烏鷺鳩(うろく)

切手・鉱物・文学。好きな事楽しい事についてのブログ

秋葉原ミネラルマルシェ 2019年

2019-08-31 | 鉱物


ミンミンゼミの声はいつの間にかツクツクボウシに代わり、夏はいつの間にか遠くに去ろうとしている。
ちょっと元気がない私。
あ、分かった。ミネラルが足りないんだ。


今年も夏の締めくくりにふさわしい鉱物のお祭りに参加するため、いざ、秋葉原へ!!

と、秋葉原で電車を降りて改札へ向かう途中・・・。



あった!!魅惑のガチャガチャコーナー!!
もはやこれも恒例行事になりつつあるが、ミネラルマルシェの景気づけにまずは1ガチャ。



「ジュラシックワールド 炎の王国」のガチャがあるではないか!! しかもこれ、初めて見るやつだ。スタンドフィギュアコレクション・パート2! 早速挑戦すると、



なんと!こいつは最初から縁起いいぞ! 「ベイビー・ブルー」の登場だ!!
もう、この時点でテンションはマックスである。これはミネラルマルシェへの期待も十分高まるというものだ。

ちなみに電気街口改札のすぐ前にはこんなガチャも。



スイカなどの電子マネーの使えるガチャ!!ハイテクガチャ!!


さて、久しぶりのミネラルマルシェである。会場は黒山の人だかり。お仕事帰りの鉱物好きが熱心にブースを覗いている。
まずは、CORO CORO STONEさんへ。美しい蛍石がたくさん並んでいる。実は私、鉱物友の会の定例会で、いち早く美しいタンザナイトカラーのフローライトをCORO COROさんから手に入れているのだ!
こんなに美しいフローライトがこんなにたくさん!! その横にはこれまた美しい高級ブレスレットが驚きのお値段で並んでいる。そこで発掘したのがこちら!



スティブナイト・イン・クォーツのブレスレットである。激安価格にて購入。
スティブナイトとは和名「輝安鉱」である。その昔、日本ではそれはそれは美しい輝安鉱の結晶がたくさん採れたのだそうだ。明治時代、それは海外のコレクターの注目を浴びてどんどん輸出。その結果、日本ではほぼ枯渇してしまったという話だ。
店長のルンルンさんとひとしきり鉱物話に盛り上がったあと、会場をぐるっと見てみることに。


今回は心なしかジュエリー系のお店が多いような気がした。鉱物標本や化石のお店はないかな、と探していると、Carry Lackさんのブースに辿り着いた。奥の方に化石が並んでいるぞ!



これは!! モササウルスの歯!! しかも母岩付きではないか!! ちょっと見た目がかっこいい。と言うわけで捕獲である。


勢い付いてきたところで、去年コロンビアナイトを買ったお店に行ってみることに。
Frank Gawed a Mineralsさんである。そこに、美しいマンゴー色の水晶が並んでいる!!
これはもしや、と思い、Frankさんに話しかけてみる。
「これはマンゴークォーツではないですか?」
「その通り!」
「コロンビア特有の水晶」
「そうなんだよ。ここでしか採れないんだ」
そういって、スマホの写真で鉱山を見せて下さった! 緑が深いながらも意外と穏やかな山並みが印象に残った。店頭には並んでいない、大きめのクラスターの写真も! ため息が出てしまうくらい美しい。
悩んだ挙げ句、私が選んだちびちゃんがこちら!



色が比較的濃くて鮮やかなのを選んでみた。下の方には、うっすら「ブルーミスト」とよばれるものが見える気がする。
確かネットの記事に、この水晶は今年見つかったばかりと書いてあったのだ。
ミネラルショーやミネラルマルシェにおいて、私はいつもなるべく外国の方のブースに立ち寄るようにしている。というのも、新しい鉱物、珍しい鉱物は、やはり現地の方から買った方が安くて質の良いものが手に入ることが多いからだ。
今回もほやほやのホットな鉱物が手に入って大満足である!!


