サテュロスの祭典

神話から着想を得た創作小説を掲載します。

兎神伝〜紅兎四部〜(27)

2022-02-04 00:27:00 | 兎神伝〜紅兎〜革命編其乃二
兎神伝

紅兎〜革命編其乃二〜

(27)遣属

朝靄薄れゆく大兎海峡。
飛沫の彼方より、一隻の聖領船(ひじりのかなめのふね)が朧に姿を現す。
それは、蜃気楼の見せる幻の如き雅な船…
いや…
三階建ての船室の入母屋根には、金箔瓦が葺かれ…
翡翠の鬼瓦に、雨の如く吊るされた、金銀細工の庇飾り…
朱に塗られた壁一面には、細やかな意匠…
それは、さながら海神(わたつみ)の宮殿のようでもあれば…
荒れ狂う波上に咲いた蓮のようでもあった。
迎賓楼門前では、軍弾庁の招請を待つまでもなく立ち現れた近在の産土宮司(うぶすなのみやつかさ)達が、呆けたように見惚れている。
しかし…
『ケーッ!また、あんなガラクタで来やがって!』
西武警邏衆弾正与頭(せいぶけいらしゅうだんじょうくみがしら)、館(たち)の弘成(ひろしげ)は、埠頭に佇み眺めやりながら、吐き捨てるように言った。
『あんなもん、船でも何でもねーっ!ただの箱!重石の箱だ!』
『声がでけぇぞ、弘成。後ろに控える神職(みしき)達に聞かれたら面倒だ。』
西武警邏衆軍部与頭(せいぶけいらしゅういくさべくみがしら)、沖浦の友和も、同僚を嗜めるように言いつつ、表情は険しい。
『おめぇ、何も感じねぇのか?迎えに出向いた仲間が、あんな船を漕がされて戻って来るのを見せられてよ。今度もいってぇ何人の渡瀬人(とせにん)が流されてるこったか…』
弘成が尚も歯軋りして言うと…
『良いから黙ってろ。』
友和は、やはり嗜めるように一言言うと、苦飯噛み潰した顔をして押し黙った。
思いは、この同僚と同じだ。
出迎えに行く時…
熟練の船職人達が、荒波に備えて粋を凝らせて造った船に乗り、選び抜かれた渡瀬人(とせにん)達が迎宗使(げいそうし)として送られる。
しかし、その船は満載した貢物と共に取り上げられ、代わりに見栄えばかりの粗雑な船に下級神職(みしき)の使いの者を載せて送り返される。
漕ぎ手は、勿論、迎宗使(げいそうし)船の水夫として送り出した渡瀬人(とせにん)…
その際、渡瀬人(とせにん)達は、同伴を命じられた十二歳以下の娘達の着物を一枚残らず剥ぎ取らせ、人質として置いて行かされる。
戻るまでの間、一切着物を着せられない娘達に、剥いだ着物を着せて連れ帰る事が許されるのは、生きて送り出した使者を連れ帰った者のみ。
しかも、使者に一人でも死人が出れば、残りの渡瀬人(とせにん)達は全員奴隷にされ、贖兎(あがないうさぎ)とされた娘達は、命ある限り弄ばれ続ける定めとなる。
これまで、一体、何人の渡瀬人(とせにん)達が、そうして同伴した娘達と共に消えて行った事か…
しかし…
何よりも腑煮えくり変えるのは、船首に書かれた幟の文字…
遣属使(けんぞくし)…
『遣属(けんぞく)…
我らを属領民(やからのかなめのたみ)だと…
奴らが宗主(むねつあるじ)だと…
我らの貢物がなければ、三日で干上がる青瓢箪のくせに…
そして…
その船に乗せられた、聖領(ひじりのかなめ)では、最下級の神職(みしき)が携える薄っぺらい書類を、涎を垂らして待ち焦がれる、背後に控えた産土宮司(うぶすなのみやつかさ)達…
『友和、何を考えている。』
不意に、彼らの先頭に立つ男…
大門軍弾丞(だいもんぐんだんじょう)、渡の哲也が目を細めて口を開いた。
『いえ、別に…』
『おめえの言いてえ事は、だいたい察しが付いている。
だがな…あの青瓢箪どもが携えてくる紙切れが、一触即発の諸社領(もろつやしろのかなめ)の紛争を、辛うじて抑えている。』
『逆に、うちの赤瓢箪どもの対立を煽っているとも言えやす。』
友和は瞑目したまま、ムスッと一言呟き返した。
『まあ、待て…それも、あと少しの辛抱…我らが浦主(ぼす)が、必ず神領(かむのかなめ)を一つにまとめてくんなさる。そうなれば…』
『独立…』
『そうだ。用済みの青瓢箪どもとは、永久に手を切れる。』
『どうですかね…
浦主(ぼす)…鱶腹裕次郎(ふかはらゆうじろう)とて、所詮は神職家(みしきのいえ)の者…
あっしは、お頭ほど信じる気にはなれやせん。』
やがて、見栄えだけは絢爛な聖領船(ひじりのかなめのふね)が、ゆっくりと接舷してきた。
岸に渡板が掛けられると、中から最初に姿を表す男…
『井浜の源太…げんさん…』
眉が太く性悪な目つきの男に目を留めるなり、一層細められた哲也の眼差しに複雑な影をさす。
井浜の源太…
哲也が心の中で呼びかけた男は、彼の顔を一瞬目に留め物言いたげな眼差しを送るが、すぐにそっぽを向いて前にすすむ。
次に、彼らの配下と思しき、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)達が姿を現し…
首に縄を掛けられ数珠繋ぎにされた十一から十三くらいまでの全裸の少女達が、彼らに鞭打たれながら、引き摺られてやって来た。
あれは、去年、迎宗使船に水夫として乗り込まされたり渡瀬人(とせにん)達の娘…
哲也が心の中で呟くと同時に…
『繋いどけ!』
源太の図太い声に命じられるまま、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)達は少女達を乱暴に岸壁に連れ出し、柵に繋いだ。
哲也の後ろでは、友和が固く瞑目し、弘成が目を血走らせ、歯軋りしながら、この光景を見つめている。
すると…
『お父さん!お父さん!』
『浮音(ふね)!
柵に繋がれた少女の一人が、目の前に引き摺られてきた、やはり全裸にされた傷だらけの男に取り縋って泣いていた。
『さあて、おまえはもう用済みだ。今生の別れにしっかり娘の顔を見ておけ。』
『航海中、毎日、実の娘に穂柱しゃぶって貰って、良ぇ思いしたんだ。もう、この世に未練は無かろう。』
二人の聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)が、ゲラゲラ笑いながら、男の髪を掴んで娘に突きつける。
『お願い!お父さんを殺さないで!殺さないで!』
少女がなおも泣きじゃくって父に取り縋ると…
『そうか、そうか、よしよし、それじゃあ、もう一度、父ちゃんの穂柱をしゃぶってみな。』
聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)が、ニヤけながら娘に言った。
『それで…それで、本当にお父さんを助けてくれるのですか?本当に?本当に?』
『ああ、おめぇが、船の中でしたのとおんなじに、ちゃーんと父ちゃんの穂柱から白穂を絞り出して、上手に飲み込めたならな。』
全裸にされた男はそれを聞くと…
『浮音、よせ…もう良い…俺はもう良い…だから…』
最後の力を振り絞るように、娘に言った。
しかし、娘は飛びつくようにして父親の穂柱を咥えると、必死に舐めしゃぶり出した。
『よせ…やめろ…やめるんだ…』
男は娘から顔を背け、涙目で言いつつも、穂柱は自然と娘の口腔内で膨張してゆき…
『ウッ!ウッ!ウッ!ウゥゥッ!』
呻くような声を漏らすと同時に、大量の白穂を放った。
次の刹那…
『お父さんっ!』
娘が叫ぶより早く、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのわたせにん)二人は、同時に男の脇腹を突き刺しえぐった。
『ふ…浮音…』
男は、最後の声を漏らしながら、血の海に沈み、息絶えた。
『お父…さ…ん…』
娘は、父の亡骸が足元に転がると…
『イヤッ…イヤッ…イヤーーーーーーーーッ!!!!!』
半狂乱の声を上げて、泣き叫びだした。
『やっ…野郎っ!』
『よせっ!弘成っ!』
遂に耐えきれなくなり、長脇差を抜きかける弘成を友和が遮るのと同時に…
『離せっ!離せっ!源太っ!てめぇ!ぶっ殺す!ぶっ殺してやる!』
新たに姿を現した男が、長脇差を抜いて叫び暴れるのを、周囲の男達が五人がかりで必死に止めに入った。
『あっ…アイツ…』
『柴の俊雄…』
弘成と友和が同時に呟くと…
『どうした、俺をやりてぇか?うーん?』
源太が、抑えつけられた俊雄の側に行き、したから覗きこむように睨み据えた。
『なら、やってみな。聖領(ひじりのかなめ)に残した娘が、繋がれてる奴らと同じ目に遭わされてもよけりゃーな。』
『て…てめぇ…』
俊雄は、尚も憎悪に燃えた眼差しを源太に向けつつ、振り上げた長脇差を力なく落としていった。
そこへ…
『ホッホッホッ…何の騒ぎにおじゃりますかな?』
垂纓を被り、錦に彩られた水干を着込んだ神職(みしき)が五人、迎宗使(げいそうし)である神領(かむのかなめ)の神職(みしき)達と警護の神漏兵(みもろのつわもの)達に伴われ、ゆったりとした足取りで姿を現した。
『何かと思えば…』
先頭に立つ神職(みしき)が、血の海に転がる亡骸にとも、取り縋って泣き喚く少女にともつかず、目線をくれて舌舐めずりをした。
そこへ…
『仰せの通り、娘に穂柱を咥えさせながら、始末しやした…』
源太が進み出て言うと…
『それは、良い事をしたのう。ちゃんと、白穂を放たせてやってから…で、おじゃろうな。』
『へぇ…』
『上出来、上出来…麻呂も、あの娘には楽しませておじゃったが…実に具合がようおじゃった。さぞかし、あの虫ケラも、良い思いをして逝ったであろうのう。』
神職(みしき)はほくそ笑みながら言い…
『まこと、まこと…あの娘は具合ようおじゃった。』
『特に一番最初、父親の前で五人掛りで泣いて暴れるのを抑えつけて可愛いがってやった時は最高でおじゃったの。』
『何の何の…少しでも噛めば、父の手足の指を寸刻みで切り落とすと言ってやって、我らの穂柱を咥えさせてやった時もなかなかでおじゃりましたぞ。』
『できれば、父の骸の前でも、一度五人で抱いてみたいものよのう。そう、骸が腐り果てる前にの。』
他の神職(みしき)達も口々に言うと、ホッホッホッ…と、手に持つ笏で口を覆い笑い出した。
『野郎…』
『許せぬ…』
遂に、弘成だけでなく、友和も耐えきれず、長太刀に手をかけるや…
『これは、これは、遠路はるばるようお起こし下された。』
哲也が二人の前を遮るように進み出るや、両袖を合わせて膝をつき、神職(みしき)の前に平伏した。
『それがしは、西部大門軍弾小丞(せいぶだいもんぐんだんすないのじょう)を務めさせて頂きまする、渡の哲也にござんす。どうぞ、お見知りおきを…』
『ホッホッホッ…そちが、噂に名高う大門軍弾丞(だいもんぐんだんじょう)の哲也か…
麻呂は、遣属使筆頭、神妣聖宮社(かぶろみのひじりつみやしろ)の八乃祝(やつのほり)、猪狩長助(いがりのちょうすけ)でおじゃる。
出迎え、大義でおじゃる。』
『へぇっ…では、早速、迎賓楼までご案内を…
我が大門の産社(うぶやしろ)様方が、まずはあちらにて、宴の席を設けさせて頂いておりやす。』
『ホッホッホッ…それは楽しみじゃのう。では、案内いたせ。』
遣属使筆頭猪狩長助八乃祝(けんぞくしひっとういがりのちょうすけのやつのほり)が言うと、哲也は更に恭しく平伏し、案内を始めた。


