米国利上げで浮上する世界経済の失速リスク
12月16日、米国FRBは9年半ぶりに政策金利を引上げ、7年に及ぶゼロ金利政策を解除した。
今回のFRBの決定は大きなイベントであったが、それによって世界経済が抱える問題が解決されたわけではない。むしろ、多くの問題が詰まった箱=“パンドラの箱”のふたを開けてしまったと考えた方がよい。
金融緩和策によって、今まで箱の中に押し込めていた問題が逃げ出し、徐々に問題点が顕在化する可能性が高いからだ。今、世界経済が抱える問題を数え上げると、それこそ枚挙に暇がない。
まず、懸念されるのは米国経済だ。ドル高や原油価格の下落などの問題を考えると、米国経済の行方は必ずしも順調というわけではない。2009年7月以降、回復してきた米国経済には、そろそろ陰りの兆候が見え始めている。今後、住宅や自動車のローン金利が上がると、堅調な消費活動が落ち込む可能性もある。
また、わが国やEUが金融緩和を継続する中で、米国が金利を引き上げて金融政策の正常化に動き出した。主要国間の金利格差などを通して、世界の投資マネーが米国に引き寄せられることも想定される。
さらに、新興国、特に多額の債務を抱えた諸国の経済は心配だ。既に金融市場では、トルコなど一部の新興国に信用不安の懸念が生じている。そうした問題がさらに拡大すると、世界経済の足を引っ張ることは避けられない。
重要なポイントは、金融政策が変更される中で、米国経済が世界を牽引するパワーを維持できるか否かだ。それができないと、世界経済は再び下降トレンドに落ち込む可能性が高くなる。
今回のFRBの決定は大きなイベントであったが、それによって世界経済が抱える問題が解決されたわけではない。むしろ、多くの問題が詰まった箱=“パンドラの箱”のふたを開けてしまったと考えた方がよい。
金融緩和策によって、今まで箱の中に押し込めていた問題が逃げ出し、徐々に問題点が顕在化する可能性が高いからだ。今、世界経済が抱える問題を数え上げると、それこそ枚挙に暇がない。
まず、懸念されるのは米国経済だ。ドル高や原油価格の下落などの問題を考えると、米国経済の行方は必ずしも順調というわけではない。2009年7月以降、回復してきた米国経済には、そろそろ陰りの兆候が見え始めている。今後、住宅や自動車のローン金利が上がると、堅調な消費活動が落ち込む可能性もある。
また、わが国やEUが金融緩和を継続する中で、米国が金利を引き上げて金融政策の正常化に動き出した。主要国間の金利格差などを通して、世界の投資マネーが米国に引き寄せられることも想定される。
さらに、新興国、特に多額の債務を抱えた諸国の経済は心配だ。既に金融市場では、トルコなど一部の新興国に信用不安の懸念が生じている。そうした問題がさらに拡大すると、世界経済の足を引っ張ることは避けられない。
重要なポイントは、金融政策が変更される中で、米国経済が世界を牽引するパワーを維持できるか否かだ。それができないと、世界経済は再び下降トレンドに落ち込む可能性が高くなる。
ドル高、原油下落、ジャンク債──最大のリスクは米国経済の先行き
今後の世界経済が抱える、最も大きなリスク要因は米国経済の落ち込みだ。世界を牽引しているのは間違いなく米国経済であり、その減速が鮮明化すると世界全体にマイナスの影響が及ぶことは避けられない。
FRBの政策変更によって、今後、ローン金利が上昇すると、足元で堅調な住宅や自動車の販売にマイナスの影響が出る。それが現実のものになると、米国の消費活動全般に頭打ち傾向が出て景気の先行きに不透明感が強まる。
また、米国経済は三つのリスク要因を抱えている。一つ目はドル高だ。自国通貨が強含むことは輸出企業にとって大きなマイナス要因となる。足元の米国の輸出実績を見ても、悪影響が徐々に顕在化している。
しかも、今回のFRB利上げによって、わが国や欧米、さらには新興国との金利差が拡大する可能性が高い。金利策の拡大がさらに進むと、一段のドル高傾向が考えられる。それは、米国の輸出企業には大きな痛手になる。
