Super Proboscideans Head to Head : Rematch!
Elephas atavus vs. Deinotherium bozasi
Revised
イラスト&テキスト Images and text by ©the Saber Panther (All rights reserved)
既にレッキゾウとデイノテリウムについて別個に紹介する形で記事を発表しておりましたが、今回、一部内容を補足したうえ、二つの記事をまとめてアップし直しました。
レッキゾウは鮮新世になって登場した比較的新しいゾウ科の動物で、アジアゾウと同属(エレファス)に分類される場合とパレオロクソドン属に分類される場合があることは、読者の皆さんは承知されていると思います。複雑に入り組み容易に把捉し難いその分類の変遷について、下記『巨大レッキゾウの復元画と、パレオロクソドン分類についての考察』の項で考察しておりますが、執筆当時から数年を経て、記述内容の一部補足する必要が生じています。
〈Elephas atavusとは、なんぞや〉
鮮新世クービ・フォーラの巨大標本(当復元画)を、パレオロクソドン属ではなくElephas recki の亜種 Elephas recki atavusに同定すべき妥当性について、下記本文で詳述しましたが、後続の研究を経て、本種の分類は固有種(Elephas atavus)として措定されるに至ったようです(pers. comm., Zhang, 2022)。これは、本文でも紹介したHanwen Zhang博士(ブリストル大学・古脊椎動物学)が、私信を通じ私に教えてくださった情報であり、先端の分類仮説とみてよいと思います。
鮮新世クービ・フォーラ標本は、大抵の通俗的文献においてPalaeoloxodon recki、ないしElephas recki として紹介されてきましたが、その分類を見直すべき(刷新すべき)段階に至っていることは、確かなのでしょう。そうすると、Elephas atavusを指して、レッキゾウなどという通称も適切とは言い難くなりますが、本文では便宜上(つまり、Elephas atavusに俗称が存在しないため)、レッキゾウ表記を継続することにします。
ここで大いに注意すべきは、Palaeoloxodon recki 分類が無効化してしまう、ということではないのです。Zhang博士が下記動画のプレゼンで論じられているように、~1.04Ma、エチオピア北部分布の個体群はPalaeoloxodon recki分類が(おそらく)維持されるのであり、より古い二つのタクソン(そのうちの一つに、2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナの個体群、つまりクービ・フォーラの巨大標本が該当します)が、系統を異にするアジアゾウ属(Elephas)に同定された、ということにすぎません。
ですから、これらElephas種から'recki'の種名が外されて、「Elephas atavus」(2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナ)、「Elephas brumpti」(3.5〜2.85Ma、エチオピア南西部)という「固有種」の扱いとなることは、むしろ当然の帰結だとも考えられるでしょう(brumpti種については厳密にはまだ不確定)。
私個人としては、エレファス・アタヴス種と、本文中でも触れている、後続のエレファス・ジョレンシス種(更新世後期)との系統上の関係性についても調べていきたいのですが、ジョレンシス種に関しては、Zhang博士からご意見を伺うことは叶いませんでした。
以下の記述内容は発表当時のままなので、今述べた補足点のみ、ご留意願います。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
デイノテリウム科・デイノテリウム属の起源は更に古く中新世中期以前にまで遡るものの、アフリカ大陸においては更新世まで存続しておりました。両者の化石骨格は鮮新世後期の地層から最も多く出土しており、その分布域も東、中央、南東アフリカの著名な化石発掘場を中心に、驚くほど重複しています。特にケニアのタルカナ湖周辺の鮮新世後期の地層からは、同時代種としてアウストラロ
ピテクス・ボイセイなどとともに、アフリカデイノテリウムと、レッキゾウの既知の5亜種のうちの一つ、 「イレレテンシス」の骨格が出ており(kaitio membersとして知られる化石群)、共存していた様子が窺い知れます。
レッキゾウは典型的に高い歯冠を具えていましたが、生息地の当時の植生からして、更新世のマンモス種ほど徹底した平原「グレイザー」であったとは考えにくいと思います。
