現在、アルツハイマー病の根本的治療の対象として、脳内のAβレベルを下げるアプローチが精力的に進められています。これまでの主流のアプローチは、セレクターゼの阻害剤とAβワクチンです。動物実験においてある程度の効果が認められたので、現在臨床試験の最中です。Aβ分解酵素ネプリライシンを活性化する方法も探られています。
Aβワクチンは、Aβに対する抗体を用いて脳内のAβを除去するものです。能動免疫と受動免疫の二つに分けられます。能動免疫は、抗体(Aβペプチドあるいは誘導体)を投与して患者の免疫系に抗体を産生させる方法です。当然ながら、免疫応答は個人差があります。受動免疫は、あらかじめAβに対して作製した抗体を投与します。モノクローナル抗体という均質な抗体を用いるので、個人差やロット差はありません。ただ、抗体医薬品は一般的に高価なので、医療経済学的な理由から普及は容易でありません。
これまで述べてきたように、アルツハイマー病の発症機構について不明なことはまだ沢山あります。しかしながら、原因が生じてから発症に至るまで長期間を要すること、そして、老人斑→神経原線維変化→神経変性という三大病理が存在することは、複数の治療標的があることを意味します。このような理由から、複数の標的に作用する医薬品を組み合わせる、いわゆるカクテル療法が有効な治療法になることが期待されます。