サブリース関連の行政の動き(法令、監督等)
私は弁護士時代にサブリース関係の裁判を担当し、またそれをきっかけにサブリース弁護団に所属したという経緯もあり、今もサブリースの動向には関心を持っています。
最近はネットニュースの一面?でサブリースの記事が取り上げられることもあり、サブリースを巡る環境も随分変化したように思います。実際、行政の対応はかなり変化がありました。
そこでどのような変化があったのか、法令の改正、行政の方針(ガイドライン)等について見てみたいと思います。
行政の対応…垣根を超えた三庁での対応
特徴的なのが国土交通省、消費者庁、そして金融庁の三庁が連携して対処しているということです。
よく縦割り行政の弊害…等と言われますが、サブリースの問題に関しては垣根を超えて、問題発生の予防や事後対処を適切に行えるように努力をしてくれています。ただそれは、それだけサブリースの問題が多岐にわたり、また社会的にも大きくなったことの現れでもあります。
そもそも国土交通省は建設業や不動産業の監督等を任務とし(「国土交通省は、国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会資本の整合的な整備…を任務とする。」「(所掌事務として)住宅(その附帯施設を含む。)の供給、建設、改良及び管理並びにその居住環境の整備に関すること。」(国土交通省設置法))、その一環として貸住宅管理業を管理しているのでサブリースの問題には当然関与しますが、アパート建築や賃貸物権の購入が前提の場合はほぼ例外なく住宅ローンが利用され、その際貸出金融機関が業者と特別な関係を持ち不適切融資がなされる問題が発生したため、金融庁の介入が必要になりました。またオーナーは事業者で消費者ではないのですが、サブリース業者との知識・経験の差により対等な契約関係・事業関係が築けておらず、物件の運用が実際に始まるとオーナー想定外の出来事が発生し、オーナー側から消費者庁等に相談が多く寄せられるようになりました。
以上のような状況から、サブリース問題には国土交通省-金融庁-消費者庁の3つが連携して注意喚起を行っています。そのチェックリストがPDFで公開されています。
(消費者庁webサイト「サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!」 から
賃貸住宅(サブリース方式)の契約を検討する方へ NEW)
1.行政側の対応 サブリース業者対象の法令等の法制定・改正について
ではまず、サブリース業者対象の法令改正を検討したいと思います。「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年6月公布)」(サブリース新法)が制定されています。さらに、当該法律の解釈指針を具体例を示して解説したガイドラインも作成してくれています。
( ↓ 国土交通省 「サブリース事業適正化ガイドラインの策定」のwebサイトの記載より)
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年6月公布)」(サブリース新法)のうち、サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に関する措置(令和2年12月15日施行)について、具体的な規制の対象を事例等で明示した「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」を策定致しましたので、お知らせ致します。」
上記制定における重要点は、「サブリース契約の勧誘、締結の際の、業者の説明責任の明確化、強化」です。
(1)サブリース新法制定の経緯
従前は、業者側の説明は営業段階でも契約締結段階でも、サブリース方式契約(最近は用語として、マスターリース契約とサブリース契約とに区別されます。オーナーと業者が結ぶ賃貸借契約を「マスターリース契約」といい、業者が実際の入居者と結ぶ賃貸(転貸)借契約を「サブリース契約」と言います。以後、その用語を使用します。両者をまとめて言う時は「サブリース方式契約」と表します。)についての説明は、極めて形式的に行われていたと思います。
法的知識が乏しいオーナーは業者の言うことを信じやすいし、さらに一括上げなので “実際に賃貸業をするのは業者”という認識(業者の方も営業時は“募集・管理はこちらでいたします。オーナー様は何もしなくて大丈夫です。”というようなトークをすることも多かった。)です。だからオーナーの関心はもっぱら「どのくらいの賃料が、いつまで入るか」にあり、それ以外の契約条項を慎重に読込んだり、突っ込んで聞くということはしない…というのが一般的だったと思います。
