単価は100〜120円が多かった。
7月11日トーハンの週間ベストセラーが発表され、新書第1位は『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』が獲得した。 第2位は『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』。第3位は『裁判官の爆笑お言葉集』となった。 「長らく安倍という悪党を観察して文章にしてきましたが……」適菜さんのツイートについた「いいね」やリツイートの数をみる 4位以下で注目は9位に初登場の『安倍晋三の正体』。『日本をダメにした B 層の研究』(講談社)などで知られる作家の適菜収さんが一周忌を迎えた安倍晋三氏の実像に迫った一冊。適菜さんは同書の「はじめに」で安倍氏の死後、数多く出版された“礼賛本”は安倍氏の《一面しか捉えていない。それどころか偽書に近いものもある》とし、同書では検証可能な事実をもとに安倍氏の人間としての本質を明らかにし、ひいては《安倍を担ぎ上げてきたわれわれの社会の病をあぶり出すこと》が目的と綴っている。適菜さんは刊行にあたり自身のTwitterで《私は長らく安倍という悪党を観察して文章にしてきましたが、そこでわかったことを、この新書に凝縮して詰め込みました。集大成というか、安倍について言及する最後の本になると思います。》と宣言している。

『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』堤未果[著](幻冬舎)
1位『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』堤未果[著](幻冬舎) 「ショック・ドクトリン」とはテロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に為政者や巨大資本が、どさくさ紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法のことである。日本でも大地震やコロナ禍という惨事の裏で、知らない間に個人情報や資産が奪われようとしている。パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口、マイナンバーカード普及の先にある政府の思惑など……。強欲資本主義の巧妙な正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは? 滅びゆく日本の実態を看破する覚悟の一冊。
2位『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ[著]秋田喜美[著](中央公論新社) 日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。
3位『裁判官の爆笑お言葉集』長嶺超輝[著](幻冬舎) 「死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい」(死刑判決言い渡しの後で)。裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ、と思っていたら大間違い。ダジャレあり、ツッコミあり、説教あり。スピーディーに一件でも多く判決を出すことが評価される世界で、六法全書を脇におき、出世も顧みず語り始める裁判官がいる。本書は法廷での個性あふれる肉声を集めた本邦初の語録集。これを読めば裁判員になるのも待ち遠しい。(幻冬舎ウェブサイトより) 4位『なぜヒトだけが老いるのか』小林武彦[著](講談社) 5位『知らないと恥をかく世界の大問題14 大衝突の時代-加速する分断』池上彰[著](KADOKAWA) 6位『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』手嶋龍一[著]佐藤優[著](中央公論新社) 7位『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』エマニュエル・トッド[著]池上彰[著]大野舞[通訳](朝日新聞出版) 8位『脳の闇』中野信子[著](新潮社) 9位『安倍晋三の正体』適菜収[著](祥伝社) 10位『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』磯田道史[著](中央公論新社) 〈新書ランキング 7月11日トーハン調べ〉 Book Bang編集部 2023年7月15日 掲載
“アベノマスク”443億円で儲けたのはだれ? 下請け業者「コロナ禍で仕事なく、採算割れでも請けた」
コロナ禍の2020年に安倍晋三首相(当時)が打ち出した「アベノマスク」。この事業に関連する行政文書が4月に開示され、国と元請け業者が契約した単価が、業者や時期によって違いがあることがわかった。一方、文書からは見えてこない下請け業者の厳しい状況が、当時、仕事を請け負った零細企業の経営者の話から見えてきた。コロナ禍で仕事が減るなか、儲けが出ないような額で受注せざるを得なかったという。
新型コロナの感染拡大でマスク不足が深刻になっていた当時、安倍首相がとった施策は、全国民に布製マスク2枚を配布するというものだった。
この事業について、神戸学院大の上脇博之教授は2020年4〜7月に、厚生労働相と文部科学相に、マスクの契約や発注、回収などについて、業者との間でやり取りした内容を記録した文書の開示を請求した。
しかし、国は単価や発注枚数の部分を「黒塗り」で出してきたため、上脇教授は不開示決定の取り消しを求める訴訟を2020年9月に大阪地裁に起こした。国は当初、文書が存在しないといった理由で開示していなかったが、その後、関係するメールなどが見つかったことが明らかになった。地裁は今年2月、国に対し、文書を開示するよう命じる判決を言い渡し、確定した。
4月24日に上脇教授に開示された業者ごとの契約単価と枚数などが書かれた資料を見ると、厚労省と文科省が業者17社と計32件の随意契約を結び、約3億1800万枚を約443億円で調達していた。
単価は業者や発注時期によってばらつきがあり、税抜きで1枚当たり62・6〜150円と2倍以上の開きがあった。
これが製造現場に仕事が発注されるときには、さらに大きな開きが出ているケースがあった。
AERAdotは、アベノマスクの製造を請け負った岐阜県の零細企業の経営者Aさんに話を聞いた。
開示された文書に書かれた、国が発注した単価などの額を確認したAさんは、
「うちの単価は1枚40円あるかないかだったかな。この数字を見ると、腹が立つのを通り越してがく然とするばかりです」
と語った。
元請けとなるX社が国と契約し、それが岐阜県の卸業者を通じてAさんの会社に話があったのは2020年4〜5月。アベノマスクの仕様書を受け取ったときのことを、Aさんは今も鮮明に記憶している。
「布製のマスクで、1枚の大きなガーゼを繰り返し折り畳み、15層に仕上げる。マスクの大きさ、耳にかかるひもの長さなど、ズレは2ミリまでしか許容しないといった内容でした。1週間から10日で何万枚もやってくれという。うちの規模では厳しかったけど、コロナ禍で仕事がない時期。とにかく請けるしかありませんでした」
だが、単価が1枚40円あるかないかでは採算がとれないため、値段の交渉をしようとしたという。
「生産者を無視している値段ではないのかと思って、せめて70円、無理なら60円でと頼みましたが、『とにかく急いで』『時間がない』といった話で結局変わらず。発注元は政府から仕事を受けている大手企業でしょう。しつこく『アップを』と言えば、卸業者からブラックリストに載せられて仕事がこなくなります。うちのような10人ほどの零細企業は、『指示通り』『言いなり』で仕事をするしかありませんでした」
受注後は納期に間に合わせるため社長のAさんも加わり、毎日朝6時から夜11時まで作業が続いた。大きなガーゼを折り込んで、ひもをかけていく単純な作業が延々と続き、夕方になると配送業者が製品をトラックで卸業者に運んでいく。短期間での大量の手作業。「糸くずが検品で発見された」などと叱責(しっせき)されたこともあったという。
Aさんの会社では1カ月弱、めまぐるしい日々が続いた。
「仕事をしていたスタッフのなかには外国人の研修生もいました。睡眠時間も3〜4時間で倒れそうになりながら、コロナ禍でいつ感染するかもわからないなか、マスクをひたすら作り続けました。その後、コロナに感染して重症になったり、過労で長期間休んだりしたスタッフがいます」
Aさんはそう振り返り、こう訴えた。
「こうして単価がわかり、悲しいのひとことです。コロナ禍でマスク不足のなか、アベノマスクは必要だったのかもしれません。けれど、それを末端で製造している現場がどんな厳しい状況のなか、どんな条件で仕事をしていたのかを政府には知ってほしかった」
一方で、Aさんに仕事を発注していた卸業者のB社。
コロナ禍前の2019年、民間調査会社の調べでは約6億円の売り上げがある。アベノマスクの製造を国の契約業者から大量に受注したのは2020〜21年。21年度の決算では売り上げが13億円を超えていた。
