「ボキャブラリーが少ないね」
コピーライターになって3年目、勤めていた広告プロダクションの社長から言われたことがあります。
はかりメーカーの企業スローガンを書いていたときのこと。本社にいる社長に、大阪の事務所から何枚もファックスを送り、コピーを見てもらっていました(当時はまだパソコンが導入されていなかったのです)。
あごひげをたくわえ、低い声でぽそりぽそりと話し、社員みんなから恐れられていた社長。その社長に向けて、A4の用紙に大きな字で5〜6本ずつコピーを書き、最後に「糸井重子」という、今思うと寒いペンネームを書き添えて、せっせと送ると…、
「そんな大きい字で書かんでも見えます」と叱られたあと、
「ボキャブラリーが少ないね」と……。
がーん。
マンガみたいに、たて線いっぱい入っていたかも。
自分では気づいていませんでした。ガンガンコピーを書いて、これでもかこれでもかと送っていたので、「自分ってすごいやん」「コピー溢れてくるやん」くらい調子に乗っていたかも。
上司に言われて、A4用紙をまじまじ見ると、同じような言葉を言い方を変えて、何度も使用していました。
そういうことか……。
それから、一生懸命に言葉を集めるようになりました。書きためた言葉のノートはボロボロになり、どこに行ったかわかりませんが、子育てがひと段落して、コピーライターに復活してから、ふたたびノートを作っています。
最近気になる言葉。
カタカナの言葉。
形容詞。
動詞。
熟語。
オノマトペ。
雑誌風の言葉。
などなど、コピーの本やコピー年鑑、業界誌、雑誌、新聞、インターネット、子どもの教科書など、あらゆるところから言葉をかき集めてきます。
けれど、実際にこのノートを開くのは、どうしても困ったときだけ。今は求人広告の会社でコピーを書いているので、商品広告の世界にいたときには考えられないようなスピードを求められます。
何日もかけて一本のコピーを書いていた商業広告のときとは違うので、なかなかノートを見るゆとりがありません。どうしても困ったとき、言葉を磨きたいとき、言葉を揃えたいとき、言葉を強くしたいとき、髪をかきむしりながら、ノートを広げます。
はたまた、まったくアイデアが浮かばないとき、商品やテーマから発想を広げず、逆に関係なさそうな言葉から世界を広げていきます。スランプのときに、おすすめです(そう、今まさにスランプです! 宣伝会議賞の課題、難しいテーマが多くて、頭の中がウニウニ)。
ほんまに何も浮かばない!というときは、アウトプットし過ぎて、インプットが足りないのかも。そんなときは、「言葉から発想を広げる」、そして書きあがったコピーをほかの言葉に置き換えて「コピーを磨く」という方法もぜひ試してみてはいかがでしょうか。