上記のような状況だったので、業者側はいわゆる“おいしい”ことを強調し、営業実績を上げて行きました。特に、建築勧誘型や購入勧誘型等は(サブリースの前提としてアパート建築を勧める場合を「建築勧誘型」、賃貸物件の購入を勧める場合を「購入勧誘型」と表します。 cf.独立行政法人国民生活センター発行の 「国民生活」2021年7月号【No.107】(2021年7月15日発行) )、転貸差額・賃貸管理で儲けるというより建物(物件)の建築受注や販売を大きな目的としていたので、オーナーの初期投資が安全で利益があるものであることを強調するために、「30年一括借上げ(≒住宅ローンが終わるまでずっと業者が借ります…という趣旨)」「空き室があっても定額家賃が保証される」等と、まるでNOリスクの素晴らしい契約であるかのような勧誘や説明をする傾向が強いものでした。
もちろん、立地が良い物件なら安定賃料が入るし、相続対策としても一定の効果があります。しかしそれはサブリース方式でなくても同じです。オーナー側が「サブリース方式」に求めるのは「業者に全部任せておけば、約束された期間、ずっと維持費以上の利益が出る賃料が確実に入る」という点です。しかしそれは業者とっては大きな負担になります。立地が良くても競争物件が沢山できれば、また物件が古くなれば収益力は落ちてきます。そのため、大幅な賃料減額や業者側からの一方的契約解除、さらには無計画な業者の倒産でオーナーには住宅ローンだけ残ってしまう(土地建物は抵当)…という問題が発生しました。
オーナー側はそういうリスクを知ったうえで、サブリース方式の契約を締結するのかしないのかを判断するべきです。また業者側としても、利益だけでなくリスクも納得したオーナーとの契約なら、その後の状況変化に応じてオーナーと対応策を練ることが容易になります。要は信頼関係です。
そのため、業者の説明責任を明確化かつ強化し、業者とオーナーの両方に慎重な契約締結を求めるようにしたのが新法です。
(2)サブリース新法の内容(重要と思われる点に着目して概要を)
サブリース新法の重要点について、概要を説明したいと思います。それはサブリース方式契約、特にマスターリース契約で「どういうことが問題になったのか」の視点になります。なお、法の内容について詳しい解説は、国土交通省が作成した「ガイドラインのポイント」(1枚もの。要点が一目で見られるようにされています。)および「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン(令和4年6月15日改正)」(法律の趣旨、解釈指針まで詳しく解説されています。以下単に「ガイドライン」と言います。)をご覧ください。
サブリース新法の重要点は以下の5つと考えます。
① 誇大広告等の禁止(28条)
② 不当な勧誘行為の禁止(29条)
③ マスターリース契約締結前の重要事項説明(30条)
④ 契約締結時における書面交付(31条)
(ただ契約締結時は通常契約書を作成し、当事者が原本もしくは謄本を所持するので当たり前と言えます。それより③の契約締結前に作成する書面と、その書面で挙げられている事項を説明しなければならない、とされていることが重要です。)
⑤ 賃貸住宅管理業の登録の義務化(3条)
以下、各規程の概要(趣旨や例等)、注意点などについて説明いたします。
① 誇大広告等の禁止(28条)
■ 「勧誘者」の定義
マスターリース契約は、オーナーとサブリース業者との契約です。ですので、誇大広告も次の29条の「不当勧誘」もサブリース業者の行為は当然対象になります。しかし、サブリース産業の実態は、前述したように建築会社や不動産販売会社等が本業の実績を上げるために、手段としてサブリースを利用することが多いです。
そのため、広告をしたり勧誘する者は必ずしもサブリース業者ではなく、建築会社だったり販売会社だったりします。法はその現実に合わせ、誇大広告や不当勧誘の規制対象の範囲を、建築会社や販売会社等、サブリース業者と関連性ある企業や個人にも広げています。そして、規制の対象者を「勧誘者」と定義しています。
(ガイドラインより抜粋)
勧誘者とは、「サブリース業者がマスターリース契約の締結についての勧誘を行わせる者」であり、①特定のサブリース業者と特定の関係性を有する者であって、②当該サブリース業者のマスターリース契約の締結に向けた勧誘を行う者
上記ガイドラインでは、例えば「建設会社、不動産業者、金融機関等の法人やファイナンシャルプランナー、コンサルタント等の個人が、委託(≒依頼)を受けたサブリース業者との契約を勧めたり、資産運用の企画提案をした場合」等が挙がっています。詳細については、是非、上記ガイドラインをお読みください。
■ 誇大広告等の禁止の概要
誇大広告には当然虚偽広告も入ります、また広告媒体は、チラシやパンフレット等だけでなく、テレビやネット等全ての広告媒体が対象です。
「誇大広告」の例として上記ガイドラインでは、例えば「(賃料変更は避けられないのに)『○○年間家賃保証!』と記載し、賃料の定期的な見直しがあることは、その記載から離れた箇所に表示」といった例が挙がっています。詳細については、是非、上記ガイドラインをお読みください。
② 不当な勧誘行為の禁止(29条)
