S多面体

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」のショート版

キラリと光る香川のスモール・ミュージアム

2021年11月19日 | 旅行

新型コロナ流行の間隙を縫い四国4県で、唯一観光旅行に行っていない香川県へ旅をした。観光旅行なので、高松は栗林公園や屋島、そして村山壽子(かずこ)の足跡(こちらを参照)、琴平はこんぴら詣、観音寺は今は亡き大林宣彦監督の「青春デンデケデケデケ(1992)ロケ現場巡りくらいしか頭になかった。
香川は「うどん県」として知られ、たしかに麺はうまかったが、旅から戻り思い返すと、キラリと光る(少しオーバーかも)スモール・ミュージアムがたくさんあったことに気づいた。キラリと光るというのは、予想をはるかに上回る充実したコレクションを保有するという意味だ。ミニでなく「スモール」と表現したのは、床面積がかなり広く(東京によくある)ミニ・ミュージアムとはいえない規模だったからだ。こうした観点から、たまたま訪れたいくつかのミュージアムを紹介する。ただ博物館見学を目的に行ったものではなく、通りすがりに見かけたという程度なので、残念ながら詳しく紹介することはできない。また記憶違いも含まれているかもしれない。

●高松の菊池寛記念館

記念館入口。内部は残念ながらほとんどのスポットが撮影禁止だった
中央図書館と同じ建物にある。わたしは「郷土ゆかりの作家コーナー」の村山籌子のパートをみるのが目的で、他はついでにみるだけのつもりだった。菊池寛の生い立ちと生涯、生原稿、数々の写真があるのは当然だが、芥川賞直木賞菊池寛賞の受賞作品、作家肖像写真、サイン本などが回数順に並んでいる。
1950年代は安部公房、堀田善衛、遠藤周作、大江健三郎などいまや日本文学史クラスの作家・作品が並び、70年代は古井由吉、村上龍、高橋三千綱などわたしがいちばん熱心に小説を読んでいたころの作品、2000年代になると、いちおう読みはしたもののそう面白く感じなかった作品の時代になる。菊池寛賞は芥川賞・直木賞に比べると地味だが、文芸だけでなく映画、評論、新聞記事、文化活動団体など受賞対象の幅が広く、社会的意義が大きいと思った。
全作品展示されているのかどうかまでは確認していないが、かなりの作品がカバーされているようだった。時代の変遷を体感できる貴重なコレクションである。

●栗林公園商工奨励館

ジョージ・ナカシマのテーブルと椅子
かつての香川県博物館を改築したかなり大きいスペース(延床面積1262平方m)の建物。「讃岐うどん」の歴史や発展を紹介するコーナーは充実していた。香川のうどん店は、製麺所、セルフ、一般店の3タイプがありセルフが54%だそうだ。入ってみてわかったが、社員食堂のように早くて安くたしかに合理的システムなので、日本中に普及すればよいと思った。
それ以上に、わたしが注目したものが2つあった。
ひとつは香川漆器の展示だった。たまたま高松高校の近くを通りかかり、無料というので入った香川県漆芸研究所の実習作品展のコーナーで香川の3技法(蒟醤(きんま)、存清(ぞんせい)、彫漆(ちょうしつ)を知ったばかりだったせいもある。いままで金沢が中心の北陸の漆芸は知っていたが、香川でも地域に漆芸が根付いているようだった。きっと県立ミュージアム市美術館にも名品が収納されているのだろう。
もうひとつは風通しのよい2階でみたジョージ・ナカシマのテーブルや椅子だった。ナカシマはアメリカ生まれの日系2世、彫刻家・流政之に誘われて1964年高松の工房を訪ね、讃岐民具連の活動に賛同しメンバーに加わる。68年ミングレン(民具連)シリーズの家具を発表した。レベルの高い家具が置かれていた。
高松市牟礼町にジョージナカシマ記念館があるそうだ。

●琴平の「金陵の郷

金刀比羅宮への参道を歩き始めてすぐ右側に大きな門があり、奥に白壁の酒蔵が見える。西野金陵のミュージアムだ。歴史館には江戸時代の酒造りの作業工程や道具を展示し、文化館では徳利や盃のコレクションが並んでいるのだが、コレクションが半端な数ではない。よほど熱心な方が担当し集められたのだろう。
金刀比羅宮・表書院の6つの間に飾られた円山応挙の障壁画も見事だった。鶴之間の遊鶴図や虎之間の遊虎図が有名だが、七賢、山水、瀑布も見事だった。応挙の55-62歳の最晩年の作が多く、円熟の域に達している。ほかに頓田(むらた)丹陵の富士や頼朝一行が鹿を追う図があった。いくつかあった庭のながめもよく、気に入った。