二つ目は、原油価格の下落だ。現在、シェールオイルの開発で、米国は世界最大の産油国になっている。原油価格の落ち込みは、米国の企業業績全般にもマイナスの影響を与える。
また、中小のエネルギー関連企業が、低格付けの社債=いわゆる“ジャンク債”で資金調達をしていることを考えると、ジャンク債市場の落ち込みは金融市場全般にも無視できないマイナスインパクトがある。
そして三つ目は、循環的要因だ。2009年の年央から本格的回復に入った米国経済は、既に6年を超える上昇過程を歩んでいる。米国経済とて永久に上昇することはできない。そろそろピークを迎えることも想定される。
今回のFRBの金利引き上げが、最も大きなマイナスの影響を与えるのは新興国だ。ドル金利が上昇すると、多額の債務を抱える新興国には金利支払い負担が一段と重くなる。
少し長い目で見ると、新興国の中には負担増に耐えられない国が出てくるだろう。既に金融市場では、トルコなど一部の国の信用状態に対する懸念が出ている。
米国金利の上昇によって、投資資金が一部の新興国から米国に回帰する=リパトリエーションが本格化する可能性もある。投資資金の流出で、経済活動に悪影響が及ぶことが懸念される。
また、新興国通貨が下落する場合には、当該国の輸入物価が上昇してインフレ率が高まることも予想される。そうした弊害を食い止めるため、メキシコやチリなどはFRBの金利引き上げに伴って自国の金利を引き上げた。
これらの国の景気は必ずしも良好なわけではない。むしろ、仕方なく政策金利を引き上げざるを得なかった。ただ、金利を引き上げると、当該国の経済にはブレーキがかかり景気をさらに冷え込ませることも考えられる。
今回のFRBの利上げで、ドルと自国通貨を連動させているサウジアラビアや香港など、ドルペッグ制度の諸国も金利の引き上げを行なわざるを得なくなっている。特に、中東諸国は原油安の影響で一段と財政状況の悪化が懸念される。
今後、ブラジルやコロンビアなど、中南米諸国もFRB利上げに追随する可能性がある。こうした動きがさらに拡大すると、新興国の経済は一段と下落傾向を辿ることになる。新興国経済の落ち込みは、原油など資源価格の下落などを通じて世界経済をさらに下押しすることになるはずだ。
米国と並んで、景気の先行きに大きなリスクを抱える国を忘れてはならない。それは中国だ。中国経済の減速懸念はやや低下しているものの、来年以降も景気の緩やかな減速は避けられないだろう。
最近の共産党政権の方針は、成長率の鈍化よりも経済構造の変革を優先する姿勢が見える。李克強首相は、機能が低下したゾンビ企業を淘汰して、経済全体が抱える過剰設備を整理することを明言している。その方針には合理性はあるものの、短期的には景気の下押し材料になる。
中国政府が本気で経済構造の改革を断行すると、成長率はさらに鈍化して輸入にさらにブレーキがかかる。中国向けの輸出比率の高いブラジルやオーストラリアなどの資源国、IT関連部品の輸出が多い台湾や韓国などには痛手になるはずだ。
世界経済が抱えるリスク要因を考えると、それらを顕在化させずに順調な景気回復の過程を辿ることは難しくなるだろう。今までわが国やEUをはじめ多くの諸国が、経済活動を支えるために思い切った金融緩和策を取ってきた。
しかし、わが国やECB(欧州中央銀行)の緩和策にもそろそろ限界が見え始めている。その証拠に、12月3日のECBドラギ総裁の追加緩和策、同18日の日銀黒田総裁の補完策の効果はかなり限定的になっている。
それらの政策対応に対して、金融市場はむしろ“期待外れ”として失望感を表明している。今回のFRBの金利引き上げについても、これから米国経済がピークを打って、下落局面に入った時の政策余地を作ることが目的との指摘もある。
いずれにしても、今後の世界経済は米国次第で、米国景気の回復が続く間は、それなりの堅調さを維持することは可能だろう。逆に、その命綱が切れた時には、世界経済はかなり厳しい状況に追い込まれる可能性がある。その時は、わが国経済も例外ではありえない。