【転載 全文】教員に授業準備と子どもと向き合う時間を
2025年1月30日 日本共産党
教員の長時間労働の解決は待ったなし
学校の教員の忙しさがとまりません。
国の調査によれば、公立の小中学校では平日に平均約11時間半働き(持ち帰り残業含む)、休憩はわずか数分で、土日の出勤もあります(表1)。高校でも平日平均10時間36分働いています。
教員たちは「授業準備や子どもと向き合う時間がない」と訴え、子どもや親たちは「先生は忙しすぎて、声をかけにくい」と困っています。教員の長時間労働は子どもの成長にとって深刻な問題です。
こんな働き方では心身も病みます。「精神性疾患による病休者」は増加の一途をたどり、2023年に7000人を超え(表2)、痛ましい過労死もおきています。「自分の子育てに時間がとれない」「プライベートの時間がない」など教員の声は切実です。
異常な長時間労働はついに、「教員不足」をもたらしました。担任がいなくて子どもたちが不安定になる、高校受験前なのに教科を教える教員がいないなど、深刻な事態です。さらに教員志望の多くの学生たちが、過酷な働き方を避けて別の進路を選び始めています。
このままでは学校がもたなくなるところまで事態は切迫しています。教員の長時間労働の解決は待ったなしです。
【提案1】
「教員残業代ゼロ制度」を廃止し、〝定額働かせ放題〟を終わらせる
「教員残業代ゼロ制度」を廃止し、〝定額働かせ放題〟を終わらせる
教員の長時間労働の改善には、残業代制度の導入が不可欠
残業代制度は、長時間労働を抑えるための世界のルールで、日本でも労働基準法により全労働者に適用されています。この制度は残業に割高な賃金支給を義務付け、使用者のコスト意識に訴え、業務削減や長時間労働の改善につなげようというものです。
しかし公立学校の教員は、当時の全野党の反対を押し切って強行された、公立教員給与特別措置法(給特法、1971年)という法律により、残業代制度からはずされました。残業代がないため、教員たちは何時間働いているかも測られず、行政はコスト意識ゼロで、小学校英語、「〇〇教育」など次々と教員の仕事をふやし、〝定額働かせ放題〟の状態をもたらしたのです。労働基準法の「1日8時間労働」の趣旨から完全に逸脱しており、裁判所も「給特法は、もはや学校現場の実情に適合していないのではないか」と指摘するほどです。多くの教員たちが「〝定額働かせ放題〟をなんとかして」と「教員残業代ゼロ制度」の廃止を求めてきました。
自公政権の給与「改善」策では、長時間労働は解決しない
ところが自公政権は、その切実な要求に背を向け、わずかな給与「改善」でごまかそうとしています。彼らは「教職調整額」(教員の本給に上乗せ支給されるもの。現在は本給の4%)を10%に、6年かけて引き上げる法案を今国会に提出しようとしています。
しかし、給与の「改善」では肝心の長時間労働は何も解決せず、〝定額働かせ放題〟はそのままです。「給与の上がった分、働いて」と長時間労働が固定化・助長されるおそれもあります。
しかも、財務省は〝「教職調整額」を引き上げるが、その分教員の他の諸手当を削る〟という、とんでもないことを言っています。来年度予算案では、「教職調整額」を1%(月3000円程度)引き上げる一方、他の教員手当の削減が盛り込まれ、差し引き月わずか1500円程度の給与「改善」にすぎません。教員の平均残業時間は政府の低い算定でも月47時間です。残業代に換算すれば月十数万円にのぼり、金額的にも全くつりあいません。
文科省は、教師の仕事は「どこまでが職務で、どこまでが職務でないかを精緻に切り分けることは困難」だから、残業代制度はなじまないと言います。しかし、切り分けが難しくても、明らかに残業だと切り分けられるものはあります。
じっさい、国立大学附属学校は法人化にともない残業代制度が適用され、業務削減と長時間労働の改善につながっています。文科省は「私立や国立大附属とちがって公立学校は定期的な人事異動があるから残業代はなじまない」と言い訳しますが、他の職種では人事異動の多い職場でも当然、残業代があります。こんな支離滅裂な論法は、残業代制度の正当性に太刀打ちできないことを示しています。
今日の学校の切迫した状況にたいし、わずかな給与「改善」でごまかし、〝定額働かせ放題〟を続けることは、とうてい許されません。
■日本共産党の提案