文字通り不当勧誘の禁止です。サブリースの事案で多いのは、オーナーの方から業者に問合せするのではなく、業者の方から土地所有者等を調査して訪問し、サブリース方式の賃貸経営を勧誘するケースです。当然、訪問されたオーナーは前提知識が無いので、その際の業者の勧誘文言はとても重要です。「安定家賃がずっと入ります。減額はありません。」等はありえないので当然に不当勧誘文言になりますが、重要な事実の不告知も「不当勧誘」になります。
■ 重要な事実の不告知
「事実の不告知」という言葉はあまり聞き慣れないかも知れませんが、要は「契約をするかしないかの判断要素になるような重要なことを敢えて言わない」ということです。“これを聞いたら相手が不利と思うかな、躊躇するかな”というようなことを敢えて言わない。おいしい話ばかりするということです。どういう事実が「判断要素になるような重要な事実」となるのでしょう。上記ガイドラインでは、例えば「将来の家賃減額リスクがあること」、「契約期間中であってもサブリース業者から契約解除の可能性があること」、「借地借家法でオーナーからの解約には正当事由が必要であること(← 例えばオーナーが「サブリースじゃない方が高い賃料が入るから」という理由で解約することは、まずできません。)」
他の例など詳細については、是非、上記ガイドラインをお読みください。
■ 特に「建築勧誘型」、「購入勧誘型」では、勧誘時に重要事項(下記30条参照)の説明をする(但し、現状は努力義務)。
次項の“マスターリース契約締結前の重要事項説明(30条)”に出てきますが、賃料減額に関する事、契約解除に関すること等は、マスターリース契約を締結するかしないかを判断する重要な要素です。そして、そういう事項はアパート建築を決断する前、賃貸物件を購入する前に説明してもらわないと、アパート建築をした後や賃貸物件を購入した後、サブリース業者と賃貸借契約をする時点で「賃貸借についてはこういう内容ですが…」と説明されても、建築されたアパートや買った物件を元に戻し、建築請負契約や不動産売買契約を無かったことにする…というようなことはできません。アパートを建ててしまえば、また不動産を購入してしまえば、説明されたマスターリース契約の内容が勧誘時と違っていたり、予想していたもので無かったとしても、もう契約を締結するしかない状態になっています。
そういうことの防止のために、上記ガイドラインでは、「建設業者や不動産業者が…(略)…勧誘時点でオーナーとなろうとする者がマスターリース契約のリスクを十分に認識できるようにすること。その際、サブリース業者が重要事項説明の際に使用するマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載した書面(参考:…省略…)を交付して説明することが望ましい。」とされています。ただ「望ましい」となっているので、現状は「努力義務」としての位置づけになっています。
ですので、業者が勧誘段階で重要事項説明書(またはそれと実質同じ内容を記載した書面)を提示しない場合は、サブリースを検討される方はその提示、さらに(サンプルでいいので)交付を求めた方が良いと思います。遠慮することはありません。
③ マスターリース契約締結前の重要事項説明(30条)
■ 予めリスクを認識する事は重要and信頼関係の構築にはお互いの共通認識が重要
私は、本規定が業者の説明責任の内容と手続きを法制化する上での核となるもので、本新法で最も重要な規定と思っています。
「不動産賃貸業を営む」ということは大きな財産を対象とし、世代を跨ぐ可能性ある重大な取引、経済活動です。ですから、できるだけ適切な契約を締結する必要があります。その為には、経済面・運営面・オーナーと業者の関係性等の契約内容を十分に知る必要があります。
特に不利な点は重要です。世の中は絶えず変化しています。アパート等は古くなっていくし、近隣に新しいアパート等が建つかもしれません。そういうリスクも予測して賃貸業への参入を決断しなければなりません。
もちろん、そういうリスクを回避し、また適切に対応する為に専門家たるサブリース業者が就いてくれます。その相棒となる業者が、頼れる相手であるかを確認するためには、不利な点について尋ねることはとても有効です。
さらに賃貸借関係(私は賃貸借関係ではなく共同事業関係と思っています。)は長期間継続します。長期間の契約関係では信頼関係はとても重要です。そういう信頼関係を構築するには、お互いに有利・不利を納得して合意(=契約締結)することが重要です。
■ 重要事項の対象(内容)
事前に説明が必要な重要事項と指定されているのは、以下の14個です。
(特定賃貸借契約の締結前の説明事項)(施行規則46条)
法第三十条第一項の国土交通省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
(ピンクの部分は、説明時に、特にオーナーは注意した方が良いとか、分かり難いかなと思う事項です。)
一 特定賃貸借契約を締結する特定転貸事業者の商号、名称又は氏名及び住所