「国はどうして生産者にもきちんと労働に見合った報酬を払うような仕組みにしてくれなかったのか」
とAさんは嘆く。
また、アベノマスクの検品を1枚1円で受けたという別の業者も、
「あまりの低さに絶句したけど、コロナで仕事の発注がないので飛びつくしかなかった。国からの単価が1枚130円とか150円の単価なら、10円はこっちにまわせたはず」
と激しく憤っていた。
上脇教授は、
「アベノマスクの単価は、本来隠す必要がないものです。裁判はしない、単価も出さない、というのはアベノマスク事業がそれだけずさんで役に立たない事業だったのではないでしょうか。さすがに裁判所も国の隠蔽(いんぺい)体質はNOだと判断した結果の開示だと思います。アベノマスクは国民からの評判もよくなかったし、効果についての評価も高くはなかった」
と説明した上でこう指摘する。
「製造現場には十分な金額で発注されず、弱い立場にしわ寄せがいくということは、国と直接契約できた大きな会社だけが守られ、潤ったことになります。アベノマスクは国民のプラスにはなっていません」
(AERA dot.編集部 今西憲之)
アベノマスクの契約単価、調達業者によって2倍超の差 国敗訴で開示
政府が新型コロナウイルス対策で配布した布マスク(通称・アベノマスク)を巡り、国は、関連文書の開示を求めていた神戸学院大の上脇博之教授や国会に対し、調達した業者ごとの単価や枚数を開示した。業者や契約時期などにより、単価に2倍超の差があった。大阪地裁が2月の判決で開示を命じ、確定していた。
国は2020年3〜6月、業者17社と計32件の随意契約を結び、3億枚超のマスクを約442億円で調達した。会計検査院が21年11月に公表した報告書で、契約月ごとの平均単価は判明していた。今回、明らかになったのは、32件の契約ごとの単価と枚数だ。
マスクの大きさや形状、素材は業者によって違い、単価(税抜き)は62・6〜150円、枚数は600〜4514万枚だった。最多の約1億1千万枚を調達した総合商社の単価は、5件の契約すべてが130円。2番目に多い約7200万枚を調達した別の総合商社は、契約を重ねた末、単価が119円から126・8円に上がっていた。
単価と枚数の分布をみると、3月から参入した6社の単価は、枚数にかかわらず、120〜140円に集中していた。一方、5月以降に参入した11社の枚数は1千万枚以下で、単価は100〜120円が多かった。
「言った、言わない」でまたトラブルに…高市早苗の「行政文書問題」よりもギョッとした“国会答弁”
© 文春オンライン
高市早苗氏まるで総務省の“操り人形” 解釈変更答弁「スルーされた」主張で自らに無能の烙印
(いつまで強気でいられるか(高市早苗経済安保担当相)/(C)日刊ゲンダイ)
放送法の政治的公平性の解釈に関する「行政文書」について、当時、総務相だった高市早苗経済安保担当相は変わらず「捏造」「不正確」と主張し強気だ。安倍政権当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省に解釈変更を働きかけていたことは文書で明らかだが、高市氏は9日の参院内閣委員会でも「私自身が誰かからの働きかけを受けて答弁を作ることはない」「完全にやりとりからスルーされていた」と関与を否定した。
一方で、2015年の自身の国会答弁(参院総務委員会)については「責任を持つ」と断言し、「前夜に担当課から送られてきた案にペンを入れてやりとりした」と自信を持って説明するのだから不思議だ。
今回の問題は、安倍官邸が政治的圧力で放送法の解釈をねじ曲げたことだ。その“肝”が、15年の高市氏の答弁。「一つの番組のみでも極端な場合は、一般論として政治的公平を確保しているとは認められない」というもので、従来、政治的公平は「放送事業者の番組全体を見て判断する」ことになっていたのを“補充的説明”という形で事実上、解釈変更したのである。
「行政文書」によれば、この解釈変更について総務省出身の山田真貴子首相秘書官は、「どこのメディアも萎縮する。言論弾圧ではないか」と激しく抵抗していた。それほど重大な解釈変更の答弁なのだが、本当に高市氏はこれを“一夜漬け”でやってのけたというのか?
■象徴的な文言などがまさに丸写し
興味深いのは、当日の参院総務委での質疑のやりとり。「行政文書」の中には礒崎氏が作ったとみられる「質問」6問が記された文書があり、委員会の議事録を確認すると、実際に質問に立った自民党の藤川政人参院議員は、ほぼこの通りに質問している。
そして高市氏の答弁も同様だ。「行政文書」内にある<放送法における政治的公平に係る解釈について(案)>という2枚にまとめられた文章とほぼ同じ文言で答弁している。「政府のこれまでの解釈の補充的な説明」「一つの番組のみでも、極端な場合において」といった象徴的な文言などがまさに丸写しである。
ま、答弁書の原案は事務方が作るから、高市氏がそのまま読んでいてもおかしくはない。しかしコトは、礒崎氏と総務省側の4カ月以上にわたる協議によってまとめられ、言論弾圧の恐れがあるほどの重大答弁なのである。それを、事務方に促されるままに棒読みしていたとすれば、高市氏はまるで総務省の“操り人形”だ。
もっとも、役人からレクを受けなくても、高市氏は放送法に精通しているのかもしれないが、「私は完全にスルーされていた」と強弁すればするほど、自らに「無能」の烙印を押すことになっていることを、分かっているのだろうか。
令和3年・4年度役員一覧
役職 | 氏名 | スポーツ関係団体等役職等 | |
---|---|---|---|
1 | 会長 | 山下泰裕 | 国際オリンピック委員会委員 |
2 | 副会長 | 三屋裕子 | (公財)日本バスケットボール協会会長 |
3 | 専務理事 | 星野一朗 | (公財)日本卓球協会副会長 |
4 | 常務理事 | 籾井圭子 | (公財)日本オリンピック委員会常務理事 |
5 | 〃 | 尾縣貢 | (公財)日本陸上競技連盟会長 |
6 | 〃 | 小谷実可子 | アジアオリンピック評議会理事、世界オリンピアンズ協会副会長 |
7 | 〃 | 北野貴裕 | (公社)日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟会長 |
8 | 〃 | 酒井邦彦 | TMI総合法律事務所顧問 |
9 | 〃 | 横井裕 | 東洋インキSCホールディングス株式会社社外取締役 |
10 | 理事 | 伊東秀仁 | (公財)日本スケート連盟理事 |
11 | 〃 | 伊藤雅俊 | (公財)日本スポーツ協会会長 |
12 | 〃 | 岩渕健輔 | (公財)日本ラグビー協会専務理事 |
13 | 〃 | 太田雄貴 | 国際オリンピック委員会委員 |
14 | 〃 | 岡本友章 | (公財)日本ソフトボール協会専務理事 |
15 | 〃 | 栗原美津枝 | (株)価値総合研究所取締役会長 |
16 | 〃 | 杉山文野 | (公社)日本フェンシング協会理事 |
17 | 〃 | 鈴木大地 | (公財)日本水泳連盟会長 |
18 | 〃 | 須藤実和 | (公財)日本バレーボール協会理事、慶應義塾大学大学院特任教授、公認会計士 |
19 | 〃 | 高橋尚子 | (公財)日本陸上競技連盟常務理事 |
20 | 〃 | 髙橋成美 | (公財)日本オリンピック委員会アスリート委員会副委員長 |
21 | 〃 | 田口亜希 | (公社)日本ライフル射撃協会理事 |
22 | 〃 | 谷本歩実 | 東京2020大会組織委員会理事 |
23 | 〃 | 土肥美智子 | (公財)日本サッカー協会診療所院長 |
24 | 〃 | 原田雅彦 | (公財)全日本スキー連盟理事 |
25 | 〃 | 古谷利彦 | (公社)日本カヌー連盟専務理事 |
26 | 〃 | 松田丈志 | (公財)日本オリンピック委員会アスリート委員会委員 |
27 | 〃 | 水鳥寿思 | (公財)日本体操協会常務理事 |
28 | 〃 | 宮本ともみ | (公財)日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフ |
29 | 〃 | 八木由里 | (公社)日本馬術連盟理事、弁護士 |
30 | 〃 | 渡辺守成 | 国際オリンピック委員会委員 |
1 | 監事 | 有竹隆佐 | (公財)全日本空手道連盟監事 |
2 | 〃 | 飯坂紳治 | (公財)日本自転車競技連盟広報部会員・マーケティング部会員 |
3 | 〃 | 塗師純子 | 虎門中央法律事務所弁護ああ |
コロナ禍にいまだ終わりが見えぬなか、今年がいい1年になるかは健康次第だ。『80歳の壁』のベストセラー医師・和田秀樹氏と師弟関係に当たる解剖学者・養老孟司氏が語り合った。
【写真5枚】コロナ禍で全国的に外出自粛が徹底された当時の様子。他、養老孟司氏や和田秀樹氏の写真なども
* * *
和田:2023年を「どう健康に生きるか」というテーマですが、養老先生、いかがでしょう?
