サテュロスの祭典

神話から着想を得た創作小説を掲載します。

兎神伝〜紅兎二部〜(26)

2022-02-02 00:26:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(26)同衾

今宵はどうも調子に乗らない…
二人は同じ事を思っていた。
愛の赤子の誕生と床上げを祝う賑やかな夕食会が終わって半刻…
いつもなら、もう三回は励み、四回目に突入するところである。
だのに今宵は、まだ一度も励めていない。
その気にならないわけではない。
いつも通り、部屋に入った途端、粗雑に着物を脱ぎ捨てて、絡み合い始めた二人である。
政樹は、彼と当人だけは豊乳だと信じて疑わない茜の可愛い乳房にむしゃぶりつき…
茜は、彼女と当人だけは立派だと信じて疑わぬ政樹のそこそこな穂柱を受け入れ嬌声を上げていた。
しかし…
いざ、肝心なところに来ると、どうも上手く行かない。
今回も…
「ポヤポヤ~、どうしているポニョ~」
政樹が、いよいよ、茜の大きく広げられた股間の上で、激しく腰を動かそうとすると…
茜は、ぼんやり遠く目線を向けて呟き…
「どうしているだろう…」
政樹もまた、動かしかけた腰を止めて呟いた。
「里一さん、マサ兄ちゃんに似て、ウブだポニョ~。」
茜がしみじみ言えば…
「ユカ姉ちゃん、茜ちゃんに似て、奥手だからな~」
政樹は大きく溜息をつく。
「こう言う時って、やっぱり女のユカ姉ちゃんが頑張るポニョ~。」
茜がボヤくように言えば…
「いざと言う時は、やっぱり男の里一さんが踏ん張らないと…」
政樹が一人呟いて…
二人はそれぞれ、勝手に納得して、何度も頷いて見せ…
「私の時もそうだったポニョ~。いつまでも、イジイジして煮え切らないマサ兄ちゃんを、四の五の言わず、寝床に引きずり込んだポニョ~。」
「俺の時もそうだった!身を固くして、なかなか次に進めない茜ちゃんを、強引に押し倒してモノにしてやったんだ!」
と、思わず声を上げると、二人は…
「ポヤポヤ~?」
「えっ?」
と、互いに顔を見合わせて…
「そうじゃない、そうじゃない、あの時は、私がマサ兄ちゃんを…」
「そうじゃない、そうじゃない、あの時は、俺が茜ちゃんを…」
思わず、言い合いになりかけると…
「ポヤポヤ、待つポニョ~。こんな事言ってる場合じゃないポニョ~。」
「そうとも、こんな事言ってる場合じゃない!」
また、顔を見合わせて…
「行くポニョ~、マサ兄ちゃん!」
「行こう、茜ちゃん!」
ガッチリ手を握りあい、着物を羽織るのも忘れて、部屋を飛び出して行った。
月影照らす薄暗い部屋の中…
由香里は、切なそうに正座して、寝間着の襟元を弄りながら、寝床を見つめていた。
本当なら、今宵こそ、里一と二人同衾する筈であった。
出会って四年…
寝ても覚めても、瞼に浮かぶ里一の顔。連日、穂供(そなえ)に訪れる数多の男達の相手をする度に、今、自分を愛撫してるのが、身体(からだ)の中に入ってくるのが、あの盲目の優しげな男であったらどんなに良いだろうと思い続けていた。
由香里は、過去、三度妊娠し、流産している。
いずれも、お腹を空かせた年下の兎神子(とみこ)達に、食べ物を調達しようとして、酷い仕置をされたのが原因であった。
『赤ちゃん、ごめんね…ごめんね…私のせいで…』
三度目の流産の時…
熱にうなされた自分の為に一杯の粥を盗もうとして仕置された事を知り、いつまでも由香里の腹に抱きついて泣いていた早苗を思い出す。
そして、もう、二度と妊娠はできないだろうと思われ、事実、以来、未だに妊娠した事がない。
『ユカ姉ちゃん、一緒に拾里に行こう…』
早苗にも智子にも、随分誘われた。
早苗の時は、早苗自身が拾里に行く日を迎える事なく逝ってしまったのもあるが…
智子には、結局、行かない事を告げた。
理由は、漸く手に入れた厨房を手放してしまったら、歳下の兎神子(とみこ)達が、また、お腹を空かせてしまうのではないか…
自分がいなくなり、みんなちゃんとやって行けるのか心配でならない事であった。
殊に、あの頃はまだ、愛はいつも全裸で人目に晒されていた。
社(やしろ)の仲間内だけの時は、着物を着る事を認められるようにはなっていたが…
それでも、日中は御贄倉の土間で、穂供(そなえ)を待たねばならなかった。
太郎達神饌組に守られながらとは言え、全裸で学舎(まなびのいえ)に通わされ、晒し物になってる事に変わりなかった。
『心配なさらんでもええ。』
胸を張って言ってくれたのは、中小商工座衆笑点会の歌丸であった。
『親社(おやしろ)様も、兎神子(とみこ)の皆さんにも、下町の連中が、随分世話になった。特に、愛ちゃんや、愛ちゃんのお父さんに、どれだけ良くして頂いた事か。今度は、みんなで愛ちゃん守る番さね。』
歌丸は、両脇に辛うじて毛を残しながらも、一段と磨きの掛かった禿頭を撫で回しながら、いつもそう言っていた。
実際…
『おうおう、お勉強は終わったかい?』
太郎達神饌組に守られて学舎(まなびのいえ)から出てくると、待っていたように、河曽根上町の男連中が、門前をぐるり取り囲んで待ち構えていた。
『愛、今日こそは、おじさん達と遊んでくれるよな。』
取り囲む男連中の一人が、愛に近寄ろうとすれば…
『てやんでぇ!愛ちゃんには先客があんでぇ!』
太郎が、例によって捲し立てる。
すると…
『先客だと?』
『そいつは誰でぇ!』
『何処にいるんでぇ!言ってみな?』
『まさか、太郎、お前じゃあねえよな。』
『そうか、太郎、おめえか!そうか、そうか、おめえも、とうとう色気づいか、偉ぇこった。』
『そいじゃあ、一つ、俺達の前で愛を抱いて貰おうじゃねえかよ。』
河曽根上町の男達は、口々にそう言うと、一切に爆笑した。
『兄貴…』
『どうするよ、兄貴…』
神饌組の悪ガキ達が心配そうに太郎を見つめる最中…
『どうした?抱かねえのか?』
『まあまあ、まだ恥ずかしい盛りのガキだぜ、人前でやるってのも酷ってもんだ。』
『それもそうだ。そいじゃあ、太郎、おめえも着物脱いで裸になれ。素っ裸になって、アレ丸出しで、愛と一緒に社(やしろ)に行ってみろ。そーしたら、おめえが先客だって認めてやらあ。』
河曽根上町の男達は、そう言って、更にゲラゲラ笑いだした。
『良いよ、太郎君。私、おじさん達とゆく。』
拳を握りしめ、歯軋りする太郎の手を握ると、愛はにっこり笑いかけて言った。
『駄目だ、愛ちゃん!行かせねえ!』
太郎はそう言い放つと、決心を固めたように、太郎は着物を脱ぎに掛かった。
その時…
『先客は、アチキでありんすよ。』
黄色い着物着て、なよなよして歩きながら、一人の初老の男が近づいてきた。
『その子は、これからアチキのお家で、良い事するでありんすよ。』
男はそう言うなり…
『さあ、愛ちゃん、一緒に行くでありんすよ。』
愛に手を差しのべ笑いかけた。
『オォーッ!』
忽ち、神饌組の間から歓声が上がった。
『ありがとう…木久蔵おじさん、ありがとう…』
愛が、それまで堪えていた涙を溢れさせると…
『おじさんちで、ウチのラーメンでも食べよっか。』
歌丸の親友で、笑点会の一人であり、河曽根下町でラーメン屋を営む林屋の木久蔵は、愛の手をそっと握りしめ、一段と優しく笑いかけた。
『おい、待てや!』
『オカマ野郎のおめえが、いつから女に興味持つようになったんだよ。』
河曽根上町の男達は、今度は愛を連れてゆこうとする木久蔵に絡み始めた。
『おめえが穂供(そなえ)たあ、笑わせるにも程があるぜ。』
『どーせ、穂供(そなえ)するにも、穂供(そなえ)するモン、おめえについてねーんじゃねえのか?』
『さあ、愛を寄越しな!こっちに寄越すんだよ!』
河曽根上町の男達は、口々にそう言うと、木久蔵を突き飛ばし、愛を横取りしようとした。
『何すんのさ、やだねー、この人達…人の楽しみじゃましようってのかい!』
木久蔵も、負けじと愛を渡すまいとする。
『おらっ!早く愛を渡せっての!』
河曽根上町の男達の一人が、また、木久蔵を押し退けようとすれば…
『イヤん!バカん!そこはお尻だよー!』
と、その男の手を叩き…
『しょうがないわねー、そんなに見たいってなら、アチキが男である証拠、見せてやろうじゃないのさ。』
木久蔵は着物の裾を捲り上げ始めた。
『オォッ!木久蔵、おめえの男を見せるってか?』
『よせよせ、あるって言っても、糸杉みてぇに萎びたモンだろうに。』
『そんなんで、穂供(そなえ)なんて出来ねえって。』
河曽根上町の男連中は、またゲラゲラと笑い出した。
次の刹那…
『がーたがた抜かしてるんじゃねえぞ、このクソガキャーッ!』
木久蔵は、それまでのなよなよぶりと打ってかわって、ドスンと片膝つくなり、男の一人の顎に、ドスの切っ先を突きつけた。
『き…木久蔵…おまえ…』
『フン!アチキを誰だと思ってやがるんだよ、コラーッ!』
木久蔵は喚くなり、パチンと指を鳴らした。
同時に…
『おめえら、親父さんが唾けたもんに手ぇ出すたあ良い度胸じゃねえかよ、コラッ!』
『こいつは、先々日から親父さんと俺達とで、当面貸し切るって約束を、親社(おやしろ)様に取り付けてるぜ。』
『おめえ達の親玉が大好きな多額の賂…失礼、別途玉串を納めてな。』
『それでも掻っ攫って行きたけりゃーな、俺達をぶちのめしてからにしなー。』
と…
何処に潜んでいたのか、熊のような巨体をした大男達十数人が、河曽根上町の男連中を取り囲んで言った。
彼らは皆、日頃、木久蔵の世話を受けている、鱶見本社領(ふかみのもとつやしろのかなめ)で土工職に就く男達であった。
『さあ、愛ちゃん、安心しな。』
『当面、愛ちゃんは俺達交代で貸し切ってやるからよ。』
『俺達の愛ちゃんは、俺達が目の黒いうちはぜってぇ汚させやしねえぜ!ずっと綺麗なまんまにしといてやるぜ!』
土工の男達は口々に言うと…
『おじさん、駄目…私、汚いよ、白穂臭いよ…』
愛が慌てふためくのも待たず、土工の一人がひょいと愛を抱き上げると…
『何言ってやがる。俺達の愛ちゃん、良い匂いしてるぜ。こんな可愛い子を、あんな連中に汚されてたまるかっての!』
そう言って、頬擦りをした。
『さあ、みんな、アチキについて来るでありんすよ。アチキのラーメンと一杯ご馳走するよ。』
木久蔵が土工達に向かって言うと…
『おいおい、親父さんのラーメンだってよ!』
『うっへぇ!また、一週間は下痢が止まんねぇ!』
『いっぱいだけにしてくんねぇかな~。』
と、土工達が言い…
『何だって!』
木久蔵が凄むと…
『すんません!』
『ゴチになりやす!』
木久蔵の軽く倍はある熊のような大男連中が、一様に身を小さく縮めて、ノコノコ後について行った。
『見なせえ、ユカさん。愛さんには、心強え味方がたくさんついてなさる。』
あの日…
いつの間にそこに来ていたのであろう…
愛の事が心配で、迎えに出向いていた由香里の肩を抱き、里一は、そっと耳元近く囁いて言った。
『他の子達だって、そうでござんす。親父さんが奉職されて今日までの間、それぞれ新しい味方も友達もできて、何よりあいつら自身が逞しく育ちやした。もう、何も心配する事はござんせんよ。』
『里一さん…』
『ユカさん、これからは、ユカさんご自身の将来、幸せを考えなせえ。』
『うん。』
里一の胸に顔を擦り寄り頷きながら…
しかし、此処を去ってゆけないもう一つの理由は話せずにいた…
『でも…私は此処で里一さんを待ちたい。たまにで良い…こうして、里一さんに寄り添っていたい…』
と…
里一と夫婦になれるとは思っていない。
なれても、彼の子を産んでやる事が出来ないのだ。
でも、戯れで良いから、抱かれたかった。
まだ、女を知らないと言う里一に、女を教えてやりたかった。
目が見えないなら、尚更に、手取り足取り教えてやりたかった。
『由香里さん、申し訳ねえ。』
部屋の前まできて、里一が寂しげに残した言葉を思い出す。
『謝らないで、里一さん。わかってるわ…数え切れない程の男に汚された挙句、子供ができない身体(からだ)なんですもの…わかってる。謝るのは、私の方…こんな私が、里一さんみたいな方に抱かれたいなんて…』
『そうじゃねえんでござんす。あっしには、どうしてもやらなきゃならねえ事が、あるんでござんす。』
『やらなきゃいけない事?』
『申し訳ねけ、それ以上、言うわけにはいかねえんでござんすが…
あっしは、どうしても、親父さんに恩を返さなきゃならねえんで。親父さんに頂いた命、この身体(からだ)を張って返さなきゃならねえんで、ござんすよ。』
『そう、爺じの為に…』
『産まれて来た時から、生きる事を否定されたあっしを、命張って生かそうとしてくれた親父さんに、どうしても恩を返してえんでござんす。』
『わかるわ、よくわかるわ…私だって、私だって、料理の事、何も知らなかった私に、あの子達に美味しいものを食べさせてあげられるようにしてくれた里一さんに、どれだけ感謝してるか。
あの子達に、一杯の粥すらこの手で食べさせてあげる事が出来なかった。
女なのに、お米の炊き方すら分からなかった。
男達の玩具にされる事しか教えられなかった。
女として生きる事を否定されてるのと同じだった。
その私に、里一さんは、優しく料理を教えくれた。あの子達にお腹いっぱい食べさせてあげられるようにしてくれた。私をもう一度、女にしてくれた。里一さんの為なら、私だって…』
『ありがとう、由香里さん。
いつの日にか、親父さんに恩を返し、この命がありゃしたら、その時は、喜んで由香里さんを抱かせて頂きやす。』
『待ってるわ。でも、できるだけ早くね。でないと、私、すぐに歳をとって、顔も身体(からだ)も綺麗でなくなってしまうからね。』
『その事ならご安心を…あっしは、めくらでござんす。外見など、何一つ見えはいたしやせん。あっしに見えるのは、心だけでござんす。由香里さんの心は、永遠に光輝いてござんす。』
由香里は、去り際に残した、頬に傷のある顔いっぱいに浮かべた、里一の涼しげな笑顔を思い出しながら、布団を撫でた。
本当なら、そこで裸の自分の肩を抱いて、共に天井を見上げていたであろう、里一を思いながら、撫で続けた。
「里一さん、何をしようとしてるんだろう…」
一年に、何度か社(やしろ)に顔を出す里一が、普段何をしているか、由香里は知らない。興味をもった事もない。
ただ、かなり命がけの仕事をしてるのだな…とは、よく思っていた。
抱かれた事こそないが、いつも一緒に湯に入る。今宵も、夕食会が終わった後、共に湯に入り、身体(からだ)を洗ってやった。
湯に入る度に、身体(からだ)中に帯びた傷が増えている。
どの傷も、ただの傷ではない。どう見ても、刀で斬られたか、槍で貫かれたか…
一番古い傷は、銃弾を受けた傷跡であった。
今宵もまた、増えていた。しかも、あと数寸間違えれば、致命傷となり得たであろう傷であった。
「お願い…死なないで…里一さんが死んだら、私も…」
由香里は、枕を抱きしめ涙を流しかけた時、はたと後ろに人の気配を感じた。
「あの子達ったら…」
由香里は、枕を置いて涙を拭うと、クスクス笑い出した。
「マサちゃん、茜ちゃん、入っておいで。」
由香里が、振り向きもせずに言うと、真後ろの障子が開いて、着物も着ず、露わな格好した政樹と茜が、拍子抜けした顔をして、入ってきた。