二 特定賃貸借契約の対象となる賃貸住宅
三 特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件並びにその変更に関する事項
(ガイドラインより抜粋)
特に、契約期間が長期である場合などにおいて、オーナーが当初の家賃が契約期間中変更されることがないと誤認しないよう、家賃改定のタイミングについて説明し、当初の家賃が減額される場合があることを記載し、説明すること。
さらに、契約において、家賃改定日が定められていたとしても、その日以外でも、借地借家法に基づく減額請求ができることについても記載し、説明すること。
四 特定転貸事業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
五 特定転貸事業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
(ガイドラインより抜粋)
特に、オーナーが費用を負担する事項について誤認しないよう、例えば、設備毎に費用負担者が変わる場合や、オーナー負担となる経年劣化や通常損耗の修繕費用など、どのような費用がオーナー負担になるかについて具体的に記載し、説明すること。
また、修繕等はサブリース業者が指定する業者が施工するといった条件を定める場合は、必ずその旨を記載し、説明すること。
六 特定賃貸借契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
七 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
八 責任及び免責に関する事項
九 契約期間に関する事項
(ガイドラインより抜粋)
特に、契約期間は、家賃が固定される期間ではないことを記載し、説明すること。
十 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
十一 転借人に対する第四号に掲げる事項の周知に関する事項
十二 特定賃貸借契約の更新及び解除に関する事項
(ガイドラインより抜粋)
契約の解約の場合の定めを設ける場合は、その内容及び上記七号(損害賠償額の予定又は違約金に関する事項)について説明すること。
契約の更新拒絶等に関する借地借家法の規定の概要については、下記十四号(借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要)の内容を記載し、説明すること。
十三 特定賃貸借契約が終了した場合における特定転貸事業者の権利義務の承継に関する事項
(ガイドラインより抜粋)
特に、(オーナーが業者から)転貸人の地位を承継した場合に、正当な事由なく入居者の契約更新を拒むことはできないこと(つまり今の入居人をそのまま引き継ぐ)、サブリース業者の敷金返還債務を承継すること等についてオーナーが認識できるようにすること。
十四 借地借家法(平成三年法律第九十号)その他特定賃貸借契約に係る法令に関する事項の概要
(ガイドラインより抜粋(概要))
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- 借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)について
(概要)
賃料の増減に関しては、「オーナー-業者間の契約条項」に関わらず、借地借家法32条が適用されるので、経済事情や近隣相場等、法の規定する事情に変動があれば、賃料の増額減額請求ができる。また(借地借家法には賃借人保護の趣旨があるので、)賃料増額の一定期間禁止は有効だが、減額については一定期間禁止(例えば、「○○年間は賃料不変」等)しても減額請求できることになっている。そういうこと及び増減額請求の手続きを記載し、オーナーに説明すること。
- 借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)について
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- 借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)について
(概要)
賃貸借契約の更新については借地借家法28条が適用されるので、(業者からの更新拒絶は普通に認められるが)オーナーからの更新拒絶には正当の事由があると認められる場合でなければすることができない(実際はかなり困難)旨を記載し、説明すること
- 借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)について
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- 借地借家法第38条(定期建物賃貸借)について
(概要)
