下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
TBS日曜劇場『日本沈没』を観ているとつくづく政府の重大情報開示には駆け引きがあることが思い出されます。
今回の記事のテーマはドラマの話ではなく、現実世界の少々違った意味の日本沈没(?)の話です。
「5年前から94万人減」に隠れた178万人減の真実
11月30日に総務省が2020年国勢調査の確定値を公表しました。NHKの報道のタイトルは『日本の総人口減少続く 5年前より94万人余減少』です。全国紙の報道もすべて「5年で94万人減」で統一されています。
「思っていたよりも小幅だな」
というのが経済評論家としての私の直感でした。2008年に日本の人口が減少に転じた後、それにしても5年で94万人とは減少ペースが遅く感じられる。それで総務省の発表を読んでみると実情がわかりました。数字のからくりはこういうことです。
①日本人の人口は5年間で実は倍近い178万人も減少している
②外国人人口がこの5年間で84万人増えている
③その差し引きで日本の総人口が94万人減少と報道されている
この説明なら私もピンときます。経済の世界では『2030年問題』というキーワードがあって、2030年には日本の人口が大幅に減少し、そのことで経済が回らなくなるのではないかという危機感があります。
ちょうど10年前、2011年に総務省が発表した資料を引用しますと、その時点で未来予測された2030年の日本の総人口は1億1520万人。2020年の人口と比較すればこれからの10年間で1100万人も減少する予測でした。
これからの10年間で1100万人の人口が減少する予測があるならば、最初から「これまでの5年間で日本人は178万人減少している」という事実を報道してくれれば、事の重大さがもっと伝わったはずです。
日本の人口は減少に転じてからは放物線を描くように人口減少が始まると予測されています。最初のうちは減少率が小さいのですが、徐々に加速がついて減少幅が大きくなる。とりあえずここまでの5年間が178万人減で、ここからの10年は1100万人減少というペースで減っていくわけで、やがて人口は半減し遠い将来には「日本人は消滅する」とまでまことしやかに言われているぐらいです。
それではどうすればいいのか?という話ですが、ここから日本にとっては2つの解決の方向性があります。まずは第1の解決の方向性を検討するために、2020年の浜松市の人口グラフをご覧いただければと思います。
(外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
浜松市は男女別、年齢階層別の日本人と外国人の住民台帳データを公表してくれているのでこういったグラフを作ることができます。ただこのグラフは少々トリッキーなところがありまして、グラフの横軸が日本人と外国人で10倍違います。あくまで形を見ていただきたいと思い、そう作ってあります。
この左のグラフの形は日本の人口ピラミッドグラフと大差ありません。日本人の人口ピラミッドは頭でっかちな釣り鐘型になっていて、年々、高齢者部分の形が大きくなっていっています。一方で右側のグラフをみるとわかるとおり日本に流入する外国人人口は20代・30代の若年人口が多く、この層がコンビニ、宅配から工場まで日本経済の現業を支える若い力となっています。
在日外国人は過去5年で4割以上増えている
そして先に1つめの結論を言えば、今は10倍の縮尺の違いがあるこのグラフですが、将来的に日本が発展に転じたいのであればこれから30年ぐらいかけて2つのグラフの縮尺を同じぐらいにしたほうがいいかもしれないわけです。
これが1つめのオプションである移民による国家再生論です。論理的にはありうる選択肢でありながら、日本の移民国家化は国民の間で反対論がとても多い。だから政府は公式には移民という言葉をいっさい使わず、外国人労働者のビザ条件の緩和というような別の言葉で政策を進めています。
その成果が先の国勢調査で出た外国人の人口約275万人という結果です。過去5年間で84万人、実に4割以上も増加していて、コロナ禍で停滞しているとはいえペースとしては2030年には500万人を超える勢いで在日外国人の人数は膨らんでいるわけです。
経済で考えれば外国人増加の方向に向かうのがいいと思う反面、日本文化という観点では移民を認めたくない日本人が多い。この問題は本当は社会全体でもっと議論されるべきです。その議論をしないとどうなるかというのが現在の状況で、国民がそう認識しないうちに日本の実質移民国家化が進んでいる。まさにドラマ『日本沈没』で描かれたような情報開示のせめぎ合いが、隠れ移民国家化を引き起こしているのです。