「ポヤー?里一さんは?」
「何だ、ユカ姉。今夜は一晩中励んでるんじゃなかったのか?」
二人は、部屋中、キョロキョロ見回して言った。
「色々あるのよ、大人にはね。それより、あんた達、何て格好してんのよ。」
由香里は、一糸纏わぬ露わな格好で、しかも髪がぼさぼさな二人を見て、クスクス笑いながら言った。
「ポヤー!」
「あっちゃー!」
二人が、慌てて大事なところを手で隠す仕草すると、由香里は、益々可笑しそうに笑った。
「何を今更隠してるのよ。散々、人の寝床に入ってはオネショして後始末させたくせに。」
由香里に言われると、二人は益々赤面した。
「それに…」
由香里は、押入れから取り出す寝間着を手渡しながら、二人の股間に目を止めると、口をへの字に曲げた。
「人には、やたらと励め励めと騒ぐくせに、お二人さん、まだ一度もできてないみたいじゃない。」
「それは…」
「ポニョ~」
「なあ…」
「ポニョポニョ…」
二人が顔を見合わせて口ごもらせると、由香里は大きく鼻から息を吐き出した。
「私と里一さんは、見ての通りだから…
お二人さんは、さっさと自分達の部屋に戻って、続きをやりなさいな。
明日から、また穂供(そなえ)参拝が来るから、その余力は残す程度にね…」
「あのさ、ユカ姉ちゃん…」
政樹と茜は、互いに顔を見合わせてニコッと笑って言った。
「今夜、ここで寝て良いかな?」
「ここで?私と?」
由香里が、また口をへの字にすると…
「ダメ?」
「今夜、このまま二人だけで寝るの、怖いポニョ~。お化けが出そうで…」
二人は、いかにも情けない顔をして言った。
「しょうがないわね…」
由香里は、先に布団に潜り込むと…
「さあ、おいで、おチビさん達。」
掛け布団を開けて、二人を呼んだ。
「わーい!」
「ポニャー!」
政樹と茜は、忽ち、由香里の両隣に飛び込むと、仔猫のように身体を丸めた。
「あんた達、人の布団の中で、オネショすんじゃないよ。したら、お尻の皮が剥けるほど、ペンペンするからね。」
「はーい。」
「ポニョ~。」
由香里は、呆れたように、また口をへの字に曲げた。
「なあ、ユカ姉。」
「なあに?」
「そーめん、美味かったよ。」
「本当?」
「ああ、ユカ姉の作ってくれるそーめんが一番うまい。なあ、茜ちゃん。」
「うん、美味しかった。それと、天麩羅も美味しかった。また、こしらえてね。」
「そっか…また、美味いもん、こしらえてやるよ。でも、次はお鍋にしようかね…まだ、冬だもの…」
と、両脇を振り向くと、既に二人とも由香里の腕を枕に、スヤスヤ寝息を立てていた。
「まーったく…いつまでたっても、子供なんだからねー。」
由香里は言いながら、二人の肩を抱くと、愛しそうに頬ずりを始めた。
『ポヤポヤ…ポニョポニョ…』
見れば、茜がまた、指をしゃぶりながら、意味不明の声を発していた。
とっくに治った筈の癖なのに、眠るとたまに戻る時がある。
初めて出会った頃…
まだ、十歳だった茜は、全く言葉が話せなかった。
元々、一之摂社(いちのせっつやしろ)で赤兎だった茜は、七歳を待たずに皮剥され、虐め抜かれて話せなくなった。
不具になり、使い物にならんと判断されて捨てられそうになったのを、眞吾宮司(しんごのみやつかさ)が白兎として引き取った。
鋭太郎が、話せない茜を玩具に欲しがったからである。
本社(もとつやしろ)に兎幣され、更に虐め抜かれ、話せないだけでなく、幼児化して夜尿を繰り返すようにもなった。
それが、更に虐めの理由にされていた。
『ポニョポニョ…ポニョポニョ…』
茜は、必死に何か言おうとしてるが、口から出てくる声は、同じ声ばかりで、まともな言葉にならなかった。
『ポニョ~、ポニョ~、ポニョ~』
しかし、何故か、由香里には茜の言いたい事が全部分かった。
『お母さんに、会いたいんだね。』
由香里が言うと、茜は、ポカンとして由香里の顔を見上げた。
『わかるよ、おまえの言いたい事、ぜーんぶ、わかるよ。』
『ポヤポヤ~?』
『ええ、本当だともさ。だから、話したい事があったら、全部、姉ちゃんに話しとくれ。』
由香里がそう言うと…
『ポニャ~!ポニャ~!ポニャ~!』
茜は、由香里の胸に顔を埋めて声を上げて泣き出した。
それから、毎日、毎晩、一日中、鋭太郎に虐め抜かれた茜は、由香里の寝床に潜り込んでは、泣き泣き話し出した。
『そうかい、そうかい…こんな小さな子の手に、火をつけた煙管の先を当てる何て…酷い事するね、何て酷い事するんだろう。』
由香里は、そう言って、火傷だらけの小さな手に頬擦りしては、いつも一緒に泣いてやった。
そして…
『これね、あんたに食べさせようと思って、持ってきてやったよ。さあ、おあがり。』
いつものように、命がけで忍びこんだ、宮司(みやつかさ)屋敷の厨房から盗んできた食べ物を、茜に与えた。
『うまいだろう?たんと、お上がりよ。』
すると…
いつの頃からか、いつも一緒に由香里の布団に潜り込んでいた政樹も、由香里に貰った食べ物を半分残して、茜に与えるようになった。
『兄ちゃん、あんまり食欲ないからよ、これやるよ。』
『ポニョ、ポニョ…』
茜は、由香里の前では、いつも甘やかして欲しくて泣いていたが、政樹の前では逆にいつも笑っていた。
『へへっ、おまえ、可愛いな。』
政樹に言われると、今度は顔を赤くして笑い出した。
やがて…
政樹は、茜の笑う顔がもっと見たくて、鋭太郎の弟の美唯二郎に擦り寄るようになった。
眞吾宮司(しんごのみやつかさ)が和幸に懸想していたように、美唯二郎は政樹に強い関心を寄せていたのだ。
政樹は、和幸が眞吾宮司(しんごのみやつかさ)の女になるのを真似て、美唯二郎に擦り寄り、茜が喜びそうなものを手に入れようとしたのである。
また、思い切って、茜を虐めないよう、それとなく頼んでも見た。
すると、和幸の恋人である智子は、二人の仲を知られると、嫉妬に狂った眞吾宮司(しんごこみやつかさ)に更なる凄惨な虐めを受けたが…
茜に対する虐めはおさまった。
美唯二郎も男色であったが、眞吾宮司(しんごのみやつかさ)の和幸に対する思いは懸想であったが、美唯二郎の政樹に対して抱いた関心は、単なる玩具であった。
女の茜より、男の政樹の方が面白い玩具だったのである。
ある夜…
『どうだ、茜ちゃん?うまいか?うまいか?』
いつものように、政樹が、美唯二郎の元で傷だらけになりながら手に入れた戦利品を、茜が頬張るのを見ていると…
『ポニョ~…』
茜は、食べ終わった口を手で拭いながら、ニコーッと笑って、政樹を見つめた。
『そうか、そうか、うまかったか。よしよし。』
政樹は、そう言って、嬉しそうに茜の頭を撫でた。
すると…
『ポニョ、ポニョ…』
茜は、徐に着物を脱いで、産まれたままの姿になった。
そして、一層満面の笑みを浮かべると、政樹の手を膨らみ初めて三角形になり染めた乳房に押し当てた。
『良いのか?』
政樹が言うと…
『ポニョ、ポニョ…』
茜は、何度も頷いて見せた。
『そうか、そうか…それじゃあ、遠慮なく…』
政樹は、茜と唇を重ねると、そのまま肌も重ねた。
政樹十二歳、茜は十歳の時であった。
二人は、毎晩のように唇を重ね、肌を重ねて、一つになった。
政樹の方は、別に茜に惚れて抱いていると言うわけでもなかった。
欲しくなったら肌を重ねる…
此処では、黒兎も白兎も、それが普通であった。
しかし、茜は違っていた。
政樹に抱かれるようになり、まず、指を咥える癖がなくなった。夜尿もしなくなった。何より、綺麗でいようと、いつも身なりを気にするようになった。
政樹に、『綺麗だ。』『可愛よ』と言われると、お日様のように明るい笑顔を浮かべるようになった。
『この子…恋してるんだ。』
由香里はそう思うと、まるで自分が誰かに恋してるように心がときめき、嬉しくなった。
しかし、茜の思いは、政樹にまるで伝わらなかった。
茜は、それでも政樹に抱かれていれば嬉しそうであったが、見ている由香里が辛く切なかった。
『茜ちゃん、抱かれるだけじゃ、心は伝わらないよ。』
ある夜明け近く…
裸のまま、茜の膝を枕にして眠る政樹の顔をながめて、ニコニコ笑う茜の肩に着物を掛けてやりながら、由香里が言った。
『マサちゃんに、気持ち、伝えたくない?』
『ポヤ、ポヤ…』
『マサちゃんに惚れてるんだろ?』
『ポニョ、ポニョ…』
そして、由香里は茜に言葉の練習をさせた。
茜は、言葉を理解してないわけではない。また、自分では、一生懸命、思いを口に出して言おうとしている。
しかし、一生懸命声に出して言おうとしても、口から出てくるのは、どうしても、『ポヤポヤ…』『ポニョポニョ…』になってしまうのである。
由香里は、短い時間を割いて、一生懸命に言葉を教えた。何とか、話ができるようにしたいと思った。
しかし、どうしても、口から出てくるのは、『ポヤポヤ』『ポニョポニョ…』であった。
由香里は、一計を講じた。言葉の語尾に、『~ポニョ』をつけてみたのである。
すると、少しずつ、茜は言葉を発するようになった。
そして、ある夜…
『お…兄…ちゃん…お…兄ちゃん…』
『茜ちゃん…話せるのか?』
驚き目を丸くする政樹に、茜は満面の笑みで言葉を続けた。
『好き…ポニョ…大好き…ポニョ…愛してる…ポニョ…』
『茜ちゃん…』
政樹は、思わず茜を抱きしめた。
『俺もだよ!俺も、茜ちゃんが大好きだよ!愛してる…愛してる…』
何度も何度も頬擦りして言う政樹は、いつの間にか涙を溢れさせていた。
そして、眞吾宮司(しんごのみやつかさ)が失踪し、新しい宮司(みやつかさ)に代わった。
前の宮司(みやてかさ)の時のような虐めはなくなり、社(やしろ)の雰囲気はガラリと変わった。
由香里が厨房を任されると、相変わらず、由香里の側にまとわりつく茜は、手伝うと称して、料理とは無関係なものを作り始めた。
『あらあ、なーんか美味しそうなもん作ってるじゃない。』
由香里が側で覗き見ると…
『マサ兄ちゃんに、あげるポニョ。』
『まあ、マサちゃんに。』
『喜んでくれるポニョ?』
『勿論よ。こんな可愛くて美味しそうな金団、誰だって喜ぶわ。』
『そうポニョ~?』
不安そうに首を傾げる茜に、由香里が大きく頷いて見せた。
『私、マサ兄ちゃん、好きポニョ。愛してるポニョ。』
『ええ、ええ、知ってるわよ。あんたが、どんなにマサちゃんを想ってるか、よーっく知ってるわよ。』
由香里が満面の笑顔で頷くと、茜も嬉しそうに笑った。
最近、雪絵は新人年下の竜也と良い中だし…
男嫌いの亜美も、秀行と出来上がりつつある。
漸く、こんな平和で無邪気な恋ができるようになった…
後は、和幸と智子が、元の鞘におさまれば….
由香里がそう思いかけていると…
『ねえ…マサ兄ちゃん、私をどう想ってるポニョ?』
『えっ?』
『マサ兄ちゃんも、私を好きポニョ?』
『私も好きかなって…茜ちゃん、今までだって、ずっと…』
『マサ兄ちゃん、私の事、嫌いポニョ?』
茜は、今更何を…と思う事を言い出し、由香里は思わず首を傾げた。
そして、更に数日後….
『ユカ姉ちゃん、私、マサ兄ちゃんに想いを伝えたポニョ~!お菓子あげて、伝えたポニョ~!』
茜は、由香里に飛びつくなり、声を上げてはしゃぎ出した。
『そう…なの…それで?マサちゃんは何て?』
『マサ兄ちゃんも、私が好きだポニョ~!愛してるポニョ~!』
『そう、良かったわね…』
『うん!それでね、口付けしたポニョ~。マサ兄ちゃんに抱かれたポニョ~。乳房を優しく揉まれて、乳首を吸われ…身体(からだ)中、撫でられ舐められて、最後にマサ兄ちゃんのが、私の中に入ってきたポニョ~。』
『そうなの…』
『凄く心地良かったポニョ~、凄く暖かかったポニョ~。』
由香里は、いつまでも夢見心地な茜を見て、すっかり当惑してしまった。
『今ままで、数え切れない程抱かれてきたポニョ~。でも、こんなの初めてポニョ~。愛する人と、愛し合ってするのは、違うポニョ~。』
すると…
有頂天な茜とは裏腹に、少し離れた所から茜を見つめる政樹が、涙を溢れさせていた。
『マサちゃん、茜ちゃん、どうしちゃったの?』
由香里が側に寄り、小声で尋ねると…
『茜ちゃん、今までの事、全部忘れちまってるんだ。』
『えっ?』
『俺達が出会った時の事、初めて抱き合った時の事、やっと覚えた言葉で、俺に想いを告げた事…何もかも忘れちまってるんだよ。』
政樹はそれだけ言うと、由香里の胸に顔を埋めて泣き出した。
『今の親社(おやしろ)様に代わって、社(やしろ)の環境が変わった事で、茜ちゃん、昔の事、無意識に自分の意思で記憶を消しちゃったんだって…義隆先生が仰ってた…』
『そんな…そんな事って…』
『俺の事は、お菓子を贈り合ったり、お菓子作りを一緒に覚えて、好きになったと思い込んでるんだ。
今まで虐め抜かれて、悲惨だった記憶を全部消去して、新たな楽しい思い出だけで、埋め尽くそうとしてるんだ。
今の親社(おやしろ)様が来られる以前の事は、何もかも忘れちまったんだ。』
由香里は、大きな溜息をついて、もう一度、政樹と茜の寝顔を見つめた。
「里一さん…ユカ姉の事…ユカ姉の事…」
政樹が、由香里の腕の中で寝言を呟き始めていた。
「ユカ姉の辛い思い出…全部消して…茜ちゃんのように…新しい楽しい思い出を…俺達の事、全部忘れて良いから…俺が覚えているから…茜ちゃんの事も…ユカ姉ちゃんの事も…」
どんな夢を見てるんだろう…
政樹は、涙を流していた。
「馬鹿言うんじゃないよ、ガキの癖にさ…」
気づけば、由香里も涙を溢れさせていた。
「忘れられるわけないじゃないか…マサちゃんの事、忘れられるわけないじゃないか…」
すると、今度は…
「ユカ姉ちゃん…頑張る…ポニョ…」
茜が寝言を呟き初めていた。
「お料理一緒に作る時、里一さん、押し倒すポニョ…私が、お菓子作りながら…マサ兄ちゃんにしたように…ユカ姉ちゃん…幸せになるポニョ…私みたいに…」
こちらは、どんな夢を見てるか、だいたい察しつく。
「お菓子…作るポニョ…ユカ姉ちゃんと里一さんに…お菓子作るポニョ…マサ…兄ちゃん…」
呟きながら、茜はこの世の幸せが一度に訪れたような笑みを浮かべていた。
「里一さん…やっぱり、当分、此処を出て行けそうにないや…」
由香里は、更に涙を溢れさせ、いつしか咽び泣きながら、天井を見上げて呟いた。
「里一さんが、爺じに恩返ししなきゃならないように、私はこの子達を大きくしなきゃならないからね…
まだ、こんなに幼いこの子達を置いて、何処にも行けやしないからね…」
ふと、また、里一の言葉が脳裏を過って行った。
『あっしは、めくらでござんす。外見など、何一つ見えはいたしやせん。あっしに見えるのは、心だけでござんす。由香里さんの心は、永遠に光輝いてござんす。』
「私も、めくらさ…男はもう、里一さんしか見えやしないよ。里一さんの心しか見えやしない…私の前を照らす、里一さんの心の光しか見えないよ…
だから、此処で里一さんを待つ。何年でも、何十年でも、この子達を大きくしながら…
いつか、里一さんの恩返しができて、私はこの子達を大きくできたら…
その時は…
その時は…」
由香里は、今も瞼に浮かぶ里一の面影に微笑みかけると、いつしか、静かな寝息を立て始めていた。

