今回は、家賃保証期間中の減額について述べたいと思います。
といいますのは、最近何件か、10年未満であるのに大幅な家賃減額を言われたという話しを伺ったからです。
家賃減額に応じる前に、「本当にそれが、自分にとってベストの選択か。」を十分に検討されて下さい。
家賃減額は一度ではありません。特に家賃保証期間が終わったら、どのくらい期間で、どのくらいの賃料減額を言われるのか分かりません。イニシアチブは、ローンを人質に取っている業者側にあるのは明らかです。10年未満で家賃減額に応じるなら、そのことを将来の減額の時に最大限考慮してもらえるようにしておかなければなりません。
さて、このブログを見ておられる方は、賃料減額問題について、最高裁が家賃の減額は可能であるとの判決を続けて出したことをご存じの方が多いと思います。
そして、レオパレスの社員も、上記判例を引用して、「裁判になっても減額になりますよ」と迫ってきているようです。
しかし、それは正確ではありません。既に何回か述べたように、最高裁は「ただし、賃料減額請求の当否や相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり、特に本件契約においては、上記の賃料保証特約の存在や保証賃料額が決定された事情をも考慮すべきである。」といっており、これを受けた差戻し審(東京高等裁判所平成16年12月22日)は、「本件が,不動産賃貸業等を営む会社である控訴人が,土地所有者である被控訴人の建築したビルにおいて転貸事業を行うことを目的とし,被控訴人に対し一定期間の賃料保証を約し,被控訴人においてこの賃料保証等を前提とする収支予測の下に多額の銀行融資を受けてビルを建築した上で締結されたサブリース契約であることからすれば,上記鑑定額をもって直ちに本件の相当賃料額であるということはできない。本件における相当賃料額を決定するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり,特に本件においては,上記の賃料保証特約の存在や保証賃料額が決定された事情を考慮しなければならず,とりわけ,被控訴人が本件の事業を行うに当たって考慮した予想収支,それに基づく建築資金の返済計画をできるだけ損なわないよう配慮して相当賃料額を決定しなければならないというべきである。」としています。
ここで重要なのは、「(相場家賃が確定できたとしても)オーナーが、(サブリース契約をするにあたって)予想した収支、それに基づく建築資金の返済契約を、できるだけ損なわないように配慮して、相当賃料を決定しなければならない。」ということです。
レオパレスの場合(他のサブリースも多くは)、レオパレス自身が収支予測を持ってきて、「だからローンの支払は大丈夫ですよ。」と熱心に勧誘したのですから、単なる家賃保証だけでなく、売上も保証しているといえます。
そもそも、レオパレスは、「オーナー様のアパートを丸ごと借上げ、その手を煩わせることなく管理・運営」します。「入居者のあるなしかからず、一定の借上げ家賃をお支払いします。」といっているのですから、オーナーは、本来、入居率など気にする必要がありません。上記の収支予測は、業者自らのためにもあるものなのです。
ですから、家賃保証期間のレオパレス減額請求は、「請求」ではなく、「お願い」なのです。「自分達の予想が大甘でした。レオパレスのために何とかお願いします。」というスタンスなのです。しかも、「大甘」な予想は、社会情勢等ではなく、まったくのレオパレスの責任です。
理由は以下です。
1.バブル時期ならともかく、本来住居用の小規模住宅の家賃は安定しているはずである。
参考:http://www.cs.reitaku-u.ac.jp/sm/shimizu/Essay/A/20101113.pdf
上記のように、本来、オフィス投資と異なり、住居用、しかも小規模になればなるほど、家賃の改訂は小幅にとどまる・・・というのが、ある専門家の見解です。
実際、最高裁の事例・・・上記差戻し審の事例ですが、貸しビルというオフィス投資の事案ですし、家賃を決定したのが平成5年3月ですから、バブル終焉の時期とはいえ、まだバブルがはじけての大不況にはなっていなかった時期に家賃決定してしまったのだと思います。ですから、業者も、事情変更とまではいかないまでも、予測困難な状況で決定してしまった値を修正する必要が生じたのだと思います。
しかし、現在、バブル時期のような社会情勢の変化があったでしょうか?
不景気なのは、ずっと前からです。リーマンショック等があったとしても、居住用の賃料に影響を与えるほどの社会的影響が、しかも長期にわたってありましたか?他のサブリース業者が同様に、家賃減額や解除にあくせくしているでしょうか?
とすれば、レオパレスが、そもそも無理な家賃に基づいて収支予測を立てていたのではないでしょうか?
2.家賃減額までの期間が短すぎる。
上記1.を前提にして考えると、4~5年で大幅な減額をしなければならない要素などありません。中には、2年ほどで大幅減額をされてしまった例があるようです。
上記からすれば、家賃減額を正当化するのは経年劣化ぐらいです。4~5年でそのような事情があるはずがありません。あれば、建物自体の性能が問題です。
しかも、経年劣化という事情も、レオパレスは30年借上げを約束し、メンテナンスを一括して引受けているわけですから、本来減額を正当化する理由にはならないはずです。
以上のような理由から、レオパレスの減額請求が認められるとは思えないのです。
とすれば、レオパレスから家賃減額を迫られた場合、減額に応じるか否か、応じる場合にどのくらいの幅で応じるかは、オーナーが一方的に決めても構わないのです。つまりレオパレスとの協力関係に対するオーナーの考え方次第だと思います。
一方的に蹴った場合でも、「協議をしなかった」ことにはならないと思います。たとえ、一括借上げでも、オーナーが入居率や売上を気にしなければならない・・・との見解に立ったとしても、「無茶なお願い」を検討しなければならない義務は無く、そのような「お願い」の申込は、「協議」の申込み等ではありません。
もちろん、これは私の見解です。人それぞれの価値判断によって、話合いに応じる義務があるという見解も十分に考えられます。
もし、そのような考え方のオーナーで、「でも、さすがにレオパレスのいう減額には応じられない。」という場合は、公の場、具体的には、調停・あっせん等を利用して協議されることをお勧めします。そして、今後の家賃減額では、10年未満で家賃減額に応じたことを最大限評価して、むやみに減額を言ってこないことを約束させ(条項の中何入れる。)、できれば何年間は絶対減額をいわないことを約束させる(これも条項に入れる。)方がいいと思います。
オーナーがイニシアチブを取れるのは、建物の新しいこの時期でだけです。交渉の経緯、結果を公の記録に残し、将来、減額を言われた時、借地借家法32条に対抗する手段を確保しておくべきです。
なお、兵庫県姫路市で家賃減額に対して裁判が提起されたと、姫路市の弁護士から伺いました。同じ姫路の事件なのですが、私はまったく知らない事案です。何故姫路ばかりが・・・という思いがありますが、是非、事件を担当されている先生から話しを伺ってみたいと思います。