兎神伝〜紅兎四部〜(26)

2022-02-04 00:26:00 | 兎神伝〜紅兎〜革命編其乃二
兎神伝

紅兎〜革命編其乃二〜

(26)軍団

渡瀬人(とせにん)の船は大きく分けて二つある。
一つは、仔兎神(ことみ)を産み、青兎となった赤兎を乗せ、聖領(ひじりのかなめ)へと送る大門船。
一つは、仔兎神(ことみ)を産めず、穢兎(けがれうさぎ)とされた赤兎を乗せる小門船である。
それぞれの船の名の由来は、港の呼称にある。
神領(かむのかなめ)では、海港(わたつみなと)を門、川港(かわつみなと)を津と呼ぶ。
津の中で、青兎や穢兎(けがれうさぎ)を出航させる津を兎津(とつ)と呼ぶのは、先に話した通りだが…
門の中で、青兎と穢兎(けがれうさぎ)を出航させる門を、兎門(ともん)と言う。
青兎と穢兎(けがれうさぎ)を出航させる門は、二つに分かれている。
理由は、行き先の違いである。青兎は聖領(ひじりのかなめ)に送られるのに対し、穢兎(けがれうさぎ)は異国船(ことつくにのふね)に売られて行く。その異国船(ことつくにのふね)とは、海賊船であったり、密貿易船であったり、闇の品を扱う船である。故に、本家領(もとついえのかなめ)である聖領(ひじりのかなめ)からの船を迎える門は分ける必要があった。
この青兎を出航させる門を大兎門(だいともん)、穢兎(けがれうさぎ)を出航させる門を小兎門と言う。長じて大兎門(だいともん)は大門、小兎門(しょうともん)は小門(しょうもん)と呼ばれるようになった。
ここから、大門へ向かう船を大門船、小門へ向かう船を小門船と言う。
ただ、当初は船も船を操る渡瀬人(とせにん)も、はっきり分かれており、船の幟も形も違っていた。
しかし、ここ二百年の間、大門船と小門船に余り違いが見られなくなった。
それと言うのも…
格式は、聖領(ひじりのかなめ)と直接折衝し、それ如何で今後の神領(かむのかなめ)における社領(やしろのかなめ)の立ち位置も変わる事から、大門船の方が格式は高く特権も多い。
対し、小門船は、穢兎(けがれうさぎ)を隠れ蓑に、数多の密輸品を搭載する事ができる。
実際のところ、赤兎が本当に仔兎神(ことみ)を産む事は殆どない。七つの時から、連日数多の男達の穂供(そなえ)を受け、御祭神はぼろぼろになり、子供を産めなくなる事の方が多いからである。それを、別の白兎が産んだ仔兎神(ことみ)、もしくは兎神家(とがみのいえ)で生まれた赤子を、赤兎が産んだと称して、青兎にして、聖領(ひじりのかなめ)に送る事が多いからである。
聖領(ひじりのかなめ)もまた、そこのところは百も承知しており、要するに、殆ど廃れてしまった君臣関係を、青兎を送らせる事で、体裁を保てれば良いと言うのが、本当のところであった。
そうした中、穢兎(けがれうさぎ)として売り捌かれるのは、仔兎神(ことみ)を産めない、産まなかったと言うより、余りにもぼろぼろになり過ぎて、使い者にならなくなった赤兎である。正直なところ、そんなモノは殆ど売物にはならない。処分する手間を省く為に小門船に乗せると言うのが本当のところである。乗せる渡瀬人(とせにん)達も、まともに売り飛ばそうとは考えず、小門に着くまでの間、徹底的に弄びつくし、死んだら川や海に投げ込んで済ます事が多い。
むしろ、穢兎(けがれうさぎ)の始末料代わりに与えられる積荷改免除の特権を行使しての密輸が本命とも言えた。
大門にも積荷改免除の特権はあり、青兎を隠れ蓑に密輸は行っていなくもなかったが、接舷許可が降りている海港(わたつみなと)は、大門のみ。そして、神領(かむのかなめ)に大門は一つである。
対し、小門は全社領(すべてのやしろのかなめ)に一港あり、小門船は、どの小門に接舷する事も許されていた。
自然、小門船が密貿易で得られる利益は、大門船の比ではない。
そこで、まず幾艘かの大門船が穢兎(けがれうさぎ)を積む鑑札を求めた。元々は、密貿易の利潤を求めると言うより、渡瀬人(とせにん)達の慰みとするのが目的であった。青兎も、聖領(ひじりのかなめ)に着くまでの合間、田打の名目で弄ぶ事を許されていたが、それでも期日までに聖領(ひじりのかなめ)に引き渡さねばならず、もし、万一の事があれば処罰の対象となる。そこで、何をしても良い穢兎(けがれうさぎ)の搭載と鑑札を求めた。しかし、いざ穢兎(けがれうさぎ)を搭載させれば、諸小門(もろつしょうもん)で得られる利益が計り知れぬところから、自然、どの大門船も穢兎(けがれうさぎ)の鑑札を求めた。
一方…
小門船は、大門船の渡瀬人(とせにん)達がもつ特権を求めた。
大門船も小門船も、諸社領(もろつやしろのかなめ)通行勝手と積荷改免除の特権を持つ。
ただ、聖領(ひじりのかなめ)との交渉権を持つ大門船の渡瀬人達は、権神職家(かりつみしきのいえ)と見做されると同時に役者…と、呼ばれる官職に就く道が開かれていた。
就ける官職は三つ…
一つは、兎津川近宿(とつかわのちかきやど)の統括と兎津川(とつかわ)の治安を預かる刑部職(ぎょうぶしき)…
一つは、兎門町(ともんのまち)の行政と兎門近海(ともんのちかきうみ)の治安を預かる弾正職(だんじょうしき)…
一つは、兎門町(ともんのまち)の防衛を担う軍部職(いくさべしき)…
大門船が、穢兎(けがれうさぎ)を隠れ蓑に密貿易を活発化させるにつれ、小門船との間に利権争いが起こるようになった。
すると、大門船は役者に就ける特権を濫用し始めた。小門船の不正を一方的に取締り、あるいは捏造して、潰しにかかったのである。
対し、今度は小門船が、青兎の搭載と鑑札を求めるようになった。
当初、神職家(みしきのいえ)は、これを渋った。大門船との繋がりの強さもあるが、これ以上、神職家(みしきのいえ)に次ぐ力を持つ者を増やしたくなかったのである。
しかし、小門船は、穢兎(けがれうさぎ)の始末に託けて、神職家(みしきのいえ)の裏の仕事を引き受けていた。忌子(いむこ)を初めとする、世に出てはまずい、彼らの子達の始末である。
その弱みを握られていたのに合わせ、大門船の膨張を苦々しく思っていた神職家(みしきのいえ)の思惑も絡み、遂に小門船にも青兎の鑑札が与えられた。
結果として、これがまた、利権争いに重ねて、権力抗争を生み出し、深刻な問題となった。
そこで、大門の軍部職(いくさべしき)と弾正職(だんじょうしき)を統括する新たな官職…軍弾職(ぐんだんしき)が設けられ、これに抗争の取り締まりを一任した。
軍弾職の長として、神職家(みしきのいえ)から大丞(だいじょう)が一人、大門船の渡瀬人から小丞(しょうじょう)が一人選ばれた。
この大丞と小丞は、どちらも通常、軍弾丞(ぐんだんじょう)と呼ばれている。
また、大丞は、慣例的に鱶腹和邇雨家(ふかはらわにさめいえ)から輩出される事から、鱶腹軍弾殿とも呼ばれ、強大な勢力を誇っていた。
一方、小丞は、鱶腹軍弾丞と分けて、大門軍弾殿と呼ばれ、この勢力もまた、鱶腹軍弾に匹敵する勢力を誇っていた。
この鱶腹軍弾(ふかはらぐんだん)と大門軍弾(だいもんぐんだん)も長らく反目しあっていたのだが…
十年程前より、一人の男が大門軍弾(だいもんぐんだん)に就く事により、両者は手を結ぶ事になった。
その男とは…
日活衆渡一家(にっかつしゅうわたりいっか)の渡瀬人(とせにん)
渡の哲也と言う。
彼は、刑部職(ぎょうぶしき)に就いていた頃、大小門船どちらの不正にも目を瞑り、手を出さなかった事から、案山子の半兵衛とも呼ばれていたが…
何故か、新たに鱶腹軍弾職(ふかはらぐんだんしき)に就いた裕次郎の強い推挙で大門弾正職(だいもんだんじょうしき)に就くと実力を発揮。
見る間に昇進して、大門軍弾職に就いた。
哲也は、大門軍弾職(だいもんぐんだんしき)に就くや、何故か大門船ではなく、小門船出自の渡瀬人(とせにん)達を多く配下に抜擢する一方…
自ら鱶腹軍弾の傘下に加わる事を申し出た。
ここに、大門軍弾(だいもんぐんだん)を吸収した鱶腹軍弾(ふかはらぐんだん)は、鱶腹総宮社(ふかはらふさつやしろ)に次ぐ大勢力を誇る事になり、この勢力は、いつしか鱶腹軍団と呼ばれるようになった。