ミネラルマルシェでいつも気になっていて、でも人だかりを見て諦めてしまっていたお店がある。
「イラッシャイマァセ~~ッ!!」のかけ声で有名な、あの「アニ・ダイヤモンド」さんである。
「ダイヤモンドって、やっぱり高いし、私には縁がないよね」と思って、遠くから眺めるだけだったのだ。ところが、今回、アニ・ダイヤモンドさんのツイッターを見てみると、とってもお手頃価格でジュエリーが提供されていると知ったのだ。
と言うわけで、辛抱強く人垣が崩れるのを待ち、テーブルに所狭しと並んだ箱を覗いてみる。
様々な色や形のダイヤモンドのルースやアクセサリーの他にも、美しいカラーストーンのアクセサリーがたくさんあるではないか!!
しかも、ピアスが美しい!! デザインもシンプルなものがほとんどだから身につけやすそうだ。
モルダバイトのカットされたピアスは深い緑色が深遠な輝きを放ち、スフェーンは明るい黄緑の中に虹色の輝きを秘めていた。
さんざん迷った挙げ句に私が選んだのはこちら!



アンダルサイトのピアスである! アンダルサイトはブラウンとグリーンの多色性が魅力で、見る角度によっても様々な色合いを魅せてくれる石なのだ。
美しくカットされ、研磨されたアンダルサイトのこのピアスを目にしたとき、
「ああ、『魅せられた』ってこういうこと言うのかな」
と思ったのだ。そんなわけで、私には珍しく、というか、ミネラルショーで初のジュエリー購入である。


ちょっとばかし財布の紐が緩みすぎたかな、と思いながらも、引き続き会場をくまなく見て回る。
ああ、こういう雰囲気、やっぱりいいよね。あちらこちらに色んな石がいっぱいあって。見ているだけ、囲まれているだけで幸せを感じるなあ。


ここからは、「驚き!面白!ワンコインコーナー」!
様々なブースで「え?!これが500円?!」というものを見つけたのでご紹介。
まずはこちら。



こちらも近年出回り始めた「チェリーブロッサムアゲート」のペンダントである。写真だと大きさがわかりにくいと思うが、実は直径5cmほどもあり、ずっしりとしている。インドのご家族が出店しているブースの、テーブルの下で発見!正に掘り出し物である!

続いてはこちら。



ウミユリの化石!!スレートのような母岩の中に、ウミユリがぎっしり!!模様としても美しいので迷わず購入である。ルーペを使ってじっくり楽しむつもりである。

最後はこちら。



そう、ミネラルマルシェ名物、「鉱物ガチャ」である! 
何を隠そう、私は鉱物ガチャをやったことが無かったのだ。「何が出るのか分からないんだったら、ブースで自分で選んだものを買うさ」と、スルーしていたのだ。
しかしである。「ミスティ・クメール」という文字を見た途端、クメールの魔術にかかってしまった。アンコールワットのガイド、チョムラーンさん曰く「世界初!カンボジア産の鉱物しか出ないガチャだよ」。
引き寄せられるようにして両替。



遺跡の近くで採れたという水晶!! クメールのロマンを感じる!!


祭りの終わりというのは切ないもの。明るく光のともる賑やかな会場を後にして、すっかり夜のとばりの降りた秋葉原の駅前へと歩いていく。

今回は池袋のショー以来のミネラルマルシェであった。足は疲れたけど、何だか心が元気になってきた気がする。やっぱり私、ミネラル足りてなかったな。
秋葉原にてたっぷりミネラル補給完了。よし、また明日からがんばろっと。

東京ミネラルショー 2018 (2018年12月14日~17日)〈2〉

2018-12-18 | 鉱物
東京ミネラルショーの見所の一つに、鉱物や化石の展示がある。毎年第2会場にて、著名なコレクターの素晴らしい標本を展示したり、古生物の化石を展示したりと、これまた楽しみな企画なのである。去年は「カンブリア・モンスター」でおなじみのチェンジャンの化石が展示されていた。
今年は「ワイン産地にジオパーク ボジョレー地区のアンモナイト」と、「ローマ時代の金属鉱山 コソボ共和国 TREPCA MINE」の2大展示である。



ボジョレー・ヌーヴォーで有名なボジョレー地区ではアンモナイトの素晴らしい化石がたくさん見つかるのだそうだ。なぜボジョレー地区がユネスコ世界ジオパークに認定されたのかパンフレットに説明されていたのでご紹介しよう。

