下記の記事はプレジデントオンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
精神医療では、患者を囲い込んで儲ける悪質な現場がある。精神医療現場における人権侵害の問題に取り組む米田倫康さんは「たとえば精神科デイケアでは、10年以上も麻雀をさせるだけという現場があった。これでは社会復帰にはつながらない」という――。
※本稿は、米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
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素人同然の精神科クリニックが乱立
うつ病キャンペーンの成功により、精神科、心療内科の開業ラッシュが起きました。商機と見るや、次々と畑違いの医師からの新規参入も増えました。この異常な開業ラッシュの原因となったのは以下の要素です。
・初期投資が少ない(極端な場合、机と椅子さえあればよい)
・目立たない雑居ビルの一角が来院者に好まれるので一等地である必要がない
・適当な診断と投薬でも成り立つので医師の能力を必要としない
・訴訟リスクが少ない(患者側が誤診や医療ミスを証明するのは困難)
・医師免許さえあれば誰でも精神科医や心療内科医を標榜できる
・調剤薬局関連会社が先に施設を作ってそこに雇われ院長を据えるというビジネスモデルが広がる
雨後の筍のように乱立した精神科、心療内科クリニックの質はひどいものでした。つい先日まで産婦人科医や眼科医だった医師が、突然精神科クリニックの院長となってうつ病診断や投薬をするというような話は普通のことでした。では、古参の精神科医や、精神保健指定医あるいは専門学会の専門医の資格を持っている精神科医の診療の質は高かったのでしょうか? 私はそれに対しても心の底から「NO!」と叫びたいです。
むしろ、にわか精神科医よりも、大学病院の精神科や精神科病院での実務経験を積んでいた精神科医こそ、躊躇なく安易な診断や多剤大量処方をしていたというのが私の印象です。精神科病院の入院患者に対して、ただ管理しやすくする目的で過剰に投薬してきた経験がそのまま反映されていたのでしょう。
あくどい精神科クリニックは、処方する薬で意図的に患者を薬物依存に陥らせ、頻回に受診させるという、麻薬売人も真っ青な手口で患者を囲い込みました。そのようなクリニックでは無診察処方という違法行為など当たり前でした。秒単位で診察を終わらせる「秒察」というグレーゾーンの行為も頻発していました。薬物依存に陥った患者は薬さえもらえたらよいという思考に陥るため、患者にとってもありがたいことでした。
しかし、それは新たな形態の薬物汚染そのものであり、保険診療や福祉制度を崩壊させ、人々の平穏な生活を脅かすレベルにまで悪影響をもたらすものでした。
社会問題となった「リタリン中毒」
2005〜08年あたりには「リタリン中毒」が大きな社会問題となりました。リタリンとは、メチルフェニデートを成分とする中枢神経刺激薬の商品名であり、海外では主にADHD(注意欠如・多動性障害)に対して処方されていました。
日本では特別にうつ病に対して処方されていましたが、覚せい剤に類似し、即効性があって多幸感が得られるため、劇的な効き目があると患者が錯覚しやすく、依存しやすいことが問題になりました。特定の精神科クリニックで安易にリタリンが処方された結果、多くの若者がリタリン中毒に陥り、リタリンを求めて処方箋偽造や薬局への強盗、違法売買などが頻発するようになったのです。
薬を簡単に出してくれる精神科クリニックには患者が列をなし、たった一人の医師である院長が、1日で300人の患者を診る(実際にはほとんどが無診察処方)という状況でした。
2000年代前半は、無診察処方など普通のことで、クリニック受付に「薬だけの患者さんはこちら」などと堂々と表示を掲げているところすらありました。今ならすぐにSNSにアップされて炎上する案件ですが、当時はまるで厳罰化前の飲酒運転のように、どこでもやっているという状況でした。
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「秒察」や無診察で、たった1日で100万円以上荒稼ぎ