養老:企画した週刊ポストには悪いけど、やっぱりそういうことを意識しないほうがいいんじゃないですか(笑)。85歳になった今、自分でも気にしていません。今は過去の積み重ねで決まっているもので、今さら何を言ってもしょうがない。大体、考えて色々やってみても、その通りにはいかない。物事は全部わかっているわけではないので、まあ、成り行きですね。
和田:先生の仰る通りだと思います。先のことはわからない。問題は医者が患者に言う内容で、「コレステロールが高ければ心筋梗塞になる」とか、「血圧が高いのを放っておけば脳卒中になる」なんて言いますが、なる人とならない人がいます。だから(病気に)なった時に、なってから考えたほうがいいと思います。
将来病気になる確率を少しでも下げようと考え出すと、生活がどんどん窮屈になる。コロナにかかりたくないから外に出ない、脳卒中になる確率を少しでも下げようと味のしないものを食べる、とか。果たしてそれでいいんでしょうか。
私なんて血圧は一時期220mmHgにもなり、今も基準値より高い170mmHgまでしか下げていません。「そんなんじゃ心筋梗塞や脳卒中になりますよ」と言われますが、調子がいいんだから、それでいいと思う。養老先生が煙草をお吸いになると「身体に悪い」と言う人がいますが、煙草を吸って100歳まで生きる人もいらっしゃる。
養老:実はこの前、病院に行った時に、軽い心筋梗塞が起こっているかもしれないと指摘され、1月に病院に行く約束があるんです。「心臓のCTを撮りましょう」って。
結果がいいのか悪いのかわかりませんが、でも私はそんなことわかってもしょうがないと思っている。どのみち、そんなに長くは生きてないだろうし(笑)。もう万事、医者任せ。病院とお付き合いするのも、私にとっては付き合いのうちですから。でも、その前に病院に行った時は「数値は別に悪いものはない」と言われていましてね。
和田:それは凄いですね。
養老:「じゃあ、私は何で死んだらいいんですか」って(笑)。しょうがないですね。(小林)一茶じゃないけど、“ともかくもあなた(医者)任せの年の暮れ”ですよ。
医学で長生きは“幻想”
和田:私は「あなた(医者)任せ」も怖いものだと思っています。例えば胃がんが見つかった時に、がんだけ取ればいいのに、転移が怖いからと胃の3分の2とか、全部を切除することがある。その後、食べられなくなって、ガリガリに痩せていく人をたくさん知っています。
養老:そう。だから、あなた(医者)任せと言っても、病院には病院の世界があって、私は「システム」と呼んでいるんだけど、そこに参加するかしないかは、こっちの自由ですからね。
和田:仰るとおりです。
養老:うっかり参加すると、その「約束事」に縛られてしまう。だから、必要なところは自分で判断する。この前、検査で胃にピロリ菌がいるとわかり「除菌しますか」と聞かれた時は、「もう生まれてこの方、何十年も付き合っているんだから、別に除菌しない」と答えました。自分が今どういう健康状態にあるかは、今までやってきたことの結果です。それを今更どうこうしようとしても、間に合わない。高齢になればなるほど、そう思います。煙草にしてもそうで、60年以上吸っているのに、今更やめたら体がびっくりするだけ(笑)。
和田:そうですね(笑)。
養老:仏教的な考えで、体のことも自然に任せるというのが、意外に今の人はできないようです。
和田:もう、とにかく「医学」を使って運命に逆らわなきゃいけないという考えが支配的です。私はお年寄りを中心にした長い臨床経験を経て、医療よりも、持って生まれた個人差や遺伝子のほうが、その人の寿命や健康に影響を与える度合いが大きいと思うようになりました。
病気になることを恐れすぎて日常を制限するより今の元気さを楽しんだほうがいい気がします。少なくとも医者を頼って何かしてもらえば、余計に長生きできるというのは“幻想”です。
養老:結局、日常を維持するかどうかが大事ということです。「日常」を維持するのはあまり立派なことと思われませんが、そうではない。日本語の「ありがとう」は「有り難し」、原義は「滅多にない」です。それが感謝の言葉ということは、本来、なんでもない日常が「有り難い」ということ。災害に遭ったり、歳を取るとそれがわかってきます。
私の母が90歳を過ぎた時、居間の模様替えをしてテレビを10cm動かしたら、「元に戻せ」と言いました。普段見ているテレビが10cm動いただけで、自分の調整がズレてしまう。日常の些細な変化に耐えるだけの体力がもうないんです。そういう意味で日常は年寄りにとって非常に重要。若い人は変えるのが面白いかもしれないけど、年寄りはできるだけ「変わらない」ほうがいい。だから保守的と言われるのですが、変えてみたところで大して変わらないんですよ。
死が中心になっている
和田:ここ数年、日本ではコロナが流行ったこともあってその日常が壊されてしまった。外出自粛やマスクの常時着用が、高齢者による交通事故が起これば免許返納が叫ばれるようになった。いとも簡単に日常を奪われることが多い気がします。
だからこそ養老先生のお母さんのように、テレビが少し動いただけでダメという意思表明はとても大事だと思います。それが健康的に生きるヒントになる気がします。
* * *
養老:迷惑をかけない限り、自分が好きなように生きる基準をはっきりさせることは大事です。
和田:我々がよく共産主義の国々を批判する時に「あいつらには自由がない」と言うけど、ここしばらくの日本を見ると、命のためには移動の自由であろうが営業の自由であろうが、どんな自由も簡単に放棄している。「命のためなら自由が奪われても仕方ない」という態度は、医者に「血圧が高いから塩分を控えるように」と言われて好きなものを我慢することにも通じます。
養老:コロナ以来、死ぬことのほうが中心になってきて、「生きることが疎かになっている」ように感じます。天気がいい時はこういう議論をするよりも、外に出て陽の光を浴びるほうが、よっぽど気持ちがいい(笑)。
和田:先生も昆虫がお好きなように、やっぱり楽しいことがあると、生きている感じが増すんじゃないでしょうか。
養老:世の中の付き合いがあるからなかなか時間が取れませんが、今でも虫をいじっていたいとは思っています。ただ、それだけにこもってしまうとそれはそれで不健康。生きることも死ぬことも、適当に距離を取るのが大事じゃないでしょうか。
和田:私はおそらく養老先生ほど悟っておらず、何か楽しいことをしていないと生きている気があんまりしません。だから美味しい食事やワイン、映画創りのことばかり考えています。養老先生と違い、私は検査データが悪い結果のデパートで、それでも医者の言うことを聞かないのは、そういう楽しみがないと生きている気がしないからです。
養老:私も検査値がどうであろうと、虫取りの季節が来たらどこにでも行っちゃいます(笑)。感染症が怖いなんて思ったら行けません。私がよく行くラオスのジャングルは、うっかり蚊に刺されればマラリアやデング熱が普通にあるところ。それでも、ほぼ毎年のように行って、一度も病気になったことはありません。
他人に生き方を聞くな
和田:そうやって生きることを楽しんでおられるから免疫力が上がっているのかも。養老先生のように哲学者でもあり、周囲が期待する作家でもあり、解剖学者でもあるのに、自分だけの昆虫の楽しみに多くを捧げるのは素敵だと思います。
養老:そうですかね。ただ好きなことをやっているだけで……。もし、好きなことがない、生きることを楽しめないという人がいたら、「社会のことを考えすぎないで、自分のことを考えなさいよ」と余計な忠告をしたいですね。まずは自分が何をしたいかを見極めないと話になりません。
私の友人の池田清彦(生物学者)は、75歳で毎日酒を飲み続けていますが、それこそ彼に「健康に悪いからやめろ」とは言いません。飲んでいる時が一番似合っているから。自他ともにその人らしい生き方というのがあると思うんです。
和田:養老先生のように生きている時間をどれだけ楽しめるかについては、(戦中生まれの)先生の世代と、団塊の世代に代表される戦後生まれの違いもある気がします。先生の世代は、それまで信じ込まされてきた教育を、敗戦で1回ひっくり返されている。対して戦後生まれは、言われたことを信じてやり続けて高度成長を成し得た経験がある。私の勝手な思い込みかもしれませんが、養老先生の世代には、戦争に負けることも含めて、運命には逆らえないという感覚があるような気がします。
養老:いや、そうですね。
和田:でも、高度成長を経験した世代には、頑張ればなんとかなる、という信念みたいなものもある。逆に若者はずっと不景気しか知らず、それはそれで別の諦め方をしているようにも見える。ただ繰り返しになりますが一貫して言えることは、「生きていることを犠牲にしてでも死ぬのが怖い」という感覚。最近は死を避ければ自由はなくていい、とする考えが先鋭化しているように感じます。医者は病気を治してくれても、生きることについて教えてはくれない。先生、いかがですか?
