列車で長い旅をしています。
大陸横断するみたいな旅です。
私のブースは畳半畳ほど。
ここに荷物を積み上げてそれを枕に床をつくり、
たった独りで何日もかけて家に帰ろうとしているところです。
退屈しのぎに他の車両の探検にいきました。
畳半畳のブースの環境にちょっと不満を感じていましたが、
さらに悪い環境で旅をしている人達をしりました。
しかし彼らは隣り合わせた人々と友人関係を結んで旅を楽しんでいます。
ちょっとうらやましいです。 わたしは、彼らの利用するラウンジへ行きました。
快適な広いブースです。小さな中庭まであります。
みると中型から大型の犬が6~7匹うろうろしています。
リアルでは犬の嫌いなわたしですが、
そのうちの1匹がなぜかわたしにすりよって、
やさーしくやさーしくアマ噛みをしてきます。
ブルーグレーのベルベットみたいな表皮をしたでかい犬です。
ういやつじゃのぉ。。。ひとしきり犬と遊びました。
ふと気が付くと地面があります。「ん?」
ここは、もう乗り物の中なんかではない。自分の意思でもないのに、
列車を降りてしまったようです。 困ったな。。。
ポケットには小銭入れしかありません。
チケットもたくさんの日用品も主人を置き去りにして
家のあるらしい街へ向かっているのでしょう。
=また、帰れないのか。=
いつものパターンです。悲しさがうちよせてきます。
駅です。幾台もの列車が入れ替わり立ち代り過ぎ去っていきます。
思い切って、国鉄の社員らしき人に声をかけました。
歳は27歳くらいで、体育会系の健康的な美人です。
婦人警官みたいにもみえます。鼻にむかって
中央より右よりにある黒子と長くて黒い真っ直ぐな髪が特徴的です。
彼女に事情を話しました。彼女は、わたしのことを
未成年者だと思っているようです。
わたしを証明するものはなにもないのに、
善処しようとしてくれます。国鉄の偉い人がやってきました。
彼女は偉い人にフランクに話しをします。
どうやら偉い人は彼女のお父さんのようです。 「この少女に、
【山岳学会】のタグを発行しよう。」それが彼らの善処案でした。
【山岳学会】のタグは青地の小さなリボンです。
【山岳学会】に出席した人が列車で帰宅する際の識別です。
識別タグのついた人々は社会的にすこぶる信用度があるらしく
あらゆる場面がイロイロフリーパスになるみたいです。
リボンの偽造がばれるとややこしいことになるんじゃないの?
そう思いました。偽造までして家にかえらなきゃならないの?
そうも思いました。 そこへ、わたしを証明する物が届きました。
保険証です。保険証の間には、
海水浴のとき撮影したちょっと卑猥な水着の写真と、
海で拾ったアサリの貝殻が挟んでありました。
【山岳学会】のメンバーには似合わない
おバカさん丸出しを証明する品です。
家で待つ息子が母を心配して駅に届けた品物でした。
嘘なんてつきとうせそうにない。
誤解されたままの状態に非常に抵抗感のある性質です。
無理。帰れない。