一寸の兎にも五分の魂~展覧会おぼえがき

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単眼鏡必携「源氏絵と伊勢絵」今週末まで!@東京・出光美術館

2013-05-17 | 展覧会
今年のはじめ、「オリエントの美術」展に行ったときから楽しみにしていた、出光美術館の「源氏絵と伊勢絵」展



あれよあれよというまに会期も終わりに近づいてしまったので、スケジュール的にかなり無理をして行ってまいりました。

今回の展覧会は、絵師・土佐光吉(1539~1613)の没後400年を記念して、出光美術館が所蔵する光吉作品を中心に、日本の古典文学の東の横綱『源氏物語』と西の横綱『伊勢物語』(東西に深い意味はありません)を描いた作品をセレクトしたものです。

土佐光吉の名を知らない方も多いかもしれませんが、生没年をみるとおわかりのように、いわゆる「関が原」をまたにかけて活躍した絵師、といえば時代のイメージはつかんでいただけるでしょうか。

同時代に活躍した絵師には、桃山時代を代表する狩野永徳やその弟子山楽(このブログでも、狩野山楽展のミュージアムグッズをご紹介しました)がいます。

が、作風はまったく異なり、光吉は土佐派のやまと絵の伝統を踏まえ、主に『源氏物語』を主題にした「源氏絵」を多く描いています。『伊勢物語』を題材にして当時人気のあった「伊勢絵」からの影響も受けながら、新しい「源氏絵」の場面を生み出していったそうです。


実は、この展覧会がはじまるまえに、『日本の美術 no.543 土佐光吉と近世やまと絵の系譜』を読み、光吉の描く貴人の独特の優雅さが気に入り、ぜひ本物を見てみたいと思っていた矢先だったので、この展覧会はとても楽しみにしていたのです。

しかし! いざ行ってみると、作品が小さすぎてよく見えない!

そうなのです。光吉の作品は、特に「源氏物語手鑑」や色紙はかなり画面が小さく、その小さい画面のなかで人物はさらにとても小さく描かれており、顔の描写も含めて、細かいところが見づらいのです。

作品保護のために、照明が控えめなのも、その傾向を強めています。

しかも会期満了直前ということで、平日の昼間なのに予想以上の客入り(ざっと見回しただけでも、ひとつの展示室に6、70名はいたのではないでしょうか)。

思ったように、じっくり見ることができません。

状況は屏風でも同じこと。「源氏物語図屏風」のような屏風絵のほうが、多少絵柄は大きいのですが、今度はガラスケース越しに少し画面が遠くなるので、やっぱり見えづらい。

せっかくの貴人の顔も、本で見るほどはっきりとは見えず、特に光吉に特徴的なはずの切れ長の眼の表情がよくわからなくて、残念至極。

単眼鏡を持っていかなかったことを激しく後悔しました。

学生時代から愛用していた単眼鏡を失くして以来、次を買う気になれないまま過ごしてきたのですが、今日きっぱりと新しいものを購入する気になりました(まだ買ってませんけど)。

というわけで、あと2日しか会期はありませんが、もしこれから行こうという方がいらっしゃるなら、単眼鏡(双眼鏡でもよいですが……)をお持ちになることをおすすめします。

それにしても、今回の展示作品46点のうち、数点をのぞき出光美術館の所蔵品とのこと。よくこのテーマでこれだけ質の高い作品を集めたもの、と感心しました。

さすが、出光興産。

やはり一応、『海賊とよばれた男』は読んでおくべきだろうか。

それはともかく、個人的に期待していったもう一人の絵師、岩佐又兵衛の「源氏物語 野々宮図」と「在原業平図」も、展覧会の冒頭を華々しく飾っていました。※作品の画像をご覧になりたい方はこちら

「野々宮図」はもともとは「官女観菊図」(山種美術館)などとともに6曲1双の「金谷屏風」を構成したとされる作品です。

「官女観菊図」はちょうどサントリー美術館の「『もののあはれ』と日本の美」展以前ご紹介しました)で見たばかりなので記憶も新しく、ちょっとうっとりしたようなぼーっとした官女の表情や偏執狂的に細かい文様表現などが、「野々宮図」の源氏と共通していて興味深かったです。

こうしてみると、岩佐又兵衛の守備範囲の広さにも、あらためて感心。「もののあはれ」展のときにも書きましたが、岩佐又兵衛の筆になるといわれる「豊国祭礼図屏風」(徳川美術館)や東京国立博物館所蔵の「洛中洛外図 舟木本」、「山中常盤物語絵巻(MOA美術館)のダイナミックな、ときに猛々しく、騒々しくもある描写とはうってかわった、このまったりとした典雅さ、ぬぼーっとした印象は一体……。

規模は小さいながら、密度の濃い展示で楽しませてくれるこの展覧会。

しかし、残念ながら5月19日(日)に終わってしまいます。

自館の所蔵が多いとはいえ、「源氏絵」や「伊勢絵」をこれだけまとまって観られる機会はあまりないように思います。

お見逃しなきよう。

《おすすめの本》※会場でも売ってます。
『すぐわかる源氏物語の絵画』田口榮一監修、本体2,000円、2009年02月、A5判、152ページ
『源氏物語』54巻を1巻につき見開き2頁で、あらすじ・絵巻などに描かれた場面の約束事や見どころをわかりやすく紹介します。


最後に、「源氏絵と伊勢絵」展の紹介については、このブログがとても詳細です。かなりよく調べてあって、感心しました(って感心してる場合じゃないですけど、ま、いいか)。→the Salon of Vertigo「源氏絵と伊勢絵」


****以下、美術館HPの開催概要より****

2013年は、桃山時代に源氏絵をリードした絵師・土佐光吉(1539~1613)の没後400年にあたります。そこで、この展覧会では光吉とその時代の源氏絵を、源氏絵に近接する物語絵画、とりわけ伊勢絵との比較によってとらえなおします。
11世紀はじめに成立した『源氏物語』は、そこからほとんど時を経ずに絵画化されるようになったといわれます。成立からおよそ1千年を経過した今なお、金銀や極彩色によって飾られた王朝の恋模様は、多くの人々を魅了してやみません。
ところで、『源氏物語』が、登場人物の設定や各帖の内容において、先行するいくつかの文学作品に着想を得ていることはよく知られます。在原業平と目される「男」の一代記『伊勢物語』も、その重要な発想源のひとつでした。それぞれの物語の主人公・光源氏と業平は、互いに天皇の血を引く生い立ちや、知性と美貌をかねそなえるところを通わせるほかにも、ヒロインの立場や恋の顛末など、物語の筋にもよく似た部分がいくつも見られます。
今回は、テキストに認められる密接な関係をそれぞれの絵画にも当てはめ、光吉を中心とする17世紀の源氏絵と伊勢絵との間に、図様や表現を通わせている例を見出します。その上で、当時の公家たちの注釈理解などを手がかりに、このような交響の理由を探ります。
この展覧会は、これまで別々に展示されることの多かった源氏絵と伊勢絵を一望のもとにとらえ、それぞれの新鮮な見方を紹介するものです。

開館時間
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)

会期・開館時間等は都合により変更することがあります。最新情報は当ウェブサイトまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。

休館日
毎週月曜日
※ただし4月29日、5月6日は開館します

入館料
一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上 各200円引)
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)
※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です

電話番号
ハローダイヤル
03-5777-8600(展覧会案内)



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