養老:よく言うんですが、「他人に生き方を聞くんじゃないよ」って(笑)。いつでも人生は自分で切り拓いていくしかない。
和田:「頑張ればその通りになる」と信じて生きていては、意外に難しいのかもしれませんね。
【プロフィール】
養老孟司(ようろう・たけし)/1937年、神奈川県生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。450万部を記録した『バカの壁』は2003年のベストセラー第1位で、戦後歴代5位。ほかに『唯脳論』『手入れという思想』など著書多数
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。2022年3月刊行の『80歳の壁』は2022年のベストセラー第1位。ほかに『六十代と七十代 心と体の整え方』など著書多数 。 ※週刊ポスト
「私を大事にしてくれた夫。お返ししたい、その一心でした」財務省決裁文書改ざん問題で戦ってきた赤木雅子さんが判決前に思うこと 安倍元首相と交わした最初で最後の言葉、国葬で思い出したあの日の寂しさーgooニュース https://news.goo.ne.jp/article/47news_reporters/nation/47news_reporters-20221116180116.html… #政治安倍前首相 #裁判
#赤木雅子さんはご立派です
赤木さん側は「改ざん指示は悪質」と、 佐川宣寿氏・国に責任逃れ。
国は突如、賠償金全額を支払う賠償責任「認諾」と云う手で裁判を終わらせ、佐川尋問を封じ訴訟終結、よって真相究明は出来ず闇に葬る。 雅子さんが求めた真相解明は出来ず、雅子さん側控訴する方針。
朝日新聞デジタル記事
公文書改ざん、佐川氏の責任認めず地裁、赤木雅子さんの請求棄却森下裕介
森友問題“妻”の訴え棄却も・・・松野官房長官「再調査はしない」考え改めて示す(TBS NEWS DIG) 『夫は法律に守ってもらえなかった』公文書改ざんめぐり元職員が自死 妻の訴え届かずーMBS
自殺した赤木さんの妻「悔しい気持ちでいっぱい」、森友文書改竄訴訟(産経) - goo https://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/sankei-_affairs_trial_44XMXT4CPBMPFIGTFZ7JWOHQJA.html…

「安倍政治」の弊害 民主主義ゆがめた深い罪
旧民主党政権が国民の失望を招いた後「弱い野党」に随分と助けられてきた
対立あおり国民を分断 ところが首相は、選挙で勝ったのだから全ての政策が信任された――と言わんばかりに強引に突き進んだ。
「国権の最高機関」と位置づけている国会の著しい軽視につながった。国会をまるで内閣の下請けのようにしてしまった罪は深い。
権力の私物化が指摘された「森友・加計」問題や「桜を見る会」首相は誠実に取り合おうとせず、同じ答弁を繰り返した結局、一連の問題の解明は進まなかった、首相は絶えず「丁寧に説明する」と口にしたが、国民に対する説明責任を果たさずうやむやに!
官僚が首相に「忖度(そんたく)政治」安倍内閣は検事総長人事にも介入しようとした。
内閣にとって都合がいい人物を捜査当局のトップに、実現はしなかったものの三権分立の大原則をゆがめた。検察人事問題には ”安倍政治の本質” が表れていた。
「ポスト安倍」の候補として、菅義偉官房長官が総理に・「安倍継続菅政権」
「まずは検証と総括から」…まっとうな民主政治を取り戻す為に!
山口広弁護士が明かす旧統一教会と政治の闇「警察庁出身の政治家の横やりで撃ち方やめ」に 8/1(月)

「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士(C)日刊ゲンダイ
【注目の人 直撃インタビュー】山口広(「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人) 【写真】安倍新内閣はまるで“カルト内閣”…統一教会がらみ12人、日本会議系も12人
安倍元首相銃撃事件によって「政治と宗教」が再びクローズアップされている。その中心は、言うまでもなく統一教会(現・世界平和統一家庭連合)だ。全国の約300人の弁護士によって1987年に結成された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)は、元首相をはじめとする全国会議員に対し、教団と関わりを持たないよう要請してきた。問題のない集団だと「お墨付き」を与えかねないからだ。80~90年代に霊感商法や合同結婚式などで社会問題化した統一教会は、なぜ野放しにされてきたのか。政治家はなぜいわくつきの教団に肩入れするのか。35年以上にわたり、被害者の救済に奔走してきた弁護士に聞いた。 ◇ ◇ ◇ ──霊感商法をめぐっては、教団の組織的関与が認定された民事事件がおよそ30件に上るほか、2007年から10年にかけて警察による摘発も相次ぎました。ジャーナリストの有田芳生前参院議員は「95年秋に警察庁幹部らが〈オウム真理教の次は統一教会を摘発する〉と言っていた」と発言。動きがなかった理由は「政治の力」とも言っています。なぜ教団に大きなメスが入らなかったのでしょうか。 警察の対応が始まったのは05年。09年には刑事裁判で統一教会の組織的犯行が認定された新世事件(特定商取引法違反)に至りました。一連の摘発によって統一教会の動きが少しは収まるかと考え、正直言って喜んでいた。私自身、警察の捜査に協力していたんですが、現場は相当苦労していました。信者の身柄を取っても、彼らは自白しないからです。組織活動の一環であるという実態を隠し、一般的な商売だと供述する。全く口を割らない。現場のフラストレーションがたまる中、新世事件以降の政治の横やりも影響したのか、10年ごろに撃ち方やめとなってしまったんです。警視庁は当初、統一教会の松濤本部までガサ入れする方針だったのに、警察庁出身の自民党有力議員から圧力がかかり、強制捜査は渋谷教会などにとどまった。この話はいろんなところから何回も聞きました。
■一連の摘発に「政治家との絆が弱かった」と総括 ──教団は正体を隠して霊感商法を続けています。 13件30人余りに上る一連の刑事摘発を受け、統一教会はどう総括したか。「政治家との絆が弱かったから摘発された」「今後は政治家と一生懸命につながっていかなければいけない」だった。表向きは「コンプライアンスの徹底」なんて言っていますが、本音は「もっとうまくやれ」ですよ。
■文化庁に繰り返し解散請求を要請 ──政治家へのアプローチをさらに強めていくわけですね。全国弁連は宗教法人を所轄する文化庁に対しても、さまざまな要請を行ってきました。 東京地裁の決定によって96年にオウムに解散命令が出されたのを受け、「統一教会にも解散請求をしてください」と何度も申し入れをしました。しかし、文化部宗務課は「組織活動が認められた刑事事件はないから、宗教法人の解散請求まではできない」と。当時、民事訴訟では組織的活動や統一教会の使用者責任が認定されていました。関連する証拠は山ほどある。「いくらでも資料提供しますから、ぜひお願いします」と繰り返し要請しましたが、民事だけではダメだと。ただ、オウムの現状を見れば分かる通り、宗教法人としての統一教会を解散させれば被害がなくなるかと言えば、必ずしもそうではない。宗教団体として活動を続ける余地は残る。霊感商法対策で最も効果を発揮するのは、刑事摘発なんです。統一教会はそれを恐れ、言葉巧みに不特定多数の通行人を呼び止めてビデオセンターに連れて行ったり、高額な商品をいきなり売りつけるようなやり方はできなくなっています。
──それでも、いまだ被害は甚大です。全国弁連のまとめでは、21年だけで相談17件、3.3億円余りの被害が判明。この34年間では相談は約3.4万件、1237億円超の被害が確認されたそうですね。
全国弁連や消費者センターに持ち込まれた相談の集計に過ぎません。氷山の一角です。霊感商法の入り口はいまも3つある。FF伝道、戸別訪問、それに街頭アンケート。FFはファミリー・フレンドの略で、仲間内の誘い込み。戸別訪問は形を変え、無料運勢鑑定なんかをきっかけにしている。かつてのように幅広く網をかけて献金を集める手法はとれなくなっているので、既存の信者を深掘りし、資金源にしています。差し出す財産がなくなれば借金に走らせ、さらには自己破産に追い込み、それでも献金させるのが統一教会のやり口なんです。
