Prehistoric Safari
(比較的ラフな下絵です。着彩後の完成作を、改めてアップいたします。)
ⓒサーベルパンサー
ⓒサーベルパンサー
〔舞台設定〕
時と所は中新世前期、西ヨーロッパの過疎林地帯。
当時最大級の骨砕き型肉食獣であるアンフィキオンgiganteus (手前の肉片を咥えている動物)と ヒアイナイロウロスsulzeri が、
ちょうど鉢合わせした場面です。老衰で力尽きたばかりの、デイノテリウムgiganteum (史上最大級の長鼻類)の死骸という、またとな
い恩沢に、二頭とも引き寄せられてきたのでした。
ちょうど鉢合わせした場面です。老衰で力尽きたばかりの、デイノテリウムgiganteum (史上最大級の長鼻類)の死骸という、またとな
い恩沢に、二頭とも引き寄せられてきたのでした。
中新世という時代は大型肉食獣の宝庫でしたが、裂肉と骨砕き双方の歯形を併せ持つ、いわゆる「骨砕き型肉食獣」の豊富さについて
は、特に目を見張るものがあります。
クマ科のアグリオテリウム属種とヘミキオン属種、アンフィキオン科の各種、怪物ハイエナのディノクロクタ属種、イヌ科最大のエピキオン属
種、そして肉歯目のヒアエノドン科数種といった具合に、その多くは大型で恐るべき存在ばかりでした。
種、そして肉歯目のヒアエノドン科数種といった具合に、その多くは大型で恐るべき存在ばかりでした。
中でも、ユーラシア最大のアンフィキオン科種であるアンフィキオンgiganteus と、最大の肉歯類の一角であるヒアイナイロウロスsulzeri
の二種は、中新世前期を通してユーラシアとアフリカの広範囲で分布が重複しており、生態や食性も似通っていたと考えられることから、
最も熾烈なライヴァル関係にあったと言われています。
の二種は、中新世前期を通してユーラシアとアフリカの広範囲で分布が重複しており、生態や食性も似通っていたと考えられることから、
最も熾烈なライヴァル関係にあったと言われています。
〔形態〕
アンフィキオン科は、食肉目の歴史上、特に興味深いグループの一つと言って過言ではないでしょう。系統的にクマ科に近縁とされます
が、その形態はむしろ、その他の主要な食肉類からの要素をも「キメラ的に」寄せ集めたかのような、独特なものでした。長い背骨など全
体的なプロポーションは大型ネコを想わせ、クマ科的な前「足」の造り、イヌ科的な頭骨、ハイエナ的な歯形を兼備していたアンフィキオン
科は、しかし、中新世以降まで存続することは叶わなかったのでした。
が、その形態はむしろ、その他の主要な食肉類からの要素をも「キメラ的に」寄せ集めたかのような、独特なものでした。長い背骨など全
体的なプロポーションは大型ネコを想わせ、クマ科的な前「足」の造り、イヌ科的な頭骨、ハイエナ的な歯形を兼備していたアンフィキオン
科は、しかし、中新世以降まで存続することは叶わなかったのでした。
ヒアイナイロウロスsulzeri と、史上最大の肉歯類とされるアフリカ産のメギストテリウムosteothlastes とは、形態、サイズ的に相似が
著しいことから、後者をヒアイナイロウロス属に帰属し直すべきとする声も、根強くあります。両者とも、非常に長い背骨や短い四肢という相
違もあるものの、体の形態は概ねイヌ科を想わせるものがあります。最大の特徴は、やはりイヌ科的であり、かつ全長50~60cm超にもな
るという、特大級の頭骨を持つ点でしょう。
〔サイズについて〕
ヒアイナイロウロス(メギストテリウム)の頭骨長は、食肉目のいかなる大型種のそれをも凌駕しており、相応に巨大な体躯の持ち主であっ
ただろうことが想われます。しかし、食肉類と比較すると、肉歯目・ヒアエノドン科の動物は、全長に占める頭骨長の割合が非常に大きい、
すなわち、postcranial の大きさから想像されるよりも、不釣り合いに大きな頭部をしていたという事実に留意すべきでしょう。驚くべき
ことに、Agusti & Anton(2002), Turner & Anton(2004)によれば、コンテンポラリーであったアンフィキオンgiganteus と比較し
て、ヒアイナイロウロスsulzeri は遥かに大きな頭骨を有する半面、postcranial の大きさは同程度か、むしろ下回るほどだったとい
うことです(比較図あり)。同じ著者(2002)が、雄のアンフィキオンgiganteus の体重を317kg(雌は157kg)と推定していますが、巨大
