マロンの新しい病院を探そう。
既に病気になっている子を診てくれるところで、
マロンを車に乗せて連れて行くことを考えると、
自宅から30分以内の距離にしたい。
そして預かりも受けてくれるところ。
ハードルはなかなか高くて、
インターネット検索でヒットした病院に、
片っ端から電話をしました。
『かかりつけで継続して診ている子しか預かれない』
『病気の治療中や慢性化している子を途中から診るのは…』
病院から言われることは最もですが、
こちらも諦めるわけにはいかなくて。
何軒目かにやっと『一度連れてきてみてください』と言われた時には、
ありがたくて涙が出そうでした。
隣のそのまた隣の市にある病院ですが、
自宅から車で20分ほど。
獣医さんが8人に動物看護士さん、
医療トリミングのスタッフもいらっしゃる大きな病院で、
待合室にも外にも患者さんが溢れています。
やっと順番が回ってきて診察。
前の病院にはCTなどの機械はなく、
シニア犬にとって検査の負担をかけるより、
困っている症状を緩和させることを第一にというご配慮で、
血液検査もしたことがなく、
先生が様子を診て処方してくださった薬をいただくという対症療法でした。
薬の処方箋などもなく、
『気持ちを落ち着かせる安定剤のようなもの』とか
『神経の伝達をよくするもの』などと口頭で説明を受けていました。
それでも先生を信頼していましたし、
不満はありませんでしたが、
新しい病院の診察の流れがあまりにこれまでと違っていて驚きました。
診察室に入るとまず、
「セカンドオピニオンですか?それとも今後ウチで面倒見させてもらえますか?」と聞かれたので、
これまでの経緯を説明し、今、服用している薬もすべてお渡しして、
今後お世話になりたいとお伝えしました。
先生は体温を測り、聴診器で胸の音を聞いて、
瞳孔や手足の反応など全身をチェックした後で、
「年齢や、発症してからの時間を考えても、CTなど麻酔をかける検査については私もリスクの方が大きいのでしない方がいいと思いますが、レントゲンと血液検査で今の状態をもう少し詳しく診せてください」と。
可愛い制服の看護師さんに抱っこされたマロンたんとしばらくお別れ。
―――その後、先生からのお話。
①骨や筋肉の状態は、17歳とは思えないほどしっかりしている。
②3ヶ月以上ステロイドを服用している割に腎臓などの状態も悪くない。
③検査結果と今の様子からみて、脳障害がきっかけとなった認知症がかなり進んでいる。
動きが激しく食欲があるのはステロイドの影響もあって、
ステロイドは長く続けると腎臓などへのダメージもあるけれど、
マロンの場合、食べられなくなったら衰弱が進むと思われるので、
血液検査を定期的にしながらステロイドだけ続けましょう。
厳しい現実だけど、まずは、はっきり現状をお話させてもらいますね。
今後大きな痙攣などの発作が起きる可能性はあるし、
認知症が進行することによって全身状態が弱ることも考えられるし、
総合的に診て、これから良くなるとか病気が治るという可能性は低く、
年単位ではなく月単位で考えてエンディングに向かって緩和ケアを考える段階にいます。
―――――ちょ、まって…
認知症?
つい数か月前までトイレの失敗も全然なくて、
毎日一緒に楽しくお散歩に行って、
夜になったら自分でベッドに行って朝までぐっすり寝ていたのに?
キッチンでりんごを切っていたらいつの間にかそばに来ておねだりしていたのに?
エンディング?
緩和ケア?
言葉を失う私に、
『今、一番望むことはなんですか?』と聞かれ、
「マロンが少しでも穏やかに、楽に過ごせる時間が欲しいです」と、
現状がどうであれこの答えだけは、はっきりしていました。
先生は、
「マロンちゃんを楽にする、という意味だけにおいて言えば、現在の状態はアメリカなどの症例でいうと安楽死の適応です。でもそれは日本人の死生観にはなかなか合いにくいですし、もちろん私たちも勧めるつもりはありません。マロンちゃんもご家族も納得できるエンディングを迎えられるよう薬や周囲の力を借りながら向き合っていきましょう」
衝撃的な言葉が次々と出てきて、
とても気持ちが追い付かず、
先生のお話を聞き洩らさないようにするのが精いっぱいでした。
それでも、突然よそから転院してきた私たちに、
いきなり厳しい現実や、言いにくい予後を伝えなくてはならない中、
それでも色んな方法や薬の可能性や選択肢を示して、
しっかり寄り添ってくださる先生だと感じられました。
時間をかけて相談させていただいた結果、
先生が最優先させるべきだとおっしゃったのは、
『まずご家族が、休むべき時間(夜)に睡眠をとってください。そうでないと、これから何かを選んだり決めたりする時、睡眠不足では正しい(よりよい)判断ができませんよ。それに、私たちがお話する予後は統計的なもので、内臓も筋肉もしっかりしているマロンちゃんの生命力は、人間の予想なんか超えてくれるかもしれない。少しでも長くマロンちゃんと一緒にいたいのであれば、ご家族も健康でいなくてはね』
そしてこれまでの気休めのような安定剤ではなく、
アセプロ(APC)という鎮静剤を処方していただきました。
一日にして世界が変わったけれど、
いつかは向き合わなくてはならない現実はただ厳しいだけではなく、
一筋の光が差してきたようにも思えました。
最近、ベビーフードが使えることに気づいた私。
ご機嫌斜めで水を飲まない時でも、
水のお皿に数滴落としてやると、
甘い香りにつられてゴクゴクいってくれます。
ミカ