兎神伝〜紅兎四部〜(25)

2022-02-04 00:25:00 | 兎神伝〜紅兎〜革命編其乃二
兎神伝

紅兎〜革命編其乃二〜

(25)報酬

『相変わらず、鮮やかな仕事をするわね。』
軽信は、秘密拠点の一つに持ち込まれ、山積みされたものを目の前すると、感嘆の声を上げた。
『あんた達の金子にして、凡そ千両分の美国(うましくに)…
重ねて、兵士にして千人分の武器弾薬…
一夜にして、よくやったわ。
やっぱりあんたは、あいつ何かと違う。勇敢なる私達の同心、ますます惚れなおしたわ。
ねぇ、どお?今から私と…』
『今回は、報酬を貰いてぇ。』
恒彦は、相変わらずの笑みと流し目を傾けて擦り寄る軽信の言葉を、眉を顰め遮って言った。
『報酬?良いわよ、いつだって言ってるじゃない。欲しいだけ差し上げてよ。幾ら欲しいの?』
『金子は要らねえ。』
恒彦が言うのと同時に、近く控えていた亀四郎が、五人の少女達を連れてきた。
『この子達は?』
『あの船に積み込まれていた穢兎(けがれうさぎ)だ。この子達を楽園に連れて行って貰いてぇ。』
『なるほど。良いわ、連れてって上げる。』
軽信が快諾すると…
『さあ、お前達、良かったなー。これから、このお姉ちゃんに、良いところに連れてって貰えるぞ。』
それまで厳しい顔して軽信の顔を見つめていた亀四郎が、忽ち目尻を下げて笑いかけながら、穢兎(けがれうさぎ)の少女達に言った。
『良いところ?』
『そうだ。向こうについたら、すぐに優しい父さんと母さんになってくれる人が待っていた、暖かいお家に連れてってくれるんだぞ。もう、裸でいなくても良いし、悪いおじさん達に、よってたかって虐められる事もない。チョゴリって可愛い着物着て、美味しいものを食べて、ガッコウって所に行って、毎日大勢の友達と、一緒に勉強したり遊んだりして過ごせるんだぞ。』
『お結、食べられる?』
『大根煮は?』
『芋汁は?』
『食えるとも!毎日、鍋いっぱい拵えて貰って、腹一杯食えるんだぞ。』
亀四郎が手振り身振りで大仰に言うと…
『わあっ!』
『行きたい!行きたい!』
『早く行きたいなー!』
穢兎(けがれうさぎ)の少女達は、一切に手を叩いてはしゃぎだした。
しかし…
『ねえ、若芽姉ちゃんは?』
『若芽姉ちゃんは、何処にいるの?』
『若芽姉ちゃんと一緒に行きたい。』
穢兎(けがれうさぎ)の少女達が言い出した途端、亀四郎は忽ち言葉につまった。
すると…
『若芽は行けねえ。』
恒彦が、ぶっきら棒に言った。
『どうして?』
『若芽姉ちゃんも連れてってよ。』
『ねえねえ、お願い。私、良い子にするから…また、着物脱いで過ごしても良い。おじさん達に、気持ち良い事いっぱいさせてあげる。』
『私、お父さんになってくれる人の穂柱、毎日舐めて上げる。白穂だって、一雫もこぼさず呑んであげるよ。』
『お願い…若芽姉ちゃんも連れてって…お願い。』
穢兎(けがれうさぎ)の少女達が、涙声になって言うと…
『若芽は行けねえ!行かせるわけにいかねー!若芽は、期日までに聖領に行かなければ、家族身内が厳しい咎めを受ける!娘達はみんな、一番酷い社(やしろ)に兎として送られるか、河原者達の慰みにされる!』
恒彦は、血を吐くような言葉で叫び、穢兎(けがれうさぎ)の少女達は、一切に声を上げて泣き出した。
『嫌だ!嫌だ!若芽姉ちゃんと行く!』
『若芽姉ちゃんと一緒でなきゃ、行かない!』
『若芽姉ちゃんと離れたくない!』
『若芽姉ちゃんと離れたくないよー!』
恒彦は、暫し硬く目を瞑り、穢兎(けがれうさぎ)の少女達が延々と泣き続けるのを聴き続けると…
『甘ったれるな!』
不意に、怒声を上げると同時に、穢兎(けがれうさぎ)の少女達の頬を、思いっきり打った。
『良いか!おめえ達は、壊れ物!壊れ物!壊れ物の不具者何だよ!御祭神も壊れてれば、参道も裏参道もボロボロ!大人になっても、子供を作れないどころか…』
恒彦が言いかけると…
『アッ…』
と、穢兎(けがれうさぎ)の少女の一人が、小さく声を漏らすなり、しゃがみ込んだ。
見れば、着物の裾と地面がぐっしょり濡れて、尻のあたりから雫を垂らしている。
『どうだ?おめえ達は、これから、一生、そうやって糞も小便も垂れ流して生きる事になる。
若芽はな、聖領(ひじりのかなめ)に行けば、今までより、もっともっと辛え事が待ってるんだ!
そんな若芽に、おめえ達の垂れ流す、糞小便の世話までさせる気か!どうなんでぇ!』
穢兎(けがれうさぎ)の少女達が、漸く鎮まり帰る中…
『若芽姉ちゃん…若芽姉ちゃん…』
尿を垂れ流した穢兎(けがれうさぎ)の少女だけは、一人目を覆って啜り泣き続けた。
それまで、ジッと黙って様子を見続けていて軽信は…
『チビちゃん、お名前は?』
『まる子…』
『そう、まる子ちゃんって言うの…
それじゃあ、まる子ちゃん、一緒にお着替えに行こうか。
まる子ちゃんには、他の子達より先に、可愛いチョゴリを着せてあげる。』
『チョ…ゴリ?』
『そう…これから行く楽園の女の子は、みんな着ているのよ。』
と、ここでまる子の耳元に口を寄せ…
『大丈夫…若芽ちゃんも、いつか必ず、お姉ちゃんが楽園に連れて行ってあげる。
『えっ?お姉ちゃん…が?』
『そう。聖領(ひじりのかなめ)の悪い人達みんなやっつけて…必ず、楽園に連れて行ってあげるわ。約束する。』
そう言うと、まる子は忽ち満面の笑みを浮かべた。
『刑部(ぎょうぶ)さん、これで良いかしら?』
『うむ。』
『他に欲しいものはなくて?』
『ねぇ!』
『あんたが望むなら…佳奈ちゃんと一緒に楽園に連れて行ってあげてよ。』
軽信が、またいつもの誘いかける笑みと流し目を向けて言うと、恒彦は嫌なものを噛んだように睨み返した。
『どうせ、まだ佳奈ちゃんを抱っこしてあげてないんでしょう。』
『佳奈は…もう、俺の女だ。』
『穂柱さんをペロペロして貰って、口の中に出したモノを呑み込んで貰って?
あんたは、磯の味、海の味がするんだってね。可愛いんだ。』
コイツ…
何処で…
誰からそんな事を…
恒彦がまた、何か嫌なモノを噛み締めたように押し黙ると…
『良いわ。あんたは、まだまだ、ここでしなくちゃいけない事がたくさんあるもんね。兎津川(とつかわ)には、刑部(ぎょうぶ)さんがまだ必要…また、私で引き受けられる子がいたら、引き渡して。責任もって、楽園に送って上げる。』
軽信はそう言うと、恒彦の頬をなで回し、唇に軽く口づけすると、穢兎(けがれうさぎ)の少女達を連れて、引き上げて行った。
恒彦は、なおも嫌なものを噛んだらような目つきで、軽信とも穢兎(けがれうさぎ)の少女達ともつかぬ後ろ姿を見つめ立ち尽くしていると…
『お頭、行きやしょう。ここに、長居は無用です。』
と、やはり苦飯噛み潰したような顔して、亀四郎が声をかけてきた。
『それと、これ以上、あの女と関わるのは…』
『カメさんは、嫌いか?あの女が…』
『へぇ、どうにも…』
『俺もだ。あいつが情報を回してくれるから手を組んでいるが、どうにもな…』
『ただ…』
『ただ、手を組むってんなら、腹を括る必要があるかと思いやす。』
『革命か…』
『それと、お頭が渡の旦那とあの女と、どちらをお取りになりやすか…』
『どちらって…あいつは、渡の兄貴…いや、鱶腹軍団(ふかはらのいくさつかたまり)にも唾をつけてるんじゃ…』
『その鱶腹軍団(ふかはらのいくさつかたまり)を嵌めた…と、言いやしても、ですかい?』
『鱶腹を…嵌めただと?』
恒彦が、怪訝な目つきをして首を傾げると、亀四郎は辺りをサッと伺い…
『七曲組(ななまがりくみ)、柴田の優作がやられやしたぜ…』
恒彦にそっと耳打ちして言った。
『何だと…』
恒彦は一瞬、目を見開き亀四郎を睨み据えたが、すぐに気を取り直したように嘆息し…
『まあ、良い。渡の兄貴とは義兄弟の盃を交わしてるが、七曲組も鱶腹軍団(ふかはらのいくさのかたまり)も、俺には関係ねえ…』
『お頭…』
『おれは、情報を貰う為に…それと、これからは然るべき報酬を頂く為に、あの女と誼みを続ける。そう…まる子達のような子を、一人でも二人でも、神領(かむのかなめ)から逃して貰う為にな…』
そう言うと、軽信の拠点を後にした。






兎神伝〜紅兎四部〜(24)