対照的にデイノテリウムの歯は横堤歯、低冠歯で、歯面摩耗が少ない葉食を主にする「ブラウザー」であり、ひいては森林生態への適応が窺えるわけですが、そのポストクラニアル形態については注意が必要です。
先行するプロデイノテリウム属と比べて、四肢遠位部の伸長の程度など走行適応への度合いが高く( )、その巨大なサイズと照らし合わせて考えるに、デイノテリウム属種は必要な食量を得るために大規模な移動範囲をカバーしていたものと思われます。デイノテリウム属種の生息環境としては、完全に閉じた系の密林帯(forest)よりも、おそらく疎林や林地(open woodland)を考える方が妥当なのでしょう。
以上の考察と分布域の重なり具合から判断して、もちろん私の憶測の域を出ないといえばその通りですが、仮説として、この場面のようにグレイザーのレッキゾウとブラウザーのアフリカデイノテリウムとが同じ餌場で遭遇するようなことも、少なからずあったのではないかと考えます。
デイノテリウム属に代表されるデイノテリウム科の種類は、頭蓋-下顎骨形状の著しい特異性(前後に長く上下に短いフラットな頭骨、上顎の象牙を欠く代わりに体幹側に湾曲した下顎牙を具えるなど)は一目了然ながら、比較的短い胴や伸長した柱形状の四肢骨長などのプロポーションは、中新世以前に現れたいわゆる'archaic proboscideans'(古風長鼻類)の中にあって、例外的に現生ゾウ科種に似通っていたのです。
アフリカデイノテリウムは断片的ながら骨格が多数見つかっており、その形態、サイズ的にもユーラシア産の巨大種であるデイノテリウム・ギガンテウムとごく似通っていたと考えられています(ただし、ユーラシアの別の種類、Deinotherium proavum や Deinotherium thraceiensisとは明瞭な形態差異が報告されている)。
サイズも共通して特大級であり※、断片的な骨格から推定される肩高は3.6~3.8m以上にもなり、推定体重も9トンに及びます(Larramendi, 2015)。
〈※ギガンテウム種は肩高4m、推定12~14トンにもなります(Christiansen 2003 の試算ではおよそ15トン)。このように既知のデイノテリウム属の全種は長鼻類の中でも際立って大型でしたが、上野国立科学博物館に展示されている「デイノテリウム」標本(オリジナルの骨格標本ではない?)は取り立てて大型という印象はなく、同展示場のアメリカマストドン標本よりも小さいことを、不思議に思った人もいるのではないでしょうか。私もその一人ですが、あの標本は、デイノテリウム属ではなくプロデイノテリウム属種の骨格に基づくレプリカである可能性が否定できないと思います。
と言って、確証があるわけでも、オリジナル骨格について調査したわけでもないので、明言は避けねばなりません。仮にプロデイノテリウムだとすればアジアゾウ大ですから、同標本の大きさ的には、辻褄が合いそうですけども(若個体の可能性も否定できないでしょうか?ただ、標本タグに種名が表記されていないことも気になります)… 脱線していまいました。〉
プロデイノテリウム(Prodeinotherium hobleyi)生体復元画
(中新世同時代の巨大肉歯類、メギストテリウム属種に、下腿部を噛みつかれ襲撃される(!)場面)
Image by ©the Saber Panther (All rights reserved)
要するにアフリカデイノテリウムは現生アフリカゾウを凌駕する驚くべき大きさだったのですが、史上最長身クラスの長鼻類であり、肩高4.5m前後にも達したレッキゾウ(Larramendi, 2015による推定体重は12トン超)の偉容と比べてしまうと、少々見劣りしたであろうことは否めないと思います。
二種の特大級の、かつ頭骨形状は著しく違っていた長鼻類が一緒にいる光景は、さぞや壮観な見ものであったことでしょうね。
Image by ©the Saber Panther (All rights reserved)
アフリカ東部、ケニヤのクービ・フォーラ鮮新世地層で見つかったレッキゾウ(Elephas atavus)の特大個体の復元画。肩高約4.5m、推定体重13トン以上。このレッキゾウはパレオロクソドン属に含まれる場合があるのですが、同属のタイプ種、ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)のゲノム解析、その驚くべき解析結果から生じた分類の可否についての問題を論じてみます。
以下、レッキゾウ自体に関しても、いくつか興味深い情報を付しました。
〈巨大レッキゾウの復元画と、パレオロクソドン分類についての考察〉
「ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)のゲノム解析」
