詩「ざくろ」 石川勝敏作
バスから上がって
手をあぐねる
ない ない
タオルを用意していなかった
裸身で
部屋をまたぎ
しかるべき場所で
手に取るタオル
少しためらう
何をもじもじしているのだ
たちまち
その場で裸身をぬぐう
焚いている香が鼻腔をくすぐり出した
気付けば裸身のまま
ベッドに横たわっていた
何らも 掛けずに 包まずに 覆わずに
なんて姿態だろう
思わずそう思い すぐさまサイドテーブルへ腕が
切っておいた もうぬるい ざくろ一片
手に取ったら 半分を口に含めた
腕がしびれたように 動かない 動かせない
思わず嚙んだ
すると汁が 口唇から下あご
なめるように のどからデコルテへ すべり落ちる
汁が 裸身に入っていく
乾いていたらしい
そのまま飲み込んだ
のどがぐいと鳴った
残り半切れを上にして眺めた
部屋の対角に置かれた スタンドライト2つが
絞られた光をそれに投げかける
ため息をついた
あーしんど
疲れはむしろ 晴れてからあとに
膿のように あふれ出てくる
一瞬のうちに それにがぶりつき
ガツガツとやってやった
適当にカスを ゴミ箱の方 放り投げながら
東京ベイエリアがうかがえる
窓辺へ 急ぎ歩きで向かい
さっとカーテンをこじ開けた
遠くでも近くでもない処にも
マンションの灯りがこうこうとしている
屹立したペニスを 窓に押し付けると
あごひげが強く意識された
のぼせるような意識だ
彼は ゆっくり ゆっくり
しかし 丹念に
腰を動かしてゆき
束の間 その動きが
マウスの輪のように速くなったかと思うと
彼はカエルのようなポーズで
そこにピタリと静止していた
誰も見てやしない
そうさ
だーれも 見てやしない