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『禅林句集』4.拈華微笑 ねんげみしょう

2022年07月26日 | 禅林句集

「拈」は「指先でつまむ」という意味です。この「華」は、金波羅華(こんぱらげ)という花であるとされています。(この花がどのような花だったかを調べてみましたが、わかりませんでした。)

「華を指先でつまんで微笑む」という意味の「拈華微笑」は、耳に心地よく響き、目にも優しい像を描いてくれることでしょう。この穏やかで美しい言葉は、『虚堂録』という中国南宋の虚堂智愚(きょどうちぐ)禅師(12-13世紀)の語録が出典とされていますが、もともとはお釈迦さまに由来します。

お釈迦さまは30代で悟りを得て、その後、教団を作って各地を回り、人の集まりで説法、お話をして教えを広めました。今から2500年ほど前の遠い昔です。仏教の教えは奥が深いので、もちろん、説法の言葉だけで伝えられるものでないはずです。お釈迦さまは、ご苦労があったとしてもものともせず熱心に人々に接して教えを説き続けたことでしょう。

お釈迦さまは80歳で入滅(にゅうめつ)、亡くなられたと伝えられていますが、晩年のある日、説法をする際に、このときはいつもと異なり、ただ黙って金波羅華の華一枝を差し出しました。それっきりです。説法なのに何もおっしゃらないので、皆、きょとんとしています。しかし、一番弟子の迦葉(かしょう)だけは違いました。一人、お釈迦さまの心をくみ取って、にっこり微笑んだのです。それがこの言葉の由来です。

仏教の教えは、言葉で言い尽くすことができない深いものだとされ、実際、そうでしょう。晩年のお釈迦さまは、自分の命がさほど長くないと感じ、大切な教えをどうしても後に続く人たちに伝えたかったはずです。勝手な解釈をすれば、お釈迦さまは、金波羅華一枝に、言葉では言い表すことができない教えを託したわけです。それを迦葉は、お釈迦さまの意図通り、はっきり理解してにっこり笑って応えた、という次第です。

「拈華微笑」のこの場面は、お釈迦さまの深い教えが弟子迦葉に、もっと言えば、次世代に受け継がられたまさにその瞬間で、さらに言えば、仏教が、これ以降今に続く2500年の長い歴史を持つに至った契機を表すと解釈できるでしょう。お釈迦さまはやがて亡くなりました。しかし、教えは迦葉に引き継がれ、さらに次世代へと絶えることがなく続いてIT時代の現代に伝授され、今なお信仰されているのは誰もが知るところです。何億人もの信者を持つ宗教の中で、仏教はかなり古い歴史を持ちます。(注)その長い歴史の第一歩を踏み出したのが「拈華微笑」というお釈迦さまと弟子迦葉の美しいやりとりだったと言えるでしょう。

臨済宗大本山の妙心寺には、「微笑会」という妙心寺の重要文化財・塔頭伽藍護持、顕彰等を目的とする会があります。(誰でも会員になることができます。)昭和45年設立で半世紀の歴史を刻みますが、「微笑会」の「微笑」は、この「拈華微笑」に由来していると伺いました。この命名は、お釈迦さまの教えが世代を超えて受け継がれたように信仰の機縁になる文化財を護持、顕彰するに実にふさわしい名称でありましょう。

 

参考文献等 

『訓註禅林句集(改訂版)』柴山全慶輯 書林其中堂 

『分類総覧禅語の味わい方』西部文浄著 淡交社

『岩波仏教辞典第2版』中村元他編集 岩波書店

妙心寺微笑会 https://www.myoshinji.or.jp/mishokai 

注・信者数が億単位の宗教は、他にキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教が思いあたるが、起源がはっきりしないヒンドゥー教を除けば、仏教が最も歴史が古いだろう。



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