さて日本の人口減少による社会沈没からの回避策として2つめに検討すべきはDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
私は先日もDXに関係してJA(農業協同組合)の方と議論をする機会があったのですが、とくに農村部において人口問題を回避していくためには移民では間に合わずDXを主な解決策として想定する必要があると私は強く思います。
日本が移民国家に向けて今以上に大きく門戸を広げるのであれば話は別ですが、少しずつ外国人を増やすという今の政策が現実策である以上、その増加人口の大半は都市部に集中します。外国人の若者だって日本人同様、都市部で働きたいのです。
農村部の人口減少問題はより早く深刻化
その結果、農村部では都市部よりも早く人口減少問題が深刻化します。若い労働力が日本全体で足りなくなることで今はそれほど過疎化していない農村部でも、孤立した高齢者世帯をどうするかなど限界集落化問題が表面化します。
一方でDX活用による農村部の限界集落化阻止のビジョンを先にイメージすれば、向かうべき方向は見えてくるでしょう。2040年ごろを想定した日本の農村部はこれから示す文章のようにありたいものです。
舞台となるのは市町村の人口5万人程度、集落としての世帯数は数十戸の農家が主体の集落です。コンビニやJRの駅までは車なら15分ですが歩けば1時間はかかります。中心部のスーパーマーケットやホームセンターは車で30分といった立地で、2021年の前提条件であれば車とそれを運転する家族がいなければ生活が難しい場所でした。
それが2040年では5Gと自動運転の電気自動車とドローンやクリーンエネルギーの普及などで様変わりします。
2040年の集落には休耕地に太陽光パネルが設置され、農作業用の軽トラックや乗用車はすべて電気自動車となっていて発電と一体化した集落のエネルギーグリッドを形成しています。これら農村の電気自動車はロボタクシー網も形成しており、集落の住民はみなスマホでこれらの乗り物を共有し、運転手不在でも買い出しに出られるようになっています。
無人駅の近くに一軒だけある小さな病院は5Gネットワークで大都市の大病院とつながっていて、住民は地元の病院からネットワークを通じて遠隔医療を受けることができます。ドローンによる配達も普通に行われており、農村に住んでいても市町村の中心部からコンビニ弁当やウーバーイーツによる出前をドローンで取り寄せることが可能です。
農作業もDX化が進んでいて、日ごろの見回りはセンサーや監視カメラ、パトロール用のドローンが高齢化で不足する人手を代行してくれます。集落にはかつてはぽつぽつと空き家があったのですが、最近では大都市の企業でリモートワークをする社員と、遠隔授業を受けるその家族がそれらの家屋を借りて住むようになり、集落の人口減少には一定の歯止めがかかるようになっています。
こういったビジョンはこれから20年後という時間軸であれば腹落ちする内容だと思います。だとすればこれから20年かけて徐々にそちらに向けて進むことで来るべき人口減少時代を明るいものに変えることができるはずです。
具体的にはJA主導でこういった社会変革を行うのが望ましいと思いますが、農村部のエネルギーグリッド化、5Gによる農業のDX化はすぐにでも始められますし、ロボタクシー出現までの間のつなぎ政策として、今でもできるカーシェアの全面解禁など手をつけられる政策はたくさんあると思います。
これから20年で2000万人規模の日本人がいなくなる
いずれにしても1つだけ確実に当たる未来予測があります。それは2030年、2040年の日本人人口が1000万人、そして2000万人規模で減少していくということです。
指をくわえてそれを見ていれば日本社会も沈没していく。働き手が不足して高齢者が孤立する人口ピラミッド崩壊社会が出現するのです。それに歯止めをかける有効な手段は、外国人労働者を増やすことと、農村部から先にデジタル未来都市化と進めていくこと。
その危機感を共有するには、冒頭の「日本の総人口が5年前より94万人余減少」という情報開示のあり方は、問題を矮小化するという意味でよくないやり方だったのではないかと私は思うわけです。テレビドラマに引っ張られての感想かもしれませんが皆さんはどう思われますか。
鈴木 貴博 : 経済評論家、百年コンサルティング代表
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