一人居酒屋
そぼ降る雨の道に、町の灯りがとりどりに揺れている。
タクシーのタイヤがその灯りを粉々にまき散らして走り過ぎる。
懐かしい街の黄昏の中を、つかの間でも彷徨ってみようかという感傷に陥る。
福山という街は意外と怖い所だと母に聞いたことがある。
ここも広島じゃけえのう。
説得力は全くないが私はこう見えてもかなりの慎重派である。
それでも駅ビルではあまりにも味気ないので、駅近くの居酒屋に突入した。
開店したばかりだろうか、土曜日のせいだろうか。
店にはまだ誰もいない。
おばちゃんがカウンターの一番奥の席に案内してくれた。
もちろんとりあえず生、である。
このお店は8種類くらいのお通しから好きなものが選べる。
迷うことなく肉、を選択。
しまった!
またプハッとしてから気が付いた。
せっかくなので海の幸を、と
山口産サヨリ
東京では見かけない、しゃこ。
何年振りかに食す。
どこにもある長いも。
身体が欲している。
ねばー ギブアップ。
わさびを崩してから気が付いて写真を撮る
どこにでもある焼きナス
こういう時に日本酒が飲めたらもっと楽しいと思うが
飲めない。
せめて生を瓶に。
さよりの口を開いてみる。
よしなよさよりちゃん。
よしながさゆりさんのご親戚?
車はちゃんと車庫に入れたの?
よく見るとエイリアン。
楽しい一人居酒屋。
お店のおばちゃんが食事を運んでくるたび
少しのおしゃべりをした。
翌日は新市で100歳で死んだお婆ちゃんの一周忌があるとか
出身は広島だとか、お婆ちゃんは福山に住んでいたとか。
旅先で人に話しかけるようになったのは、人が好きになったからだ、と
言ったような気がするが、どうもそうではない気もする。
まだ道の途中である。
眠れない夜
結局おあいそするまで一人だったお店を後に、夜の街に出た。
雨は上がった。
明日はよい天気に違いないと確信して
化粧品を買った時のおまけに付いていた
軽いだけが取り柄の折りたたみ傘を畳んでホテルに戻る。
狭い狭いバスタブにお湯をはり、小さくなってふくらはぎを揉み解した。
筋肉痛は太ももの上部辺りに出始めたようだ。
若い!
3時半起きの登山の後、車中でも一睡もしなかったがなんだか眠れなかった。
夜中にドアをたたかれたような音がして、何度か目が覚めた。
何より怖いのはお化けではなくニンゲンである。
いまだに実は、ニンジンが苦手である。
うとうとする脳みそ、にアイディアが浮かんだ。
そうだ、早起きして昔お婆ちゃんが住んでいた家に行ってみよう。
お婆ちゃんが住んでいた家は、今は他人の家になっている。
そのあたりのいきさつは色々と複雑だが、思い出の場所である。
花の好きなお婆ちゃんは庭に四季折々の花を一杯に咲かせて
その家は近所の方から「花やしき」と呼ばれていたものだ。
訪ねて行く時、花の中から若いお婆ちゃんが姿を現す光景が目に浮かぶ。
庭には小さな池があり、立派な鯉が泳いでいた。
お婆ちゃんの、花を咲かせる才能を引き継ぎたかった。
私はどうも苦手なのだ。
今回の旅は、去年亡くなったお婆ちゃんの一周忌に出席することがメインだった。
18切符の期間だったので、ついでに旅をすることにしたのだ。
明日は府中駅に10時20分に着けばよい。
そこまでは福山から小一時間。
朝の時間は充分ある。
懐かしい街の夜は更ける。
本日の歩数 22484歩 登山だけで10000歩を越していたからね
乗車距離 203.6キロ
つづく
やっと二日目が終わりました。
さて今日はお婆ちゃんが死んでから二度目の敬老の日。
全国のお年寄り(65歳以上は高齢者??汗・・)の皆様
いつまでもお元気で!
ご訪問ありがとうございます。
感謝をこめて
つる姫