兎神伝〜紅兎二部〜(25)

2022-02-02 00:25:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(25)恋敵(7)

『眠ったか…』
泥酔していて眠りこけていた筈の和幸は、静かに起き上がると、菜穂と希美の寝顔を見て笑みを浮かべた。
しかし…
そこには、もう一つある筈の朱理の寝顔がなかった。
『シンさん、今夜だけだぞ。アケちゃんを貸してやるのは…』
和幸は、心の中で呟くと、部屋の刀掛けに飾ってある太刀に手を伸ばした。
『和幸殿、これを貴殿に預ける!』
立ち合いを挑んできた数日後…
再び鼻息荒く和幸の前に姿を現すと、進次郎は徐に一振りの太刀を差し出した。
『これは…幻の名刀、青霧島…』
『オォーッ!やはり、存じておったか!』
『伝説の刀鍛冶、霧島秀蔵(きりしましゅうぞう)が鍛えたと言う、幻の太刀の一振りだ。他に、黒霧、赤霧島、白霧島があると聞いておりますが…』
『赤霧島は父が、白霧島は兄が、黒霧島は拙者が所持してござる。』
言うなり、進次郎は自身の腰に差す太刀を、和幸に見せた。
『されど…何故、これを私に…家宝なのではありませんか?』
和幸が首を傾げると…
『だから、貴殿に預けたい。朱理殿を、今のままのお気持ちで、いつまでも大切になさると…決して、粗略に扱わない、捨てたりなさらないと言う約束の印としてな…』
『もし、違えれば?』
『その時は、今度こそ立ち合うて頂く!拙者の黒霧島と、貴殿の青霧島で…』
進次郎がニィッと笑うと、和幸も満面の笑みを浮かべた。
そして…
『承知、致しました。この太刀、確かにお預かり致します。いつの日にか、進次郎様と立ち会う日まで…』
和幸が恭しく青霧島を掲げて言うと…
『それとな、一つ頼みがあるんだが、聞いて下さらぬか?』
進次郎は、些か苦飯噛み潰したような顔して言った。
『頼み?』
『貴殿と拙者は…その…同じ女に惚れた中だよな。』
『いかにも…』
『ならば、我らは兄弟だ!兄弟の間に、堅苦しい物言いは無用!拙者の事もシンと呼んでくれ!』
言うなり、進次郎は、パーンッと和幸の肩を叩いた。
『承知!ならば、私…いや、僕の事は、カズと呼んでくれ!シンさん!』
和幸も、進次郎の肩を叩き返して言った。
『それと…』
『何だ?』
真っ直ぐ目線を返して進次郎が問い返すと…
『アケちゃんに手を出すなよ…』
和幸は言うなり、貰ったばかりの青霧島を抜き放って、進次郎の眉間ギリギリに振り下ろした。
進次郎は、微動だにせず、ただニィッと笑っている。
和幸も同様に笑っていた。
『幼い頃から、抱いて抱かれて生きる我らだ…アケちゃんを抱くなとは言わん。あの子に対するその気持ちがある限り、時に求めあって抱き合う事もあるだろう。
だが、あの子は、僕のものだ。誰にも渡さん!もし、あの子を僕から奪おうとするなら、僕こそこの太刀でシンさんに立ち合いを所望する!』
『望むところだ!』
言うなり、進次郎も黒霧島を抜き放って、切っ先を和幸の顔に突きつけた。
更に…
『そう言う立ち合いなら…一日も早く、貴様と立ち会ってみたくなったわ!』
『僕もだ!』
二人は、そう言い交わすと、声高らかに笑い出した。
「シンさん、アケちゃんを奪うんじゃないぞ…」
和幸は、あれから一度も抜いた事のない手入れの行き届いた青霧島に向かって言った。
「アケちゃんを奪ったら…こいつを抜かなくてはならんからな…
シンさん、負けないぞ…
アケちゃんもナッちゃんも…
死ぬまで僕のものだ。」
そう言って見上げる天井の彼方には、今となっては遙か昔、朱理を通して兄弟の契りを交わした時の光景が、まざまざと浮かび上がっていた。

兎神伝〜紅兎二部〜(24)

2022-02-02 00:24:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(24)恋敵(6)

