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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」のショート版

半田滋の証人尋問「安保法制は天下の悪法」

2021年12月15日 | 裁判

12月10日(金)11時から東京高裁101号法廷で、安保法制国賠訴訟控訴審第5回口頭弁論・半田滋さん(元・東京新聞論説委員)の証人尋問があった。
じつは半田さんの尋問は4月26日に一度行われたが、当時の白石史子裁判長が8月末に札幌高裁長官に転任し、その他1人転勤もあり、渡部勇次裁判長(前・水戸地裁所長)に直接聞いてほしいと、規定に基づき再度の尋問を要請し認められたものだった。
法廷内なので、もちろん録音はできず、わずかな自分のメモのみに頼っているので、アウトラインの紹介にとどめる。時間は45分程度だったが、「スタンド・アウト」「第一列島線」「オリエントシールド21」など「業界」用語が多くわたしには苦手のジャンルなので、「用語」をメモするだけで手一杯になってしまった。帰宅してからネット検索し、意味合いを辿ることになった。幸い、報告集会の動画があるのを知り、それらをもとにアウトラインを書いてみた。はじめから言い訳になるが、いろいろ間違いがあるかもしれない。

●安保法制前後で何が変わったか
自衛隊の実力行使は、相手方からのわが国に対する武力攻撃を受けて開始される受動的なもの、つまり専守防衛が原則だった。
ところが、2015年9月の安保法制制定で集団的自衛権行使が認められ、これまでの専守防衛という方針が一変した。その1年前2014年7月閣議決定で集団的自衛権の容認、これを受け15年4月の日米安全保障協議委員会(2+2)で、日本以外の国に対する武力攻撃も「日本と密接な関係にある他国」なら自衛隊の実力行使(武力攻撃)ができる新ガイドラインを結び、9月に安保法制制定を強行した。
これまでは外国で武力行使はできないことになっていたが、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ」る(存立危機事態)なら自衛隊が武力行使できる(武力行使の新3要件)ことになった。日本への侵略と無関係に戦争に巻き込まれ、ガイドライン改訂で米軍を守るため自衛隊が世界のどこででも武力行使することになった。そして日本だけ離脱することはできなくなった
また後方支援といっても、戦闘現場以外なら他国軍の戦闘機への洋上や空中での給油や武器・弾薬の輸送もできることになった。

●安保法制成立で自衛隊の装備がどう変わったのか
装備における変化もあった。これまでは専守防衛なので、ICBM(大陸間弾道弾)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母を日本が持つことはできないとされていた。1988年瓦力防衛庁長官(当時)が国会でそう答弁した。
しかし防衛省は2018年度防衛予算で高速滑空弾スタンドオフミサイルの研究を開始した。射程400㎞というが射程は日本の技術力なら容易に伸ばせる。昨年12月には1000キロまで伸ばすことになった。また空母化した護衛艦「いずも」「かが」に垂直離着陸するステルス戦闘機「F35B」を搭載できるよう改修している。2020年に日本はアメリカからF35を105機も大量購入することを決定し5年後には日本に届く。それまでは米海兵隊のF35Bで訓練するが、今年10月岩国基地のF35B2機が「いずも」で着艦訓練を実施した。

●安保法制成立で、自衛隊の訓練がどう変わったのか
運用面でも、いままでは日本だけを守ればよかったが、「自由で開かれたインド太平洋」実現(安倍晋三・元首相)のために、インド洋や南シナ海で海上自衛隊の護衛艦が米軍と共同訓練をするようになった。中国軍の海南島潜水艦基地を想定するかのように、潜水艦「くろしお」「しょうりゅう」を南シナ海に送り込み訓練している。「地域の平和と安全を守る」というとき「地域」とはインド洋や南シナ海のことである。

