the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

ナトドメリライオン

2019年09月13日 | ライオン系統特集(期間限定シリーズ)
次回『バトル・ビヨンド・エポック』シリーズの7作目では、アフリカ大陸東部という、新生代を通じて世界規模で見ても屈指のメガファウナ密度を保持してきた地域において、直近の三エポックそれぞれを代表する最強の大型肉食獣の復元画を、比較的詳細な説明文と併せてご紹介します。
 
各種を一度にフィーチャーする前に、生息年代の新しい動物から順番に復元画をアップさせてください。わずかでも記事数が稼げるので(笑)

まずは更新世の「ナトドメリライオン」、次いで鮮新世の「アフリカショートフェイスベア(アグリオテリウム属最大種)」、中新世の巨大肉歯類「メギストテリウム属最大種」の順に復元画を紹介していきます。
最後にバトル・ビヨンド・エポック其の七で全種を一度にフィーチャーするわけですが、その際にそれぞれの形態や体のサイズを比較吟味してみてください。

バトル・ビヨンド・エポック其の七では、個人的な見解のもとに各種の「能力チャート」ごときものを数値化してみたので、それも併せて記載します。勿論、この能力チャートは学問的根拠を欠く興味本位の戯れ事に等しい試みであって、何らの資料的価値を有するものではありません。ただ、各種の形態要素に関する理解に幾らか与するところは、あるかと思います。

 


©the Saber Panther(Jagroar) (All rights reserved)

ナトドメリライオン
(the Natodomeri lion / Panthera leo, sensu lato)

ジャイアントアフリカバッファロー(Pelorovis antiquus)を成功裏に仕留めたナトドメリライオンのプライド


ナトドメリライオンについて

2018年にアフリカ東部、ケニヤ北西部に位置するナトドメリの更新世地層で新発見された、巨大なライオンの古亜種。アフリカ東部で発見された最古のライオンの化石で、生息年代はおよそ20万年前、更新世中期-後期境界の頃と推定されています(Werdelin et al., 2018)。

 
ナトドメリライオンは、まず以下の二つの点で驚くべき存在だといえます。第一にその大き。 発見された頭蓋骨は矢状陵を欠くなど欠損部位が大きいながらも、基部直径(basal skull length)38cmを超えており、もし欠損部位を補った場合、その頭骨全長は氷期ホラアナライオン(Panthera spelaea)の既知の全ての頭骨標本を凌駕し、更新世北米のアメリカライオン(Panthera atrox)と比べてみても、僅かに二体の標本を除く全ての頭骨よりも大きくなります(Werdelin et al., 2018)。
 
アフリカ大陸で見つかっている純正なライオン(Panthera leo)の最古の化石年代は、およそ200万年前にまで遡ります。複数の古亜種が派生しましたが、その間、形態的にもサイズ的にも、現生ライオンと比較してほとんど目立った差異が生じることはなかった(Yamaguchi et al., 2004)といいますから、本標本の例外ぶりがうかがえます。
 
ホラアナライオン系統の種類(Panthera fossilis、Panthera spelaea、Panthera youngi、Panthera atrox)は純正ライオンよりも総じて大柄ですが、そうかといって、本標本がホラアナライオン系統に分類されるべき妥当性は、Werdelin et al.(2018)によれば、限りなく低いということです。 本標本と現生ライオンの頭骨との間に形態学的差異が認められないことに加えて、これまでにアフリカ大陸にホラアナライオン系統の種類が分布していた形跡は全く知られていないからです。
 
つまり、そしてこれが注目すべき二番目の点ですが、ナトドメリライオンは純正ライオンの、これまで存在が知られていなかった特大サイズの古亜種とする仮説が、現段階では最も信憑性が高い(Werdelin et al., 2018)ということ。氷期ホラアナライオン(Panthera spelaea)よりも大きく、アメリカライオン(Panthera atrox)や間氷期ホラアナライオン(Panthera fossilis)に肩を並べる大きさの、純正ライオンの古亜種が存在していたということになります。
 
野生動物一般において、いわゆる「平均的サイズ範囲」を逸脱するような大型個体は、その絶対数自体が極めて僅少であるといえます。ナトドメリライオンを既知のライオン古亜種と同一視するならば、例外的特大個体の発見という見方も不可能ではないでしょうが、未知の巨大古亜種としての特異性を鑑みれば、ナトドメリライオンの標本サンプル数はまだ絶対的に乏しいということになりますし、本標本は高い確率で(ナトドメリライオンという巨大古亜種の)平均範囲内のサイズの個体であったとみてよいでしょう。それでいて既知の最大級のアメリカライオンに匹敵していたというのですから、確かにこの大きさは驚きに値すると思います。
 
それでは、純粋補食肉食性(ハイパーカーニヴォリー)のライオンが、これほどのサイズ(因みに、アメリカライオンはハイブリッドのライガーよりも大きいですから、本当に最大級のアメリカライオンに匹敵するとなれば、体重400kg超程にもなったのでしょうか)を実際に維持し得ていた要因としては、何が考えられるか、ということになりますが、Werdelin et al.(2018)によれば、それはやはり第一にメガファウナ(大型動物相)の豊饒さということに尽きるようです。
 
更新世中期から後期境界の頃のアフリカ東部地域はジャイアントアフリカバッファロー(ペロロヴィス属種)やキリンに近縁な巨大シヴァテリウム属種、今日よりも多種多様なレイヨウ類の存在など、巨大な純粋肉食獣の繁栄を賄うに足るほどに豊饒なメガファウナが、展開していたということでしょう。実際、ナトドメリライオンが現生ライオンと等しくプライドを形成していたとすれば、襲える獲物の種類の範囲は極めて広かったはずです。

 

イラストと本文 by ©the Saber Panther(Jagroar) (All rights reserved)



最新の画像もっと見る

post a comment