●観音寺の大平正芳記念館

観音寺の琴弾公園のなかにある。大平は三豊郡和田村(現観音寺市)で1910年に生まれた。高松高商から東京商科大学(現・一橋大学)、大蔵省へ。池田隼人の秘書官から1952年政界入り。池田とともに歩み、いま岸田首相で有名になった宏池会に所属、同じく大蔵出身の前尾繁三郎の跡を継ぎ71年宏池会会長、78年三角大福の最後に首相就任。しかし80年の衆参同日選挙の最中病気で倒れ急死した。選挙は同情票により自民が大勝した。
展示されていたのは、大平の70年の足跡は当然だが、書き残した多数の色紙、礼服、使っていたパスポートなど多様な遺品などで、よく収集・整理したものだと思った。
かつて、大臣秘書官から政治家、総理へという道があったことを再認識した。大平は池田の側近だったとよくいわれる。しかし大平はそれより先45年に坂出出身かつ大蔵省の先輩、津島壽一の秘書官を務めている。大平は津島に勧められ大蔵省に入省したので、ある意味恩人である。
記念館の下のフロアに世界のコイン館がある。わたしは日銀の貨幣博物館をみたことがあるので、チラッと一回りしただけだったが、日銀は日本の貨幣が中心なので、ここで世界の紙幣や貨幣をよくみれば何か発見があったかも、と後で思った。また隣接する総合コミュニティセンター1階に観音寺のまつり、きらびやかなちょうさの太鼓台の山車が展示されている。これも見ものだ。

財田川と琴弾橋(レンガ橋)。観音寺は川と橋がきれいな町だった
ホスピタリティという点では、道を歩く市民も、店の人も、ホテルの人も、観光協会の方も、みなとても親切だった。たとえば店で道を尋ねると「わたしにはわからないので、知っておられそうな店に案内しましょう」と20mほど先の別のお店に同行してくださる人もいた。お遍路さんをもてなす文化があるので、その「伝統」がいまも生きる地なのかもしれない。
なお、高松と観音寺で、レンタサイクルを利用したがとても効率よく移動することができた。ただし(香川には限らないが)車社会のため、道を聞くため道を歩いている人をみつけるのが大変で、たまたま車が止まっていると近くに運転している人がいないかチェックしその方にお聞きするようにしていた。また歩いているとき、結構なスピードで車が横を通過していき、少し驚かされた。そういう苦労があった。

井上の梅干し入り山菜うどん(左)と平岡のえびカツ。うどんの左は好きなだけトッピングできる天かすの丼
☆香川にいる間に、うどんを3店で食べた。県のシンボルだけのことがあり、どの店も麺にコシがありうまかった。そのなかから琴平の「うどんや井上」を紹介する。
この店はNHKの鶴瓶の「家族に乾杯」で知った。場所は表参道を抜け、川を渡り新町商店街も終わるかと思われるあたりの小さい路地を40mほど入った目立たない場所にある。「うどんや」という紺地しろぬきののれんが出ている店で、席もカウンター3席、4人がけテーブル2つだけの小さい店だ。メニューもぶっかけ、かまたまなど7種類しかない。山菜うどん(500円)を注文した。麺も山菜もうまかった。変わっているのは梅干しが入っていたことだ。この店の出汁は魚ベースで、関西育ちのわたしにはすこし薄いように思えた。それが梅干しがちょうどよい塩気を与え大変おいしかった。聞くとぶっかけにはレモンを一切れ入れているそうだ。ママさんの味のセンスがよいようだ。
帰りに井上から200mほどの平岡精肉店に立ち寄り、えびカツ(190円)をひとつ買った。エビの食感が本当にありうまかった。この店も鶴瓶が立ち寄り「そこのイスに座ってムシャムシャ食べていた。テレビで見るのとちっとも変わらない気さくな人だった。ロケのときには、中高校生が店の近くにたくさん見に来ていた」と話してくれた。お二人とも番組の話をすると、顔がほころんだ。笑顔の女性をみるのは、こちらも心が温かくなりよいものだ。 

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ショウビジネスを目の当たりにできたワハハ本舗の「王と花魁」

2021年11月09日 | 演劇

WAHAHA本舗劇団東京ヴォードヴィルショー出身の6人、喰始柴田理恵久本雅美らがつくった劇団だ。37年の歴史をもつ有名な劇団で喰始の名はしばしば耳にしていたが、わたしはまだ一度も観たことがなかった。

