「SO MUCH IN LOVE」は、アカペラ・アルバム『ON THE STREET CORNER 2』収録曲。オリジナルは1963年にフィラデルフィア出身の黒人ヴォーカル・インストゥルメンタル・グループ、タイムス(The Tymes)の全米No.1ヒットで、グループのトランペット奏者ジョージ・ウイリアムス(George Williams)がロイ・ストレイジス(Roy Straigis)と共作したもの。アカペラへのリアレンジが容易な曲なので、アカペラだけでも相当数のカヴァーが存在する。山下の場合も、ステージのアンコール前などにコーラスのメンバーと一緒に歌ったりしていたが、1982年に発売されたティモシー・B・シュミット(Timothy B. Schmit)のレコード解説に何故か“山下達郎もびっくりの一人多重コーラス”と書かれていたのに触発されて、一人アカペラとして作品化を思い立ったのだという。CMタイアップにあわせて本作に収録されたが、“New Vocal Remix”としてヴォーカルの再録音および、リミックスが行われている。
同じ頃、『MOONGLOW』のロング・セラーに気を良くしていたディレクター小杉理宇造はいよいよ勝負に出る時だと、山下自身がテレビ・コマーシャルに出るという企画のタイ・アップを取ってきた。CM作曲家としてはすでにある程度のキャリアがあった山下にとって、小杉が持ってきたそのプロジェクトのコピーライター • 演出家 • 広告代理店のプロデューサーたちいずれともずっと以前から面識があり、そこをうまく突かれてオファーを承諾してしまった。そこから生まれたシングル「RIDE ON TIME」は、山下にとって初のヒット曲となった。
シングル・ヒットを受けて制作が開始されたアルバムは、音楽的な路線は前作『MOONGLOW』の延長であるものの、一番の違いは制作予算だったとし、ヒットが出たことで売り上げが見込め、スタジオ代を気にせずに違うテイクやアレンジがトライできることが長年の夢で、それがこのときようやく実現できたという。それによってこの時期、数年前とは見違えるように曲が作れるようになったのだともしている。その反面、 「RIDE ON TIME」のヒット後に芸能メディアの酷悪さを垣間見たことから、その反動でこのアルバムは浮き足立ったりせず玄人受けする内容にするのだという意思が強く働いたという。その結果、出来上がった作品に対して当時近しい関係者からさえも“地味だ”などとずいぶん言われたが、今となればこの制作方針で正解だったとつくづく感じるという。山下のミュージシャン人生にとっての幸運は、もっとも大きな音楽的・商業的な転換時期に上り調子のミュージシャンとの出会いと彼らとの最良のコミュニケーションの中でレコーディングとライブを構築できたことだと思えるとしている。