●台湾有事の可能性、自衛隊に何が起こっているか
米軍と中国軍が台湾をめぐって戦争をするのではないか、いわゆる台湾有事が大問題になっている。
アメリカは1979年の台湾関係法で台湾との軍事的関係は持ち続けるが、側面支援だけで防衛義務はないことにしていた。ところがトランプ大統領が台湾への武器の大量売却を始め、バイデンは人的交流まで始めた。中国には不満がたまり、今年10月1日の国慶節から中国軍用機が連続4日、台湾の防空識別圏に侵入しその数、合計149機に及び、強烈な軍事的圧力を加えるまでになった。
アメリカでは台湾有事が6年以内に起きるだろうといわれる。言い始めたのはインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)の今年3月の議会証言だった。中国軍が接近阻止(武器の現代化)を達成するのが2027年、一方習近平主席の3期目任期終了が2027年ということで軍事的・政治的ピークが6年、その6年目あたりが一番危ないということだ。
アメリカは1987年のINF全廃条約でこの地域に中距離核ミサイルを持たないが、中国は1250発を保有し地政的に有利だ。それでアメリカは中国の第一列島線にある基地を活用しようとする。しかしフィリピンには置けず、韓国は中朝との問題があり、台湾は当事国なので、日本の沖縄・奄美・宮古など南西諸島を重視する。
今年6月の米陸軍との実動訓練「オリエントシールド21」で米陸軍ペトリオット部隊が奄美大島で初展開した。11月には統合幕僚長とインド太平洋軍ジョン・アキリーノ司令官が那覇基地や与那国駐屯地、奄美駐屯地などを視察した。
台湾は日本からみると国ではなく一地域なので「日本と密接な関係にある他国」にはなりえない。ところがアメリカが絡むと話が変わる。米中で軍事衝突が起こり、米軍に死傷者が出たり戦闘機が撃墜され、米軍の抑止力が弱まれば日本の「存立危機事態」となる。
バイデンは10月に、台湾を守る義務はないが台湾を守るとテレビで明言した。台湾有事になれば米軍が参戦し、日本の「存立危機事態」として自衛隊を送り込み米軍とともに中国と戦うことになる。そうなると中国にとって日本は敵対国となり、中国が保有する1250発の中距離ミサイルが降り注ぐ。そうなると台湾有事がシームレスに日本有事になってしまう。ひとつの法律ができたことで、わたしたちの生活や安全が破壊されてしまう

●防衛省・自衛隊取材30年
防衛省・自衛隊取材を続けて30年になる。そしてわかったのは、自衛隊の幹部はきわめて順法精神が強い人たちだということだ。安保法制ができて、訓練の範囲が拡大した。アメリカの戦争にまきこまれ隊員が命を落とすことにもなりかねない、本来、日本人を守りたいと思っていたはずなのに、たった一つの法律が制定・施行されたため不本意な結果をもたらすことになる。
安保法制は天下の悪法というしかない

裁判所正門。白い布の部分に、右写真のような「裁判所」のプレートがあるが、なぜかこの日は隠されていた
証言が終わると、傍聴席から拍手がおこった。普通、裁判官は制止するがこのときは何もしなかった。3人の裁判官も聞き入っているようにみえた。
11月30日(火)午後、安保法制違憲差止め訴訟控訴審で宮崎礼壹・元法制局長官の証人尋問を聴いた。宮崎さんはPKO法、周辺事態法、2003-04年の有事法制、イラク特措法などで憲法適合性など法令審査に携わった人物だ。安保法制について、他国防衛のための武力行使は9条違憲だし、従来政府自身が防衛予算の国会審議のつど「集団的自衛権は違憲」と述べてきた、と明言された。

次回は2月4日(金)14時、裁判は90分だが、80分の枠で最終弁論が行われる。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


東電株主代表訴訟で証人尋問・被告本人尋問を聞く

2021年07月29日 | 裁判

わたくしは、東電の株主ではないが、ときどき東電株主代表訴訟(以下、株代訴訟と略す)の傍聴に出向いている。
この訴訟の原告団は広報のレベルが高く、たいてい議員会館で報告集会を行い充実した資料を配布するので、この訴訟のことがあまりわかっていないわたくしなどでも、問題点がわかりやすくなっている。

東電株主代表訴訟事務局が作成した各種資料

ひとつは、事前に巨大津波を予測できたかどうか(具体的予測可能性)である。福島第一原発メルトダウンしたのは全電源喪失しポンプが止まり、冷却水を送れなくなったからだ。それは(東電にとっては想定外の)15.7mの巨大津波が敷地に押し寄せ、海岸側の低い位置に設置された非常用ディーゼル発電機やポンプが浸水したからだった。しかし15mクラスの津波が襲来する可能性は政府の地震調査研究推進本部(推本)で2002年に指摘され、原子力安全・保安院が2006年9月、電気事業者に耐震バックチェック実施を指示した。2008年3月ごろ関係会社の東電設計が最大15.7mの津波が襲来する試算をまとめていたし、東電内部の土木調査グループのスタッフも対策を進言していた。対策とは、根本的にはポンプなどの設備を高所に移設したり高い防潮堤を建設することだが、大がかりな工事が時間的に難しければ建屋に防潮壁を付けたり、扉を水密扉にして浸水を防ぐようなことも含む。
もうひとつは事故発生までのあいだに有効な対策をとることが可能だったかどうかだ。じつは対策を実施することが決まっていた。しかし勝俣会長、武黒副社長など今回被告とされている経営者たちも出席した2008年7月の「御前会議」で、「ちゃぶ台」をひっくり返すがごとく、上層部が対策をご破算にし土木学会に検討を依頼する方針を指示したのであった。
株代訴訟は2012年3月42人の反原発株主が提訴し、6月に第1回口頭弁論、先週7月20日(火)は第61回口頭弁論だったので、すでに9年が過ぎている。この間刑事訴訟も勝俣恒久、武藤栄、武黒一郎の3人の元・経営者を被告とし2016年2月に始まったが、19年9月の一審判決では驚くべきことに3人とも無罪だった。ただ刑事裁判での陳述や書証はすべて民事訴訟の証拠となった(今年11月から控訴審が始まる)
裁判は傍聴しても、準備書面や提出書類をみられるわけでもないので、次回期日の取り決めの光景だけ傍聴し、15分前後で終了することが多い。「この裁判を注視している人は多い」という裁判所へのアピールの意味合いが大きい。ただ裁判の後半に行われる証人尋問・本人尋問は聞いていてわかるので、「裁判を傍聴した」という実感がわくことが多い。たとえば昨年の警視庁機動隊沖縄派遣違法住民訴訟もそうだった(1審は敗訴。現在控訴審中、8月に結審)
株代訴訟の証人尋問・被告本人尋問は2月末から始まり7月20日は5回目だった。
刑事訴訟のときは、東京電力の社員もたくさん動員されていたので競争率が高く、わたくしは全部はずれだったが、株代訴訟はクジ運がよく競争率1.5-3倍くらいなのにすべて当たった。夕方までやっていることが多いが、わたくしは所要があり、残念ながら5回とも午前中だけしか聞いていない。
2月26日の第1回目の証人尋問(57回口頭弁論)は原告側証人で、産総研のO氏(公開の裁判なのでどうするか考えたが、現時点ではイニシャルにとどめる)だった。産総研という名は聞いたことがあったが、旧・通産省工業技術院の後継組織であることを知った。
証人は地質学会や活断層学会の会員で、昔の津波が内陸部のどこまで浸水したかを調査している。手法は大型ジオスライサーという器具を使って地層のなかの津波堆積物の有無を調べるとのことだった。河川堆積物とは成分が異なるので区別できるし、プランクトンなど有機物で年代測定もできるそうだ。とくに869年の貞観地震の津波到達地点を調べている。石巻から福島との県境に近い山元町まで調査し、海岸から3-5キロ奥まで津波が押し寄せたことがわかった。その後、南相馬・小高や浪江の請戸地区の調査も行った。請戸は第一原発からわずか5キロくらいの位置にある。
津波は繰り返し起きる。貞観クラスのものは1000年に1度発生した。原発は10万年に1度の地震に備えないといけないのだから、1000年に1度の地震や津波の対策をするのは当然だ。2009年に東電のスタッフが相談に訪れ、「これから調査をする」ということだったので「悠長なことは言っていられない。調査より、対策をすべき」だと伝えた。

裁判所前で開廷前にアピール(4月16日)

4月16日(58回口頭弁論)には気象庁の元地震火山部長・Hさんの尋問を聞いた。気象庁に32年在籍し、2002年に推本が海溝型地震の長期評価をとりまとめた際、13人の委員の1人だった方だ。長期評価について、評価がおかしいという委員はいなかった。ところが発表直前に内閣府から「公表見送り」の連絡が入った。
また2004年にM9のスマトラ島沖地震が起こり死者20万人の被害が出た。太平洋だけでなく、インド洋でもM9地震が起きることに地震学者たちは驚いた。日本でもM9クラスの地震は起こりうるし、それ以降、過去の記録にもとづいただけの地震対策では足りないと考えられるようになった。

5月27日はO証人への被告代理人の反対尋問だった。Oさんの執筆したものでない文書について再三質問を繰り返したので、原告代理人(弁護士)は当然、異議を申し立てたが、とうとう朝倉佳秀裁判長まで、被告代理人をたしなめる的外れの尋問だった。そんなこともあり、12時までの反対尋問は11時3分に終了した。

警備法廷の注意事項

7月6日は武藤栄・元副社長への原告側の反対尋問だった。
この日は「警備法廷」で裁判所入り口での金属探知機検査だけでなく、103号法廷前で、財布・メモ帳・筆記具・訴訟資料以外の荷物はすべて法廷前の手荷物預かりに預け、ふたたびかなり厳密なボディチェックを受ける。てっきり水のボトルくらいはよいかと思ったら、それもダメ、いつも着用している万歩計もダメ(しかし腕時計はOK)とのことで、再び手荷物預かり行くハメになった。反社会勢力の裁判などで「警備法廷」というものがあるという話は聞いたことがあったが、体験するのは初めてだった。途中でトイレに行ったあとも再びボディチェックがあるし、室内が意外に寒かったので途中でバッグに入れた上っ張りを取りに行くと、それも再度ボディチェック付きだった。
武藤氏が出席し、部下が会議で説明した際の社内資料という証拠があっても、「そこまでは説明しなかったはずだ」「見ていない」「見たと思うが、知らないこともある」「報告を受けていない」「知らなかった」の連発だった。あげくに福島第一の故・吉田所長の裁判記録に対しても「吉田の記憶違いだろう」と、まるで死人に口なしのような証言をするので、驚いた。肝心の問題では、部下の土木調査グループのSグループマネジャーやT課長は「どう扱ってよいのかわからないので相談に来た」と答え「推本の指摘に根拠はない」「15mの津波は、最新の知見ではなく『ご意見』だと思った」と証言した。傍聴者はあきれたが、世間的には「一流企業」と思われていた東電の経営者が、これほど無責任な仕事を日常的にやっていたのかと思った。

開廷前の原告アピール(7月20日)

7月20日は武黒一郎・元副社長への反対尋問で、やはり警備法廷だった。武藤氏に比べ口調はもう少し低姿勢だったが、やはり「覚えていない」「記憶していない」「見た記憶がない」の連発だった。
津波対策は「十分な余裕があるので必要ないと思った」、全電源喪失やメルトダウンは「非現実的な仮定に基づく」などと答え、原子力発電企業の経営者たちは過酷事故のリスク管理にきわめて鈍感だったことが明らかになった。なおこの期日では、わたしは裁判官の表情もときどきみるようにしていた。「証人は本当のことを言っているのか」とでもいうようにながめている様子がかいまみえた。
原告側証人2人は、役所出身と聞いていたので当たり障りのない官僚答弁かと思っていたら、職業は学者の方で、まったく違っていた。とくにO証人の証言は、法廷映画で真実を追うプロセスをみているようで、傍聴者としては興味深かった。ただ代理人、裁判官、証言者には共通の「書証(資料)」が提示されるが、傍聴者および報道関係者には配布されず推測するしかない。詳細がわからず、自信をもって証言を紹介できないのが残念だ。被告に対する尋問も同じことが言える。

次回口頭弁論は10月5日(火)14時同じ103号法廷で尋問が続く予定だ。わたしは午後いなかったのでわからないが、病気のため2回とも尋問が延期になった被告の小森明生・元常務への尋問ではないかと思われる。いつものように30分前の抽選も実施されるだろう。
証人尋問の段階まできているので、結審も間近と考えられる。10月には裁判官の福島現地視察も予定されている。今年3月18日の東海第二原発・水戸地裁運転差止め判決と同じように、今後よい方向に進むことを祈りたい。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。