――「教員残業代ゼロ制度」を廃止します......給特法の〝公立学校の教員には残業代を支給しない〟という条文を廃止し、労働基準法37条(残業代支給)を適用するようにします。その際、どんな教員でも給与が下がらないよう、教職調整額を本給に組み込むなどの対応を行います。
――包括的業務命令として残業を認めるようにします......教員の仕事は自発的で創造的なものです。その特性に応じ、この間の判例もふまえ、やむを得ない場合の自発的な残業を、学校業務を行うという包括的な職務命令のもとでの残業として扱います。その際の基準を教員参加でつくります。また、恣意的な個別の残業命令は引き続きできないようにします。
――教員を分断し、管理を強める「主務教諭」の法制化に反対します......政府は今国会で「主務教諭」の法制化も狙っています。教員を上下に区分けし、上意下達の学校運営を強めようとするもので、学校から自由で人間的な雰囲気をいっそう奪いかねません。
【提案2】
少なすぎる教職員を計画的にふやし、長時間労働を根本的に解決する
少なすぎる教職員を計画的にふやし、長時間労働を根本的に解決する
授業の量にみあった教員数の確保こそ、長時間労働を解決する
授業は教員の中心的な仕事です。授業には事前の教材研究などの準備や計画の時間、事後の子どもの理解度の評価などのふりかえりの時間が必要です。さらに教員には、子どもの個別指導、打ち合わせなど数多くの校務があります。長時間の残業を防ぐには、教員の勤務時間内に授業を持たない相当の時間を確保することが必要です。
以前の教員は、現在のような長時間労働はありませんでした(表3)。その時代は、小学校を例にとると、教員の受け持ち授業は「1日4コマ」とされ、法律(義務教育標準法、1958年)でそれに見合う基礎定数が配置されていました。それは、1日のうち4時間は4コマの授業と休憩等に、残りの4時間は授業準備その他の校務にあて、「1日8時間労働」を守ろうというものです。
ところが今は、授業の量にくらべ教員が少なすぎ、小学校では「1日5コマ、6コマ」が当たり前です。1日に6コマの授業を行い、休憩時間を法律通りにとれば、授業準備など様々な校務にあてられる時間は、定時の退勤までにわずか25分しかありません。これでは長時間の残業は必至です。こうした事情は、中学校や高校でも同じです。授業の量にくらべ少なすぎる教員定数こそ、長時間労働をうみだしている根本原因です。
このしくみを改め、授業の量にみあって教員の基礎定数をふやすことこそ、長時間労働を二度と繰り返さない最大の保障です。
教員をふやさず「学校の業務見直し」では問題は解決しない
ところが国は基礎定数の増に背を向け、この十数年間「学校の業務見直し」を対策の中心にすえてきました。しかし、その結果はどうでしょう。教員の勤務時間は減るどころか増えてしまったのです(表4)。国は「2016年調査に比べたら減った」と宣伝していますが、夏休み期間中こそ減ったものの、肝心の学期中の勤務時間はほとんど減らず、1日平均11時間半の勤務が続いているではありませんか。教員業務の大半は子どもに直接関わるもので、「業務見直し」には限界があります。
校長会や全国知事会も国に、教員の授業負担の削減のための基礎定数増を求めるようになりました。国は「基礎定数をふやしても、その教員に校長が授業させないかもしれない」と弁解しますが、道理がありません。基礎定数はもともと授業実施を想定して配置されているものです。
国が基礎定数の代わりにふやすと言っているのが加配定数です。しかし、その数は小学校4年の担任の授業負担を減らすなど極めて限定的で、かつ加配定数は法律の裏付けがないため非正規教員となりやすいものです。私たちの以下の提案では小学校12学級校(各学年2学級)で3名以上の正規教員が増え、中学や高校も増えますが、国の提案では小学校5校に1人しか教員がふえません。
■日本共産党の提案
――緊急に、基礎定数を1.2倍化し、教員の授業負担を「1日4コマ」以下に抑えます......義務教育標準法と高校標準法を改正し、基礎定数算出の比率(「乗ずる数」など)を段階的に引き上げ、2030年度に1.2倍にします。これにより、教員一人当たりの1週間の授業負担を小学校20コマ、中学校18コマ、高校15コマ以下にします。特別支援学校の教員定数もふやします。
――次に、さらに基礎定数をふやし、「週35時間労働」の実現をめざします......日本共産党は働く人が自由な時間をもてるよう、「週35時間労働制」の早期実施をめざしています。教員の労働時間の短縮は、教員の人生を豊かにし、それが教育を豊かにするという大きな意義があります。