この地域に見られる変成岩と火成岩から成る結晶質の基盤岩からは、ヘルシニア造山帯が形成された過程の歴史を、ほぼ全て見てとることができます。ヘルシニア造山帯は、ゴンドワナ超大陸とユーラメリカ超大陸が衝突した後、古生代末期(3億5,000万年から2億9,000万年前)に形成された山脈です。この時期の地質は、高い山々の奥底で起こった地質学的変化の過程を、驚くほど明らかに示しており、ゆえに世界の地質学史においても非常に重要視されています。



ボジョレーの地質における二次堆積物は、約8,000万年に及ぶものとみられています。その岩質と構造はバラエティに富み、これは多種多様な堆積環境が特徴である縁海の地質の歴史と無関係ではありません。

古代三紀(4,500万年から2,500万年前)および新第三紀(1,000万年から500万年前)の間の地体構造運動により、ピレネー山脈とアルプス山脈が形成された際に、基盤岩とその上の堆積層が大規模に崩壊しました。結果、西ボジョレー地域は隆起し、東ボジョレー地域に崩れ落ちた堆積物が流れ込み、東地域の多様性に富む地層を形成したのです。

そして、ボジョレー山脈とジュラ山脈の間にできた大きな窪地からは、古第三紀末期と第四紀(約300万年~)において大規模なアルプス山脈周辺の化繊網が発展し、氷解した山の水がそこに流れ込むと、徐々にソーヌ河一帯の沖積層地帯が形成されました。

多種多様な地質に恵まれたボジョレー地域は、数多くの科学研究の対象となっており、また地質学の基礎研究や応用研究におけるあらゆる主要なテーマとして取り上げられています。


私は、ボジョレー・ヌーヴォーのお祭り騒ぎを「ちょっとなあ」などと思っていたのだが、この展示で、「アンモナイトの埋まる地域で産出したワインなんて素敵じゃないか」と、ほぼ180度見方が変わってしまったのは言うまでもない。かっこつけて、「まだ若いワインをこぞって飲むなんてどうなのよ」なんて言っていたのが、こうも手のひらを返すとは我ながらあきれるばかりである。人間なんて、そんな風に案外簡単なのかもしれない。


一方、「トレプカ鉱山」の長い歴史は興味深く、日本の神岡鉱山にその特徴が似ているというのもなかなか面白い展示であった。この標本は販売もしていたため、写真は控えてしまったのだけど、結構バシャバシャ撮ってる方々がいたから、気に入った標本を写真に撮っておけば良かったと若干後悔している。


展示を見終わり、今回広げられた左手奥の会場へと向かう。
日本産の鉱物を売っているお店で、「かぐや姫水晶」を発見した。大変かわいらしく、美しい形の標本である。
これはアメシストなのだが、球状の母岩を割ると、まるでかぐや姫が生まれたかのように薄紫色の水晶が顔を出すのである。福島県会津地方で産出する。まさか、ここでめぐりあうとは思いもよらず、嬉しい発見であった。


さて、一通り第2会場を堪能した後、再び第1会場へ。
ふらっと立ち寄った化石のお店で「デンドライト」の美しい標本が並んでいた! 始祖鳥が発見された事で有名な化石産地「ゾルンホーフェン」で採れる石である。



まるで風景画のような、繊細な景色が見える。これは、植物の化石とよく間違えられるのだが、マンガンなどが鉱物の隙間に染みこむことで生まれる模様なのだ。


たくさんのブースが並んでいるので、ただ見ているだけでも楽しい。
くんくんと鼻をきかせてお店の奥の方へと入っていくと、



写真左下の極小三葉虫を発見!! ルーペで見てみると、数字の「8」の形と、その体の凹凸までがはっきりと見て取れる。カンブリア紀中期の三葉虫である。すこしきらりと光るのはパイライトであろうか。


“Braun Lapidary”はアメリカ・ユタ州から家族でいらっしゃっている。おじいちゃんとお父さんと、2人の兄弟、お母さんらしき人がいらっしゃっていた。
このお店、去年も面白い石がたくさん見つかったので、楽しみにしていたのだ。以前このブログでもご紹介した「ピカソ・マーブル」がその一つである。今年もたくさんの石や化石を取りそろえてらっしゃる。