愛が受けた皮剥も、翌日から待ち受けた赤兎としての日々も、太郎達の想像を遥かに超えて過酷なものであった。
『さあ、今日も良い事をしようじゃねえか。』
社領(やしろのかなめ)の男達は、太郎達の目の前で、愛を掻っさらうように連れ去ると、目の前で穂供(そなえ)を始めた。
いや…
それは、穂供(そなえ)などと呼べるものではなかった。
それまで、一度に複数の男達で一人の兎神子(とみこ)に穂供(そなえ)する事を禁じられてきた鬱憤を晴らすように、大勢の男達で愛に群がる光景…
『アァァァァーッ!アァァァァーッ!アァァァァーッ!』
男達が一斉に小さな胸の膨らみを鷲掴みに握り潰し、抓り捻り、発芽の兆しも見られぬ参道に指や異物を捻り込むと、愛は激しく首を振り立て身を捩って呻き出した。
『おらっ!大人しくしろ!』
『どうだ?気持ち良いか?気持ち良いんだろう?もっとして欲しいんだろう?』
『ほら、呻いてないでさっさと言え!気持ち良い、もっとしてくれってな。』
男達が、色が変わる程両手を握りしめ、つま先を突っ張らさせて激痛に堪える愛の頬を激しく打ち据えながら言うと…
『き…気持ち…良い…です…もっと…もっと…して…下さい…』
愛は、必死に食い縛る歯の隙間から漏らすように言った。
『よーしよし、良い子だ。それじゃあ、もっともっと気持ち良くしてやるぞ。』
愛の参道に異物を捻り込んで掻き回しては、男達は、ニンマリ笑って言うと、徐に褌を脱ぎ、熱り勃つ穂柱を、抜き取った異物の代わりに捻り込みだした。
『アァァーーーッ!アァァーーーッ!アァァーーーッ!』
愛が、串刺しと股裂きを同時に受けたような激痛に、思い切り顎を逸らせて呻くと…
『どうだ、良い気持ちだろう?これから、もっと良くしてやるからな。』
『そら、こうすると良く締まるぞ!』
別の男二人が、ニターッと笑いながら、愛の左右の膨らみを鷲掴む手に、万力のような力を込めた。
『キャーーーーーーッ!!!』
愛が、耳をつん裂くような絶叫を上げると…
『漸く、上の参道も開いておくれだね。』
また別の男が褌を脱ぎながら言いながらわ、今にも破裂しそうな穂柱を、愛の両頬を掴み、口元に押し付けた。
『良いかい?噛んじゃだめだぞ。噛んだら、康弘連(やすひろのむらじ)様の所にお連れして、言いつけてやるからな。
そうしたら、それはそれは痛い痛いお仕置きをされるんだからな。』
男は、愛の口に穂柱を捻り込みながら意地悪く言うと…
『さあ、舐めろ。ほれ、しっかり舌を動かせや、舌を、ほれほれ…』
愛の頬を強く打ちながら急きたてた。
それを見て、愛の参道を貫く男達が一層唆られたのか、中で更に穂柱を膨張させつつ、激しく腰を動かし出す。
それは、神聖なる穂供(そなえ)などではない…
凌辱…
或いは輪姦…
この光景を目の当たりに脳裏を掠めるのは、この言葉だけであった。
『さあ、まだ遊んでる、裏参道も通らせて貰うかね。』
愛の参道を貫く男が、愛を上向きにするや、別の男が小さな尻たぶを鷲掴み、裏神門(うらみと)に穂柱を捻り込み出した。
『ウゥゥッ…ウゥゥッ…ウゥゥッ…』
愛は、図太い穂柱に塞がれた口の隙間から声を漏らし、目に涙をいっぱい溜めている。
『やめろーッ!』
太郎と子供達何人かが、遂に溜まりかねたように飛び出して行った。
しかし…
『邪魔するんじゃねえー!』
愛の悶える姿に興奮しきった男達に、子供達はあっさり殴り蹴られ、数間先まで飛ばされた。
『赤兎への穂供(そなえ)は、領民(かなめのたみ)の権利だ!ガキが邪魔すんじゃねえー!』
転がる神饌組の子供達を、愛に群がる更に別の男達が蹴飛ばし殴打する。
河曽根組子弟の悪ガキ達に勝てても、大の大人達を相手に、子供が勝てるものではない。
愛が、全身白穂塗れにされて、息も絶え絶えになった頃には、助けに入った神饌組の子供達も、ボロ切れ状態にされていた。
『太郎君、みんな、ありがとう。』
股間の激痛によろめきながら、必死に笑いかけようとする愛の前で、太郎達率いる神饌組の子供達は、いつも泣き噦り、打ちひしがれる日々が続いた。
殊に、神饌組の子供達何人かの親達が、愛を連日のようにボロボロに弄ぶ姿に、誰もが胸を微塵に打ち砕かれた。
『やめて!お願い!お父さん、やめて!やめて!もうやめてよー!』
綾と言う少女は、娘が必死に縋りついて止めに入るのも構わず、複数の仲間達と愛を玩具にして去って行くと…
『愛ちゃん、ごめんなさい…ごめんなさい…お父さんが…お父さんが…あんな…私、もう…もう…愛ちゃんの友達でいられないよー!』
そう言って、いつまでも愛の前で土下座して突っ伏したまま、泣き崩れた。
愛は、そんな綾の肩を優しく抱きしめると…
『ううん、泣かないで。綾ちゃんは、私のお友達よ。これからも、ずっと、ずっと、私の大切なお友達よ。だから、これからも一緒に遊んでね。』
そう言って、あの十八番の片目瞬きをして見せた。
すると…
『愛ちゃん…ありがとう…ありがとう…』
愛の胸に顔を埋めて泣き崩れた綾は、遂に意を決したように、立ち上がった。
『おい、綾!何の真似だ!』
綾が、また、父親が仲間達引き連れて愛に手を出そうとするのを見るや、目の前で着物を脱ぎ捨てて、素っ裸になって見せた。
『お父さん、お願い!もう、愛ちゃんに酷い事をしないで!』
『何を言ってる!これは、神領(かむのかなめ)に伝わる神聖な祭祀だ。酷い事何かじゃない!』
『だったら、私もこの格好で河曽根組の若様達の所に行く。』
『馬鹿な事を言うな!おまえに懸想してる、あの連中のところへそんな格好して行ったらどうなるか…』
『だって、それが神聖な祭祀なんでしょう!友達の見てる前で、女の子をよってたかって酷い事する事が、神聖な祭祀なんでしょう!だったら、娘が同じ事をされるのも、黙って見てれば良いじゃない!それとも、お父さんも私にしたい!したいんなら、させてあげる!』
綾の父親は、大人しくてすぐ泣く筈の娘が、激しく捲し立てるのを前に、遂に押し黙ってしまった。
『私、河曽根組の若様達に酷い目に合わされそうになったところを、太郎君達に助けてもらったの!
いつも威張ってみんなを苛める河曽根上町の子供だからって、なかなかみんなの仲間に入れて貰えなかったのを、愛ちゃんが仲間に入れてくれたの!
私を仲間外れにするなんて酷い!そんな意地悪な人達と遊ばないって、言って…私に遊ぼうって言って、手を握ってくれて…
それで、河曽根上町では、身分が低いから、河曽根組の若様達の言う事きかないからって、誰も友達になってくれなかった私と、愛ちゃんが初めて友達になってくれたの!神饌組の仲間にも入れてくれたの!それなのに…それなのに…』
綾が遂に感極まって泣き崩れると…
『わかった…すまなかった…父さん、もう愛に手を出さないよ。だから、もう着物を着ておくれ。』
遂に綾の父親は、愛に群がる男達から抜けて、綾の肩に着物をかけようとした。
しかし…
『私、やっぱりこのまま河曽根組の若様達のところに行く…』
綾は、父親が肩に掛ける着物を振り払うと、両手で顔を覆ったまま、イヤイヤをして見せた。
『綾…』
『お父さん…そこで、愛ちゃんが他の人達にされてるのを黙って見てれば良いわ…その間、私も同じ事をされに行くの…』
『わかった!今、愛を助けてやるから…だから、着物を着ておくれ…お願いだから、着ておくれ…』
綾の父親はそう言うなり…
『おまえ達!もう、愛に手を出すんじゃねえ!』
尚も愛に群がる男達を引き剥がしながら、叫んだ。
『愛に手を出すなら、もう絶交だ!絶交なだけじゃねえ!これまでの取引も全て停止だ!』
その日を境に、神饌組の他の女の子達も立ち上がった。
皆、自分の父親が大勢の男達と愛に群がるや、側で着物を脱ぎ、素っ裸になって、綾と同じ事をしたのである。
やがて、神饌組の子供達の親達が、愛に手を出さなくなると、松田屋の長吉郎が、一計を案じた。
『赤兎への穂供(そなえ)は、領民(かなめのたみ)達全員の権利なら、おいら達にもあるんだよな。』
『まあ、そう言うこった…』
『って、まさか、チョウ、おめえ、愛ちゃんに…』
『そうじゃねえ、そうじゃねえ。そうじゃなくて…俺達にも権利あるなら、俺達で愛ちゃんを借り切りにしねえか?』
『借り切って…てめえ、言うに事欠いて、俺達みんなで愛ちゃんにあんな真似を…』
『だから、そうじゃねえよ!確か、赤兎には、死なさない限り、切ったり刺したりの傷を負わさない限り、何をしても良いんだよな。だったら、俺達が借り切って、一緒に遊んだって、飯食ったってかまわねえわけだ。』
話をまともに聞かず、今にも気の短い一心の太助に袋叩きにされかけながら、息も絶え絶えに話す長吉郎の言葉を耳にすると…
『なるほど!そいつは良いや!チョウ、おめえ、馬鹿だと思ってたけど、たまには良い事言うじゃねえか!』
太郎は思い切り手を叩いて、声をあげた。
そうして、翌日から、太郎率いる神饌組は、愛は自分達の貸切だと言い、学舎(まなびのいえ)の行き帰りは勿論、何処に行くにも絶えずついてまわるようになった。
すると…
それまで、愛と親しくしていた町や村の人々も、神饌組を真似、毎日交代で自分の家に招いては、貸切だと言って、誰の手にも触れさせなくなった。
しかし…
神饌組や親しい町村の人々が、交代で愛を借り切ると言っても、愛の身体(からだ)を求める男達から完全に守り切れると言うものでもなかった。
やはり、借り切られる合間合間には、大勢の男達が群がり、彼らによって全身白穂塗れにされる事に変わりはなかった。
それでも、親しい誰かに借り切られてる間、愛は前と同じように、平和で楽しい時を過ごせた。
『さあさ、寒かったろう。火に当たって、暖かい物をたんとおあがり。』
貧しい町村の家に借り切られるや、いつも全裸で凍えている愛の為に、暖かな粥と汁物がふんだんに振る舞われた。
『おばさん、いつも、ありがとう。』
『良いんだよ。愛ちゃんが、私達の為に親社(おやしろ)様に口をきいて下さった事で、どれだけ助けられたか知れないからねえ。』
そして、愛が囲炉裏の火に手をかざしながら、粥と汁物をすすり出すと、その家の女房は、冷たくなった愛の肩を抱いて、啜り泣きを始める。
『まーったく、可哀想にねえ。こんなに冷たくなって…
いったい、誰がこんな酷いしきたりを考えたのかね…
こんな小さな子が、ずっと素っ裸で過ごして、あんな目に合わなければいけないなんて…』
『これっ!滅多な事を言うんじゃねえ!神漏(みもろ)様や神使(みしき)様の息のかかった連中に聞かれたら…』
