前回に引き続き、「鹿島茂コレクション バルビエ×ラブルール」展について。
今回は、もうひとりの主役、ジャン=エミール・ラブルール(Jean-Emile Laboureur,1877-1943)が登場します。
でも、その前に、今回の会場、群馬県立館林美術館の工夫をご紹介。
◎子どもも楽しめる展覧会に
館林美術館は、立地条件からして、家族連れのお客様も多いのでしょう。
昨今、美術館では子どもになじみやすいように、さまざまな工夫をしています。たとえば、今年の2月に東京都美術館で開催されていた「エル・グレコ展」では、子どもを対象とした特別の解説がかわいいイラスト入りで会場に設置されていて、私もそうでしたが、大人も参考にしていました。
今回の展覧会でも、子どものための小冊子が無料で置かれています。

(館林美術館で配布されている子ども向けの「バルビエ×ラブルール」展パンフレット。バックのシロクマは次回への伏線)
このパンフレットがなかなかのすぐれもの。両面印刷で、片面ずつ、バルビエとラブルールの代表的な作品が紹介されています。

これが無料とは。館林美術館、親切です。
子どもでなくてもほしくなります(自分用と友達用、2部もいただいてしまいました。ゴメンナサイ)。
◎一筋縄ではいかないラブルール
さて、いよいよラブルールについて。
バルビエとほぼ同時代のパリを生きた画家(というよりむしろ、イラストレーター)ですが、装飾的なバルビエとはまったく異なる作風です。
しかも、ラブルールの作風は多彩で一言では言い切れません。
ひとつめは、ヴァロットンを思わせる、太めの輪郭線が印象的な木版画。

(ラブルール《フィブス》1897年のポストカードより)
もうひとつは、シャープな線描が特徴的なエングレーヴィングやエッチング。

(ジャン=エミール・ラブルールによる『色彩』(レミ・ド・グールモン著1929年)より「黒」、美術館HPより引用)
バルビエの作風とはだいぶ異なることがおわかりいただけたでしょうか。
展示室は隣り合っており、これまでたっぷり見てきたバルビエの装飾的な世界から、一気にキュビズム的な造形感覚へと世界が変わるので、慣れるまでに少し時間がかかるかもしれません。
ラブルールの場合、描くテーマも、パリの街角やミュージック・ホールといった都会的な情景から、隠棲したブリエールの自然を描いた場面まで、多岐にわたっています。
ただ、人間を描いていても、昆虫や魚といった自然や小動物を描いていても生々しさがなく、白昼夢のような非現実的な印象を与えるのが特徴的。
細長くひきのばされたプロポーションはコミカルでもあり、すぐに誰とは言えないのですが、その後の絵本作家に影響を与えたのではないかとも思われます。
ラブルールについて、鹿島先生は「とにかく、いくら紙幅を費やしたところで、銅板のプレスがくっきりとついた挿絵本を1冊手に取ってみなければ、ラブルールのビュランのモダンでしゃれたタッチを本当の意味で実感することはできないだろう」と書いておられます。
まあ、私たちは「手に取る」ことはさすがにできないのですが、展示室では
作品はガラス越しなのでかなり近寄ることができるものもあり、「銅板のプレスがくっきりついた」様子を実感することはできます。
今回の展覧会は、それを自分の目で確かめる貴重な機会ですので、ぜひお見逃しなきよう。
◎時間に余裕をもっていくのがおすすめ
それにしても、これだけのコレクションを実際に目にすることができる機会は滅多にないこと。
鹿島先生が大変なお金と時間をかけて集め、学芸員の方々が工夫をこらして展示し、至れりつくせりの状況で、しかも観覧料はたったの600円!
これを観ずしてなんとしましょう!
館林美術館は展示室が広いので、120点もの作品が並べられても窮屈でなく、ゆったり見られます。
でも、バルビエもラブルールもじっくり見出すとあっという間に時間がたってしまいます。
しかも、ひとつひとつの作品にかなり詳しい解説がついているので、それを読み出すとまた、なかなか進みません。
なので、ゆっくりと時間をとって行かれることをお薦めします。
くたびれたら、美術館併設のレストランで一服もよし、美術館の庭の木立に囲まれたベンチでくつろぐもよし。

