ユリイカ 2007年7月号 特集=石井桃子 一〇〇年のおはなし青土社このアイテムの詳細を見る |
ときどき
児童文学作家にして翻訳家としても高名であった石井桃子さんが亡くなりました。享年百一歳。昨年、福音館・岩波書店共催で生誕百年フェアが行なわれたのも記憶に新しいところです。
YOMIURI ONLINE
石井さんについては、当ブログでも、昨年ここでちょっと触れたことがあります。
その時は「ピーター・ラビット」関連でしたが、他にも「うさこちゃん」シリーズ、「くまのプーさん」、エリナー・ファージョンの作品集等々、小さい時から愛読して来た海外名作の翻訳者として、どれほどお世話になったか知れません。「プーさん」の「ゾゾ」の話の名訳など、かつては暗記しているほどでした。「ドリトル先生」シリーズも井伏鱒二・訳となっていますが、実質的には石井さんの訳だった筈です。
「ファンタジーブーム」なるものが喧伝される昨今ですが、かつては「ファンタジー」と言えば、児童文学の一ジャンルくらいの扱いでした。しかし、その方面に名作傑作が多いことも事実であり、それらの作品を翻訳紹介した方たちの意欲や尽力は並々ならぬものでした。
言ってしまいますが、英米ファンタジーを語る上で、石井桃子や瀬田貞二の翻訳を経て来なかった人や、その業績に関心を払わなかったり軽んじたりする人たちを、私は決して信用しないし、不幸な人たちだとさえ思います。
石井桃子さん自身の作品としては、今さら紹介するまでもありませんが、『ノンちゃん雲に乗る』に触れておきましょう。
これも日本のファンタジーの傑作であり、『となりのトトロ』などにもこの作品からの影響が感じられます。
自分が優等生であることに何の疑問も抱いていなかった女の子が、「雲」の上での不思議な出来事を経て成長して行く話──ですが、散りばめられたエピソードからは、「戦前」の日本が決してただ暗いだけの時代でなかったことが判るし、「その後」の、つまり戦中から戦後にかけてのノンちゃんの述懐も、かろやかで爽やかで、でもどこか寂しくて、子供の頃から心に残っています。
今の子供たちも、また未来の子供たちにも、石井さんがお書きになった本や翻訳された海外の名作が読み継がれて行くことを願います。本当に長い間ありがとうございました。
ノンちゃん雲に乗る (福音館創作童話シリーズ)中川 宗弥,石井 桃子福音館書店このアイテムの詳細を見る |