肉歯類の体重はそれを下回る可能性もあるということなのでしょうか(始新世のサルカストドン属のサイズについても、のちに取り上げます)。
ただろうことが想われます。しかし、食肉類と比較すると、肉歯目・ヒアエノドン科の動物は、全長に占める頭骨長の割合が非常に大きい、
すなわち、postcranial の大きさから想像されるよりも、不釣り合いに大きな頭部をしていたという事実に留意すべきでしょう。驚くべき
ことに、Agusti & Anton(2002), Turner & Anton(2004)によれば、コンテンポラリーであったアンフィキオンgiganteus と比較し
て、ヒアイナイロウロスsulzeri は遥かに大きな頭骨を有する半面、postcranial の大きさは同程度か、むしろ下回るほどだったとい
うことです(比較図あり)。同じ著者(2002)が、雄のアンフィキオンgiganteus の体重を317kg(雌は157kg)と推定していますが、巨大
肉歯類の体重はそれを下回る可能性もあるということなのでしょうか(始新世のサルカストドン属のサイズについても、のちに取り上げます)。
いずれにしても、サイズ的に遜色がない、中新世前期の二大ボーンクラッカーが獲物の奪い合いを演じる場面は、さぞかし迫力があったこ
とと思います。
絵、文責 ⓒサーベルパンサー
ヒアイナイロウロスとの激突も気になりますが、頭骨が大きい分(強力な咀嚼力を有していると仮定して)ヒアイナイロウロスの方が有利だったのではないか?という気はします。
目の中では並ぶもののない、最強クラスの顎力を誇っ
ていたでしょうね。前脚の機能・形態が偶蹄動物に近
く、回内・回外運動性に乏しい、すなわちグラップリ
ングを不得手としていた面はあるものの、ヒアイナイ
ロウロスの顎はそれを補って余りある武器であったこ
とでしょう。
アンフィキオンgiganteus とH.sulzeri のどちらがア
ッパーハンドを握る傾向にあったのか、想像するのは
なかなか難しいですね。
アンフィキオン科は始新世の頃には出現していたの
で、存続期間が決して短かったわけではありません。
属種についても多数が分類されていますが、すべてが
アンフィキオン属のようにヴァーサタイルな形態をし
ていたわけでもなく、判別が困難なほどイヌ科に似て
いた種類もあります。ニッチの重複も想像に難くあり
ませんが、それもあって、北米におけるアンフィキオ
ン科の絶滅は、イヌ科との競合と関連付けて語られる
ことがあります。アンフィキオン科が同大陸から滅失
した時期は、ヘスペロキオン亜科、ボロファグス亜科
に続く、イヌ科第三の勢力であるイヌ亜科の数が増え
始めた頃と、ちょうど重なるというのです。
そして、‘セミ’ しょ行性ともいうべきアンフィキ
オン科に対し、完全な指行性(機動性に優れる)であ
るという、立ちスタンスの相違に、イヌ科存続の鍵を
求める学者がおります(Wang, Tedford, 2008)。も
っとも、地質学的なレベルにおいて、ほぼ同時期にア
ンフィキオン科は他大陸からも姿を消しているし、イ
ヌ科が北米の外に進出するのは中新世以降のことなの
で、他大陸での事情を考慮しきれていない説ではあり
ますね。
アンフィキオン科の絶滅原因の推定というのも、これ
またなかなか難しい問題だと思います。^^;
ユーラシアではクマ科、北アメリカではイヌ科に押されていったのかなと...素人なりに思いました。
何となくですが、アンフィキオンには器用貧乏的なイメージを持ってしまいます(笑)興味深い存在である事には変わりませんが。
シアン期終盤(中新世後期)のユーラシアでは、仰る
通り、既に食性、形態とも現代型のクマと遜色のな
い、大型のウルサヴスやインダルクトス属種が定着し
ていましたね。
思えば、アンフィキオン科との形態的収斂が指摘され
るヘミキオン亜科のクマも、中新世以降まで存続でき
ませんでした。
アンフィキオンやヘミキオンはいわば、イヌ科の要素
が取り入れられたクマ、ないしクマ科の要素が入った
イヌとでも評すべき存在(イヌ科的要素のほうが強
い)ですが、実際のクマ亜科やイヌ科と比べて、前者
には食性の広汎さという点で、後者には機動性の点
で、それぞれ劣っていたと言えるでしょう。
結果論ですが、どちらもアンフィキオン、ヘミキオン
らとの競合に勝ち残る上で、大きな要素だったかもし
れません。