兎神伝
紅兎〜革命編其乃二〜
(30)海鳥
縁側に腰掛け、一人遠くを見つめる彼は、近寄り難い孤高を漂わせている。
それでいて、見ていると何故か胸の奥から込み上げるものを感じさせ、そっと肩を寄せて抱きしめたい気持ちにもさせられる。
だけど、今は…
明け六つに、そっと重ねられた唇に目覚めると、そこには懐こい彼の笑みが浮かんでいた。
これは、夢の続きなのだろうか…
若芽は、未だ微睡醒め目を擦りながら、そう思った。
いつも、厳しい眼差しをしている彼は、なまじスラリとしたやさおとこなだけに、一層の凄みを感じさせている。
これまで、彼が笑った顔を見た事がない。
なのに、今は…
『ちびまるちゃん…』
『結が食いてぇ。』
『お腹、すいたの?』
『ああ、腹ペコだ。』
『お姉ちゃん、握ってあげるね。』
若芽が言うと、小首を傾げて笑いかける彼の顔は、何とも幼くあどけなく…
愛しい気持ちが込み上げてくる。
若芽は、恒彦に連れられて、館の裏手にある台所に来ると、既に炊き上がっている白米に手を伸ばす。
結を握ると言っても…
両親の顔は知らない…
そもそも、どのような家で産まれてきたのかもわからない。
物心ついた時には、社(やしろ)の土牢に繋がれていて、神職(みしき)達の穂柱をしゃぶらされ、小さな神門(みと)に指や異物を捻り込まれ、参道を掻き回されて過ごしていた。
着物など、一度も着せられた事がなく、いつも全裸で寒さに震えていた。
当然…
料理どころか、女の子らしい事を何一つ教わった事など無い。
大門船で、渡瀬人(とせにん)達にしゃぶらされた穂柱の放つ白穂以外、何も食べる物を与えらず、いつも飢えている穢兎(けがれうさぎ)達に、こっそり食べさせる為に握ったのが、産まれて初めてであった。
そんな若芽が、団子のような結を握る手を、待ちきれぬように覗き込む恒彦を見ていると…
一番幼かった丸子の事を思い出す。
『はい、刑部(ぎょうぶ)様。お結、できました。』
『おおっ、うまそうだな。』
恒彦は、また懐こい笑みを浮かべて結を受け取ると、夢中でかじりつき、胸につかえさせた。
若芽は急ぎ水の入った竹筒を取ると、何を思ったか不意に、水を口に含み、恒彦と唇を重ねて、流し込んでやった。
物心ついた頃から、家畜のように桶に首を突っ込んで水を飲まされた丸子は、竹筒の水をどうやって呑むか知らなかった。
それで、若芽はいつも口移しに飲ませてやっていたのである。
まるで、哺乳瓶のミルクを飲むように口移しの水を飲む丸子を見ていると、赤子の母になった気持ちにさせられたが…
流し込まれた水を、喉を鳴らして飲み込む恒彦も、同じ顔をしていた。
しかし…
不意に恒彦の舌先が、唇の中に潜り込んできた瞬間…
赤子の恒彦が、少しずつ大きくなって行き始めた。
若芽は、優しく抱きしめる恒彦の腕に身を委ねながら、舌先を絡ませる。
互いに互いの舌先を相手の唇の奥で絡ませる合うごとに、恒彦の顔は幼児から少年に、少年から青年となり…
年頃の若者となったところで、歳がとまった。
私の愛しい人…
刑部(ぎょうぶ)様…
恒彦が、重ねた唇を若芽の首筋に移しながら、着物の双肌を降ろされ、帯を解かれ出した瞬間…
恒彦は、若芽の赤子から弟に、弟から兄に…
そして、産まれて初めての男となった。
同時に…
最初は、平蔵の温もりが、男の温もりだとも思ったが…
今は、やはり違う、あれは父親の温もりなのだと思う。
同じ男の温もりでも、こんなにも違いがあるなどと言う事を、若芽は初めて知った。
七つで皮剥を受けて以来、数えきれぬ程の男達が若芽の中を通り過ぎて行ったが…
あれは全て、男に抱かれたと言うより、野獣に食い散らかされたと言う方が、正しかったからだ。
