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『禅林句集』2.看看臘月尽 看よ看よ臘月尽く みよみよ ろうげつ つく

2022年07月20日 | 禅林句集

この言葉は、「うかうかしていると1年が、人生が尽きてしまう。気をつけろ。」という警告です!

中国語の「看」は、日本語の「見る」にあたる語です。中国語では、同じ文字を2つ重ねる言い方が好まれ、意味を強めたり、何らかのニュアンスを与えたりします。また、「看」には、日本語の「~してみる」にあたる意味もあります。ですから、「よく見なさい」か「看てごらん」なのかはともかく、英語の “Look!” のように、強く人の注意を引いているのは間違いないでしょう。「看」は、また、「みるみるうちに、すぐに」という意味もありますが(注)、ここではやはり「見る」という動詞の意味で取る方が、「うかうかするな」という切迫感、緊迫感が伝わりやすいように思います。

「臘月」は、陰暦12月のことです。禅の言葉は、掛け軸になってお茶会で床の間を飾ることが多いのですが、12月には、「看看臘月尽」を掛けることがあると聞きます。1年を振り返り、新しい年を迎える節目として身を引き締める機会になるのでしょう。

12月になれば、1年ももう終わりです。年齢を重ねれば重ねるほど、1年は早く過ぎます。ふと気がつけばもう12月という経験がある方も多いでしょう。しかし、たとえ12月がまだ先でも、この言葉を胸に毎日を大切に過ごしなさい、と解釈すれば12月にこだわる必要はありますまい。

なお、「臘月」の「臘」は、禅の修行道場等で行われる12月の「臘八大接心(ろうはつおおぜっしん)」の「臘」です。修行道場では、12月1日からお釈迦さまが成道(じょうどう)した、つまり、完全に悟りを得たとされる8日早朝まで、修行僧は、横になって寝ることがありません。ひたすら座って座禅をする、とてつもなく厳しい修行をすると聞きます。お釈迦さまの成道にちなんでいるとは言え、1年の締めくくりの12月に、身体を深部から駆使し、身体のあり方を徹底的に体感させる厳しい修行をする事実から、禅には大切な言葉がどんなに数多くあっても、それらは決して身体から遊離した頭でっかちのものではなく、人間が持つ普遍的な身体性に立脚していることは想像に難くないでしょう。私はただ頭でっかちに想像するだけですが、禅の言葉は身体という裏付けがあるからこそ真実があり、長く語り継がれることになったのでないかと思います。

参考文献等  出典『虚堂録』巻第一

『訓註禅林句集(改訂版)』柴山全慶諞 書林其中堂 

『分類総覧禅語の味わい方』西部文浄著 淡交社

『岩波仏教辞典第2版』中村元他編集 岩波書店

『全訳漢辞海』戸川芳郎監修 三省堂

注・中学生の国語教科書に掲載されていた、中国・唐代の詩人杜甫(8世紀)の有名な詩「絶句」に「看」が「みるみるうちに」の意味で使われています。「江碧鳥愈白 山青花欲然 今春看又過 何日是帰年」

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