兎神伝
紅兎〜革命編其乃二
(34)飛翔
飛んでいる…
遥かなる海の上を飛んでいる…
彼方に見えるのは、楽園に渡り、優しい家族に引き取られて行った丸子達の姿…
もう、いつも裸で船縁に繋がれて、便所代わりに弄ばれる事はない。
いつもお腹を空かせ、餌と称して突き出される穂柱にむしゃぶりつき、白穂を啜って過ごす事もない。
みんな、暖かい着物を着て、美味しいものをお腹いっぱい食べさせて貰って…
ガッコウと呼ばれる場所に通って、友達もたくさんできて、幸せに暮らしている。
燦々と照らす日差しの下…
鴎が飛び交い、海猫が歌う…
水底を覗き込めば、何と沢山の魚が踊っている事だろう。
波の上を跳ね上がるのは、イルカと呼ばれる生き物だろうか…
これは夢…
情事の間に見える幻の夢…
明日には全て消えて…
遣属使としてやってきた、聖領(ひじりのかなめ)の神職(みしき)達に、穂試(ためし)と称し、数日に渡って弄ばれ…
やがては、聖領(ひじりのかなめ)に連れて行かれ、今までにも増して過酷な日々が待っている。
それでも…
『アッ…アッ…アッ…アーンッ…アッ…アッ…アッ…アーンッ…』
若芽は、小さな乳房を優しく揉まれ、跨ぐ恒彦の股間の上で腰を動かしながら脳裏を過ぎる景色…
それは、眩いばかりに煌い輝きに満ちていた。
こんなにも、世界が美しい何て…
もっと…
もっと…
飛んで行きたい…
何処までも…
『アンッ…アンッ…アンッ…アンッ…』
恒彦の穂柱が、次第に固く熱を帯びるにつれ、若芽の全身も火照り出し、下腹部の辺りから、次第に熱いものが込み上げてくる。
また、中で泉の如く湧き出でようとしてるのだろう…
そうしたら、また、更に空高く、更に遠く彼方へと飛んで行けるのだ。
『刑部(ぎょうぶ)様…刑部(ぎょうぶ)様…刑部(ぎょうぶ)様…』
若芽は、平蔵に教わったように、中で穂柱を扱くように肉壁を締緩しながら、更に腰の動きを早めてゆく。
心地良い…
何て心地よいのだろう…
平蔵の田起(たおこし)を受けた時…
弄られても、挿れられても、痛くもなければ辛くもない…
こんな心地良い穂供(そなえ)があるのだと驚いたけれど…
今はもっと心地よく、暖かい…
『穂供(そなえ)をするとな、相手の心の内がよっくわかる。』
更に絶頂の予感が高まるにつれ、平蔵の濁声が耳の奥底を過ぎる。
『相手の心の内…ですか?』
『そうだ。どんなに取り繕って見せてもな、穂供(そなえ)をして、心地良いと感じぬ相手には気を許さん事だ。特に…穂供(そなえ)で女に痛い思いをさせる男は、ろくでなしだ。』
『あの…』
『なんだ?』
『平蔵様…』
『平蔵様ではない。哲人のテツ…テッちゃんだ。』
『テッちゃんは、その…私とされて…その…』
『おうおう、気持ち良いとも、気持ち良いとも。まるで、常世にいる心地だ。おめぇが気立の良い子だとようわかる。』
『本当でございますか?』
『本当だとも。鈴子と美雪より、おめぇの方がずっと心地良いぞ。』
『鈴ちゃんや、ミッちゃんより?』
『いやいや、あの子達も良い子なのはわかるんだがな、いかんせん、気が強すぎるのがな…その点、おめぇは本当に優しくて良い子だ。
あ…
でも、これは、あいつらには内緒だ。こんな話をしたのが知られたらな、今度こそ、本当に穂柱と穂袋を噛みちぎられるでな。』
『まあ、テッちゃんったら…』
思い出し笑いをしかけた時…
『アッ…』
若芽は、思わず声を漏らし、全身を硬直させた。
恒彦の放つ暖かなモノが、中で広がってゆく…
最初は下腹部の内側で…
更にその暖かさは、全身隈なく広がって行き…
同時に、頭の中が真っ白になったかと思った刹那…
飛んでる…
高く高く…
飛んで行く…
まるで、勢いよく浮き上がったかと思うや、綿雲の中に包み込まれるような感覚に陥っていった。
気付けば、若芽は恒彦の胸に倒れ込んでいた。
日頃は華奢に見えるが、着物を脱げば屈強な腕が肩を抱き、無骨な手と指先で、若芽の頬や頭を撫で回している。
暖かい…
何て暖かいのだろう…
胸の奥底で、囲炉裏の火が焚かれたような心地がする。
すると、また、平蔵の濁声が耳の奥底を過ってゆく。
『それはな、おめぇが、ツネ公を慕ってる証拠だ。』
『私が…刑部(ぎょうぶ)様を?』
『そうだ。腕に抱かれて、優しくされて、胸の奥底に囲炉裏の火が焚かれたような心地がするのは、その男を慕ってる証拠だ。
初恋…って、奴だな。
どうだ、そう言う気持ちになるって、良いもんだろう。』
『はい。でも、私…』