お兄さんと思わしき青年に、とあるルース・ケースを見せてもらう。これを目にした瞬間、吸い込まれてしまった。
「恐竜の骨のルース(裸石)」である。
茶色や、緑、鮮やかな赤や、淡い青まで、色とりどりのカボションがぎっしりつまった箱だった。
青年が慎重に箱の蓋を留めていたピンをはずす。そしてそっと手渡してくれた。
恐竜の化石なのだが、瑪瑙化して大変美しい様相を呈しているのである。
じっと見つめていた。
ただ、やはりこれだけ美しいカボションは値段が張る。お父さんとおじいさんにお詫びして、一旦箱をお返しする。
「気にせずまた見に来て。今度来るときはいっぱい買ってね」
と、おだやかな笑顔でジョークを言ってくれた。
「多分私、また戻ってきます」
といって、一旦ブースを離れた。

第1会場をぐるぐる周りながらも、やっぱりあの「恐竜の骨のルース」が忘れられない。半周してから、やっぱりBraun Lapidaryへと戻ってきた。
「やっぱり戻って来ちゃった」
というと、優しい笑顔でルースケースを手渡してくれた。
お父さんが説明をしてくれる。
「恐竜の骨は、コレクションに規制がかけられてるんだ。これはおそらく1960年代に発掘された物で、私の友人が磨いた物なんだ。10年位前に亡くなったのだけど」
これほど美しい物はもう市場に出回ることはないから、どんどん値段も上がっていくのだとも教えてくれた。
たくさんのルースを慎重に手に取りながら、じっくりと選んだ。
深い赤と色々な色がまじっている、楕円形のルースに決めた。おじいさんが、
「いいのを選んだね」
と言ってくれた。
「わたし、アクセサリーを作るので、これで素敵なのを作ります!」
と言うと、
「きっと『カンバセーション・ピース』になるよ!絶対『これ、何の石?』から始まって盛り上がるから」
と、お父さんが言ってくれた。貴重な品を分けてもらって、なんだかとっても嬉しかった。


楽しみの一つだった「ジオード・クラッキング」は、今年もタイミングが悪くて参加できず。その代わりと言ってはなんだが、ちょっと大きめ、ずっしりとした石に惹かれる。
「ボルダーオパール」の原石だ。母岩の縞模様と、オパール部分の爽やかな色合いがとっても興味深い。


最後に一つ、と買い求めたのは、「サンダーベイ・アメシスト」。カナダで採れるアメシストだが、先の方が赤い。「レッド・キャップ・アメシスト」と呼ばれたりもするらしい。さらには「オーラライト23」というパワーストーン系の名前も付いている。23の鉱物を含む、神秘の石だということだ。


今回も、たっぷり6時間ほど歩き回って、色々な石を見た!
気がつくと足が棒である。
こちらが、「東京ミネラルショー2018」の漁獲である。



ディスプレイ用品もちょこっと買えて、大満足の収穫であった。
ミネラルショーでは、たくさんの国からも業者さんがやってくるので、国内では見ることない珍しい石も見かけることができた。なにより、お店の方とのお話が楽しかった。話しかけてみると、意外な物語が返ってきたりして。そうしたお話も石を見る度思い出すことだろう。


というわけで、「鉱物好きの年の締めくくり」、とも言うべき一大フェスティバルは終了した。また来年、皆さんにお会いできるといいな、と思うのだ。

東京ミネラルショー 2018 (2018年12月14日~17日)〈1〉

2018-12-16 | 鉱物



「吉良殿、お覚悟!!」
元禄15年12月14日、316年前に赤穂浪士が吉良邸に討ち入りしたこの日、私は東京ミネラルショーの会場へと乗り込んだ!!
私は忠臣蔵が大好きなのだ。ちなみに、吉良上野介の「吉良(きら)」は「雲母」のことで、吉良の地元で雲母がたくさん採れることに因んだ名字なのだとか。


開場の45分前に到着したのだが、もうすでに200人は超えているかと思われる長蛇の列。今年も先着100名に配られるカレンダーはゲットできなかったが、良いのだ。もう既に私は夏の時点でカレンダーを購入していたのだ。「ジュラシック・ワールド 炎の王国」のカレンダーである。だから、もうすでにカレンダーについては満足である。
確かに、ミネラルショー名物の「鉱物カレンダー」は今年も素敵だった。写真がきれいなので大人気なのだ。いつか購入しようかなあと思っている。


列に並んでいる数十分の間、私はいつも本を読むのだが、いつもの事ながら、段々と頭に入ってこなくなるので途中で本をバッグにしまう。そわそわ落ち着かなくなってくるのだ。
チケットのもぎりとパンフレットの配布が始まるともう、頭は鉱物でいっぱい。一番最初に向かうお店の位置を頭の中で念入りに反芻するのみとなる。