──銃撃犯の山上徹也容疑者は動機のひとつとして、教団のフロント団体「天宙平和連合」(UPF)のイベント(21年9月12日開催)に元首相が寄せたビデオメッセージを挙げています。教祖の妻である韓鶴子総裁に元首相が「敬意を表します」などと基調演説する衝撃的な内容でした。 全国弁連は抗議文とともに、メッセージ提供の経緯について説明を求める内容証明郵便を安倍さん宛てに送付しました。しかし、衆院議員会館の安倍事務所は受け取り拒否。地元事務所は受け取ったものの、回答はありません。第2次安倍政権以降、自民党が統一教会との関わりを隠さなくなったことに強い懸念を抱いていました。自民党の変化には2つの理由がある。安倍さん自身が統一教会との親和性に気づき、統一教会とつながりのある議員を積極的に登用するようになったことです。
──教団は関連団体などを通じて憲法改正を求め、同性婚や夫婦別姓に反対すると主張しています。 若手議員は統一教会のイベントに参加したり、祝電を送ったり、それらをホームページなどで発信するようになった。ひと昔前は統一教会の求めには応じるものの、議員たちには問題がある教団だという意識があり、「顔は出すけど、名前は出さないで」と言っていたものです。それがガラッと変わったのは、統一教会と関わりを持てば安倍さんの覚えがめでたくなり、政府の一員になるチャンスになったから。政務官や副大臣、場合によっては大臣に取り立てられることもあった。統一教会が刑事摘発されるケースが少なくなり、マスコミ報道が減り、教団の実態を知らない議員が増えたことも背景にあります。
名称変更に「なぜ!」と抗議、宗務課担当者は「言えません」
──97年以降、教団が求め続けてきた名称変更を文化庁が15年に認証しました。第2次安倍政権下でした。 安倍政権が統一教会に協力的なスタンスであったことは間違いない。私どもは宗務課に「名称変更を認証しないでください」と何度も申し入れましたし、担当者も「そんなことはしませんよ」と応じていた。そうした中での突然の認証でしたから、非常にビックリして「なぜ認証したんですか!」と抗議に行ったんです。すると、担当者は「言えません」と。
──それが精いっぱいの対応? 本当にそうでした。当時の担当大臣は下村文科相。
文化庁に具体的な働きかけがあったのか、あるいは忖度したのか。そこは分かりません。一方で、「幸福の科学大学」の新設は14年に不認可とした。そっちができて、こっちはなぜできないのか。そう言いたくはなりますよね。 ──文科省の大学設置・学校法人審議会の答申を受ける形ではありましたが、幸福の科学総裁の「霊言」の必修科目教材採用や、認可審査中に下村文科相の「守護霊インタビュー」を出版したことが問題視された。岸田自民党は銃撃事件を「民主主義への挑戦」と強調し、事件の本質から目をそらさせようとしているように見えます。 事件そのものは決して許されるものではありませんが、政治倫理が問われている。そう思います。特定の宗教による長年の苦しみが容疑者を行動に駆り立ててしまったということ。右とか左とか、政治がどうこうというレベルではありません。
──銃撃事件の発生からまもなく1カ月。送検された容疑者への法律面の支援は十分なのでしょうか。 奈良弁護士会の方でいろいろ検討し、動いていると聞いています。私は東京なので勘弁してよ、と言いたいですが、統一教会の実情を理解した弁護人がつく必要はあると思っています。
▽山口宏(やまぐち・ひろし) 1949年、福岡県久留米市生まれ。東大法学部を卒業後、78年に弁護士登録。第二東京弁護士会所属。87年に設立された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」で21年秋まで事務局長。山一抵当証券被害弁護団、ジーオーグループ被害弁護団、カルテのないC型肝炎被害弁護団、スルガ銀行不正融資被害弁護団などの弁護団長を務めたほか、日航機墜落事故と中華航空機墜落事故の被害者団の代理人などを担当。「検証・統一教会=家庭連合」「宗教トラブル110番」「消費者トラブルQ&A」など著書多数。 (日刊ゲンダイ編集部)
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東電の株主が旧経営陣5人に総額22兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟の判決を前に東京地裁に入る原告や弁護団=東京都千代田区で2022年7月13日午後2時半
東電株主訴訟原発事故で旧経営陣に13兆円余りの損害賠償命じる東京地裁が判決
福島第一原発の事故をめぐって、東京電力の株主が、旧経営陣5人に対して、およそ22兆円の損害賠償を求めた「株主代表訴訟」の判決が、午後3時に言い渡された。東京地裁は、経営責任を認めて、旧経営陣5人のうち4人に対して、13兆3210億円の損害賠償を命じた。 原告側の株主は、原発事故で東京電力が巨額の損失を受けたのは、旧経営陣が安全対策を怠ったためと主張。東電が、旧経営陣に対して損害賠償を求めなかったため、事故が起きた翌年の2012年3月に、株主代表訴訟を起こしていた。 株主代表訴訟は、会社が損害を被ったにもかかわらず、会社側が役員に法的責任を追及しない場合、株主が代わって訴えを起こすことができる制度。今回の裁判の主な争点は、旧経営陣が、●巨大な津波が襲来することを予見できたか、●防潮堤を建設したり、施設を水密化するなどの対策を講じることができたか。 株主側は、政府機関が2002年に公表した地震予測「長期評価」をもとに、東電側が15.7メートルの津波が押し寄せるとの試算を出していたと指摘し、「巨大津波を予見できた」と主張していた。 これに対して、旧経営陣側は、当時、この長期評価は信頼性に欠けたもので、「津波は予見できなかった」と反論。仮に、対策を進めたとしても、津波の襲来には間に合わなかったなどと主張していた。 福島第一原発事故をめぐって、東電の旧経営陣個人の責任を問う動きは、刑事裁判でも進められ、元会長ら3人が強制起訴された。検察官役の指定弁護士と旧経営陣側の主張は、株主代表訴訟とほぼ同じで、東京地裁は、2019年、元会長ら3人に無罪判決を言い渡した。この裁判の控訴審も、先月、結審している。
東電勝俣元会長ら4人に賠償責任と東京地裁 共同通信社
元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」~「吉田調書事件」とは何だったのか 
---------- 「鮫島が暴露本を出版するらしい」「俺のことも書いてあるのか?」――いま朝日新聞社内各所で、こんな会話が交わされているという。元政治部記者の鮫島浩氏が5月27日に上梓する『朝日新聞政治部』は、登場人物すべて実名で綴る、内部告発ノンフィクションだ。 戦後、日本の左派世論をリードし続けてきた、朝日新聞政治部。そこに身を置いた鮫島氏が明かす政治取材の裏側も興味深いが、本書がもっとも衝撃的なのは、2014年に朝日新聞を揺るがした「吉田調書事件」の内幕をすべて暴露していることだ。 今日から7回連続で、本書の内容を抜粋して紹介していく。
夕刊紙に踊る「朝日エリート誤報記者」の見出し
2014年秋、私は久しぶりに横浜の中華街へ妻と向かった。息苦しい都心からとにかく逃れたかった。 朝日新聞の特別報道部デスクを解任され、編集局付という如何にも何かをやらかしたような肩書を付与され、事情聴取に呼び出される時だけ東京・築地の本社へ出向き、会社が下す沙汰を待つ日々だった。蟄居謹慎(ちっきょきんしん)とはこういう暮らしを言うのだろう。駅売りの夕刊紙には「朝日エリート誤報記者」の見出しが躍っていた。私のことだった。 ランチタイムを過ぎ、ディナーにはまだ早い。ふらりと入った中華料理店はがらんとしていた。私たちは円卓に案内された。注文を終えると、二胡を抱えたチャイナドレスの女性が私たちの前に腰掛け、演奏を始めた。私は紹興酒を片手に何気なく聴き入っていたが、ふと気づくと涙が溢れている。 「なぜ泣いているの?」 二胡の音色をさえぎる妻の声で私はふと我に返った。人前で涙を流したことなんていつ以来だろう。ちょっと思い出せないな。これからの私の人生はどうなるのだろう。 朝日新聞社は危機に瀕していた。私が特別報道部デスクとして出稿した福島原発事故を巡る「吉田調書」のスクープは、安倍政権やその支持勢力から「誤報」「捏造」と攻撃されていた。政治部出身の木村伊量社長は、過去の慰安婦報道を誤報と認めたことや、その対応が遅すぎたと批判する池上彰氏のコラム掲載を社長自ら拒否した問題で、社内外から激しい批判を浴びていた。 「吉田調書」「慰安婦」「池上コラム」の三点セットで朝日新聞社は創業以来最大の危機に直面していたのである。特にインターネット上で朝日バッシングは燃え盛っていた。 木村社長は驚くべき対応に出た。2014年9月11日に緊急記者会見し、自らが矢面に立つ「慰安婦」「池上コラム」ではなく、自らは直接関与していない「吉田調書」を理由にいきなり辞任を表明したのである。さらにその場で「吉田調書」のスクープを誤報と断定して取り消し、関係者を処罰すると宣告したのだ。 寝耳に水だった。 その後の社内の事情聴取は苛烈を極めた。会社上層部はデスクの私と記者2人の取材チームに全責任を転嫁しようとしていた。5月に「吉田調書」のスクープを報じた後、木村社長は「社長賞だ、今年の新聞協会賞だ」と絶賛し、7月には新聞協会賞に申請した。ところが9月に入って自らが「慰安婦」「池上コラム」で窮地に追い込まれると、手のひらを返したように態度を一変させたのである。