借地借家法38条に規定されている定期借家契約(約定の期間満了により賃貸借契約が終了するもので、更新拒絶の可否の問題が生じない。特別の様式の説明文書等が別途必要である。)としてマスターリース契約を締結する場合、家賃は減額できないとの特約を定めると32条の適用はなく、サブリース業者から家賃の減額請求はできないこと、オーナーからの途中解約は、原則としてできないこと等を記載し、説明すること
- 借地借家法第38条(定期建物賃貸借)について
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■ 既存のマスターリース契約を変更する場合も説明義務・書面交付義務あり
なお、マスターリース契約の内容を変更する場合(実質な新契約)も、業者側はその変更部分について書面を交付して説明する義務があります。この場合、元のマスターリース契約が本法の施行前に締結されたマスターリース契約で、法施行後に賃貸人に対して重要事項説明を行っていない場合は、上記①~⑭に掲げる全ての事項について説明する義務があります。
④ 契約締結時における書面交付(31条)
本規定は、マスターリース契約の契約書には、上記重要事項として説明した事柄で、借地借家法に関すること以外のことを記載しなければならないとしています(契約書本体に書かなくても、添付書面として記載する場合もあると思います。)。
なお、既に契約済のマスターリース契約の内容を変更する場合(実質な新契約)、その変更部分について、業者には上記該当する部分を記載した書面を交付する義務があります(元のマスターリース契約が法施行前のものである場合は30条と同様(全てを記載した書面を交付する必要がある場合も有る。)。)。
⑤ 賃貸住宅管理業の登録の義務化(3条)
以前は国交省が管理するこの制度への登録は任意でした。そのため、大手のサブリース業者でも登録していないところもありました。新法制定により、一定規模以上の賃貸物件を管理する業者(サブリース業者以外も)は登録が義務になりました。これにより、国土交通省配下の行政機関の監督がより円滑、迅速に実施されることが期待できます。
※ 以上重要だと思う部分をガイドラインから抜粋(+文を短くする為省略等の若干の編集)しましたが、実際のガイドラインは、上記全ての項目について、解釈の指針・内容が詳細に記載されています。マスターリース契約締結をお考えの方は、是非一読されることをお勧めします。
「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン(令和4年6月15日改正)」
(3)最後に新法のポイントの概要を図にして示します。
最後に、新法の要点を一目で把握し易いように、国土交通省が作成している図を掲載しておきます。
(国土交通省webサイト「賃貸住宅管理業法 法律、政省令、解釈・運用の考え方、ガイドラインについて」から
ガイドラインのポイント)
2.サブリース業者対象の法令等の法改正の効果
(1)違反業者には刑事罰や行政処分がある。
違反した業者には、行政処分として業務停止という重い処分も規定されています。刑事罰も罰金だけでなく、不当勧誘等を行った者は懲役という重い刑も規定されています。ですので、企業や実務担当者が慎重に営業、運用を行うようになることが期待できます。
また処分があれば、行政庁のHP等に掲載されたり告知されたりするので、企業にとってはイメージの問題、信用問題になります。ですので、「それは担当者が…」と言う姿勢ではなく、企業全体として適法・適正な運用に注意して行くと思います。
(2)オーナーの自己責任は強くなる
本法は、オーナーを保護する為に制定されものと言えます。
ただし、業者の説明責任が明確になり、かつそれが実施されるようになれば、オーナーも「そんなの聞いてないよー」と言えなくなりますので、契約を締結する際は、業者の説明をよく聞いて、疑問点は遠慮せずに質問する。直ぐに契約しないで、重要事項説明書や契約書の雛形もらって専門家に尋ねてみる…その上で契約をするかしないかを考えるという自己防衛をしないといけません。
そうでないと、例えば、勧誘時に不当勧誘と言えるような上手い話をされたため、乗り気になって重要事項説明や契約内容の説明をいい加減に聞いて署名押印すれば、賃料保証期間中の賃料減額や突然の業者からの解約ということになっても、それが借地借家法の要件に適合している限り許されてしまいます。
例え裁判をして「勧誘時はそんなこと言ってなかった」と主張しても、業者が「ちゃんと説明しました。」と主張して署名押印のある(最近は署名だけという場合もあると思いますが。)重要事項説明書や契約書を証拠に出されれば、まず勝訴できないでしょう。有利な条件での和解も難しいと思います。
だから、「私は賃貸業のことはよく知らないし…。法律は難しいし…。業者さんにお任せで大丈夫でしょ。」は許されません。慎重に、十分に検討し、納得してから契約して下さい。
(3)本法が適用されるのは、本法施行以後の契約(及び契約変更)のみ
