通の人間なら即死していたよ。
5)主観的な感情の表出
・それは、よかったですね。
・ああ疲れた。
・困ったぞ。
注)以上の分類と用例は『日本語教育能力検定試験 傾向と対策Vol.1』より
解答
問題1 (1)だけル形が<未来>を表わし、それ以外は<超時>を表わす。
問題2 4が間違い(既知や未知は関係ない)
それ以外の内容は<テンス>と<アスペクト>のタ形の説明として重要である。
問題3 (2)以外はすべて「テイル」が「タ」になったものと考えられる。
つまり、アスペクトから<性状規定>の用法になったもの。
(2)は「困っている人」の意味にはなっていない。
今回の解説では問題7でモダリティとして挙げられている(5)の例で、
話し手(たち)の主観的な感情を表出したもので、
その人が困っているのではなくて、話し手が困っているという意味である。
問題4 (2)だけが「テイル」に言い換えができる。つまり、<性状規定>になっている。
それ以外は通常の「た」(完了/過去)の用法である。
問題5 (5)だけが「テイル」に言い換えができる。つまり、<性状規定>になっている。
それ以外は(広い意味で)<相対テンス>になっている。
注)(1)(2)は通常のテンスでの解釈も可能だが、
(3)(4)も含めて広い意味で相対テンスとしてくくることができるが、
(5)だけがあきらかに異なる。
問題6 (4)は<相対テンス>の解釈が不可能であるが、
それ以外は<相対テンス>の解釈が可能である。
注)(3)(5)はこの文だけでは<相対テンス>ではない解釈も可能だが、
<相対テンス>の解釈が不可能である(4)だけが明らかに異なることになる。
問題7 問1 (ア)は(5)の「立てた」
(イ)は(3)の「行く」
問2 解説にあるように(3)が必ずル形をとる名詞である。
問3 設問に意味の説明があるので答えを見つけるのは難しくなかったでしょう。
解説の例では2)にあたる<想起>の意味になっている文を選ぶので、
解答は(5)の「そうか、来月は、28日までだった」になる。
文の意味にひっかかって(2)を選ばないように。