『構うもんかい!この子が毎日受けてる仕打ちに比べたら、そんなんで咎められる事くらい…』
妻の発言に顔色変える主人に、女房が口を尖らせる傍らで…
『愛姉ちゃん、遊ぼう。』
『ねえ、遊ぼうよー。』
軽く十人はいるかと思われる、その家の小さな子供達が、愛にまとわりつく。
『うん、遊ぼう。』
愛は、そう言うなり、嬉々として交代で膝に乗る小さな子供達を抱いていると…
囲炉裏の火と言い、差し出された粥や汁物と言い…
どんな、絹や綿の着物を羽織るより、暖かいなと思った。
そして…
『さあ!今日も境内の杜を探検だー!』
と、声を張り上げる神饌組の子供達や兎神子(とみこ)達と遊ぶ時…
愛は、束の間、皮剥を受けた事も、赤兎に兎幣された事も、すっかり忘れる事ができた。
彼らと遊んでいる間、何もかもが、前と全く同じだったからである。
年中、太郎をどやし付けてる事も…
怒鳴られ、怒られながらも、ホの字な愛の尻を、太郎が追い回す事も…
そんな二人を中心に、よくネタが尽きないなと思われる程、次から次へと新しい遊びを思いつき、境内や、社(やしろ)周辺の山河を駆け回る事も…
何もかもが、前と全く同じであった。
ただ、一つだけ違う事…
それは、愛が常に全裸でいると言う事であった。
赤兎は、いかなる時も着物を着る事が許されない…
手拭い一枚、身体(からだ)を覆って隠す事も許されない…
絶えず、一矢纏わぬ姿を、誰の目にも晒しておかなければならない事は、神饌組と遊んでるいる間も同じであった。
その事が、常に神饌組の子供達や兎神子(とみこ)達の心を激しく突き刺していたが…
愛と向き合う時、そんな事意にも解さぬ風に振る舞っていた。
愛が一人だけ全裸でいるなどと言う事が、まるでないかのように振る舞い、それまでと何ら変わらなぬ風に接し続けたのである。
しかし…
子供達の前で、愛は少しずつ身体(からだ)に変調を来して行った。
胸の膨らみは少しずつ増し、未だ発芽は見られぬものの、股間をはしる神門(みと)のワレメは縦長に伸びていった。
愛の御祭神が目覚め、血を流す姿も、子供達は目の当たりに目にした。
少しずつ大人の身体(からだ)になり行く愛の姿を、生々しく目の当たりにしながら、男の子達は、次第に心落ち着かぬものを感じ始めた。
特に、愛に心を寄せる太郎は…
愛も、それはひしひしと感じていた。
太郎が、自分を見る時、落ち着かなげに身体(からだ)をもじつかせる事…
太郎が日増しに、自分から…厳密には、始終剥き出しにされた自分の身体(からだ)から目を背けようとしてる事…
そして…
『わあ、太郎の兄貴、穂柱をおっ勃ててるぞー!』
『本当だー!本当だー!愛ちゃん見て、穂柱をおっ勃てるー!』
ある日、皆で風呂に入ろうと着物を脱いだ途端、神饌組の子供達は、褌を脱ぐ太郎を見ながら囃子たてた。
『うるせーなー!そんなんじゃねー!小便我慢してただけでえ!』
太郎が、顔を真っ赤にムキになって言えば…
『愛ちゃん見て、穂柱おっ勃てたー!』
『愛ちゃん見て、穂柱おっ勃てたー!』
子供達はますます囃子たて…
『そんな、恥ずかしがる事はねえじゃねえかよ。』
『そうともよ!好きな子を見て反応するってのは、大人の男になった証だぜ!おいらは、嬉しいぜ、兄弟!』
政樹と竜也が、太郎の肩をバンバン叩いて言う。
そして…
『さあ!ここは一発、本物の男になろうじゃねえか!おめえの思い、愛ちゃんにぶつけようぜ!』
と、貴之が捲し立てる。
『タカ兄貴!思いをぶつけるって、どうするんだい?』
神饌組の子供達の誰かが、聞かなくてもわかる質問を、わざと声高々にして、貴之に投げかけると…
『決まってるじゃあねえか!思い切り抱きついて、押し倒して、おっ勃ったてたモノを、愛ちゃんの中に入れるのよ!』
『どーやって?』
『よっしゃーっ!今、見本見せてやるからなー!』
貴之はいよいよ調子づいて言うなり…
『おいっ!チビッ!ちょっと来てくれ!こいつらに、男女の手本を…』
と、早苗に呼びかけると…
『ダメーーーーーーーッ!!!!!』
と、早苗の代わりに亜美が飛び出して来て、例によって、特大の巻木で、貴之の頭を目掛けてフルスイングするのであった。
そんな光景を前に、愛が頬を赤くして俯くと…
『愛ちゃんはどうなの?』
いつの間に側に寄ってきた雪絵が、愛の耳元近く囁きかけてきた。
『えっ?どうって…』
戸惑う愛に…
『お股、ジクジクしてるポニョ。』
これまた、いつの間に、反対側の横に寄ってきていた茜が、愛の股間を弄りながら言った。
『あの…その…それは…』
ますます戸惑う愛に…
『男の子が、その子を見て穂柱勃てるのは、身体(からだ)がその子を好きだと言ってる証…』
『女の子が、それを見てお股をジクジクさせるのは、穂柱勃ててる男の子に、私も好きだと身体(からだ)が言ってるポニョ。』
雪絵と茜は、愛の肩を抱きながらクスクス笑い出し…
『太郎君に、抱かれちゃいなよ。』
『大丈夫ポニョ。好きな子とする時は、痛くないポニョ。気持ち良いポニョ。』
と、更に耳元近く囁きかけた。
太郎に抱かれる…
それはもう、かなり前から考えていた。
最初は、皮剥を受ける少し前…
どうせ、もうすぐ大勢の男達に群がられ、メチャメチャに弄ばれる日々がやって来る。
ならば、最初の相手として太郎に抱かれよう…
次に思い始めたのは、太郎達に借り切られ、守られるようになって半年近く過ぎた頃…
『ほら、太郎君の穂柱、今日もこんなに白穂を出して…』
愛はまた、太郎が朱理の掌に、多量の白穂を放つ光景を目の当たりにした。
『朱理先生…俺、俺、本当にもうどうにかなっちまいそうだよ。どうすれば良いか、わからないよ。』
『そんなに好きな、愛ちゃんを抱けば良いではごじゃりませんか。愛ちゃんも、太郎君に抱かれるのなら、嫌ではないと思うでごじゃりますよ。』
『でも…愛ちゃんには、本当に好きな人がいる事を、俺は知ってるんだよ。本当に抱かれたい人がいるって事…』
『太郎君…』
『朱理先生だって、本当はその人に愛ちゃんを抱いて欲しい…愛ちゃんに、その人の赤ちゃんを産んで欲しいって、願ってるんだろう…』
『願うと言うよりは…』
朱理は、太郎の白穂に塗れた手を、近くの井戸で洗いながら、ニッコリ笑って見せた。
『私も、ナッちゃんも信じてるでごじゃる。』
『だったら…』
『カズ兄ちゃんは、トモ姉ちゃんを心底愛しながら、ナッちゃんの事も愛し、私の事も愛してくれたでごじゃる。三人とも、カズ兄ちゃんに抱かれて、幸せでごじゃる…
愛ちゃんだって…』
『俺にはできねえや…』
太郎は言うと、腕を目に当てて、啜り泣き始めた。
『本当に抱いて欲しい人がいる愛ちゃんを、俺の身体(からだ)が求めるままに抱くなんて…それでなくても、九歳になって間がなく、好きでもない連中によってたかってあんな目に合わされてる愛ちゃんを、俺まで…』
『優しいのでごじゃるな。』
朱理はまた、太郎の穂柱を愛しげに揉み扱きながら言うと、そっと着物を脱ぎ始めた。
『朱理先生…』
『太郎君、目を瞑るでごじゃるよ。』
『目を瞑るって…』
『今から太郎君が抱くのは、私ではごじゃりません。愛ちゃんを抱くでごじゃる。』
『でも、朱理先生…俺、穂供(そなえ)の玉串、払ってない…』
戸惑う太郎に、朱理はもう一度笑いかけながら、張り詰めた穂柱の上を跨ぐように蹲み始めた。
『玉串なら、もう頂いているでごじゃる。』
『えっ?』
『私達の大切な愛ちゃんをいつも守ってくれてるでごじゃる。本当は抱きたくてたまらないのに、愛ちゃんの気持ちを大切にして堪える程、優しい気持ちをかけてくれてるでごじゃる。
神前に捧げる本当の玉串は、真心にごじゃる。』
朱理はそう言うと、太郎の穂柱をゆっくりと参道に受け入れて、腰を動かして始めた。
『さあ、目を瞑って…』
太郎が、言われるままに目を瞑ると、朱理は更に太郎の手を自身の胸の膨らみに運んだ。
『太郎君、教えたように、優しく揉むでごじゃる。太郎君が、今抱いているのは、愛ちゃんでごじゃるよ。』
朱理が言うと、太郎はぎこちない手つきで、言われるがままに胸の膨らみを揉み始めた。
『アァ…アァ…太郎君、良い…良いでごじゃるよ…アァ…アン…アン…アァ…』
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
『そうでごじゃる…そうでごじゃる…太郎君が抱いてるのは、愛ちゃんでごじゃる…』
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
太郎は、促されるままに愛の名を口走り、朱理の胸の膨らみを愛のものだと思って揉みながら、いつしか涙を溢れさせていた。
『アァァ…アァァ…アァァ…』
愛は、太郎が自分だと思って朱理を抱く光景を見つめながら、ごく自然に股間に手を忍ばせ、喘ぎ出していた。
『アン…アン…アン…アァァ…』
脳裏には、野獣の如く目をギラつかせて、幼い愛に群がり貪る男達の姿ではなく…
優しく胸の膨らみを撫でさすり、神門(みと)のワレメを舐め愛撫する愛しい人の姿が浮かび出す。
皮剥以来…
絶え間なく愛に群がり、のし掛かり…
愛の三つの参道に白穂を注ぎ込む男達…
彼らに貪られながら、彼らが消え去り、それをするのが、その人だったらどれだけ良いだろうと思う毎日…
『アンッ…アンッ…アンッ…アーンッ…』
愛は、皮剥の日からずっと、守り続けてくれた、太郎の名を口走ろうとした…
太郎になら、抱かれても良い…
太郎になら、何をされたって構わない…
太郎になら、膨らみかけたこの胸も、発芽の兆しもない股間も…
太郎がしたいと思う事を、したいだけさせたって構わない…
太郎になら、何をされても恥ずかしくない、痛くない…
太郎にだったら…
『アッ…アッ…アッ…アッ…』
愛は、様々な事に思いを馳せながら、更に神門(みと)のワレメを弄り続ける。
幼いながらにも濡れていた…
愛の小さな参道は潤い、神門(みと)のワレメはしっとりと濡れていた…
愛の頭の中は次第に真っ白になり…
今にも、心の中で一人の男が絶頂に導こうとしてくれている。
愛は、その男の名を口走らせようとした。
その男の名を口にすれば、天の果てまで上り詰めた気持ちになれるだろう…
太郎君…
一瞬、愛は、その名を口にしようと思った…
皮剥の日から、ずっと守り続けてくれた少年の名を口にしてしようと思った…
しかし…
『親社(おやしろ)様…』
愛は、全く違う名を口走りながら、股間を弄る手の動きを止める事なく、意識がどこかに飛んで行くのを感じたのである。