この法律の不当勧誘禁止や説明義務、書面交付義務は、この法律が施行された令和2年12月15日以降に新たに契約されたマスターリース契約に適用されます。
それより前に契約されているものについては、令和4年6月15日以降に契約内容が変更された場合は本法に沿った手続きで変更契約がなされなければなりません。
令和2年12月15日より前の契約で、契約の変更も特に無いということであれば、業者が重要事項について説明していなかったとしても違法ではありません。そのような場合にもし問題が発生したとしたら、一般の法律(民法、借地借家法等)に従って判断されることになります。
3.最後に(雑感)
今回の法律の制定、施行で、サブリース方式の賃貸管理を行っている業者、特に建築勧誘型や購入勧誘型の業者の適正な勧誘や説明が期待できるようになり、マスターリース契約のオーナーとなった者が予想外の損害を被ることは少なくなるのではないかと思います。
ただ、上記述べた「建築勧誘型」や「購入勧誘型」のように、マスターリースに必要な賃貸物件をマスターリース契約締結前に所有することが前提となる場合は、実質はその物件の建築や購入段階でマスターリース契約の手続きが始まっています。しかし、勧誘段階では重要事項説明は努力義務であるというタイムラグの問題は残っています。
さらに個人的にではありますが、「建築勧誘型」や「購入勧誘型」で、自社のタイプの賃貸物件をオーナーという個人に用意させ、賃貸業を全国展開している企業に何故当然に借地借家法が適用されるのかなあ…という思いがあります。
借地借家法は、借家が借家人の生活基盤であったり、商人の営業基盤であったするので保護の必要性があること、規制がなければ賃貸人がどうしても有利な立場になることから、賃借人が不利にならないように制定されています。しかし、自社(タイプの)物件とも言えるアパート等を建築または購入させ、全国レベルで賃貸業を展開している大手企業は、一つの特定物件は特に生活基盤でも営業基盤でもありません。不採算物件だと思えば、容易に契約を終了できる地位を持っています。また実際に、賃料変更やその額(大概は減額)、契約解除の申出等は大家であるオーナーからではなく、借家人たる業者から提案されており、賃貸借契約の主導権は業者側にあります。極端なことを言えば、「建築勧誘型」や「購入勧誘型」なら、最初に利益を得ることができるので、その利益が無にならない範囲で試運転営業し、駄目だと判断したらその物件からは撤退することができるのです。極端かもしれませんが、それに類似するケースがあるから賃料減額や解除で紛争が発生する。また「建築または販売で利益をあげればいい」と賃貸業を営業ツール程度にしか考えず、無理でも管理物件をどんどん増やすから(まるで破綻必至の投資事業のようなもの)、資金繰りができなくなり倒産する会社も発生する。
もちろん全てがそうとは言いません。しかし、自己都合での自社利益の追求に傾きすぎた企業がいたからこそ、昨今のサブリース問題が発生し、行政の対応が必要なったという事実があります。
本来「建築勧誘型」や「購入勧誘型」のサブリースの良さは、「専門業者が賃貸物件を建設または用意してくれ、さらに賃貸業までやってくれることで、楽に安定した権利収入が継続して入る」という点です。また、ゆくゆく不動産(特に更地等)の相続が想定されるなら、相続対策としても一定の効果があります。それにはその物件での賃貸業が、長く継続して行けることが必要です。その実現には、業者にとってもオーナーにとっても良い物件を所持すること、そして状況に応じて必要な対処をしていくことです。それには業者は専門家として能力を高めていかないといけないし、オーナーもリスクを認識して状況変化に応じた対処の必要性を自覚しなければなりません。サブリースは業者主体で賃貸業を継続するために必要な手当・対処・処理をして行きますが、その際の資本部分(建物等の現物の用意、費用負担)はオーナーが担当(負担)するのですから、両者の信頼関係が本当に大事です。まさに共同事業者の関係だと思うのです(フランチャイズに似ていますが、直営店の要素がかなり入っていると思います。)。
「わからずやのオーナーで困る」vs「騙されたみたいなもんだ」という状況が多発すれば、当然オーナーにとって安心安定の賃貸経営にならないし、業者にしても企業の発展にはならないでしょう。
今回の法改正は、業者の説明責任を強化することで、上記サブリースの負の側面を是正する一段階と思いますが、今後の情勢に応じて法律を改良して行くことは必要だと思います。ただ、頻繁な法律改正も法的安定性を害し、業者もオーナーも混乱することになりますから、法律の手続きに従って営業、運用がなされているものについては、当面の間、個別の問題が発生すれば当事者の話し合い、それで決着が付かなければ訴訟で裁判所の判断…等になるでしょう。
そこで、次回は、サブリースに関する近時の裁判例の傾向を見てみたいと思います。
以上
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