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最大級の剣歯猫の最新報告  南米ウルグアイ産の「ゼノスミルス」 (プラス、『暫定・既知の5大剣歯猫』)

2024年10月30日 | ネコ科猛獣の話
最大級の剣歯猫の報告 南米ウルグアイ産のゼノスミルス(?)
 
 
サムネ(ゼノスミルス属種Xenosmilus hodsonae 生体復元画
All Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)

 
 
解説
本日(2024年10月30日)付けで、南米ウルグアイ南部・モンテヴィデオで発見された、鮮新世後期~更新世中期のシミター型剣歯猫(暫定的に、ゼノスミルス属に分類されている)の最大級標本の報告(査読済み学術論文)がありました。(Manzuetti et al., 'Body mass of a large-sized Homotheriini (Felidae, Machairodontinae) from the Late Pliocene-Middle Pleistocene in southern Uruguay: Paleoecological implications', 2024)
 
犬歯歯槽、第四小臼歯、第一臼歯を伴う左下顎骨の吻側断片で、標本タグは「MNHN Coll. F. OLIVERAS 31561」。

新発見の標本ではなく、2004年の記載当初から暫定的にゼノスミルスに帰属されてきた(Mones & Rinderknet, 2004)ものの、ホモテリウム属とみなす意見(Rincon et al., 2011)もあって、タクソンの特定が保留状態だった模様。今回、その形質や古生態に関する学術的見解が、満を持して出された、ということです。


 
オンラインでは現状、この論文の序論と導入部しか公開されておらず、私も内容の全体を確認してはおりません。よって、残念ながら具体的な寸法などは未確認ですが、北米のゼノスミルス属種※(Xenosmilus hodsonae ※ 北米のゼノスミルス属種は、スミロドン・ファタリスと概ね同等のサイズ)よりも著しく大きいということで、標本に基づく回帰分析による推定体重の範囲は、347~410 kg(おそらく第一臼歯を予測子とする回帰分析でしょうが、第一臼歯に欠損もあるため、推定体重は過小な可能性もある、とのこと)。既知の「剣歯猫全体でも最大級標本の一つ」だということです。

さらに、推定の獲物サイズは典型的なもので1100kgほど、最大では1800kg~2500kgほどになったと、述べられています。

 
論文の全容が確認できない状態ゆえ、獲物サイズの推定範囲について上の結論に至った根拠が分からず、これ以上は触れません。

個人的にこの報告で注目したい点は、これまで北中米固有の剣歯猫とされてきたゼノスミルスが、南米南部(ウルグアイ)に及ぶ広範囲に分布した可能性が出てきたこと(繰り返しますが、シミター型剣歯猫、そしておそらくはゼノスミルスであろうということで、タクソンの特定に至っているわけではありません)。また、この分類が正しいとすると、同じく南北アメリカに分布したスミロドン属のように、ゼノスミルス属も南米の個体群の方が大型であった、ということです。
 
スミロドン属は北米と南米の個体群が別種(S. fatalis S. populator)に分類されますが、今後ゼノスミルス属の分類はどうなるのか、注目したいですね。
 
 
あとは、鮮新世後期~更新世中期当時の、ウルグアイ南部の生息環境について詳細が知りたいところです。それというのも、以前にこの記事で述べたように、ゼノスミルスの特異なポストクラニアル形質(ホモテリウムやアンフィマカイロドゥスといった四肢の細長い他のシミター型剣歯猫とは、明瞭に違っている)というのは、フロリダや中米の閉じた系環境(密林)に適応する過程で、二次的に得た形質※ だと、私は考えています。
 
(※相似した例として、現生ジャガーを挙げることができます。ジャガーの更新世古亜種は、現生亜種に比して長い四肢を有していましたが、アマゾン帯の生息環境に順応する過程で、遠位部の短縮した四肢形質を得るに至ったと、考えられます。ちなみに、ゼノスミルスが他のシミター型剣歯猫と異なる四肢形質を得た「原因」を考察する研究は、私の知る限り、まだありません)
 