私がどんな「罪」に問われていたか
巨大組織が社員個人に全責任を押し付けようと上から襲いかかってくる恐怖は、体験した者でないとわからないかもしれない。それまで笑みを浮かべて私に近づいていた数多くの社員は蜘蛛の子を散らすように遠ざかっていった。 私は27歳で政治部に着任し、菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家の番記者を務めた。39歳で政治部デスクになった時は「異例の抜擢」と社内で見られた。その後、調査報道に専従する特別報道部のデスクに転じ、2013年には現場記者たちの努力で福島原発事故後の除染作業の不正を暴いた。この「手抜き除染」キャンペーンの取材班代表として新聞協会賞を受賞した。 朝日新聞の実権を握ってきたのは政治部だ。特別報道部は政治部出身の経営陣が主導して立ち上げた金看板だった。私は政治部の威光を後ろ盾に特別報道部デスクとして編集局内で遠慮なく意見を言える立場となり、紙面だけではなく人事にまで影響力を持っていた。それが一瞬にして奈落の底へ転落したのである。 ああ、会社員とはこういうものか――。そんな思いにふけっているところへ、妻の声が再び切り込んできた。二胡の妖艶な演奏は続いている。 「なぜ泣いているの?」 「なんでだろう……。たぶん厳しい処分が降りるだろう。懲戒解雇になると言ってくる人もいる。すべてを失うなあ……。いろんな人に世話になったなあと思うと、つい……」 妻はしばらく黙っていたが、「それ、ウソ」と言った。続く言葉は強烈だった。 「あなたはこれから自分が何の罪に問われるか、わかってる? 私は吉田調書報道が正しいのか間違っているのか、そんなことはわからない。でも、それはおそらく本質的なことじゃないのよ。あなたはね、会社という閉ざされた世界で『王国』を築いていたの。誰もあなたに文句を言わなかったけど、内心は面白くなかったの。あなたはそれに気づかずに威張っていた。あなたがこれから問われる罪、それは『傲慢罪』よ!」 紹興酒の酔いは一気に覚めた。妻はたたみかけてくる。 「あなたは過去の自分の栄光に浸っているだけでしょ。中国の皇帝は王国が崩壊した後、どうなるか、わかる? 紹興酒を手に、妖艶な演奏に身を浸して、我が身をあわれんで涙を流すのよ。そこへ宦官がやってきて『あなたのおこなってきたことは決して間違っておりません。後世必ずや評価されることでしょう』と言いつつ、料理に毒を盛るのよ!」 中国の皇帝とは、仰々しいたとえである。だが、妻の目に私はそのくらい尊大に映っていたのだろう。そして会社の同僚たちも社内を大手を振って歩く私を快く思っていなかったに違いない。私はそれにまったく気づかなかった。 「裸の王様」がついに転落し、我が身をあわれんで涙を流す姿ほど惨めなものはない。そのような者に誰が同情を寄せるだろうか。 私は、自分がこれから問われる「傲慢罪」やその後に盛られる「毒」を想像して背筋が凍る思いがした。泣いているどころではなかった。独裁国家でこのような立場に追い込まれれば、理屈抜きに生命そのものを絶たれるに違いない。今日の日本社会で私の生命が奪われることはなかろう。奈落の底にどんな人生が待ち受けているかわからないが、生きているだけで幸運かもしれない。 そんな思いがよぎった後、改めて「傲慢罪」という言葉を噛み締めた。「吉田調書」報道に向けられた数々の批判のなかで私の胸にストンと落ちるものはなかった。しかし「傲慢罪」という判決は実にしっくりくる。そうか、私は「傲慢」だったのだ! 政治記者として多くの政治家に食い込んできた。ペコペコすり寄ったつもりはない。権力者の内実を熟知することが権力監視に不可欠だと信じ、朝日新聞政治部がその先頭に立つことを目指してきた。調査報道記者として権力の不正を暴くことにも力を尽くした。朝日新聞に強力な調査報道チームをつくることを夢見て、特別報道部の活躍でそれが現実となりつつあった。それらを成し遂げるには、会社内における「権力」が必要だった――。 しかし、である。自分の発言力や影響力が大きくなるにつれ、知らず知らずのうちに私たちの原点である「一人一人の読者と向き合うこと」から遠ざかり、朝日新聞という組織を守ること、さらには自分自身の社内での栄達を優先するようになっていたのではないか。 私はいまからその罪を問われようとしている。そう思うと奈落の底に落ちた自分の境遇をはじめて受け入れることができた。 そして「傲慢罪」に問われるのは、私だけではないと思った。新聞界のリーダーを気取ってきた朝日新聞もまた「傲慢罪」に問われているのだ。
日本社会がオールドメディアに下した判決
誰もが自由に発信できるデジタル時代が到来して情報発信を独占するマスコミの優位が崩れ、既存メディアへの不満が一気に噴き出した。2014年秋に朝日新聞を襲ったインターネット上の強烈なバッシングは、日本社会がオールドメディアに下した「傲慢罪」の判決だったといえる。木村社長はそれに追われる形で社長から引きずり下ろされたのだ。 「吉田調書」報道の取り消し後、朝日新聞社内には一転して、安倍政権の追及に萎縮する空気が充満する。他のメディアにも飛び火し、報道界全体が国家権力からの反撃に怯え、権力批判を手控える風潮がはびこった。安倍政権は数々の権力私物化疑惑をものともせず、憲政史上最長の7年8ヵ月続く。 マスコミの権力監視機能の劣化は隠しようがなかった。民主党政権下の2010年に11位だった日本の世界報道自由度ランキングは急落し、2022年には71位まで転げ落ちた。新聞が国家権力に同調する姿はコロナ禍でより顕著になった。 木村社長が「吉田調書」報道を取り消した2014年9月11日は「新聞が死んだ日」である。日本の新聞界が権力に屈服した日としてメディア史に刻まれるに違いない。 私は2014年末、朝日新聞から停職2週間の処分を受け、記者職を解かれた。6年半の歳月を経て2021年2月に退職届を提出し、たった一人でウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を創刊した。 私と朝日新聞に突きつけられた「傲慢罪」を反省し、読者一人一人と向き合うことを大切にしようと決意した小さなメディアである。自らの新聞記者人生を見つめ直し、どこで道を踏み外したのかをじっくり考えた。本書はいわば「失敗談」の集大成である。 世の中には新聞批判が溢れている。その多くに私は同意する。新聞がデジタル化に対応できず時代に取り残されたのも事実だ。一方で、取材現場の肌感覚とかけ離れた新聞批判もある。新聞の歩みのすべてを否定する必要はない。そこから価値のあるものを抽出して新しいジャーナリズムを構築する材料とするのは、凋落する新聞界に身を置いた者の責務ではないかと思い、筆を執った。 この記事は大手新聞社の中枢に身を置き、その内情を知り尽くした立場からの「内部告発」でもある。 ---------- 次回は「新人時代のサツ回りが新聞記者をダメにする」を公開! 明日更新です。 ---------- ---------- 登場人物すべて実名の内部告発ノンフィクション『朝日新聞政治部』は5月27日発売。現代ビジネスでは紹介しきれない衝撃の事実も赤裸々に綴られています。第一章 新聞記者とは? 1994―1998 第二章 政治部で見た権力の裏側 1999―2004 第三章 調査報道への挑戦 2005―2007 第四章 政権交代と東日本大震災 2008―2011 第五章 躍進する特別報道部 2012―2013 第六章 「吉田調書」で間違えたこと 2014 第七章 終わりのはじまり 2015― 終章 ---------- 鮫島 浩(ジャーナリスト)
吉田調書
”75歳以上”では飲酒が認知機能低下を防ぐ?SONIC研究データの横断解析022/03/28
75歳以上の日本人高齢者を対象とする研究から、適度な頻度でアルコールを摂取している人の方が、認知機能が高いことを示すデータが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の赤木優也氏、樺山舞氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に2月28日掲載された。アルコールの種類別ではワインを飲んでいること、飲酒状況では機会飲酒(宴会等)があることが認知機能の高さと関連しているという。