さあ、いよいよ開場である!!
ここでダッシュなんかしたらいけない。人にぶつかるし、最悪の場合、石の並んだテーブルに激突し、お店の石をぶちまけてしまう。
だから、高鳴る心を抑えつつ、慎重に歩みを進める。


まず始めに、第一のお目当てであった”Bulgarian Minerals & Gems”のブースへ!!
こちらのお店では、去年、「水晶・方解石仮晶」を購入した。実はとあるアゲート(瑪瑙)を求めて尋ねてみたのだが、「新宿にはいつも持ってくるけど、池袋は持ってきていないんだ」と、お店の方が仰っていたのだ。
それでも、このお店、大変美しい標本を、たくさん揃えてらっしゃるので、前回にいっぺんで気に入ってしまったのである。並べ方も、鉱物の種類毎に揃えておくのではなく、色とりどりの標本を色のバランス良く並べてらっしゃるので、とても目を惹くのだ。

ところが、開場してすぐ向かったお店に、ブルガリアのおじさんがいない。仕方が無いので、並べられた鉱物を手に取って見せて頂いていた。と、あの、「オルフェウス・アゲート」が幾つも並んでいるではないか!!
もう「きゃー」といいたいほど嬉しくなってしまう。
「オルフェウス・アゲート」はブルガリアでしか採れない瑪瑙(メノウ)である。その色合いといい、インクリュージョンの複雑な美しさといい、憧れの瑪瑙であったのだ。

10分ほどして、おじさんがやってきた!!どうやらご飯を買いに出かけていたらしい。
そして今年もまた、ブルガリアのおじさんと鉱物話に花が咲く。
「去年、オルフェウス・アゲートのこと質問したのだけど」
「ああ。だから今年持ってきたんだよ」
嬉しい。覚えていてくれていたんだ。幾つもあるオルフェウス・アゲートを、おじさんは一つ一つ手に取りながら「これは、ここの部分がきれいだよね」とか、「この標本は完璧だ」とか、話が尽きない。とても悩んだ挙げ句、選んだのがこちら。



「オルフェウス・アゲート」のスライスと、「ブルー・アゲート」である。オルフェウス・アゲートの決め手は緑と茶色の部分のバランスと、まん中の樹木のようなインクリュージョンの見事さである。他の標本も甲乙付けがたく素晴らしかった。
そして、ブルガリアで採れるアゲートの中で一番珍しいという「ブルー・アゲート」。
「『サフィリン』と呼んでいるのさ。サファイアのようだからね。オルフェウス・アゲートよりも貴重だよ」
とおじさんが言っていた。透けるような淡いブルーが大変美しい。
「これはカボションに磨けばきれいな縞模様が現れると思う」とのことだ。半透明のブルーの層が、白い層を挟んでいる。一般的なブルー・レース・アゲートよりも透明感があり、一つ一つの層が厚みを持っているようだ。
「また来年お会いしましょう」と言って、おじさんと別れる。


次に向かったのは「アフガン・ブラザーズ」のブース。目当ては「ローマン・グラス」のビーズである。



こんな風に、美しいブルー・グリーンや紺色のガラスの破片をビーズに加工してある。
「ローマン・グラス」は、ローマ時代のガラス食器などの破片が、地中に長い年月埋まることでできた「銀化ガラス」と呼ばれる物である。銀化している表面の部分に、美しい虹色の光が現れる。大変面白いガラスなのである。
こちらのアフガン・ブラザーズでは、こうしたビーズ加工したものだけでなく、使用されていた当時のままの形で出土したローマン・グラスのカップなどがそろっているのだ。歴史のロマンみたいな物を感じる。まるで、ショーケースが博物館の一画のようで、見ているだけで嬉しくなった。
おまけに、「ラブラドライト」のブレスレットを頂いた!!


