44．ビートルズ日本公演のチューニング

【ビートルズ1966年のツアーより（西ドイツ）】　→Click

　1966年 6月30日から 7月 2日まで、ビートルズは日本武道館で都合
５回のステージを行った。１ステージが30分ちょっと、アンコール無
し、後のアルバムタイトルのヒントとなったといわれる（註）厳重な
警備による声援の制限、演奏のノリの悪さ・・・等、なにかと話題の
尽きぬイベントであった。

※（註）"REVOLVER"のことであるが、アルバム発売時期からしてその
　　　　説は矛盾する。"REVOLVE "（回転する・循環する）という語
　　　　から付けられたタイトルという説が有力である。詳細はまた
　　　　別の機会で。

　日本公演に関するコメントは、いろいろと他でも多数お目にかかる。
ここでは、ギターのチューニングをテーマに、私論を展開してみたい。
音源は世に出回っている1966年 6月30日と翌日 7月 1日昼の部の２つ
のステージである。

　1966年 6月30日。Ｅ．Ｈ．エリックの紹介により、登場する４人。
ギターを抱えて観客に背を向けながら「一応チューニングの確認」。
カジノの固い音が、ＶＯＸのアンプを通して武道館に響き渡る。２弦
（Ｂ音）を６回ピッキングの後、１弦（Ｅ音）を３回ピッキング。そ
の後、Ａ音が聞こえ、６弦のＥ音も聞こえてくる。やがてヘフナーの
低音も混じり、３人の音が渾然一体となる。一瞬の静寂の後、Ｅ７を
ローポジションでジョンが「ジャジャジャジャッ」と突然ワイルドに
かき鳴らす。'Rock And Roll Music 'で日本公演の幕開けである。

半音低いチューニングは６月３０日だけ

　あれっ、どうも「ぬるい」な。なんだろう、このぬるさは。確かに
レコード（当時）で聞くバージョンよりもスローテンポではあるのだ
が。わかった。チューニングだ。明らかに半音あるいは半音近く低い。
微妙なチューニングである。ギターのチューニングは、特殊事情が無
い限り、６弦から「ＥＡＤＧＢＥ」になるのだが、この日のステージ
では、「Ｅ♭Ａ♭Ｄ♭Ｇ♭Ｂ♭Ｅ♭」になっているのだ。

　この頃、'I'm Only Sleeping 'や'Yellow Submarine'が同様のチュ
ーニングでレコーディングされている。けだるい、のんびりした曲想
に相応しいチューニングである。この日、ラストナンバーである'I'm
Down 'をジョンがＶＯＸコンチネンタルオルガンで演奏する予定であ
ったが、演奏されなかった。それはこのことと関係していたのだろう
か。キー「Ｇ」に慣れていたから、キーボードで突然移調奏を試みる
のは、ライブステージ百戦錬磨のジョンでも、ちょっと難しかったか。
もっともヒジで弾けば、関係ないが。

　しかし、日本公演前のドイツ・ミュンヘンでの'Nowhere Man 'の音
や日本公演 7月 1日昼の部の音は、正規のチューニングであった。日
本での 7月 1日夜の部以降、３回のステージの音を直に確認していな
いため、断定はできないが、日本で「半音下げチューニング」で演奏
したのは、 6月30日の第１回めのステージだけと思われる。日本公演
後の「あの」フィリピン公演の音源や８月に展開されたアメリカ公演
の音源も聴いてみたいところである。

　なぜ、ビートルズは「半音下げチューニング」で日本公演の最初の
ステージを演奏したのであろうか。それは、「台風４号の影響により
羽田到着（註：1966年当時、まだ成田空港は無い）が遅れ、体調面の
不安定さを回避するための安全的処置」とみるのが自然であろうか。

　真相をぜひ知りたい。