認知機能低下のリスク因子の一つとして、過度のアルコール摂取が挙げられる。ただし、そのエビデンスは主として壮年~中年期の成人を対象とした研究から得られたものであり、75歳以上の後期高齢者ではどうなのか、よく分かっていない。また、ワインの認知機能保護効果がよく知られているが、その効果を示した研究は地中海諸国で行われたものが多く、食事スタイルの影響を否定できない。加えて、人種的にアルコール耐性が低い日本人での効果は不明であり、さらに日本酒や焼酎の認知機能に対する影響はほとんど知られていない。
そこで赤木氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究「SONIC研究」の参加登録時データを用いて、飲酒頻度、飲酒量、アルコールの種類、機会飲酒の有無と認知機能との関係を横断的に解析した。なお、SONIC研究の参加者の年齢は、75~77歳または85~87歳のいずれかであり、本研究の解析対象(飲酒習慣に関するデータのない人を除外した1,226人)のうち60.6%が75~77歳だった。また、48.5%が男性だった。
飲酒の頻度は、毎日が25.7%、週に1~6日が13.5%、週1日未満が5.4%で、55.5%は飲酒の習慣がなかった。飲酒量は、中程度(純アルコール40g/日未満)が34.8%、中程度を超えて多量未満(同40~60g未満/日)が5.8%で、多量飲酒(60g/日以上)が3.6%だった。アルコールの種類は、ビールが24.3%、焼酎13.1%、日本酒10.8%、ワイン4.4%、ウイスキー2.6%で、一部の人は複数の種類のアルコールを習慣的に摂取していた。
認知機能は、日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)という指標で把握した。MoCA-Jは0~30の範囲でスコア化され、スコアが低いほど認知機能が低いことを表す。本研究の解析対象者は、平均22.7だった。
認知機能(MoCA-Jスコア)に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中の既往、メンタルヘルス状態(WHO-5日本語版で評価)、教育歴、居住形態(同居/独居)、外出頻度、経済状況など〕を調整後、飲酒頻度が週に1~6日の人は、飲酒習慣のない人、および、毎日飲酒する人に比較して、MoCA-Jスコアが有意に高いという結果が得られた。一方、前記の因子で調整後に飲酒量で比較した場合、MoCA-Jスコアとの有意な関係は認められなかった。
重回帰分析の結果、ワインの摂取と機会飲酒があることがMoCA-Jスコアの高さに、それぞれ独立して関連することが明らかになった(いずれもβ=0.09、p<0.01)。一方、ビール、焼酎、日本酒、ウイスキーを飲む習慣は、MoCA-Jスコアとの間に有意な関係がなかった。
適度な飲酒習慣が高齢者の認知機能に対し保護的に働く可能性が示されたことの背景について著者らは、「飲酒関連の行動の一部には社会参加が含まれるため、社会活動による認知機能の保護効果が影響を及ぼしている可能性がある。ただし本研究では、外出頻度や居住形態の影響を調整後にも有意な関連が示された。よって、飲酒に関連する行動パターンそのものが、認知機能に対して保護的に働くのではないか」との考察を加えている。
一方、研究の限界点として、解析対象が後期高齢者のみであるため、元来健康でヘルスリテラシーが高い集団である可能性があることや、生存バイアスの存在が否定できないことなどを挙げている。
以上より著者らは結論を、「毎日ではない中程度の頻度での飲酒とワインの摂取、機会飲酒は、75歳以上の高齢日本人の認知機能の高さと関連していた。この因果関係を明らかにするための縦断研究が望まれる」と総括している。(HealthDay News 2022年3月28日)
コロナ検査が足りず治療に遅れ 国に欠けるのは「患者目線」と専門家が指摘
「第6波」の収束が見通せない中、検査が足りず十分な治療ができていない。相変わらず検査数を抑制ぎみの国に対し、専門家からは疑問の声が上がる。AERA 2022年3月14日号の記事を紹介する。
* * *
「新型コロナウイルスの検査が十分にできないせいで、患者さんへの治療が遅れることがあります」
立川相互病院(東京都)の山田秀樹副院長はそう明かす。同院で感染の疑いがある人に実施したPCR検査は第6波(1、2月)で計1110件。第5波(昨年7、8月)の計757件より1.5倍も多い。しかし、1月下旬に院内PCR検査キットを千個発注しても届いたのは3月で、しかも130個だけだ。
■東京の陽性率は30%台
抗原定性検査もするが、PCR検査は民間検査会社に頼らざるを得ない。しかし、検査会社が混み合って結果が遅れ、発症から5日以内に投与する経口治療薬が間に合わない場合もあるという。しかも自宅療養となれば、経過を直接診ることもできない。山田副院長はこう語る。
「(治療薬は)臨床試験では入院や死亡のリスクがおよそ30%改善の結果が出ています。早期の診断が重症化予防、入院率の低下に役立つはずなのに、検査という入り口に滞りがあります」
日本の人口1千人あたりの検査数(7日間平均、2月下旬)は1.32件。米国3.03件、英国10.93件、オーストリア58.59件などと比べても先進国最低レベル。その結果、東京都の陽性率は35.2%(3月2日現在)。世界保健機関(WHO)は各国が感染拡大をコントロールできているかの基準の一つに「陽性率5%未満が2週間続いている」を挙げるが、遠く及ばない。
政府関係者は「検査数が少ないのは、検査体制の整備を怠ってきた証拠」と話す。
「岸田文雄首相は積極的に増やす意向でしたが、厚生労働省は消極的でした。当初から検査を抑制したので、今さら方向転換できない。スクリーニング検査で多くの陽性者を出すと保健所の役割や感染者の療養を明確に法令上規定して対応しなければならなくなるが、それでは厚労省がコントロールできなくなりかねない。結局、政府は『通知』を出して抑え込んできました」
■世界はリモート検査
感染が拡大すると、国はみなし陽性を認めた。昨年12月から受けられるようになった無症状者の無料検査も今年1月、同月第2週の平均検査数の「2倍以内」に抑えるように通知を出した。
一橋大学大学院の佐藤主光教授(地方財政論)が解説する。
「通知には法的拘束力がなく、技術的な助言にすぎません。どのように守るのかは、自治体によって判断が分かれると思います。今回の無料検査を2倍以内に抑える通知では、期間も示されていません。国として『一応言うことは言っておいた』と現場任せに押し付けているのだと思います。地域によって感染者数の増え方も違うはずなのに、一律に2倍とするのは強引なのでは」
首都圏のある自治体の担当者は言う。
「無料検査数を2倍以内に抑えるようにと言われたのは、ちょうど第6波の感染者数が増えていたときでした。自治体としては、業者にみだりに購入しないようにお願いするしかできません。『検査を受けられない』と住民からの電話もありました」
所管の内閣官房に尋ねると、「議会があって担当者がつかまらないので後日に」と答えた。
医療ガバナンス研究所の上昌広理事長はこう指摘する。
「厚労省の医系技官たちは、通知を出すだけで責任を負いません。今の日本に欠けるものは患者目線です。世界はリモートでの検査が拡大しています。患者が自宅で早期に検査を受けやすくする体制づくりが必要です」(編集部・井上有紀子)※AERA
汚れた五輪 組織委上層部に著名人30人超、中身伴わず【日経ビジネス】
東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件の舞台となった大会組織委員会には、権威に異を唱えられぬ悲しき人々がいた。政治家や経営者、元官僚、元アスリート、文化人……。多彩な背景を持つ理事が30人以上そろっていたが、多くが自己主張を控え、存在感を消していた。組織委の理事に限らず、日本には社長を監督しない取締役、上司の言いなりの部下がどこにでもいる。五輪を汚した、権威に弱い「普通の人々」を追う。
◇ ◇ ◇
今となっては、組織委が掲げた崇高な基本コンセプトがむなしい。
・東京1964大会は(中略)高度経済成長期に入るきっかけとなった大会。
・東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく。
1年間の延期を経て、2021年夏に開かれた2度目の東京五輪は、世界にポジティブな変革を促すどころか、成熟国家を自任する日本で、不正が横行していることを印象づける大会となった。現在、東京地裁で五輪のスポンサー選定などを巡る汚職事件の裁判が進んでいる。加えてテスト大会で入札談合があったとして、東京地検特捜部と公正取引委員会が捜査中だ。
崇高な理念を掲げた国家的イベントを地に落としたのは権威に弱い、どこにでもいる「普通の人々」だ。不正に手を染めた疑いのある現場と、現場の不正を防げなかった組織委の理事会の双方に、権威に異を唱えられぬ悲しき人々の姿があった。