一連の解析の初期の発表(2016年)では、ストレートタスクゾウは遺伝的に現生マルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)と極めて近縁で、マルミミゾウとサヴァンナゾウ(Loxodonta africana)間の遺伝的近縁性よりも、さらに近しいことが示されました。私も当時ブログで紹介しましたし、ご存知の方もいるでしょう。
この「祖先筋」は、おそらく現生のアジアゾウ属的な特徴を色濃く有していて、それがパレオロクソドン属において保持される結果になったとは考えられないでしょうか。もしこの仮説が正しければ、アジアゾウの形態的特徴というのはマンモス属 Mammutus(アジアゾウ属と直系の共通祖先から分化した)においては概ね失われているので、原始形態型だと見做すことができそうです。
ストレートタスクゾウ(パレオロクソドン・アンティクウス Palaeoloxodon antiquus) 生体復元画
Image by ©the Saber Panther (All rights reserved)
「パレオロクソドン or エレファス? レッキゾウ」
A. Larramendi, 'Shoulder height, body mass and shape of proboscideans' ,2015 によると、当標本の実際の肩高は約4.3mなのですが、大腿骨の近位骨端癒合の度合いから没時の年齢を推定すると、長鼻類の成長期に当たり、生き長らえたと仮定した場合、最終的には肩高4.5m超に達したはずだといいます。要するにこのレッキゾウこそが「長鼻類史上最長身」の種類であったとみても、大過ないと考えられます。
従来、レッキゾウにはアフリカ大陸だけに分布していた五つの亜種(Elephas / Palaeoloxdon ①recki brumpti, ②recki shungurensis, ③recki atavus, ④recki ileretensis, ⑤recki recki の計5亜種)の存在したことが主張されてきたのですが、近年、この伝統的な仮説が覆りつつあるようです。端的に言えば、それぞれの間に大きな形態的差異が再確認されており、五つすべてではないにしても、いくつかを固有種とみなす必要性が問われ始めたということ。
少し脱線しますが、私は幸い英語が聞き取れるので、今後こうした英語による貴重なプレゼンなどを紹介する機会を増やせたら、と思います。
Elephas recki: the wastebasket? 『エレファス・レッキはwastebasketか?』
Uploaded by © Palaeo cast
(要約)「エレファス・レッキには複数の亜種の存在が確認されてきたが、いずれも妥当な形態学的類似を根拠に分類されていたのかというと、必ずしもそうではなさそうだ。
「Elephas recki atavus」(2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナ)の形質はアジアゾウ属と類似している。最古の亜種である「Elephas recki brumpti」(3.5〜2.85Ma、エチオピア南西部)に関しては、
アジアゾウ属とマンモス属の共通の祖先とみなされる場合がある、謎めいたロシア産の「ファナゴロロクソドン」の形態と興味深い類似がみられる。
更新世の間支配的であった乾燥草原への適応がもたらした、収れん進化にすぎないとみるべきかもしれない。」
もう一つ、レッキゾウ関連の話題を紹介させてください。
さて、ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)が本質的にアフリカゾウ属系統のヴァリアントであることを示し、アフリカのレッキ - ジョレンシスの系統をアジアゾウ属に分類する最新の仮説を紹介してきました。かくのごときならば、伝統的にパレオロクソドン属に分類されてきた他の種はいずれもレッキ及びアンティクウスから派生しているため、アフリカゾウ属かアジアゾウ属のどちらかに適合することが考えられるわけで、パレオロクソドン属の分類妥当性を疑う声は出てきて然るべきだと思います。
それとも、ストレートタスクゾウ(そしてその後派生したユーラシアのパレオロクソドン属各種)は、異なる系統からの祖先を持つ、いわゆる混合派生種(admixed species)として出現したという解釈をもって、分類妥当性の根拠として受け止められているのかもしれません。どうなのでしょうか。
ともかく、分類を見直すような動きはまだないように見受けられます。
☆いいね、登録、お願いします☆
復元画&文責 Image and text by ©the Saber Panther (All rights reserved)
当記事内容の無断転載、転用、利用を禁じます
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます