家族性アルツハイマーの原因遺伝子として同定されたものは、これまでに三つあります。コードされるタンパク質はいずれも膜タンパク質で、アミロイド前駆体タンパク質(APP:Amyloid Precurse Protein)、プレセニリンⅠ、プレセニリン2と呼ばれます。これまでに、これらの遺伝子の変異は100以上が同定され、調べられた変異の全てがAβの蓄積を促進する作用がありました。そして、そのほとんどが、次節で述べるように、アミロイド前駆体タンパク質からAβが生じる過程に影響します。
とくに大切なことは、培養細胞を用いるイン・ビトロ(細胞生物学)の実験と遺伝子改変動物を用いるイン・ビボ(発生工学)の実験の結果が、互いに矛盾なく一致したことです。この結果によって、「アルツハイマー病はAβ蓄積によって引き起こされる」というAβ仮説が強く支持されるようになりました。
比較的最近、アミロイド前駆体タンパク質の遺伝子座(染色体における遺伝子の位置)の重複が、家族性アルツハイマー病の原因となることが報告されました。Aβ仮説を″だめ押し″的に支持します。実は、第21染色体のトリソミー(染色体が一つ過剰の状態)によって引き起こされるダウン症の患者さんは、30代頃からアルツハイマー病病理が生じ、50代頃に認知症症状が見られることが知られています。第21染色体にアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子座が存在するからです。
さらに、孤発性アルツハイマー病の遺伝的危険因子としてアポリポタンパク質EのLatin_4が知られており、メカニズムは確定していませんが、ヒト脳内でのAβ蓄積を促進します。また、アルツハイマー病以外の疾患でも、脳内にアミロイド様のペプチドが蓄積し、結果として神経原線維変化を伴う認知症に至ることがわかり、アルツハイマー病におけるAβ仮説は確定したといってよいでしょう。