まずは、第1会場をぐるっとする。と、「グレープ・カルセドニー」がたくさん並んでいるお店発見!!
その名の通り、葡萄のように球状の結晶がつぶつぶとくっついた、薄紫色のカルセドニーである。数年前にインドネシアで発見された鉱物だ。実はこれ、以前、イギリス人の女性がビデオ・ブログで紹介されているのを見て、興味をもった鉱物なのだ。
割と大きめで、きらめきもある標本なのではないかと思う。


第1会場を後にして、CORO CORO STONEさんに会いに第2会場へ行く。
こちらの会場もすごい人だかりである。挨拶をして、ふと目にとまったのが「アホーアイト・イン・クォーツ」。極小のマイクロマウント標本である。
このアホーアイト、アホー石とか、アホイトとも呼ばれているのだが、超希少鉱物らしくて、そこそこの大きさだと、かなり高額になる代物である。それが、こんなお手頃価格で手に入るとは!!「ラッキー」とすぐさま手に取る。



左下のちびっこいケースが「アホーアイト・イン・クォーツ」である。私にはルーペという強い味方が付いているために、こうした極小結晶も「どんと来い」なのだ。
「小さいけど、しっかりミントグリーンのアホーアイトが確認できますね」と、ここでも店長さんと石話で盛り上がる。こういう、お店の人と石に関する色んな話をするのも、ミネラルショーの醍醐味の一つだと思うのだ。その醍醐味を存分に味わう。


第2会場を見て回る。チェコからいらしたブースで、これまたおもしろ鉱物発見!!
「クリノクロア・クォーツ」である。両錐水晶の表面をクリノクロアが覆って、黒っぽい緑のきらめきを放っている。これはあとでじっくりと調べてみたい鉱物だ。
お店の人によると、これは2年位前にロシアで発見されたのだという。まだまだ地球上には未知の鉱物が埋まっているのだ!!何というロマン。


さてさて、ここからもまだまだ続くので次回へ。

コロンビアのコロンビアナイト

2018-10-11 | 鉱物


透き通った深いグレー。小さなクレーターが表面を覆っている。さざ波が立っているようだ。
コロンビア産出の「コロンビアナイト」である。


これは石ではない。「ガラス」である。自然界でできたガラスであることは分かっているのだが、その誕生は謎に満ちている。





Pseudo-tektite (シュード・テクタイト)というカテゴライズをされていたりする。「疑似テクタイト」という意味だ。つまり、「まるでテクタイトのような天然ガラス」なのである。
テクタイトというのはどんなものか。

テクタイト
大型の隕石が地球に衝突したとき、地表の岩石はしばしば融解し、空気中の飛び散り急冷されてガラスをつくる。このガラスの破片はテクタイトとよばれる。典型的な大きさは、径数㎜~数㎝程度である。ダンベルや円盤の形をしている。テクタイトはこれまでに南極と南アメリカをのぞく、全ての大陸で発見されている。テクタイトはある特定の地域の比較的広い範囲(数百~数千平方㎞)から発見されるのが普通である。テクタイトの放出源となったクレーターが特定できることもある。たとえば、チェコ共和国で産出する美しい緑色のテクタイトは、その生成年代と化学組成にもとづいて、そこから数百㎞離れたドイツ国内にあるライスクレーターからもたらされたものであることが明らかになっている。(『岩石と宝石の大図鑑』p.75)


つまりは、隕石由来の天然ガラス、ということである。このコロンビアナイト、表面の凹凸といい、その形といい、実にテクタイトに似ているのだが、その成分を分析すると、なんと、「オブシディアン」、つまり黒曜石に近いのだ。

天然の火山ガラスである黒曜石は、溶岩が急速に鉱物が結晶化する時間がないときにできる。黒曜石という名前は、岩石の化学組成に関わらず、ガラス質の組織をもつものに対して用いられる。(『岩石と宝石の大図鑑』p.43)

それではなぜ、コロンビアナイトはテクタイトではなく、成分的にオブシディアン(黒曜石)に近いのかというと、その水分量である。
テクタイトのほとんどは、含まれる水分量は0.1%以下なのだ(トリニタイトとも考えられているリビアングラスで0.2%以下)。
それに対してオブシディアン(黒曜石)は、水分量が0.2%以上と2倍なのである。




コロンビアナイトが透過した光は、薄紫がかった灰色である。なんとも言えない微妙な色合いが、非常に魅力的だ。ちょっと言葉に表すのが難しい色合いである。そして、光を当てて透かしてみないと、その魅力的な色は見ることができない。


コロンビアナイトはまだ謎の多い鉱物である。私の調査もまだ始まったばかりで、参考文献や英語もしくは日本語で読むことのできるサイトも数少ない。これからも調査を続けていきたいと思うので、また新しい情報が入ったら是非ご紹介したいと思う。