何処の社(やしろ)でも、黒兎や白兎達は、赤兎を妹のように可愛がる。
若芽もまた、七つで土牢を出され、赤兎としての日々を過ごすようになってから、黒兎や白兎達に可愛がられたが…
その黒兎に男を感じるより早く、白兎が産んだ仔兎神(ことみ)を、若芽が産んだ事にされ、青兎にされた。
それが、軍弾庁(ぐんだんちょう)内の軍弾館(ぐんだんやかた)に暮らし初めて、漸く二人の男を知る事になったのである。
『アッ…アッ…アッ…アァァッ…』
若芽は、椀を逆さにしたような乳房を揉まれ、乳首を吸われると、海鳥のような声をあげた。
実際…
潮の香り…
海の味…
若芽も恒彦の首筋から胸板にかけて唇を這わせ、その温もりを味わう毎に、自分は波の上を渡る海鳥になった気持ちになった。
飛んでいる…
飛んでいる…
刑部(ぎょうぶ)様と言う波の上を…
何処までも…
何処までも…
『アッ!』
若芽は、不意に下腹部から痺れを感じると、背を弓形にして跳ね上がった。
『アンッ!アンッ!アンッ!』
股間に回した恒彦の指先が、神門(みと)のワレメをなぞるのに合わせ、更に跳ね上がる。
そして…
『アァァーーーンッ!』
恒彦が乳房を揉みながら乳首を吸うのに合わせて、神門(みと)の先端包皮を捲りあげて、極部を直に摘むと、若芽は更に大きく跳ね上がって膝を崩した。
恒彦は、危うく仰向けに倒れそうになる若芽を、蹲み込んで膝に抱きとめると…
『一緒に、湯に浸かろうか…』
『はい、刑部(ぎょうぶ)様…』
虚な顔で頷く若芽に、また、懐こい笑みを覗かせた。
脱衣所に入ると、今度は、若芽が長椅子に腰掛ける恒彦の帯を解き、後ろから降ろす双肌に、唇にを這わせていった。
着物が滑るように脱がされて行くのに合わせ、暫し肩甲骨の辺りを丹念に舐め回すと、背骨に沿ってゆっくりと唇を這わせて行く。
そして、やがて腰まで来ると、褌を解きながら、股ぐらに小さな手を潜り込ませてゆく。
『フゥゥゥー…フゥゥゥー…フゥゥゥー…』
恒彦は、褌の中で穂柱を扱く手の動きに合わせ、大きく息を吐きながら、目を閉じる。
暖かい…
若芽は、次第に掌の中で穂柱が膨らんで行くと、クスクスと笑い出した。
やがて、褌が完全に外されると、恒彦の正面に周り、穂柱を扱き続けながら、股間に顔を埋めた。
『ハァァァー…ハァァァー…ハァァァー…』
恒彦の息を吐く声は、股間を舐める若芽の舌先の動きに合わせて、次第に大きく早くなって行く。
若芽の舌先は、穂袋を丹念に舐めた後、穂柱の付け根を擽り、更に裏側の筋に沿って舐めて行き、先端に辿りつくと、動きを止めた。
恒彦が静かに目を開くと、若芽の笑顔が、穂柱を扱き続けながら見上げている。
『どんな味がした?テツと余り変わらないだろう。』
『いいえ、全然違います。』
『そうか?』
『はい。平蔵様は、サラサラとして優しい味でしたが…刑部(ぎょうぶ)様は、しっかりして逞しい味がします。』
『俺の味は、逞しいのか。』
『はい。』
若芽が満面の笑みで大きく頷くと、恒彦はその頭を不器用に撫で…
『行こうか。』
また、少し首を傾げるようにして、懐こい笑みを浮かべた。
『アッ…アッ…アッ…』
露天の温泉の側で、岩石の風呂椅子に腰掛ける若芽は、後ろに座る恒彦の穂柱を扱きながら、喘ぎを漏らす。
『フゥゥゥ…フゥゥゥ…フゥゥゥ…』
大きく息を吐く恒彦もまた、若芽の背中を流しながら、仄かに若草を茂らす神門(みと)を、ワレメ線に沿って指を擦らせる。
『アッ!アッ!アッ!アッ!』
『フッ!フッ!フッ!フッ!』
二人の声は、互いの股間を弄り合う手の動きに合わせて、次第に大きくなり…
『フゥゥゥーーーーッ!』
