ヒッチハイカー?!
水とパンが胃の中に流れ込み、どろどろの血もすんなりと流れ始めた。
登り坂で死ぬかと思った事など、もうすっかり忘れていた。
人間は「忘れる」という素晴らしい才能を持っている、と感じる。
いちいち覚えていたら生きていけない。
電車を待っていると、駅前でにぎやかな声がする。
「ヒッチハイク」という言葉が耳に入った。
見ると同じ色のバンダナを巻いた5人の若者達が、
駅前で仕事を始めた観光協会の人たちと話をしている。
そのキーワードがとても気になって外に出た。
勇気を出して、その中の一人に話しかけた。
グループを作って、ヒッチハイクをしているそうだ。
「私の息子もヒッチハイクで日本一周したんですよ。
頑張ってくださいね」
若者たちはさすがに驚いていたが、一緒に写真を撮ってもらった。
若いって素晴らしい。
後で知った事だが
このヒッチハイクのグループは息子の友達の友達が企画しているらしい。
多分彼らと息子は、どこかで繋がるだろう。
ちょい悪ママとしては、どこに行っても悪い事は出来ないと思った。
缶ビール片手に歩いていなくてよかった。
さあ、女一人でヒッチハイクは出来ないので
電車に乗って姫路まで戻り、まだまだ西へ向かう。
旅仕様の視力
この年まで裸眼で生きている私だが、
若い頃から左右の視力がバラバラで、右目の視力がよかった。
そのため、近年は遠くを右目で見て
視力の悪かった左目で近く見るという、歩く遠近両用で便利に暮らしているが
旅に出ると特に遠くがよく見える。
いつも不思議に思っていたが
多分「ストレス」が、なくなって右脳だか左脳が活性化されて
それが視力に反映するのではないかと思った。
駅で停車した時など、線路脇の葉っぱの上の小さな虫だって見える。
あなたには見えるだろうか。
その代わりではあるが、ポケット時刻表の字が読みづらくて困る。
赤穂線に乗って
姫路から岡山に向けては、海の近くを走る赤穂線に乗ってみる事にした。
駅名で一番最初に出てくるのは
おいおい立ち寄ってみる事にしよう。
来る前に少し調べたのだが
この赤穂線の沿線の「坂越」というところは牡蠣で有名らしい。
シーズンではないがそれほど有名なら、この時期も美味しい牡蠣が食べれるのではと
途中下車してみた。
広島出身じゃけえね。牡蠣が大好きなんよ。
しかし、駅の周りには何もない。
駅は無人だし、仕方ないので派出所で尋ねてみた。
どうも30分ほど歩いたところに港があり、そこまで行けば何かあるかも知れない
と言う位の事しかご存知なかった。
転勤族なのだろうか。
一旦そちらの方に向かい始めたのだが、この時点で体感気温は30度。
おまけに、死にかけた登山の後である。
いつもなら30分の歩きなど何の苦にもならないのだが
やめたっ。
潔くあきらめて、途中にあった酒屋で第三のビールをゲット。
お店のおばちゃんと少しの会話をして、お店を出てすぐにプシュ。
まるで、朝からプシュッとして散歩しているおっさんである。
しかし、先ほど使い果たしたBWER細胞を作成しておかなければ。
もう200回以上成功しています。
電車は30分に一本ほど。
次は播州赤穂駅である。
そこで降りて赤穂城跡にでも行ってみよう。
美味しいものが食べれるかもしれない。
坂越に完敗。いや乾杯。
牡蠣牡蠣牡蠣
赤穂と言えば
ぐらしんちゅう。
観光案内で赤穂城に行く道を尋ねると、15分ほどだと言われたが
大嘘である。
瀬戸内気候の影響か蒸し暑い中を30分ほど歩いた。
私が山に登る人に、めちゃくちゃきついですよ、と言ってあげたのは
多分正解だった。
金麦が作成した水分が吹き出してくる。