兎神伝〜紅兎二部〜(23)

2022-02-02 00:23:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(23)恋敵(5)

宿坊を見れば…
いくつかの部屋に灯る明かりが、いつまでも消える事なく、朧に浮かぶ。
雪の夜に浮かぶ冬蛍の如く、淡く甘い彩の灯火…
それぞれの恋人達と篭る寝屋で、二人だけの濃厚な宴会を開いているのだろう。
明日は、神饌所を閉じて、共食祭は休みにするかな…
対して強くもないのに、無理して励んで、夜明けには屁ばりきってる、政樹と茜の姿を思い出しながら、笑いを堪えてふと思う。
と…
おや?
進次郎の部屋の灯りが、いつまでも消えない…
純一郎の部屋は、灯ると同時に消えたのに…
何故?
彼の部屋に入る白兎がいるとも思えず…
さりとて…
相部屋をする太郎と、男同士のそう言う関係とも思えない。
ふと…
宮司(みやつかさ)屋敷を出て行く時、愛に唇を重ねられた時の、太郎の目を思い出す。
じわりと滲む、涙の滴…
あれは、あの日の涙と同じであった。
『やい!名無し!テメェ、見損なったぜ!テメェ、愛ちゃんの何にもわかってねえんだな!』
私の耳の奥底に、あの日の太郎の捨て台詞が、また突き刺してくる。
「爺じ、何を考えてるの?」
愛が、胸の中で笑みを浮かべて眠る赤子を撫でながら、窓の外を見つめる私の顔を見上げてきた。
「いや、何も…ただ、昔の事を思い出してね。」
「昔の事?」
「そう、昔の事…」
私が言うと、愛は小首を傾げて同じ方角に目を向けて、複雑な表情となった。
やはり、私と同じ日の事を思い出しているのだろうか?
或いは、別な日々の事を思い出してるのだろうか?
皮剥が決定的となってから、三月程の日々の事を…
あの頃。
太郎の身体(からだ)に大人への兆しが現れた。
穂柱周辺に、チラホラと発芽が見られるようになり、先端の皮が僅かばかし剥けかけてきた。
そして…
ある夜の夢の中に、裸の愛が姿を表すのを見て、強烈な疼きと抑えがたい尿意に似たものに襲われた刹那、真っ白いモノを大量に漏らすと言う事が起きた。
それが、白穂だと言う事を教えたのは、朱理であった。
それ以前からも、太郎は愛と風呂に入る度に襲われ始めた身体(からだ)の変化について、朱理に相談していた。
『太郎君、愛ちゃんを見て、穂柱を勃てたでごじゃるな。』
愛を見て変化する身体(からだ)を慌てて隠し、逃げるように皆の側から離れる太郎に、朱理がクスクス笑って言うと…
『朱理先生…俺、どうしちまったんだろう?愛ちゃん見てると、どうにもこうにも落ち着かなくなって、気が狂いそうになって…どうしちまったんだろう…』
『それは、太郎君の身体(からだ)が、愛ちゃんを好きだと言ってるのでごじゃるよ。』
『俺の身体(からだ)が?』
『そう。男の子なら、普通の事でごじゃるよ。』
朱理は言いながら、さりげなく太郎の股間に手を伸ばすと、まだ張り詰めている小さな穂柱を揉み扱き出した。
『朱理先生、何を…』
慌ててふためく太郎に…
『身体(からだ)が、好きな子を好きだと騒ぎだしら、こうやって鎮めるでごじゃるよ。』
朱理はそう言って、クスクス笑いながら、更に太郎の穂柱を揉み扱いてやった。
しかし、その時はまだ、白穂が放たれるまでには、至らなかった。
始めて白穂が放たれるに至ったのは、愛の九歳の誕生日を迎えた時の事。
神饌組の子供達と兎神子達で、盛大に愛の祝いを行った夜…
夢の中に裸の愛が現れると、突然、激しい疼きと尿意に似た耐え難い感覚に襲われ、真っ白いモノを大量に漏らしたのである。
『それが、白穂にごじゃるよ。』
朱理はまた、この身体(からだ)の変化に恐れを成して相談する太郎に、クスクス笑いながら、答えて言った。
『白穂?』
『それを、女の子の中の御祭神に捧げると、赤ちゃんになるのでごじゃる。
太郎君の穂柱が、愛ちゃんの身体(からだ)を見てムズムズするのは、穂袋の中の白穂達が、愛ちゃんの中に祀られている御祭神様を、早くお参りして、赤ちゃんになりたがってるからでごじゃるよ。』
『俺の白穂が…愛ちゃんの中に…』
太郎は、一言そう呟くと…
『穂柱が、白穂を外に出してやれるとなったと言う事は…太郎君も大人になったでごじゃるな。良い子良い子…』
そう言って、その日も愛の身体(からだ)に反応して目一杯膨張している、小さな穂柱を愛し気に撫で扱く朱理を見つめたまま、押し黙ってしまった。
その日を境に、太郎は愛を囲んで神饌組の子供達や兎神子(とみこ)達と遊ぶ間中、難しい顔をして黙り込む事が多くなった。
皆で風呂に入る時も、前みたいにいち早く愛の側に来て、背中を流し合う事もしなくなり、皆から離れて身体(からだ)を洗い、逃げるように飛び出す事が多くなった。
そんなある日…
『太郎君、洗ってあげるね。』
愛は、不意に太郎の側にやって来て、十八番の片目瞬きをして笑いかけるや、背中を流し始めた。
『太郎君、最近元気ないね。どうしたの?』
『別に、何でもねえよ。』
『そお?遊んでる時も、余り話しをしないし、何か、みんなと離れる事が多いし…
それに…』
『それに?』
問ひ返す太郎に、答える代わりに、愛は太郎の前に膝を抱いて座り込んだ。
『私の背中も洗って。』
『えっ…あの…あの…』
目の前に、それまでひたすら見ないよう心がけてきた、真っ白で柔らかな肌…
ほっそりとした背中の下には、床に沈んだ裏神門の線が微かに見えている。
太郎は、激しく鼓動が高鳴るのと同時に、穂柱がムズムズの疼き出し、それまで必死に抑え続けてきた衝動に、再び苛まれ始めた。
触りたい…
触りたい…
抱きしめたい…
そして…
『ねえ、洗って。ねえ、太郎君ってば…』
太郎の胸のうちの葛藤などつゆ知らず、痺れを切らせたように振り向く愛は、思わず『アッ…』と、息を飲み込んだ。
太郎は、愛が真正面を向いて、その身体の全てを露わにするや、一層身を固く、金縛りにでもあったように硬らせてしまった。
『太郎君…』
愛もまた、一言だけ発すると、身を硬くして押し黙ってしまった。
太郎の視線が、まっすぐ自分の胸と股間に向けられている事に気付いたからである。
そう言う事か…
愛は、太郎の股間に目をやり、少し皮の剥けかけた小さな穂柱が反応してるのを見て思った。
やはり、太郎も同じ男なのかと…
そう思うと、何か少し寂しいものを感じつつ、両手を後ろの床につけて胸を突き出し、脚を拡げて見せた。
愛は、既に一年も前から、赤兎に兎幣される事を見越して、実の父親から田打を受け始めていた。
こう言う時、相手の男に自分の身体(からだ)をよく見せ、後は自由にさせる事を徹底的に仕込まれてもいたのである。
それに…
九歳を迎えた愛は、程なく受ける皮剥で、何をされるかも知っていた。
ならば…
どうせ、同じ事をされるなら、最初に太郎にされても良い気もしたのである。
しかし…
『いっ!痛い!』
不意に、憑かれたように手を伸ばす太郎に、胸を鷲掴まれた刹那、愛は思わず声をあげた。
『痛い!痛い!痛い!』
最近、仄かな三角形に膨らみ出した硬い胸を、乱暴に握り掴まれるのは、何も今日が初めてではない。
それまで、田打で痛い事をされるのは、小さな参道に指を挿れられるだけであったがのが、膨らみ出した途端、胸を鷲掴まれる事も加わった。
愛は、毎朝目覚めると、参道を指で掻き回された後、乳房のシコリをゴリゴリと握り掴まれる事から一日が始まる。
『痛い!痛い!お父さん、痛ーい!!!』
愛が腰を浮かし、首を振り立てて泣き出すと、すかさず父に頬を強く叩かれる。
『愛!何度言えばわかるんだ!泣くな!喚くな!痛いじゃない!気持ち良いですと言え!』
『き…き…き…気持ち…良い…です…』
『そうだ!それから、もっとして下さい…だろう!』
『もっと…して…下さい…』
『聞こえない!もっと大きな声で!』
『気持ち…良い…です…もっと…して…下さい…』
愛が、必死に食いしばる歯の隙間から、何とか絞り出すような声で言うと…
『もう一度!』
父は、更に強く愛の胸のシコリを鷲掴みに握り締める。
『アァァァァーーーッ!!!痛い!痛い!痛いよー!!!』
愛は堪らず、前にも増して一際声をあげて泣き叫び、遂には尿まで漏らすと…
『この馬鹿野郎!』
凄まじい怒号を浴びせられると同時に、手元の物差しを取る父に、全身所構わず打ち据えられ、決して痛みを口走ってはならぬ事を叩き込まれ続けたのである。
それでも…
『痛いよー!太郎君、やめて!やめて!』
やはり、実の娘に対して何処か手心を加えてする実の父親のそれと違い、本能の赴くままにする太郎のそれは桁違いに痛く、首を振り立てて泣き叫んでしまった。
『おいっ!どうした!』
『愛ちゃん、どうしたの?』
周囲が騒然となって振り向く中…
『もう!太郎君、だめじゃない!膨らみ始めた女の子の胸はね、痼があって、強く触られると痛いのよ!』
『だーめだポニョ~。好きな女の子の胸は、優しく、優しく触るポニョ~。』
側で見ていた雪絵と茜に叱られ、漸く自分のせいだと我に返り…
『あ…ごめん!愛ちゃん、ごめんよ!』
太郎は、慌てて手を引っ込めると、そのまま湯殿を飛び出して行った。
その日を境に、太郎との間には、何か気まづい空気が漂い、神饌組達と遊ぶ時も、互いに殆ど顔も合わせなければ、傍にも寄らぬ日々が続いた。
太郎に悪気がなかった事は、程なく知った。
『馬鹿でごじゃるな。』
あの後…
物陰に隠れて泣き噦る太郎を、朱理が優しく胸に抱いて慰めているの見かけた。
『女の子の胸は、赤ちゃんにお乳を飲ませる大事なところでごじゃるよ。女の子の御祭神様に捧げる、白穂をつくる男の子の穂袋と同じにごじゃる。優しく、優しく、するでごじゃるよ。』
『優しく?』
『そう、優しくでごじゃる。』
朱理が、太郎の頭を優しく撫でながら言うと…
『でも、俺…どうしようもなくなっちまいそうなんだよ。』
太郎は、朱理の顔を見上げると、堪らなくなったように、また両目から涙を溢れさせた。
『愛ちゃんを見ていると、自分でも何が何だか分からなくなって、どうしようもなくなって…気が狂いそうになるんだ。』
『恋でごじゃるな。』
『恋?』
『そう…太郎君は、愛ちゃんに恋してごじゃるよ。それは、普通の事にごじゃるよ。』
『でも、俺…このまんまだと、愛ちゃんに何するかわからないよ。愛ちゃんを傷つけるような事をしたら、俺…』
『大丈夫でごじゃるよ。恋は、いつか愛に変わるでごじゃる。愛に変われば、優しく扱えるようになるでごじゃる。』
『愛に?』
『そう、愛に…で、ごじゃる。それじゃあ、太郎君…』
朱理はそう言って何やら促すと…
『はい、朱理先生…』
『さーてと、今日は恋が愛に変わった時、女の子をどう扱うか、教えるでごじゃるよ。』
朱理は、尚も愛の身体を見て反応し続ける小さな穂柱を目の前に、顔をくしゃくしゃにして笑って見せると、優しく扱き出し始めた。
愛は、それから度々、太郎が朱理の手解きを受けている姿を見かけた。
『アー…アァァー…アァァー…』
