シードン23

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鬼が伝える地獄〜「SHOAH」

2017-02-10 20:22:13 | 映画・アニメ
 「SHOAH(ショア)」とはヘブライ語で「破局・滅亡」を意味し、「ホロコースト」と同じように、第二次世界大戦のナチスがユダヤ人などに対して組織的に行った大量虐殺を指す。「ホロコースト」は語源として宗教的な意味(生贄)を帯びているので、「ショア」を用いる方が良いという人もいる。
 ユダヤ人絶滅を目指した「絶滅収容所」の生存ユダヤ人、ワルシャワゲットーの生き残り、その目撃者(または傍観者)、何らかの関係者であったポーランド人やドイツ人、そしてドイツ軍人まで、クロード・ランズマン監督(仏)は10年以上かけてインタビューしまくった。通訳を伴って監督自身がそのインタビューをおこなっているところがこのドキュメンタリーの特徴であり、力である。その迫力はぬるいTV報道などとは決定的に違う。ランズマンの確固とした関心・目的に貫かれ、抜き差しならない問題意識に支えられているからだ。思い出したくない、語りたくない人も当然いる。繰り返しどこかしこで語ってきたせいか妙に饒舌な証言者もいる。だが、証言者の多くはいずれも自らの意思とは無関係に、ナチスの強制によって「自民族の死の証人」となってしまった人々である。彼らの重い口を開かせ、彼らが語りたいことではなく、ランズマンの問題意思に沿った証言を引き出そうとする手管には、ジャーナリスト魂というよりむしろ鬼のような執念が感じられる。――地獄を見てきた人に立ち向かうには鬼になるしかあるまい。その鬼になったランズマンがこの長い映像のすべてを支配している。どこにも隙はない。
 証人の年齢を考えれば、これより着手が遅ければ決して完成できなかったであろうこのドキュメント作りに、ランズマンはサルトルらの資金援助の下1974年に着手し、1985年に完成させた。
 実に11年の歳月をかけたおそらくは史上最高のドキュメンタリー。(DVDは一部の公共図書館にも所蔵されている)