だがその途中牡蠣の食べれるお店を発見して
急に元気が出て赤穂城まで頑張った。
城跡に着くと、門の所で案内図などを配っているおじさんに「ぜひ上ってみて」と勧められて
天守台跡まで上ってみた。
数段の階段だが、これがまた非常にきつい階段なのだ。
昔は身長が150センチに満たない武士が、鎧を着てあの階段を上がるのは
かなり厳しかったようだ、とおじさんが言っていた。
赤穂四十七士。
どんな歴史を見ても、その一つ一つが今の日本を作ってきたのだと感じる。
先ほどのおじさんとしばらく立ち話をした。
自分も竹田城址に行ったことがあると、ガラ携に保存したピクチャーを必死で探している。
画像を見せてくれようとしていたのだが、結局見つからなかった。
出てくるのは孫の写真ばかり。
さてさて、今度こそお楽しみタイムだ。
一年中牡蠣が食べれるというお店に入ろうとすると
お店の前で小さな子が、さらに小さな子のお守りをしている可愛い光景に出合った。
お店に突入して
まずは生ガキ
いや、正確にはまずは生ビールだったが
ビールはあっという間で、またまた大失敗。画像すらない。
ううううううんま~~い!
でも、ちょっと塩加減が強いかな。
次は焼きガキ
うう~~~~~~~~~~~~~~まい!
塩加減も絶妙である。
もう一回生か焼きを食べようかと思ったが、迷いに迷って最後に
カキのチーズソース焼きってものを食べてみた。
これまた初めての美味しさ。
普段生ガキが一番好きなのだが、この店でもう一品頼むとしたら焼きガキ。
ふっくらジューシーでおいしゅうございました。
旅に出て美味しいものを食べれるようになったのは
ほんの一、二年前からだ。
それまでは一人でお店に入るのが苦手で、コンビニで済ませていた。
年を重ねてよいことのひとつは、恥ずかしい事があまりなくなることである。
が、恥じらいを忘れてしまったら本当のおばさんになってしまう。
その辺りの兼ね合いが難しい。
赤穂線から山陽線へ
昔実家の母が好きだと言っていた播州赤穂の塩饅頭。
その名前を思い出してお土産を買う。
母はこの辺りに住んでいたらしく、このお店の娘さんと友達だったと聞いた。
ご当地ヒーローだろう。
顔を出したいが一人旅である。
赤穂から岡山に向かう途中の乗り継ぎでふと億歩計を見ると
なんというタイミング。
あと1歩で2万歩である。
一歩前!
岡山からは山陽本線で福山に向かう。
道に迷う事もない懐かしい町が待っている。
瀬戸内海を遠くに見ながら電車に揺られていると
途中でまた雨が降り始めた。
空には不気味な雨雲が広がっている。
そんな雨に少しも濡れる事もなくラッキーな一日だったなと、感謝して
懐かしい福山駅のホームに降りた。
雨が降ったせいだろうか、思いのほか涼しい。
駅ビルで、替えのなかった靴下を購入して、ビジネスホテルにチェックインする。
「サービスをしないのがサービスです」と謳ったこのホテル。
それにしても、フロントのおばちゃんの態度の悪い事。
それとこれとは違うだろう、と心で怒る。
寝れればよいのだ。
そう思い直して化粧も直し、小雨の中を今夜の美味しいものを探して街に出た。
福山でお酒を飲んだ事はほとんどない。
お婆ちゃんが住むこの街にバスで2時間半もかかって遊びに来て
天満屋の屋上でお子様ランチを食べ
その後で、ソフトクリームがとけ始めるまでに食べきれない位
ちいちゃくて可愛いかった私が、今は今夜の肴を探して歩いている。
途中で道を聞かれて、しかもしっかり答えられた自分は
すでにもう旅人でなかった。
つづく
まだこの一日が終わりません。
最後までおつきあいくださりありがとうございます。
感謝をこめて
つる姫