『どうで、ごじゃるか?気持ち良いでごじゃるか?』
朱理が、太郎の穂柱を優しく扱きながら尋ねるのに対し…
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
太郎は、ひたすら、愛の名を譫言のように呟き続けた。
『そうでごじゃる、そうでごじゃる。そうやって、愛ちゃんの姿を思い浮かべながら、どう触れるか考えるでごじゃる。』
朱理はそう言うと、徐に両肌を脱ぎ、剥き出しの乳房に太郎の手を添えてやった。
『さあ、優しくするでごじゃる。今、私が触っているのと同じように、優しく優しくするでごじゃる。』
『愛ちゃん…愛ちゃん…愛ちゃん…』
『うんうん、上手でごじゃる、上手でごじゃる…』
太郎がぎこちない手の動きで乳房を揉むのに合わせ、朱理は慣れた手つきで、更に穂柱を揉み扱く…
やがて…
『愛ちゃんっ!』
太郎は、声を漏らしながら身を仰け反らせると同時に、穂柱から噴水の如く白穂を宙に放った。
愛は、一部始終を見守りながら、我知らず手を股間に忍ばせていた。
それは、産まれて初めて知る身体(からだ)の疼き…
同時に、父から受ける田打も、痛くて恥ずかしい事ばかりでない事も思い出す。
その日の辛い田打の終わり…
『愛、脚を拡げて…』
愛が言われるままに脚を広げると…
『すまない…愛、すまない…』
父は涙声で言いながら、神門(みと)の極部から付け根にかけて、優しく愛撫し、舐め回す。
『アァァ…アァァ…』
愛は、何とも言えない父の指先と舌先の感触の心地よさを思い出しながら、我知らず喘ぎを漏らして更に股間を弄った。
次第に参道から溢れ出るものに神門(みと)が湿りだす。
同時に過ぎる三つの顔…
父の顔…
太郎の顔…
そして…
何れかの名を口走りたいと思いつつ、何れの名を呼ばわるか決めかねつつ…
『アァァーーーーッ!!!』
一際声を上げる愛の頭の中が、真っ白になった。
湯殿での一件があって以来…
太郎との気まづく、顔を背け合う日々が続いた。
その間、神饌組の子供達も、今一つ遊びに気が入らなかった。
彼らの中心は、いつだって愛と太郎であり、年中、愛に怒鳴られながら、その後を追い回す太郎の姿に、皆盛り上がっていたのである。
その二人が気まずいと、自然、皆も気まずくなってしまい、神饌組の子供達の間に、妙に重苦しい空気が漂う日々が続いた。
そんな最中…
河曽根組の悪ガキ子弟達に絡まれている兄妹を助けようとした愛が、逆に乱暴されそうになる事件が起きた。
そこへ、間一髪、太郎率いる神饌組達が現れ、死闘とも言える喧嘩をした末、河曽根組子弟達を撃退し、愛を救った。
『太郎君、ありがとう。ありがとう。』
太郎の腕の中で泣き崩れる愛は、この時、漸くそれまでの気まずさを克服し、再び威張り散らし、怒鳴りつけながらも、太郎と仲良く遊べるようになった。
しかし、漸く愛と太郎が今まで通りの仲を取り戻し、神饌組の子供達の間に明るい笑い声が戻ってきた時…
一時は中止に傾きかけていた愛の皮剥が、突然、決定された。
総宮社総宮司(ふさつみやしろのふさつみやつかさ)慎太郎の意向であった。
愛の皮剥の中止と、更には、赤兎の兎幣そのものの廃止に、鱶見本社(ふかみのもとつやしろ)の世論が傾きつつある中…
鱶見大連職(ふかみのおおむらじしき)を狙う河渕産土宮司(かわぶちうぶすなつみやつかさ)の恵三連(よしみつのむらじ)は、赤兎の利権に群がる神使(みさき)衆や大商工座衆、そして、神漏衆(みもろしゅう)総帥である康弘連(やすひろのむらじ)の支持を得るべく、総宮社(ふさつみやしろ)を動かしたのである。
『愛ちゃんを赤兎だ何て認めねえ!絶対認めねえぞ!俺達神饌組が愛ちゃんを守る!そうだろう!みんな!』
『そうだ!そうだ!』
『神饌組は裸の兄妹姉弟(きょうだい)だ!』
『生きるも死ぬも一緒だ!愛ちゃんを赤兎にするなら、神漏(みもろ)だろうと、神使(みさき)だろうと、俺達が相手だ!』
太郎率いる神饌組の子供達が息巻き、彼らの隠し砦に立て篭もろうとする中…
『馬鹿な真似は寄せ!』
『愛ちゃんと一緒に出てくるんだ!』
どんなに時も、彼らの味方である筈の政樹と竜也が、今回は思い留まるよう、説得に当たった。
『何故だ!兄貴は、俺達の…愛ちゃんの味方じゃねえのか!』
『そうだ!そうだ!兄貴達は、愛ちゃんを神職(みしき)共のスケベ爺い達に、よってたかって食い物にされても良いってのかよ!』
『美香ちゃんって子みたいに、毎日素っ裸にされて、社領(やしろのかなめ)中のろくでなし共に酷い目に合わされて、平気なのかよ!』
太郎率いる神饌組の子供達が涙まじりに叫ぶ中…
『俺達だって同じ思いだよ…誰が、愛ちゃんを…』
『でもな…でもな…』
政樹と竜也は、嗚咽に声を詰まらせた。
すると…
『このまま、君達が愛ちゃんと一緒に立て篭もり、騒ぎを起こせば、親社(おやしろ)様が失脚される。』
政樹と竜也の後から現れた和幸が、物静かに言った。
『親社(おやしろ)が失脚だと!そんなの知るか!カズ!ヒデ!解け!離せ!馬鹿野郎!』
少し離れた土蔵から、和幸と秀行の二人がかりで縛りあげられた貴之の叫び声が飛び交ってくる。
『おい!太郎!待ってろよ!俺はお前達の味方だぜ!社領(やしろのかなめ)中!いや、神領(かむのかなめ)中を敵に回しても、愛ちゃんをぜってえ渡さねえからな!』
対し…
『そうなれば…親社(おやしろ)様の手で建てられた、養護院、養老院、救護院、救貧院、救病院は全て取り潰される。
そこに暮らす、孤児や孤老達は行き場を失い、貧民達は飢餓に陥る。それで、良いのか?』
和幸は、太郎達と言うよりは、尚も太郎達と立て籠ると騒ぎ立てる貴之に聞かせるように言った。
『養護院や養老院…
建てたのは親社(おやしろ)様だが、建てるように願ったのは、愛ちゃん…実際に建てる時、みんなで力を合わせて手伝ったのは、太郎君達みんなだった筈。
漸く完成した時、君達とあんなに抱き合って喜んだ住人達はどうなると思う?』
『住む場所を失う…』
思わず憑かれたように立ち上がる太郎に…
『違う。皆殺しだ…』
和幸が静かに答えると、それまで熱り立っていた神饌組の子供達が、忽ち騒然となった。
すると…
『そうなんだよ…彼ら…彼ら…みんな、やられちまう…』
それまで、嗚咽を続けていた政樹が、漸く声にならなかった声を発して言った。
『兄貴…それって…』
太郎が愕然とした眼差しを政樹に向けると…
『住人達も、君達に共闘すると言い出し、騒ぎ出した。』
和幸が、再び静かに言葉を続けた。
『神饌組が愛ちゃんを守るなら、自分達も守るとね。
それを見て、好機とばかりに、康弘連(やすひろのむらじ)が河曽根組を出動させようとしている。
親社代(おやしろだい)様が康弘連(やすひろのむらじ)を、シンさんが養護院と救貧院の住人達の説得に当たっているが…
君達がこのまま立て籠れば、最早どちらも抑えきれないだろう。
太郎君、どうする?このまま立て籠るか?立て籠ると言うのなら、仕方ない。僕も立て篭もろう。立て篭もって、皆を道連れに死んで逝こう。』
太郎はじめ、神饌組の子供達は、和幸が静かに言葉を締めくくると、首を項垂れたまま、無言で立ち尽くした。
その時…
『太郎君、みんな、ありがとう。』
愛がスッと立ち上がると、皆に向かって、満面の笑みを浮かべた。
『私、皮剥を受けるわ。赤兎になる。』
『愛ちゃん…』
神饌組の子供達が、一切に涙目を向けると…
『明日から、養護院や救貧院、一つづつ回ってみんなと一緒に遊ぼう。私、みんなにもお礼言わないと…』
愛は、十八番の片目瞬きをして見せた後…
『太郎君、好きよ、大好き。』
そう言うなり、太郎に思い切り抱きついて、涙に濡れた頬に口づけをして見せた。
そして…
皮剥の日がいよいよ数日後に控えた日…
『ねえ、太郎君…』
その日も参籠所の湯殿で太郎と背中を流し合った後…
不意に太郎の方を向くと、まだ膨らみ始めた小さな胸を突き出し、脚を大きく拡げてニッコリ笑いかけた。
太郎はまた、思い切り生唾を呑み込んで押し黙ったまま、ジッと愛の身体を見つめた。
『触りたい?』
愛の問いに、太郎は押し黙ったまま何も言葉を発しなかったが、股間を見れば、皮が剥けたばかりのまだ幼い穂柱の反応が、雄弁に答えていた。
『触っても…良いよ。』
『愛ちゃん…』
漸く、太郎が上ずった声を発すると…
『でも、優しくね。』
愛は十八番の片目瞬きをして、クスッと笑って見せた。
太郎はまた、あの時のように憑かれたように手を上げると、ゆっくりと愛の胸へと伸ばされてゆく。
愛は、太郎の震える手が、膨らみ始めたばかりの胸に近づくにつれ、鼓動が高鳴り、呼吸が早くなるのを感じた。
次第に頭の中が真っ白になってゆく。
太郎が胸に触れた後、何をどうしたら良いのだろう…
日頃、父親に仕込まれてるところに従えば、求められるままに唇を重ね、相手が望むところを弄らせておきながら、重ねた唇をゆっくり移動する。
頸筋から胸…
胸から腹部…
そして、股間へと…
舌先を少し出し、チロチロ擽るように舐め回しなごら、ゆっくりと唇を這わせてゆき…
丹念に揉みほぐされて膨張した穂柱と、その下の穂袋を舐め、咥え、しゃぶり…
最後は…
しかし…
そこまで、父に仕込まれた通りに、これから太郎とするべき事を思い浮かべた時…
不意に、太郎とは別の顔が脳裏を過ぎって行った。
そう…
太郎達と出会う前…
毎日のように、二人だけで切り絵を楽しんだ男…
共に山に出かけて、切り絵の題材を探した男…
彼の為に毎日、お弁当を拵えた男…
父親と同じくらいの年齢でありながら…
ずっと歳下の幼子に見え…
まるで、小さな弟のように扱った男…
それでいて…
共に遊び終えて、二人だけで風呂に入った途端…
急に父親のように全てを包み込むように、優しく抱きしめてくれた男…
父親の田打を受けてる最中…
これをしてるのが、彼だったらどんなに良いかと思い続けた男…
『アッ!』
愛は、震える指先の感触が、小さな胸の膨らみに触れた途端、思わず声をあげて肩を硬らせた。
それまで憑かれたように、愛の胸に手を伸ばしていた太郎は、その声に我に返ると、そのまま伸ばした手を引っ込めた。
『太郎君…あの…』
愛もまた、思わず声を上げてしまった事に気づくと、慌てて次の言葉を口に仕掛けた。
すると…
『愛ちゃん、ありがとう。でも、もう良いんだ。』
太郎は、愛の言葉を遮るように言いながら、寂しく笑って見せた。
『あの…でも…太郎君…』
愛は尚も何か言おうとすると…
『愛ちゃんが、本当にそうして欲しいのは、俺じゃないんだろう。愛ちゃんが、本当に好きで、その思いからこうしたいのは、もっと別の人だ。俺、知ってるんだ。』
『太郎君…』
『愛ちゃん…皮剥を受けても…赤兎になっても…ずっと友達だからな。俺も、神饌組も、ずっとずっと、愛ちゃんの味方だからな。』
太郎は、それだけ言うと、愛の十八番である片目瞬きを真似て見せた後、愛に背中を向け、湯殿を去って行った。

