証券会社が海外株式を扱うようになっている現代、日本企業と海外企業を比較して業績を調べようとする人も多いのではないか。
この時、(M&Aをよく行うような企業の比較なら特に)気をつけるべき点が、純利益にも影響してくるのれんの会計処理である。
のれんとは、企業が買収を行うとき、対象企業の収益力の伸びを評価すること等で正味の資産価値を上回る金額を払うことがあり、その差額を資産に計上したものを指す。
※下回る金額を出すこともあり得るが、この場合は負債として保存せず、会計基準により一括処理される。
こののれんは、日本の会計基準によれば20年以内の期間で毎年償却(償却する金額は特別損失として利益から減額)することになる(詳しくはマネーフォワードの解説)。
しかし米国会計基準や国際財務報告基準(IFRS)ではそのような償却をしない。買い取った企業の業況を毎年テストして調べ(ウェブ記事でその考え方がまとめられていた)、平たく言えば悪化が見られたときに一括償却する。
つまり、稼ぐ企業を多く買い集め、それらを上手く経営できる企業ならば、日本の会計基準でない方が純利益を多く見せられるのだ。
実際、ウォーレン・バフェットは優良企業ののれんについて、「増えこそすれ減ることはない」と述べる。(「バフェットからの手紙第4版」より)
ブランドの名声が高まり、いわゆるネーム・バリュー(具体的には、「性能よりもアップル社製だからという理由で顧客をひきつける力」など)が高まり続けるのであれば、のれんは確かに高まり続けていると言える。
それでは日本基準より海外基準が良いかというと、そうとも言えない。
まず、海外の償却テストは複雑で定性的なところもあり、投資家からは「償却されてないから良いのだろう」と言いきれないと思う。
さらに、そもそも成功させられる買い手企業がどれほどいるかについて、
・ウォーレン・バフェットは世の中のM&Aは失敗が多いと述べており、
・かつて日本のゴールドマン・サックスでM&A部長をしていた服部暢達著「日本のM&A」の中には、世界でのM&A買い手の成功率は50%程という記述があり、
総じて多数派ではないことが確実であるといえる。
そうしてみると、会計の原則の1つ「保守主義の原則」からすれば、損する可能性が半分あるとすればグレーゾーンを作らずに償却義務化という考えが安全で妥当というのもわかる。もちろん、海外の制度における償却実施判定のテストが明瞭かつ厳格なら導入も良いのではないかと思うが、テストの手間もかかりグレーな判定が出てくるようでは企業にも投資家にも負担である。
日本と海外の会計基準は異なるが、いずれも論拠があり、統合は当分無いのではないかと思える。
結論として、投資家で、買った企業を上手く経営して利益を出せる優良企業なのかどうか考え、
・優良企業と思うならのれん償却費用を除いた利益を、
・そうでないと思うならしっかりと償却したあとの利益を、
その企業の妥当な利益額として算定しなければいけないと思う。
財務諸表は分析のスタート地点と言われる。(「バフェットからの手紙」)
より正確な企業分析を心がけたい。
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