ちなみに、レストラン「イル・コルネット」はハッシュ・ド・ビーフがおいしいことで有名だそうです。
私はあいにく時間切れで利用できなかったのですが、眺めもよいですし、次回はぜひ、のんびりしたいと思います。
そして最後に、館林美術館では、そのほかにも、常設展示でとても素敵な作品がみられます。
それについては、また日をあらためてご紹介しましょう。
****以下、美術館HPの開催概要より****
フランス文学者の鹿島茂氏は、フランスの文学や歴史、また日仏の文化に関する幅広い執筆活動のみならず、約5万冊という膨大な数の西洋古書・版画を所蔵するコレクターとしても知られています。本展は、鹿島氏愛蔵のコレクションより、20世紀初頭のフランスで活躍した2人のイラストレーター、ジョルジュ・バルビエ(George Barbier, 1882-1932)とジャン=エミール・ラブルール(Jean-Emile Laboureur, 1877-1943)を紹介するものです。
二つの大戦間にあたる1920年代、フランスはバブル景気に沸き、モードや建築、出版業界に華やいだ空気が広がります。「アール・デコ」と呼ばれるこのモダンな時代の美をヴィヴィッドに映し出した一つの分野がグラフィック・アートでした。そのイラストレーターの中で、今回ご紹介するバルビエは、モード雑誌や文学の挿絵、舞台装飾まで手がけ、優美な色彩により一世を風靡、一方のラブルールは、都会の風景や人間像をシャープな線描によってクールでドライに描いて人気を博しました。
対照的なスタイルの両者ですが、実はどちらもフランス西部の町ナントに生まれ、同地の慧眼なる共通
のコレクターに見出されて才能を開花させた、アール・デコのモダンを語る上で欠かせない芸術家であった
ということが、本展を通してご覧頂けることでしょう。
バルビエのファッション・プレートや豪華挿絵本、ラブルールの版画作品や挿絵本、あわせて約120点をご紹介する本展により、グラフィック・アートの黄金時代をどうぞご堪能ください。
鹿島茂氏プロフィール
1949年、神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院人文科学研究博士課程修了。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナ―賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞を受賞、他著作多数。共立女子大学教授を経て、2008年より明治大学国際日本学部教授。専門は19世紀フランス文学。
会期 2013年4月27日(土)-6月30日(日)
時間 午前9時30分-午後5時 ※入館は閉館30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・祝)は開館、5月7日(火)休館)
詳細はこちらをご覧ください。
観覧料 一般600円(480円)、大高生300円(240円)
※( ) 内は20名以上の団体割引料金
※中学生以下、障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料。
※震災で避難されてきた方は無料で観覧できますので、受付でお申し出ください。
主催 群馬県立館林美術館/読売新聞社/美術館連絡協議会
後援 フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛 ライオン/清水建設/大日本印刷/損保ジャパン/日本テレビ放送網
協力 練馬区立美術館/ノエマ/群馬日仏協会/プリオコーポレーション
今回は、もうひとりの主役、ジャン=エミール・ラブルール(Jean-Emile Laboureur,1877-1943)が登場します。
でも、その前に、今回の会場、群馬県立館林美術館の工夫をご紹介。
◎子どもも楽しめる展覧会に
館林美術館は、立地条件からして、家族連れのお客様も多いのでしょう。
昨今、美術館では子どもになじみやすいように、さまざまな工夫をしています。たとえば、今年の2月に東京都美術館で開催されていた「エル・グレコ展」では、子どもを対象とした特別の解説がかわいいイラスト入りで会場に設置されていて、私もそうでしたが、大人も参考にしていました。
今回の展覧会でも、子どものための小冊子が無料で置かれています。

(館林美術館で配布されている子ども向けの「バルビエ×ラブルール」展パンフレット。バックのシロクマは次回への伏線)
このパンフレットがなかなかのすぐれもの。両面印刷で、片面ずつ、バルビエとラブルールの代表的な作品が紹介されています。

これが無料とは。館林美術館、親切です。
子どもでなくてもほしくなります(自分用と友達用、2部もいただいてしまいました。ゴメンナサイ)。
◎一筋縄ではいかないラブルール
さて、いよいよラブルールについて。
バルビエとほぼ同時代のパリを生きた画家(というよりむしろ、イラストレーター)ですが、装飾的なバルビエとはまったく異なる作風です。
しかも、ラブルールの作風は多彩で一言では言い切れません。
ひとつめは、ヴァロットンを思わせる、太めの輪郭線が印象的な木版画。