さすがに看過できなくなったのは、リタリン中毒という健康被害が各地で発生したことに加え、通院精神療法が無節操に算定されるようになったためです。通院精神療法とは、精神科クリニックにとって主な収入源となる保険診療です。1回につき高額な医療費(1998〜2003年度は3920円、2004〜05年度は3700円、2006〜07年度は3600円)が算定できるのですが、1日に200人や300人も一人で診るような精神科クリニックが、たった1日で100万円以上荒稼ぎすることができたのです。
しかし、「精神療法」と名のつく通り、本来の通院精神療法は「秒察」や無診察で算定できるはずがありません。実際、通院・在宅精神療法では「精神科を担当する医師(研修医を除く)が一定の治療計画のもとに危機介入、対人関係の改善、社会適応能力の向上を図るための指示、助言等の働きかけを継続的に行う治療方法」と定義されています。
さすがに通院・在宅精神療法の無節操な請求が目に余ったため、厚生労働省は2008年度から「診療に要した時間が5分を超えたときに限り算定する」と時間要件を新たに設けました。時間で縛りを設けるなんて非科学的だ、などと精神科クリニック関係者からは大きな不満の声が上がりましたが、そうでもしない限り、有限で貴重な社会保障費が一部のデタラメ精神科クリニックに食いつぶされるのを防ぐことができませんでした。
私は、2006年頃からマスコミや行政機関、国会議員らと協力し、デタラメな精神科クリニックの違法行為(無診察処方、医師法違反、不正請求、麻薬および向精神薬取締法違反など)を徹底的に暴き出しました。その結果大きな社会問題となり、これらの無法状態に規制が入るようになりました。
規制を強化しても精神科医の心根は変わらない
その後も、リタリンをはじめとする問題ある向精神薬(商品名:デパス、ベゲタミンなど)自体に規制がかかるようになり(2016年)、多剤大量処方や長期漫然処方などの不適切処方に対しても保険診療上の規制がかかるようになりました。しかし、これらの規制は結局いたちごっこにすぎません。結局、抜け穴があったり、別の手段に取って代わるだけだからです。
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考えたら分かることです。いくら規制を強化したところで、患者の命や健康を犠牲にし、隙あらば公金から金をかすめ取ろうと考えているような精神科医の心根が変わるわけではありません。彼らはその規制を逃れるように別の手段を見つけ出すだけなのです。医療現場から排除されない限りそのループは続くのです。現実的には、医師免許を剝奪するのは非常にハードルが高く、どんなに悪徳な精神科医でもそう簡単には排除できない仕組みになっています。
薬で患者を依存させ、無診察あるいは「秒察」で患者の回転を速め、通院精神療法で際限なく荒稼ぎするビジネスモデルは通用しなくなりましたが、賢い精神科医は規制がかかる前から別のビジネスモデルに切り替えていました。精神科デイケア施設を併設し、そこに患者を囲い込むというビジネスモデルです。
精神科デイケア施設への患者の囲い込み
精神科デイケアとは、病気の再発防止、社会復帰、社会参加を目指すリハビリテーションとされていますが、患者の社会復帰など微塵も考えていない、悪質な囲い込み型の精神科デイケアも珍しくありません。プログラムの一環としてビデオ鑑賞、カラオケ、ボードゲーム、テレビゲーム、麻雀などをさせて適当に遊ばせているだけで、何の方針も目的もないような行為が「治療」とされ、さらにはその多くが我々の税金である「自立支援医療費」から消費されています。
10年以上同じ精神科デイケアに通っている患者に、どんなことをしているのか尋ねてみたことがあります。すると「ずっと麻雀してるよ」と驚くべき答えが返って来ました。10年もひたすら麻雀を打ち続け、結局社会復帰などしていないのです。
私はマスコミとともに、質が低い精神科デイケアに違法に患者を囲い込んでいる精神科クリニックの実態を2015年に暴きました。それはパンドラの箱でした。行政機関の闇も同時に暴いてしまったからです。昔から行政機関にとっては、特定の精神医療機関はありがたい存在でした。行政にとって厄介な人や行き場のない人を引き取ってくれるからです。しかし、その持ちつ持たれつの関係が、違法行為や人権侵害を見過ごすことになり、宇都宮病院事件(1983年)や大和川病院事件(1993年)につながったのです。行政が貧困ビジネスと手を組んで人権侵害を助長するという構図が21世紀に引き継がれていました。
