Aβは、前駆体タンパク質からタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で切り出されることによって生成します。ここで、ペプチドの構造について簡単に説明します。ペプチドはアミノ酸の重合体です。アミノ酸はアミノ基(‐NH_2)とカルボキシ基質(-COOH)を有します。二つのアミノ酸が重合してできたペプチドをジペプチドと呼びます。重合の際に片方のアミノ酸はカルボキシ基を、もう一方はアミノ基を供してペプチド結合を形成します。その結果、ジペプチドには、最初のアミノ酸のアミノ基と二番目のアミノ酸のカルボキシ基が残ります。これは、三つのアミノ酸からなるトリペプチドやそれよりも長いペプチドになっても同様です。
アミノ基のあるアミノ末端、カルボキシ基のある側をカルボキシ末端と呼びます。通常は、アミノ酸を一文字表記し、アミノ末端側を左に、カルボキシ末端を右側に表記します。Aβは役40のアミノ酸が重合したペプチドてすが、Aβ1-40というくらい、表記はアミノ末端側一番目のアミノ酸残基から40番目のカルボキシ末端残基までの40のアミノ酸残基から成ることを意味します。
アミノ酸一文字表記については詳しくは述べませんが、Aβ1-40の場合は、N末端からD(アスパラギン酸)、A(アラニン)、E(グルタミン酸)…ということになります。
さて、Aβにはカルボキシ末端構造と異なるAβ1-40とAβ1-42があります。これが生成されるプロセスは定常的現象ですから、Aβは生理的ペプチドと呼ぶことができます。
ただし、その生理機能は明らかではありません。APP代謝における単なる副産物だと私は考えています。APPやその類人タンパク質は、神経細胞の接着に関与することが示されています。また、APPの細胞外領域はプロテアーゼで切断されて細胞外液に放出されますが、プロテアーゼ阻害活性を有するので、過剰なタンパク質分解を制御する働きがあると考えられます。
Aβの物性は水溶液中で徐々にβシート構造(水素結合をした平面構造)の比率が増加して、きわめて重合・凝集しやすいのが特徴です。Aβ1-42やそのアミノ末端が欠けたAβx-42は、Aβx-40と比較してこの性質が強いことがわかっています。その結果として神経毒性が強く、いわゆる病原性の「Aβ」だということになります。このことは、多くの家族性アルツハイマー病原因遺伝子変異がAβx-42生産を上昇させることとよく一致します。