2022-02-04 00:24:00 | サテュロスの祭典
兎神伝

紅兎〜革命編其二〜

(24)捕物

闇夜を照らす月影が、兎津川磯野本流(とつがわいそのほんりゅう)を進み行く大船を映し出す。
それは、仔兎神(ことみ)を産み落とし、禊の役目を果たして青兎となった赤兎十五人、仔兎神(ことみ)を産めず、罪咎を拭えぬ穢兎(けがれうさぎ)とされた赤兎五人を積んで、大兎海峡(だいとかいきょう)を目指している。
だが、積荷の少女達を弄びながら、目的地で得られる報酬に胸を躍らす渡瀬人(とせにん)達はまだ知らない。
元来た支流…
佐々江川(さざえがわ)の方角から、粛々と三隻の小舟が迫っている事を…
『さあ、餌の時間だ。たっぷり呑めよ。』
『どうだ、うまいか?うまいだろう?遠慮なく呑むんだぞ、尿道が空になるまでな。』
『そうだ、そうだ、ちゃーんと舌を使って、味わうんだぞ。』
船外では、今宵も全裸の穢兎(けがれうさぎ)達に、餌付けと称して、渡瀬人(とせにん)達が、穂柱を突きつけていた。
一番年上でも十二歳、一番幼い者は十歳そこそこの穢兎(けがれうさぎ)達は、尿臭が鼻をつく穂柱にむしゃぶりつく。
半月の道中、彼女達に食する物は一切与えられない。
渡瀬人(とせにん)達が、便所代わりに口腔内に放つ白穂だけが、彼女達に与えられた唯一の餌であった。
『ウゥゥ…たまらねー。飢えた兎の吸い付き、たまらねーなー。』
『全くだ。こいつの味を覚えたら、うちのカカァ何ぞ、クソだぜ。』
『でもよう、こいつら、こんなに痩せ細って、海峡までもつのか?』
『ケッ、構うもんけ。どうせ、モノの役に立たなくなった兎を、捨てる手間省く為に乗せてるんだ。死ねば、川魚の餌にしておしめーよ。』
『さあて…俺は、下の口から呑ませてやろーかね。いくら使い物にならなくなった壊れモンでもよ、十歳の孔なら、少しは締め付けてくれるだろうからよ。』
と…
無我夢中で穂柱に吸い付く一番小さい少女の後ろに回った渡瀬人が、褌を下ろしかけた時…
『うん?何か物音が…』
そう呟き振り向くと、何処から投げつけられたのか、船縁に鉤縄がかけられている。
『えっ!』
渡瀬人(とせにん)が思わず目を見張らせ、正面を向きかけた刹那…
『ウグッ…』
低い呻きと同時に、背中から刀の切っ先を生やさせた。
『海苔介!どうした!』
仲間の異変に、渡瀬人(わたせにん)の一人が、穂柱をしゃぶらせていた穢兎(けがれうさぎ)を突き飛ばして立ち上がると…
『浜吉!鱒夫!鱈夫!郁良!見ろ!』
漕ぎ手渡瀬人(とせにん)の一人が、血相変えて声を上げた。
穢兎(けがれうさぎ)に穂柱を咥えさせていた、他の渡瀬人達も、一斉に振り向き、顔色を変える。
見れば、後方彼方より、『兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)』と書かれた高張提灯を掲げ、一隻の小舟が近づいて来る。
『馬鹿な…諸社(もろつやしろ)には、もう手を打っているはずじゃ…』
言い終える間もなく、浜吉が倒れる。
『浜吉…』
隣の仲間の倒れる音に、鱒夫が振り向くと、黒陣羽織に襷掛けした男三人が白刃を向けて立ち、うち一人に有無を言わさず斬り殺された。
更に、左舷より鉤縄がかけられ、別の小舟が迫って来る。
『これは…』
『どう言う…』
当惑する間もなく、鱈夫と郁良も瞬時に白刃の露と消え…
『てっ…てえへんだ…』
『お頭!てえへ…』
五人の漕ぎ手渡瀬人(わたせにん)達も、声を上げる間もなく、新手の小舟より侵入する、三人の刑部(ぎょうぶ)達に斬り殺された。
『ウッ!ウッ!ウッ!ウッ!』
『そうだ、その調子だ、良いぞ、良いぞ。』
船内では、船頭が全裸に剥いた青兎に穂柱を跨がせ屈伸運動させながら、酒を煽っていた。
『挿れる時は緩め、出す時は締める…それも、強すぎず、弱すぎず、ゆっくりなぶるようにだ。』
『ウッ!ウッ!ウッ!ウッ!』
青兎の少女は、言われるままに参道の肉壁を動かしながら、腰を動かし出し挿れさせる。
船頭の穂柱を、自ら神門(みと)に貫かせて既に小半刻…
膝は痺れ、参道の肉壁はヒリつき始めている。
それでも、あと小半刻はこの状態を維持するよう言われている。
白穂を放たせる事も、穂柱を萎ませる事も許されない。
もし、そんな事になれば、凄惨な仕置きが待っているのは、社(やしろ)も船も変わらない。
何より…
『おらおら、気を抜くんじゃねえ!気を抜いたらな、おまえの大事な大事な友達…わかってんだろうな?』
船頭は、椀を逆さにしたような青兎の小さな乳房のシコリを鷲掴みにしながら、意地悪く言う。
『アァァァーッ!』
思わぬ激痛に、声をあげ、参道に力を込めかける青兎の耳に…
『そうら、うまいか?うまいか?厠を出立ての穂柱の味、格別だろう?』
『そら舐めろ、ちゃんと舐めろ、そうそう、先っぽをしっかり舐めて、小便の味を味って吸うんだぞ。』
船外で、穢兎(けがれうさぎ)を弄ぶ渡瀬人(とせにん)達の声が漏れ聞こえてくる。
あの子達を中に入れてやらくては…
あの子達に着物を着させて、ご飯食べさせて…
『イッ!イッ!イッ!イッ!』
『アッ!アッ!アッ!アッ!』
『ウッ!ウッ!ウッ!ウッ!』
周りでは、他の青兎達も、渡瀬人達に交代で三つの孔を同時に貫かれている。
『うぅぅー、たまらねー。この締め付け、たまらねー。』
『お頭、こいつら、本当にややを産んだんですかい?十一でも、産む奴は産むのは聞いてやすがね…でも、ややを出して、まだこんなに…ウゥゥッ!』
『もう…もう…あっしは、もう限界でさあ!出る!出る!出る!』
船頭は、青兎を責め立てながら口々に言うのを聞いて、ニンマリ笑いながら、また酒を煽った。
『さあな…どいつもこいつも、七つの時から参道を掻き回されてるんだ。そもそも、ガキを作れるかどうかだって、怪しいもんだ。』
『でも、ややができたから、青兎になったんでやしょ?できなきゃ、今頃、外にいるわけでして…』
『フンッ!そんなのはな、社(やしろ)の胸元三寸…どうとでもならあ。どっかのガキを拐って、こいつが産んだと言えば、それでしめぇよ。神領(かむのかなめ)で、赤兎がまとめにガキ拵えた話し何ぞ、殆どねぇとも言うしな。そもそも、赤兎の兎幣なんてのは…』
船頭が言いかけたその時…
『お頭、船が…』
『おいっ!波平!勝男!何、船を止めてやがる!』
『今夜は、よっぴいて…』
青兎を責め立てながら、渡瀬人(とせにん)達が外に向かって怒鳴り散らした時…
凄まじい音を立てて船室の戸が蹴破られるや…
『兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)である!積荷を改める!神妙にしろ!』
黒菅笠に黒坊主合羽を着込んだ男が、白刃を煌めかせて乗り込んできた。
『兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)だと…』
船頭は一言漏らすと、また酒を煽った。
周囲では、更に戸が蹴破られ、九人の襷掛けした黒羽織の男達が、白刃を構えて姿を表す。
『誰が辞めて良いと言った…』
船頭は、動きを止めて、怯えたように辺りを見回す青兎の少女を睨み…
『続けんか、このボケがっ!』
怒鳴り声を張り上げるや、思い切り頬打った。
『キャーッ!申し訳ありません!』
青兎の少女は、悲鳴をあげるや、また腰を動かし出した。
小さな神門(みと)に出し入れされる穂柱が萎える気配はない。
『お…』
『お頭…』
周囲では、渡瀬人(とせにん)達が、弄んでいた青兎を突き飛ばし、船頭を背に囲む。
船頭は、尚も青兎の少女を責め立て続ける。
『おい、聞こねえのか。俺は、荷を改めると言ってるんだ。』
黒菅笠が凄んで言うと…
『おめぇ、俺を誰だと思ってる。』
船頭もまた、凄み返した。
『磯野衆佐々江一家(いそのしゅうさざえいっか)の河豚太郎…それがどうした。』
『俺の後ろにはなあー!鱶背一乃摂社(ふかせいちのせっつやしろ)の…』
『ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえぞ、このド阿呆がーっ!俺は積荷を見せろって言ってんじゃ!』
黒菅笠が怒声を張り上げた刹那…
『しゃらくせぇ!』
『やっちめぇ!』
船頭を囲んでいた渡瀬人(とせにん)達が、一切に長脇差を引き抜き、刑部(ぎょうぶ)達に切り掛かった。
忽ち、辺りでは、黒菅笠の配下と渡瀬人(とせにん)達の斬り合いが始まる。
黒菅笠は、周囲の斬り合いには目もくれず、真っ直ぐ船頭の方へ進み出ようとした。
『おまえ、しくじったな…』
船頭は、尚も黒菅笠に目もくれず、青兎を睨んで言う。
見れば、船頭の穂柱貫く神門(みと)のワレメから、白穂が溢れてでていた。
『俺は、あと小半刻もたせろと言ったな。』
『も…申し訳ありません!申し訳ありません!』
『てめえは、もう用無しだ。』
船頭は、泣き噦る青兎に一言うや、懐の短刀を引き突き立てた。
『アァァァーッ!』
青兎の少女は、低い声をあげ、血の吹き出す脇腹を抱えて倒れ込んだ。
『てっ!てめぇーっ!』
黒菅笠は、足元に転がり呻きを上げる青兎の少女を前に、怒りの咆哮をあげて船頭に切り付ける。
すかさず、船頭も長脇差を抜き払う。
鈍い金属音…
黒菅笠は、弾き返された刀を再び振り下ろすと、船頭は横に交わしながら、長脇差を突き入れる。
鈍い金属音…
更に、一合二合三合と切り結びが続く。
周囲では、次々と渡瀬人(とせにん)達が黒羽織の男達に斬り伏せられる中…
黒菅笠と船頭の勝負は、容易に決する気配はない。
更に二合切り結び、船頭は霞に、黒菅笠は八相に構え睨み合った。
その時…
月影が黒菅笠の背を照らす。
黒菅笠は、ハッと目を見開くや、左手を大きく開いて前に突き出した。
月影に照らされた手が、大きな影を作って船頭の目を覆い、黒菅笠の姿を眩ます。
黒菅笠は、必死に闇の壁を逃れようとする船頭の動きを左手で追いながら、じっくりと間合いを詰める。
そして…
黒菅笠の手が退けられ、再び船頭の前に、眩い月影が差し込める。
刹那…
『ウグッ…』
船頭は、脇腹に焼けるような熱さを感じて、呻きを漏らす。
忽ち、床に溢れるドス黒い血…
『兎の痛み…苦しみ…悲しみ…』
黒菅笠は、船頭の脇腹を貫く刀を何度も抉った後…
『思い知れっ!』
叫びと共に引き抜き様、くず折れる船頭の延髄を、返す刀で突き立てた。
静寂…
『お頭…』
『うむ。』
小太りの男の配下に呼びかけられ、辺りを見回すと、既に渡瀬人(とせにん)達は一人残らず血の海の中で絶命していた。
すると…
『お願い…お願い…』
脇腹を刺された青兎の少女は、血の海を転げながら、黒菅笠の姿を見出すと、必死に手を伸ばして声を漏らした。
『おいっ!どうした!』
『お願い…何でも…言う事…聞きます…何でもします…』
『わかった!もう、大丈夫だ!俺は兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)!酷い事する奴らは、皆始末した!だから、もう何も言うな!』
『お願い…あの子達…酷い事しないで…ご飯を…着物を…お願い…お願い…』
『あの子達?』
黒菅笠が一瞬首を傾げると…
『若芽お姉ちゃん!』
『死んじゃやだ!死んじゃやだ!』
『若芽お姉ちゃん!しっかりして!』
『お願い、目を開けて!』
『若芽お姉ちゃん!若芽お姉ちゃん!』
それまで、船外で渡瀬人(とせにん)達の穂柱を咥えされていた全裸の少女達が駆け込むや、脇腹刺された青兎の少女を囲み、声を上げて泣き出した。
そう言う事か…
恒彦が溜息を一つ吐くと…
『この子達に、着物…で、ございますな。』
『それと…』
『おいっ!何ぐずぐずしてやがる!早くこの子の傷の手当てを!それと、食い物持ってこい!みんなに腹一杯食わしてやれ!』
亀四郎は、恒彦の言葉を待つ事なく、配下の者達に声を枯らして指示を出した。