『此処の疼きが止まらなくて、辛えか。』
『アァァ…アンッ…アンッ…テッちゃん…そこ…』
『もっと、慰めて欲しいか?』
『…』
『なーに、恥ずかしがる事はねぇ。腹が空けば、腹の虫が鳴くのと同じ事…
朧の里では、女の子のいる家では、普通に父や兄が、こうやって娘や妹の疼きを慰めてやりながら、自分で鎮める方法を教えてやってる。
幼な子に、手ずから粥を食わせ、箸や匙の使い方、椀の持ち方を教えるのと同じ事よ。
さあ、手をそっと神門(みと)に添え、ワレメを指先で…』
『アンッ…アンッ…アンッ…』
『そうだ、旨いぞ。参道の中は繊細に出来てるからな、優しくそっと…傷つけねぇようにな。』
『アンッ…アンッ…アンッ…』
『よしよし…疼いて眠れねえ時は、そうやって慰めるんだ。
それで、次第に身体(からだ)が解れてきたら、ツネ公に抱いて貰え。本当に疼きを鎮めるには、抱いて貰うしかねぇからな。』
『あの…でも、刑部(ぎょうぶ)様には、佳奈さんと言う方が…』
『それは、それだ。男女の思いを一人に限定する必要は全くねえ。食い物だって、湯漬けが好きだからって、味噌汁を食っちゃいけねえ道理がないのと同じだ。
惚れあった相手がいても、他に惚れた奴、惚れてくれた奴がいれば、抱いてやり、抱かれてしまえば良い。それで子ができれば、皆で育ててやれば良いのよ。そうやって、人と人との繋がりは広がってゆくもんだ。』
確かに…
恒彦に抱かれ、中に放たれる度に、心は海の彼方へと飛び立って行き、世界は大きな広がりを見せたような気がする。
だけど…
抱かれている時は、心地よさに夢中になって忘れてしまっていたけれど…
こうして潮が引き、恒彦を想い始めてからの長い疼きが鎮まりすっきりすると、また、佳奈と言う少女の事を思い出す。
ずっと一人ぽっちだった恒彦が、佳奈と暮らし始めて、漸く潤いを得たと言う。
佳奈と言う子もまた、同じだと言う。
孤独だった二人が出会い、漸く肩を寄せ合い、暖かな潤いを得た。
でも…
佳奈さんは、まだ、抱いて貰ってないんだっけ…
互いに愛撫しあい、穂柱を口で慰め、白穂を呑み込んで終わりだと言う。
それでも…
『刑部(ぎょうぶ)様の味は、磯の味がします。広い広い海の味がします。』
そう言って、佳奈は愛する男の全てを得た思いで、無邪気に喜んでいると言う。
だのに、自分が先に抱かれてしまって…
佳奈さんは…
佳奈さんは…
と…
不意に顔を上げると、恒彦がジッと自分を見つめている事に気づいた。
『刑部(ぎょうぶ)様…』
若芽は、何か言いかけ、口を噤む。
出会った時から心を寄せていた男に抱かれ、満ち足りた気持ちの自分とは真逆に、恒彦の目は、深い悲しみとも苦悶ともつかぬ眼差しをしていたからである。
やはり、佳奈さんより先に自分を抱いてしまったから…
若芽もまた、それまでの喜びと打って変わって、締め付けられるような胸の痛みを覚えた。
何て事をしてしまったのだろう…
佳奈さんを差し置いて、抱かれてしまうなんて…
しかし…
『あの…刑部(ぎょうぶ)様…私…
『薊…』
『あ…薊?』
恒彦の口から出てきたのは、全く違う、聞いた事もない女の名であった。
『薊…薊…薊…』
恒彦は、譫言のようにその名を口走りながら、見る間に青ざめ震え出し…
『薊っ!』
最後に一際声を上げて叫んだかと思うや、若芽をいきなり押し倒した。
『刑部(ぎょうぶ)様っ!』
若芽は、恒彦の突然の変貌に、一瞬の戸惑いを見せたが…
『アッ…』
恒彦に唇を吸われ、首筋を舐められ、無骨な手に椀を逆さにしたような乳房を揉まれ、指先で神門(みと)を弄られるにつれ…
『アンッ…アンッ…アンッ…アンッ…』
若芽の意識はまた、広い大海原へと投げ出されて行き…
『アッ…アーーーーーーンッ!』
再び膨張を見せた恒彦の穂柱が、仄かに若草を茂らせた神門(みと)のワレメを分入り、参道の奥への潜り込んで行くと、それまでの思いは綺麗に吹き消えた。
今はまた…
飛んでいる…
遥かなる海の上を飛んでいる…
『アーンッ!アンッ!アンッ!アーンッ!』
次第に、中で熱を帯び出す恒彦の穂柱の温もり…
泉の如く迸る予兆…
『刑部(きょうぶ)様!刑部(ぎょうぶ)様!刑部(ぎょうぶ)様!』
気付けば、声高に恒彦を呼ばわりながら、屈強な背中に腕を回し、分厚い胸板に顔を埋め、やがて訪れる飛翔の時を待ち焦がれていた。
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