――中学・高校の「35人学級」を早期に実施します
以上の定数改善計画は、少子化のもとであり、現在(2023年度)の基礎定数の実員に若干の増員で可能です。
――年間授業時数を適正な時数に減らします......今の授業は子どもにとって多すぎ教育効果もあがらないことが、「カリキュラム・オーバーロード」として問題になっています。2027年度に予定されている学習指導要領の改訂で、年間授業時数を適正化し、その面からも教員の業務削減を進めます。
――社会の変化に対応し、教員以外の専門職を学校に増やします......子どもの貧困など社会の変化のもとで福祉的な対応、心理面での対応などがふえています。欧米のように教員以外の専門職を配置し、こうした対応を担えるようにします。スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの常勤化(そのあり方は職固有の独立性に配慮し、関係者の意見をふまえて決める)、養護教諭や事務職員の複数配置の拡大、学校用務員、学校図書館司書、ICT職員の定数化をすすめます。教員への顧問強要をやめるとともに、部活動指導員の抜本的な増員を行い部活動の負担を軽減します。
――学校現場に負担となっている国・地方の施策を削減・中止します......全国学力テスト、教員評価、官製研修、過大な授業時数など不要不急の国・地方の施策を見直し、削減・中止します。全学校に労働安全衛生委員会を設置するとともに、教職員の話し合いにもとづく業務の見直しを奨励します。
――私立学校での長時間労働をなくすための私学助成を拡充します......私立学校は残業代制度が適用されていますが、財政が厳しく残業代が出せないなどの課題があります。教職員増・人件費のための私学助成を拡充し、長時間労働をなくして、「週35時間労働」をめざします。
大軍拡より子どもの教育に予算を
教職員の増員などを要求すると、政府はすぐ「財源がない」といいます。しかし、以前は教育予算より少なかった防衛予算を、財源もないのに教育予算の倍にまで膨張させているではありませんか。こんな放漫財政をしているから、教育に予算がまわせないのです。私たちは、アメリカいいなりの大軍拡、大企業や大資産家への大減税などをやめ、年二十数兆円の財源をつくるなどして国民生活を豊かにする「財源提案」を行なっています。
教員の長時間労働の解決へ、国を動かす国民的なたたかいを
学校がもたないという切迫した事態を打開するには、わずかな給与「改善」でごまかそうとする政府・与党のやり方でなく、①教員にも残業代制度を導入する、②授業の量にみあって教員の基礎定数をふやすという、本当の改革に進むことが求められています。私たちは、そのための国民的なたたかいをよびかけます。
表1 教員の平均勤務時間(2022年・持ち帰り残業含む)
平日
土日
週あたり
勤務時間
勤務時間
小学校教諭
中学校教諭
高校教諭
11時間23分 | 1時間12分 | 59時間19分 |
11時間33分 | 3時間07分 | 63時間59分 |
10時間36分 | 3時間00分 | 59時間00分 |
文部科学省「教員勤務実態調査」より作成
表2 公立学校教員の精神性疾患による病休者の推移
文部科学省「人事行政状況調査」より作成
表3 以前の残業は短時間だった(週あたり残業時間の比較)
1966年
2022年
小学校教諭
中学校教諭
1時間20分 | 20時間34分 |
2時間30分 | 25時間14分 |
文部省及び文部科学省「教員勤務実態調査」より作成
表4 勤務時間の変化(学期中の平日勤務時間、持ち帰り残業含む)
2006年
2016年
2022年
小学校教諭
中学校教諭
11時間10分 | 11時間45分 | 11時間23分 |
11時間23分 | 11時間52分 | 11時間33分 |
文部科学省「教員勤務実態調査」より作成
◆発表記者会見の動画(2025.1.30)➡
17分18秒
教員の長時間労働是正を 残業代ゼロ制度廃止・教員定数増提起
2025.1.30
#田村智子 委員長 #吉良よし子 政策委員会副責任者(同席)政策発表会見
日本共産党
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