兎神伝〜紅兎四部〜(23)

2022-02-04 00:23:00 | 兎神伝〜紅兎〜革命編其乃二
兎神伝

紅兎〜革命編其乃二〜

(23)磯味

幸せだな…
特に今日と言う一日は…
佳奈は寝床に潜り込むなり、しみじみ思った。
この世で一番好きな人と一緒に暮らして….
この世で一番好きな人の家事をして…
この世で一番好きな人と遊んで…
この世で一番好きな人と戯れて…
朝、一番にお父さんが来てくれた…
お父さん…
佳奈は、亀四郎の事をそう呼んでいる。
家事を教える事を承諾して貰えた時…
『ありがとうございます、亀四郎様…』
と、佳奈が頭を下げると…
『その、亀四郎様ってのは、何とか何ねえかな。あっしは、様と呼ばれるほど、偉かねえんでな。』
亀四郎は、軽く頭を掻きながら言ったのち…
『その…なんつうか…お父さんって、呼んでくんねえか?』
『お…父…さん?』
『そう、お父さんだよ。お父さんって、呼んでくんな。』
そう、照れたように笑って言ってきたのが始まりであった。
しかし、家事を教わる時こそ、鬼かと思われる程恐ろしかったが…
『おめえ、本当によく頑張ったな。偉かった、うん、偉かった。』
最後に、一番厳しく叩き込まれた料理に太鼓判を押された時…
『これはな、あっしからのご褒美だよ。』
亀四郎は、市場に連れて行った帰り、佳奈の頭に梅の飾りがついた簪を髪にさしてくれた。
『あの…そんな、あの…』
『お頭はな、おめえが可愛くなるのを一番お喜びになられるよ。だから、それをさして、お頭を驚してやると良い。本当、可愛いよ。』
『お父さん…』
思わず亀四郎の胸に飛び込み、抱きしめられた時…
親の顔を知らない佳奈は、これが父親の温もりなのかなと、思うようになった。
朝餉の膳を片付けにかかると、亀四郎は恒彦と何やら熱心に話し込み始めた。
こう言う時、決して側に近づき、話を聞くような事をしてはいけないとも叩き込まれたので、どんな話をしていたかは知らないが…
昼近くまで話し込んでいる様子を見て、昼餉は亀四郎とも一緒にできると思っていた。
『すっかり家族が板につきやしたね。』
『何処からどう見ても、年増男に幼妻だ。』
今朝も陽気に言っていたが…
お父さんにも食べて欲しい…
刑部(ぎょうぶ)様の為に拵えた手料理を…
佳奈は心躍らせながら支度をし、あと少しで昼餉の膳が整うとした時、亀四郎は門を出てゆこうとしていた。
『お父さん、お父さん。』
佳奈が急いで曲げわっぱに詰め込んだ昼餉を持って駆けつけると…
『おやおや、あっしに弁当を…』
目尻を下げて言う亀四郎に…
『今日は、昼餉をご一緒できると思ってましたのに。』
佳奈は、口を尖らせ俯いて言う。
『なーに、一人者にはな、今の佳奈ちゃんとお頭の熱い姿は目の毒なこって…』
『もう、お父さん!』
『お頭に、うんと可愛がって貰えよ。遠慮なく、思い切り甘えるこって。』
『はい。』
『それとな…ちゃんと抱いて貰え。戯れるだけでなくてな。』
『ちゃんと…抱かれる…』
『そう、ちゃんとな…でねえと、本当の夫婦(めおと)には、なれねえぞ。』
亀四郎が言うと、それまで恥ずかしそうに笑っていた佳奈の顔色が、急に変わった。
抱かれる…
佳奈は、その意味を嫌と言うほど、あの船の中で叩き込まれていたからだ。
亀四郎は、それと察して…
『なーに、お頭に抱かれるのは、あいつらにされていた事とは違う。戯れるのだって、違えだろう?』
そう言うと、佳奈は力無く頷く。
『まあ、抱かれるのが怖けりゃーな、せめてお頭の疼きを慰めてやるこって。佳奈ちゃんが、毎日して貰っている事を、お頭にもして差し上げれば良え。
うまくやれる自信がなけりゃー、慰め方なら教えてやっても良えぞ。抱かれ方は、無理だがな。』
亀四郎は、そう言うと、佳奈に渡された曲げわっぱを、愛しそうに抱いて、去って行った。
『どうした、朝と違って、元気ねえな。カメさんに、何か言われたのか?』
『いいえ、別に…』
『まあな…あいつは、何かと人を揶揄うのが好きな奴だ…特に、女と子供を揶揄っていつも喜んでる。あいつに何か言われても、気にすんな。』
『はい。』
昼餉の時、恒彦に言われて力無く頷く佳奈は、その後もずっと肩を落とし、俯き加減に過ごしていた。
『お頭に抱いて貰え…』
亀四郎の言葉が、ずっと頭から離れず…
同時に、渡瀬人(とせにん)達に初めて弄ばれた日の事を思い出し続けていたからだ。
しかし…
『なーに、お頭に抱かれるのは、あいつらにされていた事とは違う。戯れるのだって、違えだろう?』
更に亀四郎に言われた事を思い出すと…
確かに違う…
全然違う…
佳奈は、恒彦の愛撫を思い出しながら、心の中で呟く。
あの胸や股間を弄る指先の動きは細やかで優しく、全身を這う唇と舌先の温もりは、とても暖かい。
ならば…
刑部(ぎょうぶ)様に抱かれるのも…
『アッ…アッ…アッ…』
佳奈は、洗い物をしている最中…
不意に声を漏らすと、乳首の辺りと股間に手を伸ばした。
不意にまた、むずつき火照り出したからである。
それが始まり出したのは、恒彦と暮らし始めて一月程経った頃からの事。
彼に愛撫された時の温もりと感触を思い出すと、それが起こり出すのである。
ぎ…刑部(ぎょうぶ)様…刑部(ぎょうぶ)様…
むずつきと火照りは、恒彦の顔が浮かぶにつれて、更に増してゆき、どうにも落ち着かなかなってくる。
『アッ…アァッ…アァァッ…』
佳奈は、最早堪えきれぬと言うように、触れた手の指先で、弄り出した。
始めてそれが始まった頃…
自分で自分がどうなってしまったのか分からず、恐ろしい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
何とかこの衝動を抑えようと必死にもなったが、身体(からだ)のむずつきと火照りはどうにもならず…
起きて仕舞えば、どうにも我慢出来ずに手が伸びてしまう。
ある時、丁度それが起き始め、堪えきれずに自分で慰め始めたところを、亀四郎に見つかった。
佳奈は余りの恥ずかしさに、後ろを向いて泣き出したのだが…
『恥ずかしがるこたあねえ、ごく普通のこったからな。』
亀四郎は、佳奈の肩に手を乗せて、優しく言った。
『普通の…事?』
『そう、要するに、佳奈ちゃんは女で、お頭は男。それだけのこったよ。
女なら好いた男を、男なら好いた女を、誰だってみんな、身体が求めて恋しがる。』
『みんな…って、刑部(ぎょうぶ)様も?』
『ああ、そうだ。だから、こうして一つ屋根の下で暮らしてるじゃないか。』
佳奈は、亀四郎に言われた事を思い出しながら、なおも身体(からだ)を弄り続けた。
『アッ…アッ…アッ…アッ…』
刑部(ぎょうぶ)様…
刑部(ぎょうぶ)様…
刑部(ぎょうぶ)様…
佳奈は、恒彦の名を口走りながら、そっと目を瞑る。
以前は、目を瞑るのは恐怖でしかなかった。
瞼には、あの船で絶え間なく弄んできた渡瀬人(とせにん)達の顔がすぐに浮かびあがり…
脳裏を掠めるのは、小さな身体(からだ)に十人がかりで群がり、よってたかって弄ばれた時の苦痛ばかりであったから…
でも、今は違う。
瞼を閉じれば、恒彦が優しく笑いかけ…
脳裏を過ぎるのは、恒彦に優しく舐め回された時の、ザラついた舌先の暖かな感触…
そう言えば…
佳奈はふと思う。
私の身体(からだ)って、どんな味がするのかしら…
甘いのかしら…
酸っぱいのかしら…
辛いのかしら…
更にまた…
刑部(ぎょうぶ)様の味は…
『ウグッ!』
佳奈は、突然、激しい吐気に襲われ、口を抑えた。
『さあ、しっかり咥えろよ。』
『噛むんじゃねえぞ、噛んだら…わかってるな。』
『オラオラッ!しっかり舌使って舐めろ!舌使ってよ!』
船の中で、渡瀬人(とせにん)達の穂柱を咥えさせられた時の事を思い出したからである。
鼻をつくような強烈な尿臭と…
口に広がる塩辛い味…
そして…
『さあ、しっかり飲み込めよ!一滴たりとも、吐き出すんじゃねえぞ。』
口腔内に放たれる生臭いもの…
イヤッ…
佳奈はまた、正気を失いかけてきた。
ヤメテ…
ヤメテ…
痛い…
痛い…
お願い、もう…
『イッ…イッ…イヤ…』
佳奈が、今にもまた、悪夢に魘された時の声を上げかけた時…
ポーン…
ポーン…
ポーン…
と、外から聞こえる鞠を弾く音…
同時に、下手くそな手毬歌が聞こえてきた。
あ…
刑部(ぎょうぶ)様…
佳奈は、我を取り戻すと、満面の笑みを浮かべて外に飛び出して行った。
すると、恒彦が無愛想な笑みを浮かべて、こちらに手を振っていた。
佳奈は、毎日、恒彦に愛撫され、今は彼の為に料理を拵え、洗濯や掃除をするようになってから…
彼の事は何でもわかる気してきた。
彼は、孤独を好み、いつも一人でいたがるように見えて、とても寂しがり屋…