まずは理事らが形骸化させた理事会の内実をご覧に入れよう。毎回しゃんしゃんで終わってしまう多くの民間企業の取締役会と似ていることが分かっていただけるはずだ。人ごとでは済ませられない。
出発点は森喜朗氏の女性蔑視発言
覚えているだろうか。21年2月に開かれた日本オリンピック委員会(JOC)の会議で当時、組織委の会長だった森喜朗氏が、あいさつ中に女性を蔑視し、辞任に追い込まれた。発言の要旨は次の通り。
「(私が過去に会長を務めていた)日本ラグビー協会にはたくさんの女性理事がいるため、理事会に時間がかかる。(これに対して)私どもの組織委の女性理事はみんなわきまえておられて、お話がシュッとして、的を射ている。我々にとって非常に役に立っている」。森氏の真意は本人のみぞ知るだが、「余計なことを長々と発言しない」ことが、「わきまえている」ことだと解釈できる。
組織委のような団体の理事会は民間企業の取締役会に相当し、不正を防ぐ仕組みの構築と運用が法的に求められていた。結果的に理事らは実効性のある仕組みの導入に失敗したと言わざるを得ない。「わきまえる」という言葉にその原因が隠れている、との仮説に基づいて記者は取材に乗り出した。
今回、複数の元理事が取材に応じてくれた。その一人である佐野道枝氏(仮名)は取材中、「理事会で積極的に意見を出さず、与えられた役割を果たさなかった。本当に情けなく、申し訳ない」と、率直に陳謝した。
「理事会で発言を控えたあなたは、『わきまえた女性理事』の一人だったと言えるのではないだろうか?」。記者のそんな質問に、佐野氏は「確かにそうだ」と吐露した。
佐野氏だけではない。性別にかかわらず、理事らの受け身の姿勢が、理事会の議事録からうかがえる。理事会は14年1月〜22年6月の8年半に50回開かれた。そのうち15年12月以降に開催された計42回分の議事録(要約版)が公開されている。
この間、森会長が理事会の議長として諮った議案は115件、後任の橋本聖子会長は22件に上った。決議に先立って、まず進行役や事務局の担当者が議案の内容を説明した。テーマは「組織運営改革に伴う体制整備について」「事業計画および収支予算などについて」「副会長の選定について」など多岐にわたった。ところが説明を受けても、理事らが活発に審議した様子はほとんど見受けられない。
理事会の出席者によると、開会時に「本日は2時間後の午後3時から記者団へのブリーフィングがあります」などと伝えられた。ブリーフィングが始まる時刻までに閉会することを意識させられ、審議に時間をかける雰囲気はなかったという。
たまに意見が出たとしても、「引き続き厳しく経費の精査に努めていただきたい」「パラリンピアンなどが意見を言える場を設定してほしい」といった無難なものばかりで、誰も議案の是非を問うことはなかったようだ。政治家や経営者、元官僚、元アスリート、文化人など多彩な背景を持つ、30人超の理事らがそろっていたにもかかわらず、自分の経験や知識を議案に反映しようとする者はいなかったと言っていい。
「国・都・JOCが決めていた」
議案の修正や、差し戻しを求めたことは一度もなく、森会長や橋本会長が諮った議案は一つ残らず、「満場一致の議決をもって原案どおり承認可決された」(議事録から)。議案が最初から完璧であるならともかく、原案の可決率が100%だと、そもそも理事会は意思決定機関として機能していたのかとの疑問が湧く。
佐野氏は「重要な事柄は国と東京都、JOCの協議ですでに決定していた」と明かす。理事会の実態は、ただの追認機関だったと言える。
その日の理事会で用意されたすべての議案について決議を終えると、残りの時間で「スポンサーの決定について」「選手村について」「マスコット公募選考について」といった職務執行状況について事務局の担当者が報告した。これは会長らが適切に職務を執行しているかを、理事会で監視するための報告である。
報告が全部済むと、理事らによる意見交換の時間となる。職務執行状況に不満があれば、ここで表明できたはずだ。
だが、この頃になると、もう記者ブリーフィングまで5分ぐらいしか残っていないことも少なくなかった。ある元理事は、「意味のある意見交換はほとんどなされなかったと私は認識している」と振り返る。
本来、理事らには「一般法人法」に基づき、ほかの理事や職員が不正を働かないよう内部統制システムを構築し、運用する義務があった。具体的には、理事会で実効性のある内部統制システムを審議・決議し、会長ら職務執行者が適切に運用しているかを監視することが求められていた。しかし、理事の多くが自己主張を控え、存在感を消していた。
多くの企業にとって対岸の火事ではない。組織委の理事会のように、追認機関に成り下がっている取締役会が少なくないのが実情だ。
スルガ銀の取締役会にそっくり
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社の経営破綻をきっかけに、18年に多額の不正融資が発覚したスルガ銀行も、その一社だった。
「取締役会において議案が否決されたり、修正されたり、差し戻しとなったことはない。すべての議案が原案のまま承認可決されている」「取締役会が実質的に議論をし、物事を決めていく場ではなかったと評価せざるを得ない」。スルガ銀行の不祥事を調査した第三者委員会は、現場で不正が横行していることを察知できなかった取締役会を、報告書でこう断罪した。
取締役会は一方的に職務執行状況の報告を受けたり、議案を提示されたりするのではなく、取締役会側から能動的に報告を求める事項を指定したり、審議すべき議案を話し合って決めたりすべきであると第三者委員会は提言した。また毎回短時間で終わらせていた取締役会を延長し、審議に必要な時間を十分確保することも提案している。組織委の理事会もこうした措置を取っていれば、不正のリスクを減らせたに違いない。
名ばかりの意思決定機関は、決議の作法も変えねばならないだろう。そうした会議体では、議長が「ご異議ありませんか?」と問うて決議をとることが多い。すかさず理事や取締役の一部が「異議なし!」と叫んで承認可決する。意思決定方法としては一般的であり、組織委の理事会も例外ではなかった。
歌舞伎のような会議
問題は100回、500回、1000回と、何回決議を繰り返しても「異議なし!」という声しか上がらず、必ず原案通り承認可決している場合だ。このような会議体は、歌舞伎と一緒ではないだろうか。歌舞伎では役者が見えを切った時などに、観客が「成田屋!」「12代目!」などと叫ぶならわしとなっている。歌舞伎独特の様式美を崩さないためにも、掛け声は屋号や代数などに限られることが事実上決まっている。
同様に、原案に対して「異議なし!」と叫ぶことが決まっているような意思決定プロセスは、芝居に等しい。そうした体質の会議体に名を連ねる社会的地位の高そうな人々は、舞台の見栄えを良くするための役者だとの指摘は厳しすぎるだろうか。
逆に役者としての立場をわきまえずに、「異議あり!」などと、筋書きにないことを口にすると、それは会議を仕切る議長への挑戦になる。組織委のような団体の理事会であれば会長、民間企業の取締役会であれば社長か会長というように、組織の最高権力者が議長を務めることがほとんどだ。あなたが最高権力者の率いる会議体のメンバーだったら、どう振る舞うだろう。
「私なら、相手がどんなに偉くても立ち向かえる」と思っているのであれば、それは幻想かもしれない。長い進化の過程で、権威に従って組織的に動くことができる集団が生き残ったとされる。その子孫である私たちの心に潜む「服従本能」にあらがうには、相当の覚悟が求められる。
元公安警察のなれ合い防止法
「なれ合いの防止には、メンバーの定期的な入れ替えが有効だ」と語るのは、警視庁公安部出身で、在外公館の警備も手掛けたセキュリティー・コンサルタントの松丸俊彦氏である。「施設警備の現場では、警備員の顔ぶれが長く固定化されると、夜間の見回りなどを省いたりし始める恐れがある」と、人事ローテーションの重要性を訴える。「ただ一度に全員を異動させると、マニュアル化しにくいノウハウが失われるので、在籍期間が長い警備員から順次異動させるのが好ましい」と助言する。
「マニュアル化しにくいノウハウ」とは、例えば警備員2人でクレーマーに対処するのが望ましい場面であったとしても、2人がクレーマーにつきっきりになると、ほかの場所の警備が手薄になるケースがある。この場合、1人でクレーマーに対処し、待機中の警備員1人をクレーマー対応の応援として呼ぶといった、ケース・バイ・ケースの変則的な警備方法を指す。
マニュアル化できないノウハウを見極め、その知見が失われない範囲で人事ローテーションを組むという警備の眼目は、そのまま一般的な職場の不正防止策にも適用できる。(日経ビジネス 吉野次郎)