福祉事務所の相談員が、自分たちのクリニックに不適切に受診誘導
大田区、江戸川区、港区は、都内のある精神科クリニックに随意契約で業務委託し、クリニック職員を相談員として福祉事務所に配置していました。その相談員が、自分たちのクリニックに不適切に受診誘導していたことが判明しました。しかも、受診することが生活保護を受給できるようになる要件であるかのような説明もしていたのです。そのような経緯で同クリニックにつながれた人々が、劣悪な住環境のシェアハウスに囲い込まれたうえに不適切な金銭管理までされていたことが発覚しました。
ちなみに、同クリニックは結局大したお咎めもなく、それ以降も系列クリニックを増やして大規模な精神科デイケアビジネスを展開しています。ただ、ようやく精神科デイケアの暗部が世に知られるようになりました。その結果、2016年度診療報酬改定の際には、「長期かつ頻回の精神科デイ・ケア等の適正化」が取り上げられ、算定に制限が設けられるようになったのです。
自己負担3割のうち2割を公費負担としてカバーする「自立支援医療費」
このようにして、問題を暴いて規制を設けても、また別の問題が発生するということの繰り返しになっています。これは決して一部の精神医療機関だけの問題ではありません。私は、精神科治療が成果を上げ、患者の容体が改善して自立しているのであれば何も文句など言いません。しかし、今や精神科通院に消費される自立支援医療費はうなぎ上りです。つまり、全体的に見ても患者を自立させてはいないのです。
米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)
自立支援医療費(精神通院医療費)とは、健康保険適用の場合、精神科に通院する患者の自己負担3割のうち2割を公費負担としてカバーする制度です。2006年度以前は別の制度(通院医療費公費負担制度)によって、通院患者の自己負担は5%以下でした。地方自治体によってはその5%分も負担することで患者の自己負担が実質無料でした。それは不正請求の温床でもありました。患者の自己負担がないので、不正な請求がされていても気づかないためです。
生活保護受給者の場合、自立支援医療費が適用される治療に対しては、生活保護の医療扶助ではなく、自立支援医療費から治療費が負担されます。精神科デイケア施設に1日中いるような患者であれば生活保護を受給していることも多いのですが、精神科デイ・ナイトケアの医療費1日当たり1万円が、すべて自立支援医療費からその精神科クリニックに支払われることになります。
精神医療による貧困ビジネスの実態
以前は、精神病院への囲い込みが効率的で儲かる貧困ビジネスでした。身寄りのない人を精神病院にぶちこみ、生活保護の受給をさせれば医療費の取りっぱぐれがないため、不必要に長期入院させることで安定した経営が可能でした。まるで牧畜業だと精神病院は揶揄
やゆ
されましたが、その存在をありがたがる人たちがいました。治安維持や景観維持(ホームレス排除)、姥捨て山としての機能など、本来精神病院に任せるべきではありません。しかし、あえてその役目を半ば公然と引き受けることで成長してきたのが精神病院でした。
1980、1990年代になると精神病院内での暴力・虐待・支配・搾取が世間を揺るがすようになり、その元凶である隔離収容主義に対する国際的な非難が高まり、政府は長期的な囲い込みができないように政策を誘導せざるを得なくなりました。しかし、精神医療による貧困ビジネスがなくなったわけではありませんでした。さまざまな形態に変化し、現在に至ります。その形態の一つが精神科デイケアを利用した囲い込みなのです。この世界は、根本から変えない限りいつまでもいたちごっこが続くのです。
- 米田 倫康(よねだ・のりやす)
- 市民の人権擁護の会日本支部代表世話役
- 1978年生まれ。東京大学工学部卒業。市民の人権擁護の会日本支部代表世話役。在学中より、精神医療現場で起きている人権侵害の問題に取り組み、メンタルヘルスの改善を目指す同会の活動に参加する。被害者や内部告発者らの声を拾い上げ、報道機関や行政機関、議員、警察、麻薬取締官等と共に、数多くの精神医療機関の不正の摘発に関わる
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