ぶっきらぼうで、突き放すような態度ばかり示したがるが、甘えん坊のかまってちゃん…
わざと音を立てて鞠を突き、大声あげて手毬歌を歌うのは、一緒に遊んで欲しいのだ…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
佳奈が、洗い物を放り出して外に駆け出すと、恒彦は返事の代わりに無愛想な笑みを浮かべて、鞠を蹴ってきた。
佳奈は、足で鞠を受け止めると…
ポーン…
ポーン…
ポーン…
暫し恒彦と同じ手毬歌を口ずさみながら、つま先で鞠を弾いて見せる。
そして…
ポーンと恒彦に蹴り返すと…
恒彦はまた歌い返しながら、鞠を受け止めようとするが…
鞠は、恒彦の足を遠く外して飛んでゆく。
佳奈がクスクス笑い出すと、照れ臭そうに頭を掻いていた恒彦が、両手を広げてきた。
佳奈は満面の笑みを浮かべて駆け出すと、恒彦の胸に飛び込んで行った。
『佳奈…佳奈…可愛い佳奈…』
恒彦は、柄にもなく加奈に頬擦りしながら同じ言葉を繰り返してきた。
やっぱり寂しかったんだ…
やっぱりかまって欲しかったんだ…
佳奈は、ざらつく恒彦の頬の感触からそう感じると、愛しさが込み上げてきた。
『佳奈や…』
暫し佳奈を頬擦りし続けた恒彦は、佳奈と目を合わせると、無言になった。
佳奈は、こう言う時の恒彦がどうして欲しいか知っている。
甘えて欲しいのだ。
『刑部(ぎょうぶ)様、痛い…痛い…痛いよう…』
『そうか、また、痛むのか。』
『痛い、痛い…』
『よしよし、可哀想に…刑部(ぎょうぶ)はここにいる。ここにいるぞ。』
恒彦は、不器用で…何処か寂しそうな笑みを浮かべると、佳奈を更に強く抱きしめながら、唇を重ねてきた。
佳奈は、互いの舌先を絡ませあいながら、恒彦の手を小さな股間に導いて行く。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様…』
恒彦は、佳奈がニッコリ笑って大きく頷くのを見ると、佳奈の着物の裾に導かれた手を忍ばせて、小さな丘とスベスベとしたワレメを弄り出した。
『アン…アン…アン…』
やがて、佳奈が甘えるような声を漏らすと、恒彦は唇を首筋から胸へと這わせてゆき…
もう片方の手で、そっと佳奈の胸襟を開かせ、剥き出した粒のような乳首を吸い始める。
『アッ…アッ…アッ…アーン…アーン…アーン…』
佳奈は、更に甘えるような声を上げながら…
違う…
全く違う…
あの人達と刑部(ぎょうぶ)様とは…
暖かい…
暖かい…
だったら…
だったら…
それに…
私って、どんな味がするのかしら…
刑部(ぎょうぶ)様って、どんな味がするのかしら…
心の中で呟き…
『刑部(ぎょうぶ)様、私…』
言いかけるより早く…
『アァァァァーーーーーーンッ!!!』
無意識の声を張り上げながら、意識が遠のいていった。
我に帰れば、恒彦は着物をはだけさせたまま寝転ぶ佳奈の側に座り、いじけたように羽子板で羽根を跳ね上げていた。
佳奈は、恒彦に気づかぬよう、薄目を開けて暫し見つめた後…
『それっ!』
不意に、恒彦に飛びつき、その手から羽子板と羽根を取り上げると、駆け出して行った。
『あっ!コラッ!佳奈っ!』
驚いたように振り向き声を上げる恒彦に…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
佳奈は、ニコッと笑って見せると、取り上げた羽子板で、羽根を撥ねつけた。
『そらっ!』
恒彦は負けじと、急ぎ手に持つもう一枚の羽子板で撥ね返す。
『それーっ!』
佳奈の弾けるような声と同時に…
コーン…
コーン…
コーン…
と、羽子板が羽根を突く音が、軽やかに鳴り響いて行った。
今日はどれほど遊んだだろう…
佳奈の笑顔をどれだけ見た事だろう…
恒彦は、一人浴室に篭り、同じ事を思っていた。
亀四郎は、子供ではないと言う…
亀四郎は、女だと言う…
だが…
俺の周りを、囀りながら駆け回る佳奈は、十歳の子供そのものではないか…
今日は一日、あのあどけなさにどれだけ救われた事か…
佳奈と遊んでいる間、恒彦は亀四郎から聞かされた事も、それによる心の疼きも忘れかけていた。
しかし、こうしてまた、一人になってみると…鷹爪衆船頭の末娘は、結局、赤兎にされてしまったと言う…
彼も彼の配下の者達も、皆、家族は河原者に落とされたと言う。
そればかりか…
あの時、救い出したはずの娘達も…
結局は皆…
『あんたは、あいつと違う。全然違うわ。』
『やっぱり、私はあんたが好き。あいつなんかより、ずっと、ずっとね。』
また、あの妖艶な笑みと眼差しをむけて、囁きかける声が聞こえて来る。
何が違えってんだ…
結局、何もできやしねぇ…
結局、ただの弱虫なのは一つも変わらねぇ…
不意にまた、佳奈が恋しくなってきた。
柔らかな感触と温もりと…
花のような芳しい香り…
何にも増して…
果実のような甘い味…
焚き場から、新たな薪木を焚べる音と火を吹く音が聞こえてくる。
『刑部(ぎょうぶ)様、湯加減、いかがですか?』
『うん。良い具合だ。』
恒彦は、焚き場の火を見る佳奈に答えながら、あの小さな身体(からだ)が、脳裏を掠めてきた。
今や、目を瞑らなくても、佳奈の身体(からだ)の隅々まで脳裏に浮かび上がってくる。
そして、細長い手が恒彦の首の後ろにまわされ、うっとりさせた笑みと眼差しが、唇を求めてくる。
佳奈、一緒に入らぬか…
喉元まででかかった時…
恒彦は、ハッとなって口を噤む。
股間が疼き腫っている。
同時に、また、毎夜見る夢を思い出してきた、
『アーンッ…アンッ…アンッ…アーン…』
赤子のような声で喘ぐ佳奈の身体(からだ)を、憑かれたように愛撫している夢…
首筋を舐め、乳首を吸い、背中を撫で回し…
手足の指を、一本一本丹念にしゃぶり回してゆく。
そうして、股間に顔を埋め、白桃色した真っさらな神門(みと)の盛り上がりと、真ん中を走るワレメを目にした時…
いつもなら、果実の汁を吸うように、夢中になってむしゃぶり、舐め回すのだが…
夢の中では、急に動きが止まり、鼓動が高鳴り出す。
ワレメを開けば、まだはみでる気配すら無い、小さな内神門(うちみと)のヒダが、早く愛撫して欲しいとヒクヒクさせている。
恒彦も、早く次の行動に出たいと気は急くが、金縛りにあったように、目がそこに釘付けとなり…
鼓動の高鳴りばかりが激しさを増してくる。
同時に疼き出す股間の膨張…
『刑部(ぎょうぶ)…様…刑部(ぎょうぶ)…様…』
佳奈が、悩ましい声で呼び掛けると、遂に恒彦の理性の糸が切れ、飛び上がるように顔を上げるや、小さな脚を乱暴に広げさせる。
そして…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
何が起きたのか理解できぬ佳奈の驚愕した眼差しをよそに、恒彦は極度まで膨張した穂柱を、佳奈の神門(みと)に押し付ける。
『イヤッ…ヤメテ…ヤメテ…イヤッ…イヤッ…』
漸く、何が始まるのか察した佳奈は、涙目で嫌々をし…
『痛いっ!痛いっ!痛いっ!キャーーーーーーーーッ!!!!!!』
凄まじい絶叫を耳にするのを最後に、恒彦はもう、自分が何をしてるかわからなくなっている。
ただ…
気づいた時には、疼きのおさまった穂柱の先端から糸を垂らし、佳奈の血まみれになった神門(みと)のワレメからは、大量の白穂が溢れ出しているのである。
『佳奈…すまんっ!すまんっ!』
恒彦は、漸く取り返しの付かぬ事をした事に気づき、必死に謝るが…
佳奈は、意外にも満面の笑みを浮かべていて…
『刑部(ぎょうぶ)様が、私の中に入って来られました。これで、私達、本当の夫婦(めおと)ですね。』
と、囁くように言う。
その笑顔は、嬉しいと言うよりは、何処か勝ち誇り、何かに達したようにも思われた。
恒彦は、夢の細部まで思い出すと、また、あの妖艶な笑みと眼差しの囁きが聞こえ出してくる。
『佳奈ちゃんの抱き方、知りたくて?』
『佳奈ちゃんの抱き方、教えてあげようか。』
『佳奈ちゃんの抱き方、教えてあげる。』
『いらっしゃい、私の懐に…佳奈ちゃんの全部、教えてあげてよ。』
恒彦は、延々と耳の奥底に響く声に向かい…
『余計なお世話だ!消えろ!』
叫びかけた時…
『刑部(ぎょうぶ)様、お背中お流ししましょうか。』
湯殿の引戸越しに、佳奈の声が聞こえて来た。
佳奈、来てくれたのか…
恒彦は、ホッと救われたように気持ちを落ち着けた。
『うん、頼む。』
『では、失礼します。』
声と同時に引戸が開き、三角巻きに手拭いを巻き、襷掛けした佳奈が入って来た。
『佳奈…』
恒彦が、何処か寂しげに笑いかけると、佳奈は満面の笑みで返して、早速背中を流し始めた。
佳奈は、例によって、そうするのが何よりも幸せであるかのように、恒彦の背中を丹念に洗い流して行く。
心地よい…
何て心地よいのだろう…
恒彦は、佳奈に手拭いで背中を擦られ、湯をかけられながら、染み染み思った。
まるで、垢と一緒に、心の痛みも傷も、全て洗い流されるような気がする。
と…
不意に、佳奈の手が止まった。
『佳奈、どうした?』
『刑部(ぎょうぶ)様、何かありまして?』
『何でだ?』
『何だか、とても悲しそう…』
佳奈は言うなり、恒彦の肩を抱き、頬を乗せた。
『何も無いさ。ただ…』
『ただ?』
『自分の弱さ、不甲斐なさ、情けなさを染み染み感じていただけさ…』
恒彦が自嘲気味に言うと…
『刑部(ぎょうぶ)様は、不甲斐なくも情けなくもありません…とても、お優しくて、お強くて、頼もしいお方です。』
『佳奈…』
恒彦が振り向くと、佳奈はハラハラと涙を零して、しゃくりあげていた。
『そうか…俺は、優しく、強く、頼もしいか…』
『はい。』
恒彦は、しゃくりあげながら頷く佳奈の頭をそっと撫で…
『おまえも、背中を流すか?』
話を変えるように言うと…
『はいっ!』
佳奈は打って変わったように、満面の笑みを零し、そそくさと着物を脱ぎ出した。
『どうだ、佳奈、気持ち良いか?』
『はい、とても。』
嬉しそうに頷く佳奈は、やはり来てみて良かったと思った。
焚き場で、壁越しに返事を返す恒彦の声は、何処か寂しそうに感じられた。
何より、来て欲しい、側にいて欲しいと言われているような気がした。
佳奈は、矢も盾もなく駆けつけてみたが…
やはり、寂しかったんだ…
恒彦の背中を流しながら、そう感じると、胸がいっぱいになり、思わず涙を溢れさせた。
しかし、無骨な手で、不器用に背中を流してくる恒彦は、もう寂しくはなく、とても嬉しそうであった。
『刑部(ぎょうぶ)様、佳奈は此処におります。』
佳奈が不意に呟くように言うと…
『佳奈…』
刑部(ぎょうぶ)の手が止まった。
『もう、大丈夫…もう、大丈夫…佳奈は、ずっと、ずっと、刑部(ぎょうぶ)様のお側におります。』
佳奈が更にそう言うと…
『佳奈、こっちを向いて…』
恒彦は言いながら、佳奈を正面に向かせた。
『前も、洗ってやろう。』
『はい。』
佳奈がまた、満面の笑みで頷くと、恒彦は早速湯をかけ、前も洗ってやり始めた。
無骨な手に握られた手拭いが、小さな首筋から肩、肩から両腕、指の先へと優しく擦られながら、ゆっくりと這ってゆく。
『佳奈、刑部(ぎょうぶ)もだ…刑部(ぎょうぶ)も、ずっと側にいるぞ。一生、佳奈を手離しはしないぞ。』
恒彦もそう言うと、佳奈の小さな指を一本一本口に含み、手の裏表を舐め回しながら、手拭いを真っ平らな胸に運び、乳首の当たりを撫で回すように洗い出した。
『アァァ…アァァ…アァァ…』
佳奈は、うっとりした顔を天井に向け、静かな喘ぎを漏らしだした。
『佳奈…佳奈…俺の佳奈…』
恒彦が、佳奈の手から腕に舌先を移しながら、それまで撫で回していた粒のような乳首をそっと摘んで洗い出すと…
『アンッ…アンッ…アンッ…』
それまで、伸びやかだった佳奈の喘ぎは、軽やかで短調になって行く。
そして…
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様…』
存分に小さな両腕を味わい尽くした恒彦は、顔を上げて佳奈と見つめ合うと、濃厚に唇を重ねながら、手拭いを更に腹部、下腹部へと移してゆく。
やがて、無骨な手に握られた手拭いが、股間にただすると…
『アァァッ…アッ…アッ…アッ…アァァッ…アッ…アッ…アァァッ…』
佳奈は、恒彦に吸われる唇を離して、まあ、喘ぎ出した。
『佳奈、そこにお座り。』
『はい、刑部(ぎょうぶ)様…』
恒彦は、佳奈を湯船の縁に腰掛けさせると、大きく脚を開かせ、股間に顔を埋めた。
真っさらな丘の膨らみは、薄紅から紅色に変わり、神門(みと)の中央を走る縦一本線のワレメは、既にしっとりと濡れていた。
ワレメを開き、参道を覗き見れば…
あるかなしかの小さな内神門(うちみと)は、早く吸われたいと、ヒクヒクさせている。
不意に、恒彦の動きが止まった。
早く佳奈の果実に口付けたい…
果汁を吸うように、むしゃぶりつきたい…
気持ちばかり急くのだが…
まるで、金縛りにあったように、目線が参道の奥へと釘付けられ、鼓動ばかりが高鳴り出す。
これは…
と、恒彦は思う。
あの夢と同じ光景…
早くこの金縛りを解かなければ…
佳奈の果実に口を運び、いつも通りに仕上げねば…
しかし、恒彦の焦りと反比例して、股間は疼き腫れ上がり、穂柱は痛い程に熱を帯びて膨張している。
その時…
『刑部(ぎょうぶ)様…』
頭の上から、佳奈がうっとりと笑いかけてきた。
『佳奈…』
一瞬、理性が飛んでしまうのでは…
夢のように…
思いかけたのとは裏腹に、恒彦は正気に帰ると笑い返し、そのまま佳奈の股間に顔を埋めて行った。
本当に幸せ…
恐ろしいくらいに…
佳奈はまた、今日と言う一日を振り返って、しみじみ思った。
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に暮らせて…
刑部(ぎょうぶ)様の為に家事をして…
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に遊んで…
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に戯れて…
だけど…
刑部(ぎょうぶ)様は…
あれだけ愛撫されたと言うのに、まだ身体(からだ)は火照り続け、鼓動は高鳴り続けている。
あの後二人で湯に浸かると、それまで繰り広げていた男と女の戯れと一変して、共に子供帰りした。
恒彦が、手で水鉄砲をして見せると、佳奈は面白がり、自分もやってみたがった。
水鉄砲は、見た目と違って、いざやってみるとなかなかうまく行かず、恒彦が手本を見せる度に首を傾げてばかりいた。
恒彦も途方にくれた。
何しろ、手の水鉄砲は理屈ではなく、身体(からだ)で覚えた遊びなのだ。
言葉で教えようがなく、どうして良いかわからなかった。
しかし、何度も見よう見まねでやるうちに、佳奈は何気なくできるようになった。
『刑部(ぎょうぶ)様、できるようになりました。』
『おう、うまいじゃないか、佳奈…』
言いかける恒彦の顔に、佳奈が撃つ水鉄砲の飛沫が、恒彦の顔を直撃する。
『あっ!やったな、コラッ!』
クスクス笑う佳奈の顔に、今度は恒彦が飛沫を浴びせた。
『それっ!』
『そらっ!』
それから、二人は延々と飛沫のかけっこをした後、恒彦は水面に手を押し込むように潜らせ噴水を起こして見せた。
それも、手の押し込み方、力加減、手を潜らせる深さに応じて、実に様々な形の噴水を起こし、さながらそれは、水芸のようであった。
『わあっ!』
恒彦が一つ噴水を起こす度に、感嘆の声を上げる佳奈は、飽きる事なく何度も見たがり…
『刑部(ぎょうぶ)様、もっと見せて下さりませ、もっと見せて下さりませ。』
『よーし!それじゃあ、次はこうだ!』
恒彦も、得意になって、延々と様々な噴水を作り続けた。
やがて…
『何か、ぬるくなってきました。』
佳奈は、湯が冷めて始めた事に気付き始めた。
思えば、長いこと、焚き場の番人は不在になっていたのである。
薪木も次第に燃え尽きて、湯を炊く火は消えかけていたのである。
しかし…
『ぬるうなんか無いさ。』
恒彦は言って、出ようとしない。
『でも…』
佳奈は、恒彦に風邪をひかせては…と、思うと…
『こうすれば、温かろう。』
恒彦はそう言って、佳奈を抱きしめた。
『はい。』
確かに…
こうして肌を重ねて抱きあえば、とても暖かいなと、思った。
湯よりも、恒彦の温もりの方が、暖かいなと思い、もう少しこうしていたいと思った。
それに、何故か…
湯が冷めてくるのとは反比例して、恒彦の肌は熱を帯びているようにも思われたのだ。
このまま一晩、冷めた湯の中で抱き合うのも良いかも知れない…
と、その時…
佳奈は、尻に何かコツコツ当たるものがある事に気づいた。
えっ?
佳奈は、何だろと思い手を伸ばして、ハッとなった。
『佳奈、どうした?』
『えっ?いいえ、何でもありませぬ。』
『そうか…』
そしてまた、恒彦の胸に顔を埋めながら、亀四郎の言葉を思い出す。
『要するに、佳奈ちゃんは女で、お頭は男。それだけのこったよ。
女なら好いた男を、男なら好いた女を、誰だってみんな、身体(からだ)が求めて恋しがる。』
刑部(ぎょうぶ)様が、私を求めてる…
刑部(ぎょうぶ)様の身体(からだ)が、私を…
そしてまた、亀四郎の言葉を思い出す。
『ちゃんと抱いて貰え。戯れるだけでなくてな。』
『抱かれるのが怖けりゃーな、せめてお頭の疼きを慰めてやるこって。佳奈ちゃんが、毎日して貰っている事を、お頭にもして差し上げれば良え。』
私も、刑部(ぎょうぶ)様を…
私って、どんな味なのかしら…
刑部(ぎょうぶ)様の味って、どんな…
しかし、此処でまた…
『さあ、しっかり咥えろよ。』
『噛むんじゃねえぞ、噛んだら…わかってるな。』
『オラオラッ!しっかり舌使って舐めろ!舌使ってよ!』
船の中で、野獣のような男達に、連日捻り込まれた穂柱の尿臭と、口腔内に放たれた生臭いものの記憶が、佳奈は思考を遮られて震えだす。
『どうした、佳奈?』
『刑部(ぎょうぶ)様、寒い…とても寒い…』
『そう言えば…』
恒彦は、薪木の燃える音が止まっている事に気づいた。
新しい薪木を継ぎ足す者がいなくなれば、やがて燃え尽き、火は消える。
抱きあえば暖かいと言っても、湯が水になれば、さすがに寒い。
『出ようか。』
『はい。』
恒彦は、静かに頷く佳奈を愛しげに抱き上げると、漸く湯船を上がった。
『良い。』
恒彦は、佳奈に身体(からだ)を拭われ、洗い立ての寝巻きを差し出されると、そっと押し退けた。
『今宵は、このまま寝る。』
『ならば、私も…』
佳奈も、そう言って自身の寝巻きを押し退け、恒彦の背中に頬を乗せると…
『行くか。』
恒彦は、佳奈の頬を撫で、互いに笑みを交わし合って立ち上がる。
二人とも、一糸纏わぬ裸のまま湯殿を出て、寝間に行き、寝床に入った。
どうして差し上げれば良いのだろう…
風呂を上がった後も、恒彦の穂柱は、ずっとそそり勃たたせていた。
おそらくは、今もきっと…
その原因は自分にある。
佳奈の身体(からだ)が恒彦を求めるように、恒彦の身体(からだ)も佳奈を求めているのだ。
どうして差し上げたら…
その思いはまた…
どんな味がするのかしら…
私の身体(からだ)は…
刑部(ぎょうぶ)様の身体(からだ)は…
『佳奈、眠れねぇのか?』
『はい。』
『また、痛むのか?怖え夢を見そうなのか?』
『いいえ…』
『じゃあ、どうして…』
恒彦が言い終えるより先に、佳奈は唐突に起き上がるや唇を重ねた。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様、私ってどのような味がするのですか?』
『味?』
『はい、私を可愛がってくださる時の味です。』
『そうだな。とても、甘え味だ。』
『どのような、甘さですの?』
『そうだな…その日、その時、佳奈の身体(からだ)の場所によって違う。瓜のようでもあれば、柿のようでもあり、蜜柑のようでもあれば、杏子のようでもある。』
『何処が一番甘うございますか?』
恒彦は、答える代わりに、佳奈の股間を弄り出した。
『アッ…アッ…アッ…アァァァァ…』
『此処が一番甘え、特にこのあたりがな…』
『アァァァァーーーーーーンッ!!!!』
佳奈は、股間を弄る指先が、神門(みと)先端の包皮を捲りあげ、粒のような神核(みかく)を直に摘まれると、腰を弓形に反らせて声を上げた。
『それと、此処だな…』
『アァァーンッ!アッ!アッ!アッ!アァァーンッ!』
恒彦は、更にもう片方の手の指先で佳奈の片方の乳首を摘んで言うと、更にもう片方の乳首を舐め出した。
『アンッ!アンッ!アンッ!アンッ!』
佳奈は、暫しの間、身体(からだ)を仰け反らせて声を上げ続けた後…
『刑部(ぎょうぶ)様…私も、知りとうごぞいます。』
『何をだ?』
『刑部(ぎょうぶ)様のお味を…』
『俺の味?』
首を傾げる恒彦にニコッと笑って見せると、その首筋に唇を当てた。
『佳奈…』
佳奈は、戸惑う恒彦をよそに、いつも自分がそうされるように、唇を首筋から胸へと這わせ、毛に覆われた乳首の辺りを舐め始める。
『ウッ…』
不意に、小さな手が、股間に回さらると、恒彦は声を漏らした。
熱い…
何て熱いのだろう…
佳奈は、極限までそそり勃つ穂柱を手に包み込むと思った。
『ウゥゥ…佳奈…佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様は、塩辛うございます。』
『塩…辛い…』
『はい。でも、とても優しい辛さです。』
そう…
塩辛いけど…
とても優しい味…
とても優しい匂い…
あの人達と違う…
あの人達と全然違う…
佳奈は、胸から腹部、腹部から下腹部へと唇を動かして、舌先を這わせて行く事に、船の上の事が一つ一つ消えて行くのを感じた。
代わりに、恒彦の事でいっぱいになって行く…
佳奈の手の中で、恒彦の穂柱は更に熱を帯びて行く…
何て愛しいのだろう…
もう怖くない…
もう痛くない…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…ウゥゥ…』
『はい、佳奈は此処におります。』
『佳奈…佳奈…』
そうではない…
そうではない…
よせ…
やめるんだ…
それ以上されたら…
俺は…
しかし、恒彦の声は、喉から出てくる事はなかった。
熱く激る穂柱を包み込む小さな手の温もりと、身体(からだ)の上を這う柔らかな舌先の感触に、金縛りにかけられ…
意識も理性も遠のいて行くのを感じる。
このままでは…
このままでは…
あの夢のように…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…佳奈…』
わあ…
可愛い…
佳奈の唇が、恒彦の下腹部を通過して、遂に穂柱近くまで到達した時…
佳奈は、思わず笑みを浮かべた。
船の上で突きつけられたモノのように臭くもなければ、醜くもない。
何故か、幼い坊やに遭遇したような愛しさが込み上げてくるのを感じた。
手を離せば、ヒクヒク揺れる穂柱は、早く早くと駄々をこねてるようにも見える。
もうすぐですよ。
佳奈は、穂柱を軽く小突き、その先端を指先で優しく撫で回しながら、また、同じ思いが過り出した。
どんな味がするのだろう…
私の味は、蜜柑や杏子だと仰られてたけど…
刑部(ぎょうぶ)様の味は…
この味は…
この匂いは…
まるで…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…もう…もう…』
佳奈を押し退けなくえは…
そう思うのとは真逆に、恒彦の手は、佳奈の頭を押し付けるように撫で回し、神門(みと)のワレメを弄り続ける。
柔らかな髪と、しっとり濡れた参道の感触は、穂柱を揉み扱がれ、穂袋を舐められる心地良さを増長させる。
恒彦は、腰をくねらせ、全身を悶えさながら、何もかも飛んでゆくのを感じた。
意識も、理性も、良心も…
ただ、桃源に遊ぶにも似た快楽に、身を委ねる事しかできなくなっていった。
『佳奈…』
佳奈は、穂袋を丹念に舐め回すと、いよいよ休みなく扱き続けてきた、穂柱に舌先を向けた。
最初は、裏側の付け根から先端に向けて何度も舐め上げ…
次第に先端の裏側を集中して舐め回したゆき…
『ウゥゥッ…ウッ…ウッ…ウゥゥッ…』
恒彦の呻きとも喘ぎともつかぬ声は、穂柱を頬張る佳奈の小さな口と舌先の動きに合わせ、次第次第に大きくなって行く。
磯の味…
潮の味…
佳奈は、口腔内に広がる穂柱の味を舌先に噛み締めながら、思った。
川の世界を生きる人だけど…
刑部(ぎょうぶ)様から滲みでる味と香りは、海のもの…
広い広い…
果てしない海のもの…
『ウッ…ウッ…ウッ…ウッ…』
恒彦は、次第に下腹部の奥から、何やら暖かいものが込み上げてくるのを感じた。
近づいている…
この暖かいものが、外に向かって放たれようとする瞬間が…
そして…
『ウゥゥゥゥーッ!!!!』
恒彦が、獣の咆哮にも似た声を上げて、思い切り腰を突き上げると同時に…
広がる…
広がる…
磯の味…
潮の味…
佳奈は、口腔内いっぱいに、泉のように湧き出る生暖かなものを吸い上げ、呑み込みながら思った。
広い…
広い…
果てしない…
海のような味が…
刑部(ぎょうぶ)様が、私の中に入ってらした…
これで、夫婦(めおと)になれるんだ…
私は、刑部(ぎょうぶ)様のお嫁さんになれるんだ…
そう思うと…
『佳奈っ!』
白穂を放ち尽くすと、漸く我に帰った恒彦は蒼白になって状態を起こした。
佳奈は、尿道に残った白穂も飲み尽くそうと、未だ穂柱を吸い上げている。
とうとうやってしまった…
夢の通りになってしまった…
恒彦は、取り返しのつかない罪悪感に震え出すと…
『刑部(ぎょうぶ)様。』
と、漸く穂柱から口を離す佳奈が、満面の笑みを向けてきた。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様は、磯の味…広い広い果てしない、海の味が致しました。』
『そうか…』
『これで、私、刑部(ぎょうぶ)様に夫婦(めおと)にして頂けますね。私、刑部(ぎょうぶ)様の、お嫁さんにして頂けますね。』
そう言って、笑いかける佳奈の顔は、嬉しいと言うより、何か誇らしげなものを感じさせていた。