【参考サイト・文献】
・Are volcanic glasses and tektites of the same origin ? http://www.b14643.de/Tektites/
・『岩石と宝石の大図鑑 岩石・鉱物・化石の決定版ガイドブック』 青木正博 翻訳 (誠文堂新光社 2007年4月10日)

アメリカのピカソ・マーブル

2018-10-02 | 鉱物


ピカソ・ストーン、ピカソ・ジャスパーなどと呼ばれることもある。
その模様がモダン・アートを思わせることから、「ピカソ」の名前がつけられた。
珪化した石灰岩である。



模様を拡大してみると、繊細な黒い線が、白や茶色の地に交差している。



断面がこのような感じ。



後ろ側はこのような感じで、確かに石灰岩が元だったんだろうということが分かる。石灰岩の隙間に珪酸塩が染みこんでできたのだろう。


この石の模様、本当にピカソの絵に似ているだろうか?
いやいや、全然似てないぞ。
むしろ、「アクション・ペインティング」と呼ばれる手法で描かれた、ジャクソン・ポロックの絵にそっくりではないか!!



例えばこのような絵(”Autumn Rhythm: Number 30”, 1950) 。
どちらかというと、ジャクソン・ポロックの絵に近いのではないだろうか。
常々、「何でも『ピカソ』って付ければいいもんじゃないぞ!!」と、ちょっと不満に思っているネーミングなのである。
いっそのこと、「ポロック・ストーン」と呼びたいのである!!


ジャクソン・ポロックの作品は、なぜだか昔から好きなのだ。確か中学校の美術の教科書にも載っていた気がする。
2012年の「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」に行ったときには、素晴らしい作品がたくさん展示されていたので、かなり思い出に残ったのだ。

ジャクソン・ポロックは1912年1月28日、アメリカのワイオミング州で生まれた。家族でカリフォルニアやアリゾナに移り住み、1928年にロサンゼルスに移る。その年、ポロックは手工芸高校に入学。2年後、美術を学ぶためにニューヨークへと出た。
1938年にはアルコール中毒の治療のため、入院している。その後、彼はたびたびアルコール漬けになることがあった。
1943年の展覧会でマルセル・デユシャンやモンドリアンらから高い評価を得る。1940年代後半から次第に有名になる。1950年代に入ってから「アクション・ペインティング」と呼ばれるようになる手法で、その名は一気に世界へと知れ渡るようになる。
1956年、自動車事故によって逝去。享年44歳。


彼の所謂「アクション・ペインティング」は、でたらめに勢いによって感覚的に描かれたように思われているが、実はそうではない。かなり計算尽くされて描かれているのだ。
何色を始めにおくか。それぞれの色をどのくらいの割合で使うのか?
滑らかに線が引っ張れるくらいの絵の具の固さはどの程度か?
乾くスピードと、仕上がりの感触は?・・・
研ぎ澄まされた集中力で描かれているのが、彼の作品なのである。

展覧会のときの映像では、独特のリズムに乗ってポロックが絵の具を垂らしていく姿が写されていた。とても繊細な人物だったのだろう。その撮影の後、しばらく絵が描けなくなってしまったらしい。


さて、「ピカソ・マーブル」に戻ろうか。



「現代美術=ピカソ」という固定観念と誤解によって、この石は不本意な名前が付けられている、と私は勝手に思っている。
それにしても、この自然の造形と、ポロックの作品が酷似しているという不思議は大変興味深い。そういえば、2012年に放映されたポロックの特集番組で、紐でつり下げた缶から少しずつ絵の具を垂らし、風に任せて絵を「描いた」ところ、ポロックの描くラインにそっくりな物が出来上がったという実験をやっていた。ポロック自身は、肘から下の力を抜いて描いていた。「奇抜な作品」が彼を有名にしたのではなく、彼が自然のリズムを見事にとらえてそれを作品に昇華したというところが、すごいところなのではないかと思う。


というわけで、この石を見ていると、人と自然の不思議な接点を思い起こさずにはいられないのである。



【参考文献】
・『インサイド・ザ・ストーン 石に秘められた造形の世界』 山田英春 著 (創元社、2015年6月10日)
・図録『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』(2012年2月10日~5月6日 東京国立近代美術館)
Jackson Pollock, Landau, Ellen G. ABRAMS, New York, 1989.