南米南部に特徴的なパンパス(草原、開放系)が当時も支配的な生態系だったとすると、「ウルグアイのシミター型剣歯猫」のポストクラニアル形質は、北米のゼノスミルス個体群のそれとは、異なっていた可能性もあるでしょう。ですから、ポストクラニアルの発見が続くことが望まれます(現状は頭部のみ)。はたして、ホモテリウムに代表されるスレンダー型かスミロドンのようなロバスト型だったのか。
 
「MNHN Coll. F. OLIVERAS 31561」は下顎骨と歯の一部ですから、そこから推定される頭部の大きさが既知の剣歯猫の中で最大級(既知の剣歯猫の頭骨では、アンフィマカイロドゥス・ホリビリスとスミロドン・ポプラトールの頭骨長がそれぞれ400mmを超え、最大)、ということだと思いますが、ゼノスミルスとホモテリウムではポストクラニアル形質が大きく違っているので、両者のうち「どちらに同定するか」によっても、推定体重の値は変動するはずです。
 
 
なお、当復元画は北米のゼノスミルス属種(Xenosmilus hodsonae)を描いたもので、シミター型剣歯猫の頭部と、スミロドン的なずんぐりした四肢を併せ持つ、特異な形態が分かると思います。はたして「南米南部のシミター型剣歯猫」(ゼノスミルスの可能性が高い)というのは、どのような剣歯猫だったのでしょうね。

 
 
参照学術論文
Manzuetti et al., 'Body mass of a large-sized Homotheriini (Felidae, Machairodontinae) from the Late Pliocene-Middle Pleistocene in southern Uruguay: Paleoecological implications', 2024 ※序論、導入部のみ



既知の最大級・剣歯猫タクソン
アルファベット順


Adeilosmilus kabir
(アデイロスミルス・カビール) 
シミター型剣歯猫
中新世ー鮮新世境界 アフリカ
 
備考
既知の剣歯猫標本の中で、2番目に大きい下顎第一裂肉歯と二番目に長い上腕骨が知られる。この巨大種、アデイロスミルス・カビールを第四紀のホモテリウム属の直系祖先とみる説が、最近出されている(Jiangzuo & Werdelin, 2023)。




Amphimachairodus horribilis
(アンフィマカイロドゥス・ホリビリス) 
シミター型剣歯猫
中新世後期 アジア

備考
既知の剣歯猫標本の中で、最大の頭蓋骨と下顎第一裂肉歯が知られる。
ホリビリス種は中新世後期末葉のタクソンで、そのクラニオーデンタル形質はアンフィマカイロドゥス属に典型的なアドヴァンス型である(Deng Tao, 2017)。このため、ホリビリス種を中新世中期~同後期初頭に生息したマカイロドゥス属に帰属することは、不可である。
 
 


Nimravides lahayishupup
(ニムラヴィデス・ラハイシュププ) 
シミター型剣歯猫
中新世中~後期 北米
 
備考
既知の剣歯猫標本の中で、最長の上腕骨。
ラハイシュププ種は記載当初、マカイロドゥス属に帰属された(Orcutt & Calede, 2021)ものの、巨大上腕骨が発掘されたのと同じ場所で出ていたクラニオーデンタル要素に基づき、後続の二つの分類研究にて、ニムラヴィデス属への再帰属が提案された(Wang et al. (2022), Jiangzuo et al. (2022))。実際、北米にはニムラヴィデスとアンフィマカイロドゥスのみが分布し、マカイロドゥスは旧世界固有のタクソンなので、ニムラヴィデスの固有種('N. lahayishupup')か、ニムラヴィデス・カタコピスの大型亜種('N. catacopis lahayishupup')と考えるのが至極妥当であろう。

 
 

Smilodon populator
(スミロドン・ポプラトール) 
ダーク型剣歯猫
更新世後期 南米

備考
既知の剣歯猫標本の中で二番目に大きな頭蓋骨(史上最大のダーク型剣歯猫なので、もちろん上顎犬歯の大きさは最大)。加えて、S. populator の四肢長骨の周囲はネコ科全体で最も大きくなり、絶対的にも相対的にも、最もロバスト型のネコ科動物。




そして今回報告のあった、
南米南部分布の cf. Xenosmilus sp.
(暫定・ゼノスミルス属種) 
シミター型剣歯猫
鮮新世後期~更新世中期 南米
 
 
 
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