新宿文化センターの開演時間は14時なのに開場は13時、なぜこんなに早いのかと思いながら、いつもより早めの40分前に到着するようにした。すると、すでにロビーに客がいっぱいいてマスクに絵を描き写真を撮っている。ワハハでは「マスクdeエール」という自分自身に向けエールを送ろうというプロジェクトを展開中だそうだ。
小林幸子のマスクは「早くみんなで歌いたーい!」、その他キャイーン、松村邦洋、鈴木杏樹、シェリーらのマスクも展示されていた。ビデオは芝居のエンディングで放映される可能性もあるとのことだった。

平日昼間だったせいもあるだろうが、70歳前後の高齢客が多かった。歴史があるのでなじみ客、常連客が多いようだった。しかも新型コロナ流行のせいで、この全体公演は1年半延期、前回の全体公演から4年ぶりとのことで、よけいに多く客がやってきたようでワハハ祭りの様相だった。
客が高齢だからか、ネタも昭和のなつかしネタ、たとえば「笑点」「11PM」などのテレビ番組、クレージーキャッツ、ザ・ドリフターズなどのネタが満載だった。
王と花魁」の幕開けはいきなり、宝塚の大階段のようなダンスで、ふつうの劇団ならカーテンコールの雰囲気でびっくりした。
2部構成で、いちおう第1部はジャズと男花魁、2部は東京オリンピック2020ということになっているようだ。
1部90分の出し物は、昭和のなつかしのテレビ番組「笑点」「11PM」「朝ドラなど」の3チームに分かれた対抗コント、久本・柴田2人だけの応援団、昭和のギャグ(例 「新婚さんいらっしゃい」「アジャパー」「シェー!」「ガッテン」「スチャラカチャンチャン」など)、柴田の一人芝居(宍戸梅軒の妻、秀吉、演劇ファンの男と女など)、宝塚ドリフ組の歌とダンス、裸スーツ着用男女グループのダンス。
10分休憩で2部60分は東京オリンピックのファンファーレと古関裕而作曲のオリンピックマーチで始まる。出し物はオリンピックの各競技(走り幅跳び、三段跳び、ハンマー投げ、バスケットボール、フェンシング、競歩、空手、スポーツクライミングなど)のパントマイム、実際のオリンピック開会式で披露されたピクトグラムのパントマイムと少し似ていた。久本の独り舞台「This is me(私は私)」かつて年齢を2歳サバを読んでいたこと、など一種の(自分の)恥のさらけ出し、梅ちゃん(梅垣義明)の歌謡ショー、「白波五人男」の歌舞伎ミュージカルなど。

エンディングは泉谷しげるの新曲「風の時代」で、バックに客が描いた手作りマスクが映し出された。サビの歌詞「風の時代を生きよう、新しい君とともにどこにいても生き抜く力を風の時代を(Ah-)生きる」が力強かった。
柴田と久本の二大スターを中心に展開されていることがよくわかった。
わたしはシナリオで演劇をみるタイプ(たとえば井上ひさしや平田オリザ、古くはつかこうへい)なので、こういう構成の芝居はちょっとなあ、という感じだった。しかしファンにとってはこういう盛りだくさんの学芸会風のショウは、見どころ満載で大満足なのだろう。
ただわたしも、歌、ダンス、殺陣などのレベルが高いことは十分に認める。年長の役者は60代以上だが、若手も(少なくともダンスでは)しっかり育っているようだった。
それ以上にわたしが注目したのは、照明、音響、衣装、美術などいわゆる裏方のレベルが非常に高いことだった。ヴァイオリン独奏もすごくレベルが高かった。わたしにはわからないが、三味線・尺八など邦楽器もレベルが高いのだろうと思う。
なおわたくしの席は2階席の後ろのほうだったので、役者の表情がほとんどみえず、高い場所なので声も一部聞き取りにくかった。もう少しいい席なら、役者の表情や演技がよく見えセリフもはっきり聞こえ、印象がよくなった可能性がある。

喰は5年も前の本で「「ワハハ本舗」はお笑い集団と取られていますけど実際はショウビジネスを舞台でやっているんです。ダンスあり、チャンバラあり、ほかではやらないようなことをやっている」と語っている(「赤塚不二夫生誕80年企画 バカ田大学講義録なのだ!」2016.7 文芸春秋)。きっとそういう劇団なのだと思う。
 
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