(ラブルール《フィブス》1897年のポストカードより)
もうひとつは、シャープな線描が特徴的なエングレーヴィングやエッチング。

(ジャン=エミール・ラブルールによる『色彩』(レミ・ド・グールモン著1929年)より「黒」、美術館HPより引用)
バルビエの作風とはだいぶ異なることがおわかりいただけたでしょうか。
展示室は隣り合っており、これまでたっぷり見てきたバルビエの装飾的な世界から、一気にキュビズム的な造形感覚へと世界が変わるので、慣れるまでに少し時間がかかるかもしれません。
ラブルールの場合、描くテーマも、パリの街角やミュージック・ホールといった都会的な情景から、隠棲したブリエールの自然を描いた場面まで、多岐にわたっています。
ただ、人間を描いていても、昆虫や魚といった自然や小動物を描いていても生々しさがなく、白昼夢のような非現実的な印象を与えるのが特徴的。
細長くひきのばされたプロポーションはコミカルでもあり、すぐに誰とは言えないのですが、その後の絵本作家に影響を与えたのではないかとも思われます。
ラブルールについて、鹿島先生は「とにかく、いくら紙幅を費やしたところで、銅板のプレスがくっきりとついた挿絵本を1冊手に取ってみなければ、ラブルールのビュランのモダンでしゃれたタッチを本当の意味で実感することはできないだろう」と書いておられます。
まあ、私たちは「手に取る」ことはさすがにできないのですが、展示室では
作品はガラス越しなのでかなり近寄ることができるものもあり、「銅板のプレスがくっきりついた」様子を実感することはできます。
今回の展覧会は、それを自分の目で確かめる貴重な機会ですので、ぜひお見逃しなきよう。
◎時間に余裕をもっていくのがおすすめ
それにしても、これだけのコレクションを実際に目にすることができる機会は滅多にないこと。
鹿島先生が大変なお金と時間をかけて集め、学芸員の方々が工夫をこらして展示し、至れりつくせりの状況で、しかも観覧料はたったの600円!
これを観ずしてなんとしましょう!
館林美術館は展示室が広いので、120点もの作品が並べられても窮屈でなく、ゆったり見られます。
でも、バルビエもラブルールもじっくり見出すとあっという間に時間がたってしまいます。
しかも、ひとつひとつの作品にかなり詳しい解説がついているので、それを読み出すとまた、なかなか進みません。
なので、ゆっくりと時間をとって行かれることをお薦めします。
くたびれたら、美術館併設のレストランで一服もよし、美術館の庭の木立に囲まれたベンチでくつろぐもよし。

ちなみに、レストラン「イル・コルネット」はハッシュ・ド・ビーフがおいしいことで有名だそうです。
私はあいにく時間切れで利用できなかったのですが、眺めもよいですし、次回はぜひ、のんびりしたいと思います。
そして最後に、館林美術館では、そのほかにも、常設展示でとても素敵な作品がみられます。
それについては、また日をあらためてご紹介しましょう。
****以下、美術館HPの開催概要より****
フランス文学者の鹿島茂氏は、フランスの文学や歴史、また日仏の文化に関する幅広い執筆活動のみならず、約5万冊という膨大な数の西洋古書・版画を所蔵するコレクターとしても知られています。本展は、鹿島氏愛蔵のコレクションより、20世紀初頭のフランスで活躍した2人のイラストレーター、ジョルジュ・バルビエ(George Barbier, 1882-1932)とジャン=エミール・ラブルール(Jean-Emile Laboureur, 1877-1943)を紹介するものです。
二つの大戦間にあたる1920年代、フランスはバブル景気に沸き、モードや建築、出版業界に華やいだ空気が広がります。「アール・デコ」と呼ばれるこのモダンな時代の美をヴィヴィッドに映し出した一つの分野がグラフィック・アートでした。そのイラストレーターの中で、今回ご紹介するバルビエは、モード雑誌や文学の挿絵、舞台装飾まで手がけ、優美な色彩により一世を風靡、一方のラブルールは、都会の風景や人間像をシャープな線描によってクールでドライに描いて人気を博しました。
対照的なスタイルの両者ですが、実はどちらもフランス西部の町ナントに生まれ、同地の慧眼なる共通
のコレクターに見出されて才能を開花させた、アール・デコのモダンを語る上で欠かせない芸術家であった
ということが、本展を通してご覧頂けることでしょう。
バルビエのファッション・プレートや豪華挿絵本、ラブルールの版画作品や挿絵本、あわせて約120点をご紹介する本展により、グラフィック・アートの黄金時代をどうぞご堪能ください。
鹿島茂氏プロフィール
1949年、神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院人文科学研究博士課程修了。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナ―賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞を受賞、他著作多数。共立女子大学教授を経て、2008年より明治大学国際日本学部教授。専門は19世紀フランス文学。
会期 2013年4月27日(土)-6月30日(日)
時間 午前9時30分-午後5時 ※入館は閉館30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・祝)は開館、5月7日(火)休館)
詳細はこちらをご覧ください。
観覧料 一般600円(480円)、大高生300円(240円)
※( ) 内は20名以上の団体割引料金
※中学生以下、障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料。
※震災で避難されてきた方は無料で観覧できますので、受付でお申し出ください。
主催 群馬県立館林美術館/読売新聞社/美術館連絡協議会
後援 フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛 ライオン/清水建設/大日本印刷/損保ジャパン/日本テレビ放送網
協力 練馬区立美術館/ノエマ/群馬日仏協会/プリオコーポレーション
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