恒彦の穂柱から、最初の白穂が大量に放たれるの同時に止んだ。
『刑部(ぎょうぶ)様のお白穂さん。』
若芽が手に掬う白穂を掲げながら、戯けた笑みで振り向くと…
恒彦は、唐突に唇を重ねながら、若芽の身体(からだ)をこちらに向かせた。
『アッ…アッ…アッ…アッ…』
恒彦の唇が、首筋を過ぎ、乳首に辿り着いて吸い出すと、若芽は再び声を漏らし出した。
若芽の身体(からだ)は、既に白桃色から薄紅色に紅潮し、湯に入るのを待たずして、すっかり火照っている。
恒彦が、若芽の股間に手を回すと、神門(みと)のワレメの中は、シットリと濡れていた。
テツの奴は、蜜の味がすると言っていたが…
この味は…
何と言うのか…
結の味…
いや…
結と言うより…
握る手の味…
握る手の温もり…
母の味…
母の温もり…
恒彦は、若芽の乳首を存分に吸うと、更に下腹部に向けて唇を這わしながら思った。
丸子が、あんなにも慕うわけだ…
この子は、身体(からだ)中から、母の香りを醸し出している。
十三にして、既に母親…
もし、ややを産んだら…
さぞかし…
しかし、恒彦の思いは、唇が若芽の股間に辿り着くと止まった。
神門(みと)の辺りは、漸く柔らかな若草が茂り出したばかりだと言うのに…
すっかり肥大して、熟女のようにはみ出した内神門(うちみと)の秘肉は真っ黒く変色し…
中を開いて見れば、剥離の跡だらけで、爛れていた。
幼い頃から、いったいどれだけ掻き回され、荒らされてきたと言うのか…
この状態では、おそらく御祭神も…
その時、不意に…
『イヤッ!イヤッ!ヤメテッ!ヤメテッ!お願い、ヤメテッ!』
初めて出会った頃…
誰かに触れられる度に、火のついたように泣き叫ぶ佳奈の姿が脳裏を過る…
『痛いよー!痛い!痛い!痛いよー!』
それでも、元々、赤兎ではなかった佳奈は、まだ泣き叫ぶ事が許されていた。
しかし、赤兎は…
『何だと?痛ぇだと?』
『痛えってのはな、こう言うのを言うんだ!』
『オラッ!足を拡げて見ろ!本当の痛みって奴を、教えてやるぜ!』
少しでも拒み、抗う言葉を口にすれば、凄惨な仕置きが待っている。
初めての航河で船酔いに倒れた恒彦を、優しく介抱してくれた赤兎の薊も…
『さあ、恒彦。おめぇも十五だ、いっぱしの男を見せて見ろ。』
『コイツとやりてでんだろう?存分にやれ。』
共に乗船する渡瀬人(とせにん)達に手足を抑えつけられ、大きく開かされた薊の股間を見た時…
真っ赤に腫れ上がった神門(みと)の内側を見れば…
それは、穂柱や異物を捻り込まれた時の傷とは、明らかに違う傷…
切り傷や刺し傷、火傷のような跡が、無数に見られた。
中でも針のようなもので刺されたような、神核(みかく)の傷は、無残であった。
そんな薊の参道を…
十五の盛りだった恒彦は、欲望の赴くままに貫いた。
あの時の苦悶に満ちた薊の顔…
しかし、それ以上に…
事を終えた後、自分のした事に震える恒彦に、優しく笑いかけた薊の顔は、片時も忘れる事ができず、遂に女を抱く事ができなくなった。
そして、今もまた…
恒彦は、若芽の股間に目を釘付けたまま、次第に全身に悪寒が走り、震えが止まらなくなり始めた。
すると…
『刑部(ぎょうぶ)様。』
若芽は、動きを止めた恒彦に呼びかけると…
『若芽…』
『私を鳥にして。刑部(ぎょうぶ)様の波の上を渡る海鳥に…』
『海…鳥…』
『はい。飛んで行きとうございます。刑部(ぎょうぶ)様とご一緒に…遠く、遠く、海の彼方へ…何処までも…』
蒼白になった恒彦に、ニッコリ笑いかけるや、今度は若芽の方から唐突に唇を重ねた。
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