兎神伝〜紅兎二部〜(22)

2022-02-02 00:22:00 | 兎神伝〜紅兎〜追想編
兎神伝

紅兎〜追想編〜

(22)恋敵(4)

「慕う気持ち…抱かれたい気持ちは、大事にね…
朱理先生、前に、俺に言ったことを、そのまんま、言われてらあ。」
少し離れた布団の中…
狸寝入りの太郎は、クスクス笑った。
『本当は、抱きたかったのでごじゃろう。』
『へん!俺を、町の変態親父達と一緒にするんじゃねえや!』
愛が皮剥を受けてから、二年近く過ぎた頃…
その日も、太郎は悪ガキ達率いて護衛を務め、愛を社(やしろ)に送り届けると…
『よう、兄弟!風呂沸いてるぞ!』
竜也が気さくに声をかけてきた。
『ねえ、久し振りに一緒に入って行こうよ。』
雪絵も、太郎の腕を組んで言った。
『あ…でも、あの…俺達、これから…』
慌てる太郎に…
『なーに、今更照れてんのよ。あんたの身体(からだ)は、穂柱に生え始めた毛の数まで知ってる中じゃないのさ。さあ、さっさと脱いだ脱いだ。』
雪絵が、半ば強引に太郎の着物を脱がせにかかった。
『兄貴、せっかくだから、ご相伴にあずかりやしょうぜ。』
『そーだよ、兄貴。おいらも入りてえや。』
『今日が初めてってわけでもねえんだしさ。』
子分の悪ガキ達も、口々に言う。
確かに…
兎神子(とみこ)達と風呂に入るのは、初めてではなかった。
愛が皮剥される前、皆で真っ黒になって遊んだ後、よく参籠所の風呂に入って、更にひと暴れしたものである。
その日も、あの頃と同じつもりになると、太郎は言われるままに、皆と着物を脱ぎ捨てて参籠所の風呂に入った。
最初、特に変わった事は何もなかった。
兎神子(とみこ)達と悪ガキ達は、いつも通り、湯船の中で泳ぎまわったり、お湯を掛け合ったり、外の延長で暴れ回っていた。
『よう!少しは、毛深くなったか?』
横から、太郎の股座を覗く政樹が言えば…
『兄弟!また、デカくなったじゃないか。これなら、もう十分、女抱けるだろう。』
竜也も、横から太郎の股座を覗きながら言った。
それも、かつて皆で遊び、皆で風呂に入った時と、何ら変わらなかった。
しかし…
その時、政樹と竜也が頷きあったのを合図に、一人、また一人と、示し合わせたように、参籠所を去って行った。
そして…
気づけば、さっきまで、秀行と亜美に丹念に身体(からだ)を洗って貰ったり、参道と御祭神の状態を診てもらっていた愛が一人だけ残されていた。
『あれ?みんな、何処に行っちまったのかな?』
太郎が首を傾げて言うと…
『太郎君、身体(からだ)、洗ってあげようか?』
愛が、側に寄ってきて言った。
『あ…うん、ありがとう…』
太郎は、狐につままれたような顔をして、言われるままに、愛に身体(からだ)を洗って貰った。
これも、別に今に始まった事ではない。前から、こうして、悪ガキ仲間の女の子達や兎神子(とみこ)達とよく洗いっこしていた。
『ポヤ?太郎君、また、お毛毛が生えたポニョ~。』
『あら、本当。太郎君も、段々と大人になってきたのねー。』
太郎の穂柱の周りに、最初に毛が生え始めたのを見つけたのも、茜と雪絵であった。
『さあ!今日も、何本生えたか、数えるポニョ~。』
『一本、二本、三本…』
『お…おい、おい、やめてくれよ!なあ、おい!おいってばー!』
周囲で仲間達がゲラゲラ笑う中、暴れる太郎を押さえつけ、新たに生えた毛の数を、毎日数え上げたのも、茜と雪絵であった。
ここでは、男の子も女の子も関係ない。
太郎率いる悪ガキ達の男の子も女の子も、黒兎も白兎も、みんな一緒に素っ裸になって、洗い合い、ふざけ合い、遊び回ったのである。
それを、恥ずかしいと思う者は一人もなかった。
ただ…
今日は、愛と二人きりと言う状況に、太郎は落ち着かないものを感じていた。
『ねえ、太郎君も洗って。』
『あ…うん、良いよ…』
太郎は、言われるままに、愛の背中を洗ってやった。
真っ白い肌であった。
柔らかな肌であった。
綺麗な身体(からだ)だと思った。
それだけに、こんな綺麗なものが、行く先々で玩具されてきた事を思うと、涙が溢れそうになった。
すると…
『太郎君、前も洗ってくれる?』
『えっ?』
驚く間も無く、愛は、太郎の方を向いた。
太郎は、思わず生唾を飲み込んだ。
こんなのも、別に今日が初めてと言うわけではなかった。
『ほーら、なーに照れてんのさ。さっきは、愛ちゃんにちゃんと洗って貰ったんでしょう。今度は、太郎君がちゃーんと洗ってあげなさい。』
『そうポニョ、そうポニョ。大好きな愛ちゃんの大事なところ、綺麗、綺麗に洗うポニョ~。』
『そうそう…
優~しく、優~しく、舐めるように洗ってあげるのよ。』
『何なら、本当に舐めてあげても、良いポニョ~。大好きな愛ちゃんの、大事なところ、ペロペロ舐めても、良いポニョ~。』
これまた、容赦ない雪絵と茜に冷やかされ、周りを囲んでゲラゲラ笑う仲間達の前で、後ろも前も、散々洗い合った仲であった。
それに…
この二年近くに至っては、風呂に入るまでもなく、嫌と言うほど見せつけられてきた、愛の身体(からだ)である。
それでも、こうして、面と向かって見せられると…
何て綺麗なんだろう…
出会った頃、真っ平だった胸が、また少し膨らみを帯びて、丸み始めている。
もうすぐ、可愛い逆さ碗の形になるだろう。
少年と大差なかった身体(からだ)全体の線も、ほっそりとした曲線を帯びて、少しずつ少女から女の形を取り出している。
股間には、まだ、若草萌えるどころか、発芽の兆しもない。
その代わり、神門(みと)のワレメの縦線が長くなり、仄かだった薄紅色が色濃さを増していた。
太郎は、愛の身体(からだ)に目を向けたり背けたりを、忙しく繰り返しながら、どうにも落ち着かないものを感じた。
『ねえ、こっち見て。』
太郎がまた、愛の身体から背けた目を天井に向けると、愛はクスクス笑いながら言った。
『ほら、ちゃんとこっち見てくれないと、洗えないよ。』
太郎は、愛にもう一度言われると、憑かれたようにまっすぐ目を向けた。
一瞬、愛の股間に向け、何か弾かれるようなものを感じて背けた視線は、愛の胸に向けられると、逆に金縛りにあったように釘付けにされた。
触りたい…
太郎は、次第に穂柱の先端がむずむずと疼き出すのと同時に、強い衝動に駆られた。
そして、思わず伸ばしてかける手を、慌てて引っ込めた。
同じ事は、前にもあった。
愛が皮剥を受けて一年が過ぎ…
あの日も、悪ガキ達と領内(かなめのうち)の好き者達から護衛して、学舎(まなびのいえ)から連れ帰って来た時。
一緒に風呂に入って身体(からだ)を洗ってやろうとした時であった。
気づけば、愛の胸が少し膨らみ始めていた。
まだ、乳房と呼べるようなものではなく、三角形の小山のような形を帯びていた。
太郎は、それまで自分と対して変わらなかった、愛の胸の形が変化してるのを知ると、自身の身体(からだ)の変調にも気づいた。
穂柱の先端が、急にむずむずと疼き出して、落ち着かない気持ちになったのだ。
同時に、訳もわからず触りたくなった衝動を抑えきれず、思わず膨らみ出した愛の胸に手を伸ばした。
掌に、コリコリとした感触が走ると同時に、鷲掴む…
次の刹那…
『痛い!』
愛が思わず声を上げて、顔を背けた。
『えっ!』
太郎は、驚きつつも、鷲掴む手に更に力を入れる。
『痛い!痛い!痛い!』
愛が、更に声を上げると…
『もう!太郎君、だめじゃない!膨らみ始めた女の子の胸はね、痼があって、強く触られると痛いのよ!』
『だーめだポニョ~。好きな女の子の胸は、優しく、優しく触るポニョ~。』
側で見ていた雪絵と茜に叱られ、漸く自分のせいだと我に返り…
『愛ちゃん、ごめん!』
太郎は、慌てて手を引っ込めた。
以来…
二度と触れてはならぬと心に誓い、見ればまた触れたくなると思い、常に目を背ける事を心がけていた、美しく愛らしい膨らみ…
しかし、前よりも更に膨らみを帯びたそれを見ると、穂柱の先端が疼き出し、鼓動が激しく高鳴りだす。
触りたい…
思い切り触って、握りしめて…
膨らみの突起を口に含み…
そして…
太郎は、二度としてはならぬと言う心の誓いと、激しく駆られる衝動が、胸の中で激しくぶつかり合い、伸ばしかけた手をぶるぶると震わせ出した。
すると…
『触って…』
愛は言うなり、太郎の未だ震え続ける手をとり、自身の胸へと導いた。
『愛ちゃん…』
戸惑う太郎に…
『揉んでみて…』
愛はニッコリと笑いかけて言った。
『痛く…ない?』
太郎は、躊躇しつつも、最早歯止めの効かなくなった衝動のままに、愛の胸の上で指先に力を込める。
『うん。』
愛は大きく頷いて見せた。
柔らかい…
太郎は、愛の胸に触れる指先を動かしながら、新鮮な驚きと感動を覚えた。
何て柔らかいんだろう…
あの日、あんなに固かった膨らみが、ふわふわととても柔らかくなり、心地良い感触になっていた。
太郎は、頭の中が次第に暖かく浮かび上がるような感覚に陥りつつ、むずむずするような、穂柱先端の疼きが更に強まり、今にも悶え狂いそうになり始めた。
愛は、そんな太郎に、またニッコリ笑いかけると…
『いつも、守ってくれて、ありがとう。』
太郎の肩に腕を回し、そっと唇を重ねてきた。
そして…
『愛ちゃん、何を…』
太郎は、不意に我に返り、愛と重ねた唇を離した。
愛が、太郎と肩を抱く手の片方を、そっと背中の上をさするように移動させ、やがて股間へと伸ばされたからである。
『太郎君、しよう。』
愛は今にも破裂しそうな、太郎の穂柱を揉み扱きながら、うっとりするような眼差しを向けて言った。
『しようって…』
『私、十二歳になるまでに、どうしても赤ちゃんを産まないといけないの…でないと…』
『愛ちゃん…』
『叶うものなら、好きな人の赤ちゃんを産みたい…どれだけ多くの人に抱かれても、産まれて来る子は、好きな人との間にできた子であって欲しい…兎神子(とみこ)達みんなの夢なの…
だから…』
言いながら、愛はまた、唇を重ねた。
そして、金縛りにあったように身を硬くする太郎の唇から頸筋、更に胸へと唇を動かし、チロチロ舐めながら舌先を這わせていった。
やがて…
その舌先が下腹部を通り過ぎたかと思うと…
それまで揉み扱いていた、太郎の穂柱を咥えて舐め始めた。
『アッ!』
太郎は、思わず声を上げて腰を浮かせた。
愛の小さな舌先が、更にチロチロと、穂柱先端の裏側をくすぐってゆく。
太郎は、臍の下あたりから、何かこみ上げてくるものを感じ始めた。
いつだったか…
眠っている間にも、これと同じ感覚があった。
夢の中で、産まれたままの姿をした愛が、こちらを向いてにこやかに笑いかける夢を見た瞬間であった。
尿意?
しかし、それは、穂柱に力を込めても抑え切る事も我慢する事も出来ず、更に勝手にこみ上げてゆき…
目覚めた時、ヌルヌルしたモノで、褌が濡れている事に気づき狼狽した。
あの時と似た感覚が蘇ってくる。
そして…
いよいよ、臍のしたからこみ上げて来る熱いモノが、穂柱中程まできた時…
『やめろ!』
太郎は、叫ぶなり愛を突き放した。
同時に、愛の口腔内に放たれる筈だった白穂が、空を目掛けて放たれた。
『太郎君…』
『愛ちゃん、俺…俺…』
『太郎君、私の事、好きじゃないの?嫌いなの?』
愛は、忽ち涙目になって言うと…
『ああ、嫌いだよ!大っ嫌いだよ!そんな…そんな…俺、こんな事されたくて、守ってきたんじゃねえや!町のクソ親父達と同じにされたくて、守ってきたんじゃねえや!愛ちゃんに、ずっと、いつまでも、前のまんまでいて欲しくて守ってきたんだ!
それを…』
『でも、太郎君、私、誰かの赤ちゃん産まなくちゃいけないの!私、産むなら、好きな人の子供を産みたい!優しくしてくれる人の子供を産みたい!』
『その通りだよ、愛ちゃん…
俺だって、愛ちゃんには、愛ちゃんが一番好きだと思う人の子供を産んで欲しい。
でも、それは、俺じゃねえ。親社(おやしろ)様だろう?
俺、知ってるよ。愛ちゃんは、親社(おやしろ)様が好きなんだってな。だったら…』
『太郎君…』
『俺、嫌えだよ…誰かの子を産まなきゃならねえからって…本当に惚れた男以外の子供産もうとする愛ちゃん何て、大嫌ぇだよ!』
太郎は、そう叫ぶなり、顔を突っ伏し、声を上げて泣き出す愛を背中に、参籠所を飛び出して行った。
『どうして、愛ちゃんを抱かなかったでごじゃるか?』
境内の片隅で、一人蹲って泣きじゃくる太郎を見つけると、朱理は慰めるように、肩をさすりながら尋ねた。
『愛ちゃんが好きなんでごじゃろう?愛ちゃんに気持ちを伝えたくて、私のところで修行を積んだのでごじゃろう。』
『フン!あんな奴、あんな奴、もう好きじゃねえや!大嫌いだ!
他に惚れてる男がいるくせに…本当に子供をつくりてえ男がいるくせに…俺なんかと…』
『関係ないでは、ごじゃらんか。愛ちゃんに、他に好きな人がいる事と、太郎君が愛ちゃんを好きなのは別物でごじゃろう。
それに、太郎君の事も本当に好きなのでごじゃるよ。太郎君の子供を産みたい気持ちも、本当でごじゃる。』
『でも、一番産みたいのは、親社(おやしろ)様の子供…何だろう?
だったら…』
『太郎君は、本当に愛ちゃんが好きなんでごじゃるな。本当に好きだから、愛ちゃんには、本当に好きな人の子供を産ませてあげる為に、守ってきたのでごじゃるな。』
朱理は、尚も泣きじゃくる太郎の肩を優しく抱いてやりながら言った。
『でも、私は良いと思うでごじゃるよ。愛ちゃんに、一番好きな人の子供を産ませてあげたい気持ちとは別に、愛ちゃんを好きだと言う気持ち、好きだから抱きたいと言う気持ちも大事にすれば良いではごじゃらんか。
次は、抱いてあげるでごじゃるよ。』
『朱理先生…』
『可哀想に…今頃、愛ちゃん、どれだけ傷ついているでごじゃるかな?泣いているでごじゃるかな?
傷つけた分だけ、優しくしてあげるでごじゃるよ。』
しかし…
結局、最後まで抱く事はなかった。
本当は抱きたかった…
何度も抱こうと思った…
今だって、抱きたいと思っている。
愛が、今腕の中に抱いている子が、自分の子供だったらとも思っている。
しかし、抱かなかった。
『何故、抱かなかったのだろう…何故…何故…』
何度も自問自答を繰り返す後ろで…
「アン!アン!アン!アーーーーン!」
月影に照らす、仄暗い部屋の中…
朱理の甘えるような声が、いつ果てるともなく、こだまし続けた。